36
通路を抜けたら少し明るい広間に着いた。
但しさっきの広間と比べるとかなり狭い。それでも結構広いことは広いのだが。
この広間から伸びる通路は今出てきた所を含めて3箇所になる。
すぐ左隣に1箇所、斜め左側にもう1箇所が見えていた。
いずれも先の様子は暗くて見えない。
斜め左側の通路に進む。
またも暗い中、フラッシュ・ライトを頼りに先を進む。
通路は全て植物で編みこまれたような構造になっている。
地面だって落ち葉が敷き詰められているような感じだ。
コール・モンスターで確認してみたら恐ろしい事が分かった。
さっきの狭めの広間以外、通路の向こう側は魔物がうようよと集っているようなものだった。
地面の下にはキノコ。
天井と壁の向こう側にブランチゴーレム。
大部分はパッシブであり、オレ達が通っているからと言って全てがアクティブになる訳ではないようだ。
これは危うい。
歩みを速めて通り過ぎたい。
でも魔物はそれを許してくれそうになかった。
その通路を抜けるのに三連戦。
キノコ3匹、枝ゴーレム2匹、キノコ4匹だ。
戦い慣れするにはいい数だったが、これまでになく厳しそうな狩場なのが身にしみた。
イビルアント相手にいい気になってました。
ゴメンナサイ。
得られたキノコはシイタケ3個にエリンギ1個、そして新たなアイテムも1個ずつ剥いでいる。
【素材アイテム】マイタケ 原料 品質C レア度2 重量0+
マイタケ。味も良く歯ごたえもある。煮る場合はスープが濁るので注意が必要。
【素材アイテム】ホワイトマッシュルーム 原料 品質C レア度1 重量0+
ホワイトマッシュルーム。大きなものは焼いて食べるのがオススメ。
【素材アイテム】エノキダケ 原料 品質C レア度1 重量0+
エノキダケ。健康食として注目のキノコ類。火を通して食べるべし。
ブランチゴーレムは片方を焼いて、もう片方はヴォルフ達に始末して貰った。
こっちはブナの原木と荒炭を得ている。
「なんとなく運営の意図が読めてきたぞ」
「鍋ですか?」
「鍋?」
「マッシュルームはバターでソテーして塩コショウでいいと思います」
「ソテー?」
「マツタケはないのかな?あれって食べた事ないし食べてみたい!」
いや、食事の話じゃなくて。
今までレムトの町でもレギアスの村でもキノコは見ただろうか?
何か色々と身近な食材で足りないものがあるような気がする。
プレイヤーに生産活動を促しているようにしか見えないんだが。
原木栽培ともなると日が当たらない森の中で管理していく必要があったように思う。
これはファーマー(農民)の領域なのか。
それともランバージャック(樵)の領域なのか。
いずれにしても生産職に任せるべきであろう。
フィーナさんにでも相談してみようか。
あそこのプレイヤーズギルドは職業不問だったし。
次の広間は最初の広間と同じく広かった。
出入り口は4箇所。
すぐ左隣に1箇所、斜め左側にもう1箇所。
この2つは先の様子は暗くて見えない。
そして右側に1箇所あるのだが、そこだけは通路が明るいようだ。
オレ達が入ってきた緑の回廊のようにも見えた。
そしてこの広間にも中央に例の人魂が浮いていた。
そしてこの人魂は黒く澱んでいるようである。
かなり不気味で点滅する代わりに黒の濃淡が変化しているようだ。
《ここは森の迷い道》
《ここを抜けたければ全ての通路を通るべし》
またあの声が響いてきていた。
またあのパターンだろうか。
と思っていたら人魂が消えた。
緑の回廊へと続く入り口の上に濃い黒色の人魂が揺れている。
さっきの広間と同じだ。
出ることができるか試してみた。
だが通れない。
ここを抜けるには何か条件を満たさないといけないようだ。
斜め左側の通路に向かう。
その途中でキノコ3匹に襲われたが返り討ちにしてやった。
キノコは確かに強い。
でも狼と虎のコンビに比べたら見劣りするのも間違いない。
アデルとイリーナは後衛から楽々と攻撃できている。
サモナーの戦い方としてはこれが正しいのだろう。
でもオレは接近戦で挑む。
さっきよりもより上手く倒せないか、色々と試してみた。
無論、無傷では済まない。
工夫してなんとか倒す術がないものか、試行錯誤を重ねていく。
それが楽しい。
魔法だけでなんとかするのは性に合わないのですよ。
通路を進むと早速ブランチゴーレムが襲ってきた。
しかも5匹もいやがる。
さすがに余裕がないものと判断して3匹まではパイロキネシスで着火してやる。
そして1匹はヴォルフ達に任せる。
最後の1匹には接近戦を挑んだ。
確かにこのゴーレムは力が強い。
以前戦ったスノーエイプを上回るのは確実だ。
それでもこいつに格闘戦を挑むのは弱点を見出せると思ったからだった。
それはこっちが仕掛ける技に対する反応のズレだ。
どうしても一拍、遅れるのである。
その刹那に関節を極められないか。
またはフェイントを用いて別の技に移行できないか。
色々と試してみた。
こっちの技に抵抗する動きに合わせて技を仕掛けるのが有効なのは間違いないようだ。
柔術の四方投げが決まったのは偶然だとは思うが。
投げ技と関節技の精度を上げるのにフィジカルエンチャント・アクアが有効なのも確認した。
器用値の底上げでかなり戦いやすくなる。
フィジカルエンチャント・ウィンドもそれなりに効果がある。
サイドとバックのポジションをとりやすくなる。
試しにバックに回って持ち上げて裏投げを仕掛けてみたんだが、意外に効いたのであった。
打撃も蹴りも試すのだが、これらは牽制以上にならないようだ。
まあ相手は木製とはいえゴーレムなのだし。
恐らくは痛みを感じていない相手だ。
痛め技が大して有効じゃないのは納得できる。
結局、そのブランチゴーレムは裏投げで仕留め切った。
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『ジーン』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
お待ちかねのレベルアップもあった。
ジーンのステータス値で既に上昇しているのは敏捷値である。
任意ステータスアップは生命力を指定した。
ちょっとHPバーの減り具合に不安があるのだ。
こうしておけば少しは安心だ。
召喚モンスター ジーン バットLv1→Lv2(↑1)
器用値 15
敏捷値 18(↑1)
知力値 11
筋力値 8
生命力 9(↑1)
精神力 10
スキル
噛付き 飛翔 反響定位 回避 奇襲 吸血
ジーンの場合、キノコ相手にはそこそこダメージを与えているがブランチゴーレム相手だと相性が悪いようだ。
まあ硬いからな。
イリーナの召喚モンスターである蛇のトグロも同様だ。
ブランチゴーレムに物理的にダメージを与えるとなると、斧やメイスといった武器のほうがいいのだろう。
弓矢でもその傾向があるらしい。
邪蟻の矢だと確かに貫通はするらしいのだが、HPバーはさほど減っていないそうだ。
黒曜石の矢は破壊力がある分、貫通しなくともダメージを与えているらしい。
アデルもイリーナも持ち込んでいる矢の中に黒曜石の矢はあるのだが、そんなに数は多くない。
持ち込む装備にも見直しが必要だろう。
さて、倒したブランチゴーレムなのだが。
ブナの原木以外にも剥げるアイテムがあった。
【素材アイテム】シイの原木 原料 品質C レア度1 重量2
シイの幹部分を切り出しただけのもの。
木材にするには表皮を除いて加工する必要となる。
【素材アイテム】ミズナラの原木 原料 品質C レア度1 重量2
ミズナラの幹部分を切り出しただけのもの。
木材にするには表皮を除いて加工する必要となる。
またか。
ここにいる魔物からは異なるアイテムを剥げる仕様でもあるのか。
そうでもなれば原木栽培をしろという矢の催促か。
なんとも言い難い。
更に先へと進むとまた広間だ。
人魂はいない。
広間の構成は2つ前に見たのと一緒である。
そして魔物も出ない。
少しだけ心の余裕が持てた。
念のため、コール・モンスターで確認してみたのだが、この広間の周辺にだけは魔物がいない。
人魂がいる広間にはいるんだが何が違うというのか。
良く分からないが、多少休憩を入れられるのは助かる。
全員のHPとMPも確認しておく。
何気にアデルもイリーナもMPが減っていた。
フィジカルエンチャント・ファイアで攻撃力強化。
そしてフィジカルエンチャント・アースで防御力強化。
オレが前衛で戦っていた間に使っていたからな。
後衛から弓矢で攻撃するだけでは芸が少ないってものだ。
ただこの狩場ではレベルがまだ上がっていない分、厳しいのかもしれない。
より減っているアデルのMPバーが半分を超える辺りまで休憩した。
まあ腰を下ろして水を飲んでいるだけですけど。
アデルはみーちゃんとヴォルフを両脇に抱えてナデナデしまくっている。
休憩になってねえ。
ヴォルフも馴れ過ぎだろ。
お前さんはオレの召喚モンスターなんだが。
どうもアデルの撫で方が気持ちいいのは間違いないようなのだ。
そんな気分が伝わってきている。
みーちゃんは?
横たわって寝てますがな。
「このまま延々と進むのも危険だ。夕方も近いしな。今からなら多少遅いがレギアスの村に戻って夕飯が食える」
「え?もうちょっといけそうな気がしますが」
「無理はいかんな」
「携帯食もありますし水も十分です」
「時間はどうなんだ?」
「そっちは大丈夫です」
「ふむ」
確かにここの魔物は強いことは強いが極端に強いとは思えない。
いや、召喚モンスターがいなかったら危ない相手ではある。
連戦で勝ち進むとなると、現有戦力は落とせない。
少なくともヴォルフとみーちゃんの片方でも欠けたら危ういだろう。
早々とMPが枯渇する事になる。
「アデルちゃん、行くよ!」
「うー」
休憩を終えて先に進もう。
因みにイリーナがアデルをモフモフ地獄(天国?)から助け出すのに結構な時間がかかっている。
お楽しみは後にしなさい。
斜め左側の通路へと進む。
マップの角度的に言えば大きく回りこんでいるような感じになるだろう。
キノコ3匹が1回襲来してきたのを撃退して次の広間に出た。
今度は人魂付だ。
その人魂は白く輝いているようだ。
《ここは森の迷い道》
《ここを抜けたければ全ての通路を戻ってはならぬ。一度決めた方向を必ず進め》
そして人魂が消え、右側の出口らしき場所に白色の人魂が揺れ始めた。
同じく出ようと試みたが無理だった。
そんな事を確かめているうちにキノコ4匹、ブランチゴーレム4匹とも戦っている。
ここは何気に魔物が出てくる数が多い。
それだけに気が抜けなかった。
キノコからアイテムを剥ぐのはアデルとイリーナに任せ、原木と炭はオレが剥いだ。
《アイテム・ボックス》は便利ではあるのだが、無限に入れておけるものではない。
仮想ウィンドウで使用容量を確認してみたら片方が7割、もう片方も5割を超えていた。
オレが持っていたキノコはイリーナに渡して少しだけ容量を稼いでおく。
何しろ原木が容量を食っているのだ。
運営の罠にまんまと掛かってる?
そんな気もする。
斜め左側の通路に向かう。
襲ってくるブランチゴーレム3匹を排除しながら進む。
何気にダメージが累積してくるのが痛い。
クーリングタイムが過ぎているのは確実だったのでポーションも使っていく。
そのポーションも手持ち分は半分まで使いきっていた。
ちょっとダメージの見通しが甘かったかもしれない。
次の広間は例の狭目のものだった。
通路の配置も変わらない。
そして魔物も出てこない。
さっさと斜め左側の通路に向かう。
次の通路を通過するのは難産であった。
ブランチゴーレム5匹が2連戦にキノコ6匹に5匹とちょっと敵が多かった。
ポーションを使ったばかりだったので回復呪文も結構使う事になっている。
結局は撃退できているが、引き換えにMPが相応に減っている。
魔物が出ない広間に戻って時間をかけてMP回復を図る方が無難か。
でも進むんですけどね。
次の広間に着いた。
予想通り、人魂もいる。
その人魂は赤く燃える炎のようであった。
《ここは森の迷い道》
《ここを抜けたければ外周の通路は全て同じ方向へと進まねばならぬ》
そして人魂が消え、右側の出口らしき場所に赤色の人魂が揺れ始めた。
分かってはいたが出ることができない。
残念。
そしてここでもブランチゴーレム5匹と戦うことに。
あまりに面倒なんで4匹は焼いて始末した。
召喚モンスターが寄って集って倒した奴からは新たなアイテムが剥いでいる。
【素材アイテム】カシの原木 原料 品質C レア度2 重量2
カシの幹部分を切り出しただけのもの。
木材にするには表皮を除いて加工する必要となる。
また原木な訳だが。
ただこいつは見逃せない。
樫の木は木材として実に硬く、木刀は無論、棒術でも使われている。
槍の柄として使ってもいい。
他にも道具類にも家具にもいいだろう。
硬いだけに加工が大変な筈だが、それだけに長持ちもする。
そのせいって訳でもなかろうがレア度がちょっぴり高い。
少し得した気分だ。
《只今の戦闘勝利で【光魔法】がレベルアップしました!》
《【光魔法】呪文のレジスト・ライトを取得しました!》
《【光魔法】呪文のライト・ヒールを取得しました!》
《【光魔法】呪文のコンフューズ・ブラストを取得しました!》
一応、フラッシュ・ライトを使っていたせいか光魔法がレベルアップしたようだ。
レジスト・ライトとライト・ヒールは見なくとも分かるからいい。
コンフューズ・ブラスト?
説明を見たが、どうやら単体相手に使う攻撃呪文であるようだ。
レベル依存の確率で混乱の効果を与えるらしい。
なかなか使えそうな気がする。
次にあると予想される広間へと向かう。
通路に入って最初に遭遇したのはキノコ6匹だった。
多いって。
ダメ元で武技アーツを使ってみる。
ブレスだ。
クリティカル率が上がって大きなダメージを与えられるか、試してみる。
コンフューズ・ブラストは後のお楽しみにしておこう。
で、ブレスを使ってみた結果なんだが。
やや微妙というのが本音である。
ドッペルゲンガーさん、微妙ですけど何で使った。
助かってる気がするけど。
確かにクリティカルらしき打撃と蹴りは1回ずつあったように思う。
ただそのいずれもが息の根が止まりそうな段階になってからのオーバーキルだったので有難味がなかった。
ままならないものだ。
それとも先祖の供養が足りないのかな?
それに戦い方も見直すべきなのだろうか。
キノコもゴーレムも裏投げメインで戦っている。
サモナーとして戦うなら後衛で支援するのが正しいというのは分かる。
アデルとイリーナを見ていても戦い方は安定している。
そう遠くない先に回復呪文を覚えたらもっと安定するだろう。
いや、待て。
この狩場でやや苦戦している理由は明らかだ。
壁役を務めるメンバーがいない。
そう。
次の召喚モンスターは何にするか、オレの中で方針が定まった。
また広間に出る。
そこに人魂はいなかった。
最初に入ってきた広間のようで、右側に見える出口の上には青い人魂が揺らめいている。
無論、出ることも出来た。
人魂の言っていた外周を回りきったと言う訳だ。
「どうやら一周したな」
「そうみたいですね」
「真ん中に何かありそう!」
そう。
まだ行っていない場所が8つの広間に囲まれた中央にあるのだろう。
その前に腹を満たしておこうか。
「魔物が出ない広間に行って食事としよう。その後で中央に何があるのか見に行こうか」
「「はい」」
食事はアデルとイリーナが携帯食をアレンジして作ってくれた。
オレが手伝ったのはリキッド・ウォーターで水を作った程度である。
もう一つ、苦悶草も提供して煮て貰う。
出汁代わりのシイタケと一緒に煮たものだ。
【食料アイテム】苦悶草の煮浸し 満腹度+10% 品質C レア度1 重量1
苦悶草をシイタケと一緒に煮たシンプルな料理。
携帯食は残ったスープに浸して食べた。
ちょっと工夫するだけで意外に旨くなるものだ。
だがそれだけではなかったようだ。
アデルもイリーナも【料理】スキルがあるのだと言う。
ありがたい。
オレが回避し続けているスキルだしな。
暫し地面に座り込んで腹を満たしていく。
食事を終えても少し休憩をとることにした。
MPの自然回復で少しでも余裕が欲しいというのが正直な所だ。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv6
職業 サモナー(召喚術師)Lv4
ボーナスポイント残22
セットスキル
杖Lv4 打撃Lv3 蹴りLv3 関節技Lv3 投げ技Lv3
回避Lv3 受けLv2 召喚魔法Lv5
光魔法Lv3(↑1)風魔法Lv3 土魔法Lv3 水魔法Lv3
火魔法Lv2 闇魔法Lv1
錬金術Lv3 薬師Lv3 ガラス工Lv3
連携Lv5 鑑定Lv5 識別Lv5 耐寒Lv2 掴みLv4
馬術Lv4 精密操作Lv3 跳躍Lv1 耐暑Lv3
装備 カヤのロッド 野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー
野生馬のブーツ+ 雪猿の革兜 背負袋
アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
称号 老召喚術師の弟子(仮)、家畜の守護者、中庸を望む者
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv4
残月 ホースLv3 お休み
ヘリックス ホークLv3 お休み
黒曜 フクロウLv3 お休み
ジーン バットLv1→Lv2(↑1)
器用値 15
敏捷値 18(↑1)
知力値 11
筋力値 8
生命力 9(↑1)
精神力 10
スキル
噛付き 飛翔 反響定位 回避 奇襲 吸血
同行者
アデル&みーちゃん
イリーナ&トグロ




