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マジックマッシュルームは少し後回しにしよう。
オレと召喚モンスターのHP回復はしておきたい。
ジーンはほぼ無傷で終わった。
だが他はダメージを大なり小なり喰らっている。
オレとヴォルフにはポーションを使い、ジェリコはアース・ヒールで回復させておく。
それでもジェリコのHPバーは9割まで回復してくれなかった。
強化して、途中で回復させて、それでいてここまで削られたのか。
なかなかの強敵だった。
ステータスも確認しておく。
ジェリコ ウッドゴーレムLv2
器用値 4(+2)
敏捷値 4(+2)
知力値 4
筋力値 33(+5)
生命力 32(+4)
精神力 4
スキル
打撃 蹴り 魔法抵抗[微] 自己修復[微] 受け
フィジカルエンチャント系の呪文を4つ重ね掛けしているおかげでステータス値の底上げが凄い。
レベルが一時的に6も上がっているようなものだ。
強化しておいて良かった。
中央の広間を見回しても異常はないようだ。
後は通れなかった場所が通れるのか、確かめよう。
「イベントモンスターはなんとか倒したよ」
「おめでとうございます」
「じゃあ次に進んでみますか?」
「そうだな。少し早いが昼飯にしよう。一旦魔物が出ない広間に行こうか」
「「はい」」
少し落ち着くための時間が欲しかった。
拾ったアイテムもどうするか、いささか悩ましい事だし。
中央の広間から見て北東に向かって進んでいく。
今は何よりも休みが欲しかった。
通路で遭遇したブランチゴーレム3匹は強化呪文がまだ有効だったジェリコに文字通り粉砕された。
改めて思う。
強化呪文って凄い。
次に遭遇したキノコ5匹も問題にならなかった。
オレは結局、何も手出しをしなくて済んだ。
広間では2人とも着いた途端に座り込んでしまっていた。
体が、というよりも心がそうしたがっているように感じる。
ポーション作成兼調理器具を出してリキッド・ウォーターで水を出しておく。
料理の方はアデルとイリーナに丸投げだ。
「二人とも。そのまま調理しながらでもいい。聞いておいてくれ」
「はい?」
「なんでしょうか」
「ここのボスだ。名前はプラントゴーレム。強敵だったよ」
そこから戦闘の概略を語って聞かせた。
そして剥いだアイテムも見せておく。
「マジックマッシュルームですか。何に使うんでしょうね、これって」
「毒にとか?」
「何にせよ生産職に任せておいた方がいいだろうな」
食事の用意ができるまでの合間に掲示板にも大幅なネタバレにならない程度に書き込んでいく。
よし。
なんとか気持ちに折り合いができつつある。
そして称号。
森守の証、というものが追加になっていた。
いや、上書きされたのか?
家畜の守護者がなくなっている。
上位互換か何かだろうか。
食事は携帯食にシイタケを煮込んだ具沢山スープといったものになっていた。
冒険中であれば固形食をカツガツ食っているのが様になりそうだが、今はこんな食事の方が有難い。
食べ終えて片付けを終えてもまだオレは動かない。
ジェリコは待機の姿勢を崩さず微動だにしない。
この召喚モンスターには自己修復[微]のスキルがわざわざ付いてきていた。
動かなければHPが戻っていくらしいので、その経過を見たかったのだ。
概ね、オレ達人間や野獣系の召喚モンスターと比べると回復率は半分程度といった所だろう。
だが十分だ。
元々の防御力が違っているのだから、その効果はより高く見積もっていいだろう。
アデルは長めの休憩を毛玉に囲まれて過ごしていた。
顔を見てるだけで分かる。
恍惚とした表情がずっと続いていた。
モフモフに囲まれてナデナデを繰り返している。
麻薬か。
それに加えて肉球をプニプニと押して楽しんでいる様でもある。
麻薬だな。
アデルの瞼が落ちようとしている。
これはいかんな。
「イリーナ、頼む」
「え?」
「出発しようか」
「ああ!分かりました」
アデルを現実に引き戻すのをイリーナに任せてポーションの確認をしておく。
まだ半分程が残っている。
もう少し探索を進めても大丈夫だろう。
オレのMPも余裕がなくなっている。
闇魔法のノクトビジョンは控えて光魔法のフラッシュ・ライトに切り替えた。
MP回復薬が心の底から欲しい所である。
北の出入り口のある広間に到着する。
仮称、黒の広場だ。
分かってはいたが、そのまま通ろうとすると『ユニオン』は強制解除になってしまう。
オレだけが通り抜けていた。
この森の迷宮に入る時と一緒だ。
少し勿体無いがジーンを帰還させる。
パーティ編成では6名までしか組めないからしょうがない。
最初にイリーナとパーティを組んで出入り口を通過してみる。
問題なかった。
イリーナとのパーティを解除してアデルを同様に通過させる。
再びアデルとイリーナでパーティを組ませて、オレはジーンを召喚した。
MPは勿体無いがしょうがない。
「じゃあ進んでみようか」
「「はい」」
そこは今までとそう変わらない緑の回廊のように見えた。
果たして何が潜んでいるやら。
不安を抱えながらも先を進んでいくことにした。
その緑の回廊が途切れると、そこは土の壁が立ち塞がっていた。
いや、正確には山の斜面と言った方がいい。
今までに見られなかった太い蔦があちこちに絡み付いているのだ。
蔦を登って行く事はできそうなのだが、大きな問題がある。
ウッドゴーレムのジェリコが登れそうにないのだ。
空中を飛ぶジーンは勿論問題がない。
先行して様子を窺って貰ったのだが、この先も蔦がびっしりと絡みつくようになっているようだ。
召喚モンスターでも狼や虎、そして蛇は問題なさそうであった。
で、肝心の人間なんだが。
所々では木登りの要領で踏破する形になりそうである。
大体の場所は蔦の上を通路代わりにして通れる事になっているみたいだ。
木登りか。
やってやれなくはないが、ここは控えておきたい。
ジェリコも連れて行けないしな。
それに木登り中に魔物に襲われる可能性も考えておかないといけないだろう。
「キースさん、トグロが何かに反応してます」
「どうかしたか?」
「魔物がいそうです」
ヴォルフもその気配を感じたのか、姿勢を低くして警戒態勢をとる。
確かにいるようだ。
太い蔦の合間だろうか。
何かが飛び出した。
ツタガエル Lv.3
魔物 討伐対象 アクティブ状態
【識別】すると確かに魔物だ。
カエルか。
だがその魔物は次の瞬間、パッシブ状態に移行して逃げていってしまった。
まあこっちの戦力を見たらそうなるのかもしれないが。
一戦しておいてみたい気もする。
だがオレの方もMPに余裕がない。
スルーしておこう。
「ここは後回しにしよう。通るのがあまりに面倒だ」
「他の場所も一通り見てからでもいいと思います」
「木登り大変そう」
どうもここは踏破するにしても魔物と戦いやすい地形があまりに少ない。
師匠の家がある周辺とは比べ物にならないほど厳しい環境だ。
時間がかかりそうだよな。
森の迷宮側へと戻り出入り口を通れるか、いささか心配だったがこっちだとちゃんと通れるようだ。
そりゃそうだ、
オレなしで通れなくなったら死に戻るしかなくなる。
黒の広場から今度は白の広場へと向かう。
キノコとブランチゴーレムをなんとか蹴散らしながら先へと進んだ。
そして気がついた。
またパーティ編成を組みなおして出入り口を通過しなきゃいけないじゃないの。
まあそれは仕方がないか。
ヴォルフを帰還させ、出入り口はアデル、イリーナとパーティを組み直して通過した。
その先は緑の回廊がすぐに途切れると、九十九折りのように長い下り道が続いていた。
しかもその通路は古くはあるが整備されている形跡がある。
ジェリコが歩くのにも支障がない。
最初、周囲はやや明るかったが、下りていくに従って暗くなっていった。
遂には洞窟のような場所に到着する。
そこはもう漆黒の闇であった。
フラッシュ・ライトで周囲を照らして回ると壁面は人為的に作られた形跡がある。
床面もだ。
やや古臭く感じるしジメジメと湿っているような空気だ。
いや、古臭く感じているだけでなく雰囲気が良くない。
狼のうーちゃんが。
虎のみーちゃんと三毛が。
蛇のトグロも戦闘態勢をとっていた。
オレの肩に留まっているジーンから伝わってくるのは警戒のサインだ。
何かが、来ている。
オレの耳にも不快な音だ。
カチャカチャと不規則に何かを叩く音がする。
その音源が目の前に現れていた。
スケルトン Lv.2
魔物 討伐対象 アクティブ状態
最初に見つけた魔物が持っているのは何やら粗末な剣のようだ。
その後ろにも別のスケルトンがいる。
フラッシュ・ライトに照らされている範囲だけで6匹もいた。
得物はそれぞれバラバラだ。
剣、小剣に円形の盾、メイス、弓矢、槍、手斧といった所だ。
久しぶりにカヤのロッドを手にして骨の集団に突っ込んだ。
ここは少し手狭だった。
それに後衛にいる弓矢持ちは早めに倒しておきたかったのもある。
剣持ちと手斧持ちの合間をすり抜けると槍持ちが突いてきた。
槍の穂先を間一髪避けると眼窩に杖先を突いてやる。
頭蓋骨の手ごたえは意外に軽かった。
胴体から頭蓋骨だけが吹っ飛んでいく。
あっさりと胴体が地面に倒れ伏した。
あれ?
もしかして弱い?
メイス持ちが迫ってくるのを無視して弓矢持ちに肉薄する。
矢を番えてオレに目標を変えようとしているが。
遅い。
ロッドで弓を払って顎目掛けて蹴り上げる。
一発で頭蓋骨が吹っ飛んだ。
胴体が崩れ落ちたのを確認してスケルトンの群れの状況を確認する。
スケルトンのHPバーは6体分、まだ残っていた。
あれ?
おかしいぞ?
頭蓋骨を吹っ飛ばされた2体がまだ動いていた。
ただオレ達の誰かを襲う気配はない。
何かを探しているようだ。
最初に頭蓋骨を吹き飛ばしたスケルトンが何かを探し当てた。
頭だ。
自分の頭蓋骨だ。
頭蓋骨が何事もなかったかのように装着されていた。
えっと。
テーブルトークでは雑魚だったんだが。
頭を吹き飛ばすだけじゃダメか。
では別の手を使ってみるだけだ。
骨を砕けば動かなくなる筈である。
頭蓋骨を砕いてみるか。
弓矢持ちが探している頭蓋骨はまだ地面に転がっている。
思いっきり踏みつけてみた。
ヒビは入ったが砕けはしない。
だがスケルトンのHPバーはどうか。
かなり大きく減っているようだった。
もう一撃、踏みつけると頭蓋骨は砕けた。
すると頭蓋骨の中に人魂のようなものが現れていた。
青い人魂だ。
ロッドで叩いてやると雲のように散っていった。
HPバーはどうか。
なんと倒しきっていなかった。半分程が残っている。
良く見ると頭を砕かれたスケルトンの心臓の辺りにも何か人魂のようなものがある。
もしかして。
頭を無くしたスケルトンだがオレを狙って矢を放ってきた。
目で見てる訳ではないらしい。
近距離ではあったが、その矢は大きく外れてしまっていた。
弓は粗末なものだから?
それでもいい気分はしない。
スケルトンに再度肉薄する。
ロッドを手放し右手で上の方の肋骨を掴む。
そして肘を突き入れた。
いい感じの手ごたえだ。骨を確実に折った音だ。
左手でもレバーがあるあたりに拳を突き入れて裏側から肋骨を掴む。
右手で胴体を抑えながら肋骨を引き抜いた。
足を払って地面に押し倒すと背骨を足で押さえて胸郭を開くように肋骨を引き抜き続けた。
青い人魂が露出した。
それを蹴ってやるとまたも雲のように散っていった。
魔物のHPバーがようやくゼロになったようだ。
『頭蓋骨の中と肋骨の奥に人魂がある。そいつを露出させて攻撃!』
ウィスパーでアデルとイリーナに伝えておく。
他のスケルトンも傍目にはダメージを受けながらも何事もないように動き続けている。
これ全部、止めるには砕かないといけないのか。
面倒だな。
囲んでいる状況にあったので、各スケルトンの足を払って地面に転がすのは楽だった。
後はジェリコが人魂ごと踏み抜くので面倒がないのに気がついたのだ。
因みに頭蓋骨を噛み砕こうとしている狼のうーちゃんですが。
骨をしゃぶろうとしてる犬に見えます。
虎2匹のみーちゃんと三毛はあばら骨を砕きつつスケルトンをバラバラにしてるし。
おっかないよ君達。
そういった意味ではジェリコも不気味だ。
物言わずに骨を踏み砕いていく。
おっかないよ。
最後の1体は蛇のトグロが内側から人魂を散らしてしまっていたようだ。
眼窩から太い胴体がニョロニョロと出てくる様子は不気味というしかない。
スケルトンは不気味だ。
でも召喚モンスターはやはりモンスターなのであった。
おっかない。
味方であるだけに頼もしいけどな。
「大丈夫か?」
「はい、なんとか」
「出番殆どなかったです」
戦闘には確かに勝利した。
しかし剥ぎ取れるものは何もないようだ。
いや、獲物がないわけではない。
スケルトンの武装が残っている。
但しどれも碌なものではなかった。
一番上で品質D+とか。
剣に至っては錆び付いていて使えそうにない代物で品質Eだったのだ。
正直、持ち帰る気にならない。
魔物としては戦いやすい相手になるだろう。
正直、森の迷宮に出てくるキノコ類やブランチゴーレムの方が強い。
但し地形的には不利な所もある。
ジェリコが戦うには微妙に狭いのだ。
このまま先に進むのはどうするか。
「先に進みますか?」
「様子見だからな。一旦戻るか」
「なんかここって不気味ー」
撤退だ撤退。
なんかスケルトンが弱いし経験値的に稼げるとも思えない。
もう一つ残っているルートもあるしな。
今来たばかりの道を戻って仮称赤の広場へと向かうことにした。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv6
職業 サモナー(召喚術師)Lv5
ボーナスポイント残22
セットスキル
杖Lv4 打撃Lv3 蹴りLv3 関節技Lv3 投げ技Lv3
回避Lv3 受けLv3 召喚魔法Lv6
光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv3 水魔法Lv3
火魔法Lv2 闇魔法Lv1
錬金術Lv3 薬師Lv3 ガラス工Lv3
連携Lv5 鑑定Lv5 識別Lv5 耐寒Lv2 掴みLv4
馬術Lv4 精密操作Lv4 跳躍Lv1 耐暑Lv3
装備 カヤのロッド 野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー
野生馬のブーツ+ 雪猿の革兜 背負袋
アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
称号 老召喚術師の弟子(仮)、森守の証、中庸を望む者
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv5 お休み
残月 ホースLv3 お休み
ヘリックス ホークLv3 お休み
黒曜 フクロウLv3 お休み
ジーン バットLv3
ジェリコ ウッドゴーレムLv2
同行者
アデル&みーちゃん&うーちゃん
イリーナ&三毛&トグロ
 




