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中で言い合いをしているのは3人の人物だった。
そのうちの2人はオレも知っている。
ギルド長のルグランさん。
そしてオレニュー師匠。
そしてもう1人は初見の人物だ。
その人物の外見は中々品のいい老婆といった風情なんだが。
飾りのない白の配色の服はどことなく落ち着きを感じさせる。
だがその雰囲気、というか迫力が半端なく凄い。
口調も凄かった。
恐らくはNPCでもかなり上位の力量を持つ2人を相手に大声を張り上げて制圧している。
でも言ってる内容は子供の喧嘩レベルってどうなのよ。
お漏らし野郎って誰の事ですか?
「失礼。お客様をお通ししました」
凄い。
職員さん凄いよ。
スルー能力が素敵。
その鉄面皮は微動だにしない。
オレも少し便乗する。
「お話し中すみません。お邪魔します」
「おお!キースではないか!息災であったかな?」
「まあまあです、師匠」
本音は色々と言いたい事があるけど、まだ弟子の立場だしな。
ここは言うまい。
「え?キースさんのお師匠さんなんですか?」
「ああ。無論サモナーでオレニュー師匠だ。自己紹介しておいてね」
「新米サモナーのイリーナです」
「同じくサモナーでアデルです」
ちんまりとした可愛いらしい娘達が会話に加わった事で雰囲気が少し良くなっただろうか。
いや。
老婆の雰囲気は激変していて静謐といった感じになっている。
変わりすぎですがな。
「オレニューじゃ。キースの弟子ということかの?」
「まあそんなもんじゃろ」
「ギルド長が押し付けたようなものですが」
職員さん容赦ないな。
ルグランさんは上司じゃないんですか?
「まあ教えるような事が果たしてどれほどあるかどうか」
「いえ!」
「色々と助けて頂いてますから」
いやいや。
ちゃんと戦力になってたから。
「おお、お前さん達とは初対面じゃな。ここのギルドの長でルグランじゃ。それにそっちが」
「そっちじゃないわ、この役立たず」
「むう?」
「アルケミストのゲルタじゃよ」
口調はアレだがちゃんと一礼してきたのでこっちも礼を返す。
アルケミスト?
何となくだがお医者様みたいな雰囲気のお婆さんだ。
「そこの役立たずの姉じゃよ」
「役立たずはないじゃろ、ゲルタ姉よ」
「うるさいわ」
ダメだ。
ギルド長、弱すぎ。
勝てる雰囲気がないです。
髭が震えてます。
「では師匠とも古い知り合いなんですか?」
「ううむ。あまり認めたくはないんじゃが」
「錬金術では同門ということになるかの。そこのオレニューは師匠に破門されておるがな」
「まあワシは邪道じゃったからな」
「自分から言う事ではない!」
「痛!」
師匠が。
あの師匠が無抵抗のまま、お婆ちゃんの平手打ちを頬に食らっている。
そして直立不動である。
ここは軍隊ですか?
「良いか、ルグラン」
「はい、姉上」
ギルド長も直立不動だ。
最初と最後には必ずサーと言え。
そんな幻聴が聞こえてきそうだ。
「薬師連中の協力を得られたのはどうしてなのか、よく思い出す事じゃな」
「全て姉上の助力のお蔭です」
「分かっておるのならば良い。今度の入荷の品は優先させて貰うからの?無論、入荷には立ち会う」
「げ」
「本音が出ておるぞ」
「げげげ」
「それが姉に対する態度か!」
なんと言えばいいのか。
壮絶な姉弟喧嘩が始まってしまった。
いや、一方的に姉が弟を折檻する構図だ。
でも両方が高齢のせいでじゃれあってるようにしか見えない。
「まあ二人ともその辺にしておけ!」
師匠が仲裁に入る。
ご老体なのだから無理をさせてはいけないだろうな。
両方とも大して暴れていないのに肩で息をしているし。
まだ肩で息をしながらギルド長がオレに問い掛けてきた。
「おお、そういえばキースは何か用件があるのではないのかな?」
「そうでした。この二人の件ですが」
「うん?」
「今更なんですが、どこまで預かっておけばいいんでしょう?」
「ん?むむ、そうじゃなあ。これ、オレニューよ、お前がなんとかせい」
「何を言っておるんじゃ?お主が指示したんじゃろが」
「何を言っておるんじゃ?お主がワシに預けたんじゃろが」
「ぬう」
「やるか!」
「やめい!」
ゲルタお婆さんの一喝に両者は再び直立不動である。
サー、イエス、サー!
幻聴が聞こえるようだ。
オレもいつの間にか直立不動である。
職員さんに何やら耳打ちされてるゲルタさんの目に何やら奇妙な光が宿っている。
「冒険初心者の教導とはの」
「本来ならオレニューさんの領分だったんですが。キースさんはオレニューさんの弟子ですから」
「いやいやいや、私だってまだ冒険者としては駆け出しみたいなものですし」
職員さん。
誤解を生むような発言はやめて。お願いします。
「サモナーの実力を見るのならば簡単な事じゃろうが。何が召喚できるのか、一通り見れば分かるじゃろ」
「まあそうなんじゃがな」
「分かっておるならさっさとそうせんか!」
師匠を指差しながら一喝である。
その指摘には同意しますけど。
「練兵場あたりがいいでしょうかね」
「そうじゃな」
結局、その場にいた面子で練兵場に移動することになった。
外の雨は止んでいた。
馬である残月とまーちゃんを連れて練兵場に入った。
広い。
騎馬戦も出来そうな広さがあった。
一番端にだけ雨除けがあったが、そこは弓矢の試し撃ちをする場所のようだ。
地面は雨のおかげで泥だらけである。
まあそこは仕方がない。
「試験という程のものではないがの、召喚できるモンスターを全て見せるだけで良いからな」
「「はい!」」
試験、と聞くと緊張するようだな。
アデルとイリーナも表情は強張っている。
「そうじゃな。キースもやっておこうか」
「師匠?」
「ついでじゃからの。見ておこう」
なんかオレまで試験になっちゃいました。
「では最初にそっちの女の子からいこうか。ええと、名前は」
「アデルです」
「おお、そうじゃった、そうじゃった」
ギルド長が言い淀んだ瞬間、職員さんが補足する。
さすがだ。
「その馬は召喚したものじゃな?」
「はい」
「今まで召喚してきたモンスターは全部で何匹になるかな?」
「3匹になります」
「同時召喚は」
「2匹までです」
「宜しい。では馬装具は外してその馬は帰還じゃ。そして馬以外のモンスターを召喚してみよ」
「はい」
アデルが馬のまーちゃんを帰還させ、虎のみーちゃんと狼のうーちゃんを召喚する。
「ほう」
「うむ」
「なるほどな」
ギルド長、師匠、それにゲルタ婆様の目の前で虎と狼が誇らしげに周囲を睥睨する。
こう見ると凛々しいよな。
猫系と犬系の外観の差はあるが、大型肉食動物の持つ猛々しさが際立っている。
「ではもう1人のほうの」
「イリーナです」
「う、うむ」
職員さん容赦ねえな。
イリーナも蛇のトグロを帰還させ、鷹のスカイアイと虎の三毛を召喚する。
「むむむ」
「おお」
「なるほどのう」
言葉だけではどう評価しているのか、良く分からないな。
ただの興味本位に見ているようでもあり。
品定めをしているようでもあり。
恐らくは【識別】もされているんだろう。
「ところでキースとやら、この二人はお前さんが指導したのかや?」
「まあ成り行きでして」
「それはいいとして、錬金術の方はどうじゃな?」
「教えていません」
「なに?」
「いえ、魔物討伐を手伝って貰っていたようなものでしたし」
「ほほう。それは確かじゃな?」
「はい」
「そうか。では次にお前さんの召喚モンスターを見るかの」
ゲルタ婆様に促されてしまった。
師匠にも目で促される。しょうがないか。
残月の馬装具を外すと、フクロウの黒曜、鷹のヘリックスと次々と帰還させていく。
ウッドゴーレムのジェリコ、狼のヴォルフ、コウモリのジーンを召喚していった。
「おお」
「ほほう」
「6匹を操るか」
どういう評価になるんでしょうか。
ヴォルフだけはレベル5になっている。
だがジェリコはまだレベル2になったばかりだし、他の召喚モンスターもレベル3に留まっている。
どうなんでしょ?
「中々じゃと思うがな」
「いやいや、召喚モンスターだけではの」
「うむ。練成モンスターを作成するにはまだ先が長そうじゃな」
練成モンスター?
ゲルタさん、何ですかそれ。
「練成モンスター、か」
「サモナーもまた学問の徒。いずれは学ばねばならんじゃろ」
「あの、師匠。練成モンスターって何でしょうか?」
「召喚モンスターをベースに錬金術で練成を行ったものじゃよ」
「そんなものが?」
「まあ見た方が早いか」
師匠がサモン・モンスターの呪文を唱え始める。
練兵場に描かれた魔方陣の中から大きな影が出現した。
獣だ。
だがその姿形は異質なものであった。
獅子の頭、山羊の頭、蛇の頭が尻尾になっている。
パイロキメラ Lv.???
召喚モンスター 待機
良く見たら山羊の首の反対側にも頭があった。
鳥だ。
鷹の様な猛禽とはまた違う獰猛な形状をしている。
「これか。悪趣味じゃな」
「むむ?」
「こういうのもあるぞよ」
そう言うとゲルタ婆様もまた呪文を唱え始める。
まさか。
サモン・モンスターだ。
地面に描かれた魔方陣は見慣れたものである。
そして現れたのは人だ。
凄まじいまでの美人である。
修道士みたいな地味な服なのが惜しい。
レプリカント Lv.???
召喚モンスター 待機
「むむ?ホムンクルスの上位じゃな?」
「これでも日々精進していおるわい」
えっと。
差が良く分かりませんが。
師匠とゲルタ婆様が何やら言い合いを始めてしまった。
解説は誰がしてくれるのよ?
ギルド長に目を向ける。
「こういったものが召喚魔法と錬金術の融合の成果じゃよ」
「ゲルタさんも召喚魔法を使えるんですね?」
「うむ。元々ワシの姉はサモナーじゃったんじゃがな。アルケミストに転職したのじゃよ」
「転職?」
「転職でサモナーとしての力量はかなり低下した筈なんじゃがの。それでも実力はオレニューに迫るじゃろうな」
「そんなにですか」
「ワシもオレニューも頭が上がらんのじゃ」
それは実力とあまり関係ないように見えます。
「話を戻しませんか?」
「そうそう、あの娘達の力量を見るのじゃったな」
職員さんが仕切り直してくれる。
ありがたい。
「さすがにキースの手に余るのではないかな?」
「そうじゃな」
「オレニューよ、本来ならばお前さんに預かって貰う筈じゃった娘達じゃ。お前さんが面倒を見るのはどうかな?」
「キースもおるのにか?」
「大して手間は変わらんじゃろ」
「お待ち!」
ゲルタさん、凄い形相をしてますが。
何かにお怒りの様子である。
「オレニューのような邪道の錬金術を仕込まれなどしたら困る!」
「それは酷い言い様じゃぞ」
「黙れ、師匠に破門されたお主が言うことではないわ!」
いやはや、凄い剣幕である。
「私がこの娘達を預かる!」
「おいおい」
「それにそこのキースじゃが、一定の力量は既にあるじゃろう。認めてもいいのではないかな?」
「まてまて」
「どうじゃな?」
ギルド長が職員さんと師匠と何やら距離を置いて相談し始めた。
オレ達も相談しておくか。
どうやって?
ウィスパー機能を使うのだ。
『何やら雲行きが怪しくなったな』
『どう思います?』
『いい感じで探索も進めてたのが勿体無い気もします』
『いや、冒険者ギルドの意向には従っておいた方がいいかもな』
そう。
指名依頼だって良く考えたらNPCの意向を受け入れ続けていたが故にあったようなものだ。
『それにさっきの召喚だが錬金術のレベルアップも必要って事なのだろうな』
『私達って錬金術はまるで鍛えてません』
『これが機会として都合がいいって事ですか?』
『ああ。まあ私はアデルとイリーナの意向が優先でいいと思うが』
『むー』
『ちょっと即答はできません』
『私は受けていいと思うよ。いつまでも一緒に冒険できるとも思えないし』
『はい』
『では、いいんですか?』
『無論だ』
『私は受ける方向で』
『イリーナちゃんに同じく』
『うん。それでいいと思うよ』
そこで内緒話は打ち切った。
師匠達の内緒話も終わったようだ。
さて、どうなる?
「そうじゃな。お嬢ちゃん達が良いのであればゲルタ姉の所で研鑽してみてはどうかな?」
「無論、そのままでも良いがの」
アデルとイリーナは互いを見て頷くとハッキリと答えた。
「「受けます!」」
「うむ、そうか」
「「はい!」」
「うむ。キースもここまでご苦労様じゃったな」
「いえ」
《ギルド指名依頼をクリアしました!》
《ボーナスポイントに3点が加点され、ボーナスポイントは合計19点になりました!》
脳内でインフォが響いていた。
これで一段落ついたって事なのだろう。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv6
職業 サモナー(召喚術師)Lv5
ボーナスポイント残19
セットスキル
杖Lv4 打撃Lv3 蹴りLv3 関節技Lv3 投げ技Lv3
回避Lv3 受けLv3 召喚魔法Lv6
光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv3 水魔法Lv3
火魔法Lv2 闇魔法Lv2
錬金術Lv3 薬師Lv3 ガラス工Lv3
連携Lv5 鑑定Lv5 識別Lv5 看破Lv1 耐寒Lv2
掴みLv4 馬術Lv4 精密操作Lv4 跳躍Lv1
耐暑Lv3 登攀Lv1
装備 カヤのロッド 野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー
野生馬のブーツ+ 雪猿の革兜 背負袋
アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
称号 老召喚術師の弟子(仮)、森守の証、中庸を望む者
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv5
残月 ホースLv3 お休み
ヘリックス ホークLv3 お休み
黒曜 フクロウLv3 お休み
ジーン バットLv3
ジェリコ ウッドゴーレムLv2




