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《フレンド登録者からメッセージがあります》
サキさんからだった。
今はレムトにいるんだっけ。
『ブーツ二人分はもう出来ました。馬の鞍も今日完成予定。今夜はイベント狩るぞ!』
宛先にはアデルとイリーナも入っていた。
料理を手伝っている二人の手も止まっているし、彼女達も今このメッセを見ているのだろう。
おっと。
添付されているブーツの出来を見ておくか。
【防具アイテム:ブーツ】野生馬のブーツ+ 品質C+ レア度3
AP+1 Def+3 重量1 耐久値110
野生馬の皮製のブーツ。皮は柔らかいまま加工して動きやすさを優先させている。
靴底は滑り難く運動にも向く。
[カスタム]
防御性を高める事を目的にして邪蟻の甲を全体に使用している。
ほう。
オレのブーツとはまた趣が違うようだ。
AP+1はオマケみたいなものだろう。
一見して皮のブーツに見えないが、デザイン的にはなかなかかっこいいと思わせるものがある。
いや、審美眼にそう自信はないが、いい物だというのは十分に伝わってくる。
「二人とも、見たかい?」
「はい」
「楽しみですね!」
「明日の予定はこれで決まりだな」
「レムトに行く!」
「ですよね?キースさん」
「勿論」
その後も二人は楽しげに料理の手伝いを続けている。
オレもリックや篠原、不動と雑談しながら暇を潰す。
ここで分かった事がある。
レン=レンもまた重度のモフモフ好きだったのだ。
なんだってこんなにモフモフ好きなのが多いのか。
抱き心地はどれも捨て難いようなんだが、サイズ的に狼の方が好きらしい。
アデルはどれも好きなようだが。
屋台裏はいつの間にか召喚モンスターを愛でる会合の様相を帯びてきていた。
夕日がレギアスの村を照らしていた。
結構、話し込んでいた気がする。
オレのMPバーは半分を少し超えて6割といった所まで回復してきていた。
村の中で腹一杯になってリラックスしてたからだろうか、回復するペースが速い気がする。
さて、そろそろ客が多くなってくる頃だ。
夕飯に殺到してくる客を捌くのにオレ達は邪魔だが。
「二人とも、このまま手伝っていていいぞ」
「え?」
「でも」
「明日もこの屋台で集合。レムトに移動するからな」
「ここ、いいんですか?」
優香が心配してくるがオレは構わない。
手伝うのであればとことん手伝えばいいのだ。
オレ?
カレーや焼きそばをマズく作れる自信があるってのに何を手伝えと?
森で狩りをしていた方がまだマシだ。
「いいですよ。二人ともこき使ってやって下さい」
「「ええー!」」
「報酬は考えておきますね」
「そうしてあげて下さい」
屋台の裏手からヴォルフとジーンを連れて辞去する。
少し試してみたい事がある。
森へと向かうことにした。
レギアスの村の外で黒曜を召喚する。
MPバーはまたも半分を少し割ってしまったがこれは致し方ない。
もう夜の時間にありつつあった。
ノクトビジョンで視界を確保して森の中へと入っていった。
森の中を師匠の家に向かって移動する。
途中、傷塞草を少々採集しながらだった。
どうせ採集するのならと土魔法のダウジングも使って黒曜石も採集しておく。
この所、ポーションはかなり使うようになっている。
回復魔法があるとはいえ、HPバーの削りあいが最近は激しくなってきているからだ。
今日、遅くなってでもやっておきたい事の一つがポーションであった。
今までは品質Cをなるべく揃える事を優先してきている。
見られたら周囲に騒がれそうだったからだ。
だがそうも言っていられない。
クーリングタイムが短縮できる品質高めのポーションの存在は非常に大きい。
例え使わない事になるのだとしても、心理的に負担が少なくなるだけでも有難いのだ。
そしてもう一つ。
森の迷宮の先を進むことを前提にした場合、一番難物になりそうなのは何処か。
オレは蔦をよじ登る場所だと思っている。
登っている最中はまともに戦闘ができない。
いや、そもそも登りきることができるかどうか。
そこで思いついた事がある。
ヒントは既にあったのだ。
樹上の卵。
暴れギンケイの巣である。
あれで木登りを鍛えておけって事だったのだろう。
あの場所はここでの木登りとは若干違っていて蔦をよじ登る形なのだが、まあ似たようなものだ。
いずれは本格的な山登りも用意されている可能性も捨てきれない。
おっと。
まずは何回か繰り返して試してみよう。
今のところ、取得可能なスキルに木登りに役立ちそうなものはない。
だが今までも何もない状態からスキル取得が可能になった事例はある。
やってみよう。
《これまでの行動経験で取得が可能な補助スキルに【登攀】が追加されます》
樹上の巣を7回ほど襲い、ギンケイの卵を10個確保した所でインフォがあった。
登攀か。
取得画面で確認すると必要となるボーナスポイントは2だった。
ただの木登りのためにボーナスポイントは2か。
微妙な所だがボーナスポイントは大いに余っているのだ。迷う事はない。
早速、取得して有効化した。
そしてもう一回、黒曜にギンケイの巣を探して貰って襲ってみた。
実感ではあまり変わり映えはしない。
でも片手で体を支えた時にバランスをとるのが比較的やり易かった気がする。
これも器用度値で判定しているんだろうか。
ある程度は筋力値もあったほうがいいとも思うんだが。
それはさておき。
魔物相手とはいえ巣を急襲して母鶏を地面に叩き落して卵を奪うとか、リアルで強盗の所業である。
あまり精神衛生的によろしくない。
まだ今夜のうちにやっておきたい事もあるのだ。師匠の家に帰る事にしよう。
その気配は奇妙なもののようだ。
オレには感知できないのだが、ヴォルフも、ジーンも、黒曜も気がついていた。
何かが、師匠の家の周囲に、いる、よね?
門の上には師匠のマギフクロウが鎮座して周囲を見回している。
明らかに何かを警戒している様子なのだ。
頭上にいる黒曜に周囲を一回りして貰う。
どうも不自然な場所が何箇所かあるようだ。
今通っている狭い道にもヴォルフが敏感に反応している。
匂いだ。
何が潜んでいるのか。
イビルアントではないのは確かだ。
ヴォルフの反応が明らかに普段イビルアントを捕捉した時のものと異なっている。
何だ?
師匠の家の門まで駆ける。
ヴォルフとジーンもオレに続く。
黒曜は門の上に向かって飛ぶように念じておいた。
急に背中が冷えてきた。
いや、頭の中も急激に冷え込んできている。
ヴォルフがオレの袖を噛んで引っ張り地面に押し倒した。
オレがいた空間を何かが通過する。
続いて乾いた音が聞こえた。
その何かは門扉に当たって地面に落ちたようだ。
転がっていたのは2本の矢だ。
念の入った事だ。矢は黒一色に塗られている。
2本同時?
つまり弓使いが2人いるってことか?
「ガルゥァ!!」
ヴォルフがこれまでになく大声で吼えた。
強烈な威嚇だ。
オレに迫っていた影が3つ、同時に足を止めていた。
一番近くにまで迫っていた奴から何かが伸びてくる。
槍だ。
穂先の光がオレの顔面に向かってくる。
ヘッドスリップで穂先を回避。
槍の柄を左手で掴む。
柄の上を右足の靴底で抑えて体重をかけた。
その何者かは槍を手放した。
続けざまに回し蹴りを放つ。
フードを被っていたその何者かの顔が現れた。
面だ。
仮面を被っていやがる。
頭上のマーカーはまだ何も表示されていない。
【識別】を効かせてみるが、頭上のマーカーが見えない。
魔物?
いや、今までに魔物でマーカーがない存在は見なかった。
ではこいつは何だ。
プレイヤー・キラー?
これがPK行為なのか?
背を向けて逃げようとする奴の足をヴォルフが噛んで地面に転がした。
そいつの背後から首を絞めて胴体も足でキャッチする。
そして体を反転させた。
これで他に襲ってくる奴からは攻撃し難くなる筈だ。
一旦、右手だけを絞めから外して顔の面を剥がす。
誰だ?
襲ってきた奴の頭上に緑のマーカーが現れた。
当然【識別】しておく。
笹目 Lv.5
ファイター 戦闘中 反撃許可あり
《PK行為が確認されました。正当防衛による討伐が許可されます》
へえ。
こういうシステムになっているのか。
PK行為とはこういう事か。
「ふうん、これがPKって奴か」
無論、答えを期待して問いかけたものではない。
既に両手で頚動脈を締め付けているのだ。
「絞め落とされるのは気持ちいいから心配しなくていいよ」
本格的に締め上げたらあっという間に気絶したようだ。
体中から力が抜けていく。
他にも襲ってきていた奴はどうなった。
オレの暗視できる範囲でもう一つの影が見えた。
そいつの仮面も剥がれてしまっていて【識別】が効いてくれた。
太郎 Lv.5
ソーサラー 戦闘中 反撃許可あり
HPバーも確認できたが、もう殆ど残っていなかった。
ヴォルフとジーンに襲われてあっという間にHPバーはなくなってしまう。
ご愁傷様だ。
他にもいたように思うが。
そう思って周囲を見回すと急に森の中で派手な輝きが見えた。
あれは。
師匠のマギフクロウの放つ雷撃だろう。
黒曜はどうやら師匠のマギフクロウと戦列を組んで森の中を飛び回っているようだ。
まだ逃げているのは2人。
黒曜が奇襲を仕掛けて足が止まった所に雷撃。
それだけで不審者が次々と斃れていく。
師匠のマギフクロウに言いたい。
明らかなオーバーキルです。
結局、生け捕りにできたのは一人だけだったようだ。
他の死体を見て回るが、死体は次々と消えていく。
いや、何かが残っているようだ。
100ディネ銀貨だったり。ポーションだったり。
ナイフもあった。
そして黒一色の矢も4本ある。
【武器アイテム:矢】邪蟻の矢+ 品質C+ レア度2
AP8 破壊力0+ 重量0+ 耐久値30 射程+20% 継続ダメージ微
邪蟻の針を矢尻に利用した矢。
貫通力を高めて出血ダメージを狙ったもの。
[カスタム]
全体を黒一色としており目標が回避し難くなっている。
まさに暗殺用だな。
確かに邪蟻の矢であれば貫通力も高い。
しかもこいつは射程も長くなっている。おそらくは矢羽根に草原鷹の羽でも使っているのだろう。
さて。
生け捕った奴を確かめてみようか。
ヴォルフがやたら攻撃的になっているのを制するのが意外に大変でした。
おとなしくはなったが、いつでも首元に噛み付ける位置を確保し続けている。
さすが野生の本能。
【識別】を効かせながら装備を確認してみる。
鎧は皮製のものらしい。普通に冒険者が身に着けているような代物だ。
怪しい持ち物はさっきの仮面だ。
いや、投擲用のナイフみたいなものがある。
【武器アイテム:ナイフ】ダツ顎の投げナイフ+ 品質C+ レア度3
AP12 破壊力0+ 重量0+ 耐久値10 射程10 貫通成功時継続ダメージ微
ダツの顎をナイフにしたもの。主に投擲で用いるもの。
貫通力は高く、貫通すると追加ダメージを与える武器。
うわ、なんか便利そうな物があるじゃないの。
欲しいな。
でも盗賊のような真似はやめておこう。
さて、こいつの始末はどうするか。
いや、プレイヤーって気絶中の扱いはどうなっているのかね?
顔を左右に振って確かめる。
どうも頬の感触がおかしい。
口の中をこじ開けてみると綿が見えていた。
何?
変装でもしているのか?
髪の毛を探ってみると、どうやらカツラのようだ。
外してみると坊主頭であった。
変装にもスキルがあるのかね?
改めて男を見る。
正当防衛で始末してもいいんだよな?
サシャーン Lv.6
アサシン 気絶中 反撃許可あり
ん?
さっきと【識別】した内容と違っている。
何もかもが違う。
こっちが本性なのか。
一応、【識別】した結果をスクショで撮影しておいて保存しておく。
ここで始末せず放置してみた所でアリに集られるだけだが。
さすがにそこは武士の情けだ。一撃で死に戻って貰おう。
上半身を起き上がらせて。
背後から首に腕を回す。
体重をかけて、首の骨を捻りながら折った。
プレイヤーのHPバーが一瞬にして消滅してマーカーも徐々に消えていった。
ご愁傷様。
そしてこいつが残したアイテムはなかった。
100ディネ銀貨が4枚残っていただけだ。
少し、損した気分になる。
《只今の戦闘勝利で取得が可能な補助スキルに【看破】が追加されます》
ほほう。
なかなか便利そうなスキルが取得可能になったようだ。
確認してみると必要なボーナスポイントは4である。
迷う事はない。
あんな事があったばかりなのだ。
早速取得して有効化しておく。
少しはプレイヤー・キラーに対抗できるか、少しだけ期待しておこう。
ヴォルフ達召喚モンスターにばかり頼ってもいられないしな。
門扉には師匠のマギフクロウがオレの黒曜と並んで止まっている。
何気にフクロウ同士、仲が良いのね。
いつもの通り門をくぐって師匠の家に戻った。
もちろん不安はある。
場所が特定されていて狙われたのだから当たり前だ。
だがこの中にまで実力行使で足を踏み入れる事ができるプレイヤーは果たしているだろうか?
現時点では間違いなくいないだろう。
PKにだって完全に抵抗できる訳ではないだろうが、ここ以上に安全な場所はちょっと思いつかない。
まあ心配してみた所で仕方ないさ。
PKに遭遇してやられたとしても死に戻るだけなんだし。
それに明日の準備もある。
地下の作業場に急ぐ事にした。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv6
職業 サモナー(召喚術師)Lv5
ボーナスポイント残16
セットスキル
杖Lv4 打撃Lv3 蹴りLv3 関節技Lv3 投げ技Lv3
回避Lv3 受けLv3 召喚魔法Lv6
光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv3 水魔法Lv3
火魔法Lv2 闇魔法Lv2
錬金術Lv3 薬師Lv3 ガラス工Lv3
連携Lv5 鑑定Lv5 識別Lv5 看破Lv1(New!)耐寒Lv2
掴みLv4 馬術Lv4 精密操作Lv4 跳躍Lv1
耐暑Lv3 登攀Lv1(New!)
装備 カヤのロッド 野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー
野生馬のブーツ+ 雪猿の革兜 背負袋
アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
称号 老召喚術師の弟子(仮)、森守の証、中庸を望む者
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv5
残月 ホースLv3 お休み
ヘリックス ホークLv3 お休み
黒曜 フクロウLv3
ジーン バットLv3
ジェリコ ウッドゴーレムLv2 お休み
同行者
アデル&みーちゃん&うーちゃん 優香のお手伝い
イリーナ&三毛&トグロ 優香のお手伝い




