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増量ちう
ログインしました。
時刻は午前5時50分。
場所は静かなる竹林だ。
いや。
騒がしき竹林?
もしくは喧騒の竹林、と言った方がいいと思います。
人、多過ぎ!
プレイヤーばかりでNPCは皆無である。
まあ当たり前だな。
それに夜は気がつかなかったが、かなりの竹が伐採済みであるようだ。
いいのかね?
臨時で防御策を講じていると聞いているが、ここまでの規模とは思わなかったよ!
では。
ヴォルフだけを先に召喚していつもの場所へ。
いい匂いが漂ってきている。
オレよりも嗅覚が鋭いヴォルフにはこの匂いをどう感じているんだろうか?
やはり違うんだろうな。
それにしても気になる。
これ、筍を焼いているだろ?
なくなっていなければいいんだが。
「あ、キースさん。おはようございます!」
「ああ、おはようさん」
レイナの編んだ臨時の小屋の前は盛況であった。
食事が振舞われている。
売り子をしているのは優香だ。
他にも見慣れない生産職プレイヤーが結構な数で売り子をしている。
でも料金を徴収していない。
文字通り、振る舞っているのか。
一食、浮くだけでも有難いよね?
「皆が裏手にいますよ?そちらへどうぞ」
「ああ、有難う」
視線の先にはまた別の竹で編まれた小屋がある。
竹、便利だな!
オレも何本か、伐採しとくか?
まあそんな暇はないんですが。
「で、部隊編成の大半は結果的に普段のパーティ編成が中心か」
「うむ。色々と手を尽くしたんだがな」
「それでも集団戦編成への参加者がこれだけいるなら、なんとかなる?」
「偵察班によると、先行してきている魔物の群れは半減したらしいな」
「だがそれは魔物が分散してくれたからなんだが」
「まだ撃破出来ていない魔物もいるしなあ」
「魔人が減っているのも確かだ。まあやってみなければな」
うむ。
やはり腰を落ち着かせて食べたいものだが。
気になっている。
そう、食事を摂りながら昨日の動画を確認してました。
行き交う会話は?
一応、聞いてはいますけどね。
さすがにこっちの誘惑には勝てませんでした。
ステータス
器用値 20
敏捷値 20
知力値 32
筋力値 20
生命力 20
精神力 32
オレのステータスです。
基本ですね。
ここから普段使用しているエンチャントを掛け終えた所で確認する。
フィジカルエンチャント系4種、メンタルエンチャント系2種。
グラビティ・メイルを掛けたらこうなる。
ステータス
器用値 20(+3)
敏捷値 20(+7)
知力値 32(+5)
筋力値 20(+7)
生命力 20(+7)
精神力 32(+5)
これに真闘気法を掛けていた。
全ステータスが上昇している筈だが。
ステータス
器用値 20(+9)
敏捷値 20(+13)
知力値 32(+14)
筋力値 20(+13)
生命力 20(+13)
精神力 32(+14)
うひょ!
今まで長い事、検証していなかったが。
こんな状態で闘っていたのね?
この時点で十分に自重してないんですけど。
ここからブーステッドパワーだと?
ステータス
器用値 20(+9)
敏捷値 20(+13)
知力値 32(-9)
筋力値 20(+40)
生命力 20(+13)
精神力 32(+14)
戻って来い。
人間に、戻ってきなさい。
これじゃあ完全に狂戦士だろうが!
それにこれで終わりではないのだ。
ステータスを底上げするアイテムもまだ控えている。
力水で筋力値。
スットゥングの蜜酒(劣)で知力値。
モーズグズの涙で精神力。
まだまだ、怪物化への手段が残っているんですけど?
分かった。
大体、分かった。
タフそうな相手に使うべき手段、という事が分かればそれで十分。
動画は外部リンク先で格納しておくか。
「キースったら、聞いてるのかしら?」
「えっと、何の話でしたっけ?」
「聞いてなかったわね」
「間違いないわよね?」
マルグリッドさんにサキさんだ。
ニヤニヤと笑うのみですけどね。
「フィーナから伝言よ?」
「参加するサモナーは全てまとめてユニオンとして行動をお願いしたいって。前回と同じだけど」
「まあそれは構いませんが」
「これも臨時のサモナー交流会!」
「了解です。実績もありますし」
アデルもイリーナもやる気だな。
彼女達は昨日、早めにログアウトしている。
聞けば今日は夜遅くまで付き合えるのだとか。
日程調整、お疲れ様です。
生産職の面々も今は半減といった所だ。
フィーナさんもログインしてくるのは午前10時頃であるようだ。
エリアポータル内から進発するユニオンも見えている。
大規模戦闘の本番は午後か。
それまでは自由行動?
どうするかね?
オレの考えていた事はそんな感じでした。
昨日の獲物の精算は前もってリックに頼んであって良かった。
食事を終える前に色々と依頼が片付いて助かります。
そして食事を摂り終えると、アデルとイリーナに連れられて静かなる竹林の一角に向かった。
そこは、臨時の動物王国。
竹林動物園。
竹が伐採された跡地にサモナー達がいる。
無論、召喚モンスター達もだ。
馬、鷹、フクロウ、フェアリー達、狼。
本日のサモナー軍団がこれか。
自由に、と言われてもね。
だがこれだけの戦力があれば、やれる事もあるかな?
「先頭の隷獣・外法蛇亀との接触はいつ頃に?」
「大規模戦闘になると思われるのは午後になりそうだそうです」
「それまでは各個撃破を続けるみたい!」
春菜と此花がアデルと話し込む様子を見ながら思う。
この戦力で、狩り?
唯の狩りではつまらないな。
先陣を切って侵入してきている隷獣・外法蛇亀が従える魔物を狩りに行くプレイヤーは多いだろう。
一番北側を進軍する隷獣・外法蛇亀だな。
あの隷獣・外法蛇亀、周囲を護る魔物は少なくなっている。
もう少し削ってやれば、隷獣・外法蛇亀も丸裸だろう。
サモナー達の戦力だけで、どこまでやれるかな?
少し興味がある。
それにオレにはない技能を持つプレイヤーは多い。
弓矢だ。
それに空中位置の戦力も充実している。
隷獣・外法蛇亀の頭の上にいる魔人。
あれを始末できたら?
呪文が無効化されている原因が魔人であれば、先に始末したい所なのだ。
「今日はどうします?」
「それより先に把握しておきたい。これ、どれだけの数がいるんだ?」
「ざっとサモナー70名って所かな?」
「正確には72名になったよ!」
オレの質問には春菜と此花が答えた。
それにこの72名、30名がクラスチェンジ済みであるという。
サモナーと召喚モンスターを含めたら、総勢400に迫る集団になる訳だ。
ふむ。
ちょっとした軍勢ですな。
「この数で魔物の群れを狩るにしても、どこを狩場にするかなんですが」
「一番北を進んでいる奴がいいな」
「え?」
イリーナの顔は?
半分は、まさか。
もう半分は、やっぱり。
そんな所だろう。
そう。
オレが狩りたいのはあの隷獣・外法蛇亀が従える魔物の群れだけに留まらない。
魔人。
そして隷獣・外法蛇亀そのものである。
とは言ってもまともに相手をするつもりだってないんですよ?
オブシディアンビースト相手にまだまともに戦っていない。
魔人を始末出来れば、と思えるのだが。
まあやってみるだけだな。
「じゃあ出発準備、行くよ!」
周囲でサモナー達が動き出す。
見知った顔もあった。
ヒョードルくんにヘラクレイオスくんだ。
既に布陣を固めていたらしく、目礼を残して先にエリアポータルを出て行く。
それに続くサモナー達も見覚えがある面々だ。
つか。
ヒョードルくんの追っかけをしてたお姉様達?
おお、オレも召喚しておかないと。
ヴォルフ以外は?
残月、ヘリックス、クーチュリエ、極夜を加える。
そしてサモナー達の列に加わった。
さあ、行き先は北西だ!
何故行軍の先頭がオレになるのか?
まあ考えるだけ、無駄だ。
そして今日は移動速度としてはややゆっくりとしたものである。
クラスチェンジ組は言うに及ばず。
まだクラスチェンジしていないサモナーにしても、一番下の職業レベルが10である。
同時召喚4匹を全員がクリアしている。
そして全員が騎乗。
全速力で移動する愚は犯せない。
それでも行軍速度は速いんですけどね。
クラスチェンジ組30名の内訳は?
セージ13名、グランドサモナー15名、ネクロマンサー2名だ。
なんとネクロマンサーが2名いたのだ!
中々に興味深いな。
そして今回の行軍も以前と同様の特徴がある。
召喚モンスター達もまた個別に群れを形成している事だ。
狼系召喚モンスターの群れ。
その先頭にはシルバーウルフのヴォルフ。
オルトロス2頭とウェアウルフが続く。
そしてウルフ軍団。
その中にグレイウルフ、ホワイトウルフ、ブラックウルフも混じっている。
70頭を超える、大集団だ。
これ、怖い。
怖すぎる。
上空も同様である。
鷹系の召喚モンスターが70羽近く、フクロウ系も30羽ほどいるから、100羽相当の大集団だ。
これも怖いな。
だが、このおっかない集団はあの魔人を仕留めるのに大きな力となる筈なのだ。
魔人には同情申し上げる。
そして各馬には支援役となる召喚モンスターが控えている。
ある者はスライムとマーメイドを同乗させている。
ある者はフェアリーやインプだったりする。
オレの場合はクーチュリエな訳だが。
蜂系統は、少ない。
クーチュリエ以外はギガントビーが2匹だ。
まあそうなのかも。
撫でて楽しい召喚モンスターじゃないしな。
これほどの大集団が最初に遭遇したのは?
ラクチャンゴの群れだ。
その先頭にアイラーヴァタに騎乗する魔人、レベル高めのビーストテイマーがいました。
総勢、およそ100頭になるかな?
蹂躙、してしまった。
まさに蹂躙。
魔人とアイラーヴァタの死体は文字通り八つ裂き状態に。
怖い。
数の暴力、怖いです。
オレが屠った魔物がラクチャンゴ1頭だけとか、あり得ない!
戦闘そのものが楽になり過ぎて困る。
『剥ぐ時間、ありますか?』
「移動優先で」
『了解』
『はーい、さっさと行くよー!』
そうそう。
白象から得られるアイテムは全員分は得られないだろう。
アイラーヴァタが100頭もいれば剥いでもいいんですが。
ラクチャンゴからのアイテム取得率は低い。
ここは先を急ぐ方がいい。
同様の群れをもう1つ蹂躙。
こっちは魔人がおらず、ラクチャンゴだけだったし規模も小さかった。
攻撃呪文もいらないって。
オレも馬上槍で一突きしただけで、仕留めたラクチャンゴはいなかった。
うん。
皆さん、強くなっているのは良く分かった。
オレの分も残して下さい、後生ですから。
『いた!』
『確認しました』
『うわ!あれか!』
サモナー達も大部分は隷獣・外法蛇亀を直接目視するのは初めてだろう。
でもね。
あれでも減っているんですよ。
しかもガルムに関しては半減以下。
レッサーグリフォンに至っては全滅。
スヴァジルファリ・スレイブはもう数える程でしかない。
トライホーンリザード、オブシディアンビーストは健在だが。
さて、どうするか?
決まっている。
狩り尽くすのみだ。
最初の目標は?
魔人だ。
「アデル、イリーナ。攻撃呪文が無効になっている範囲は分かるな?」
『はい!』
『分かりますが』
「亀の頭に載っている魔人は弓矢で狙ってくれ。空中位置の召喚モンスター達と波状攻撃!」
『あの魔人、ですね?』
『らじゃ!』
「春菜、此花。杖持ちは私に続いてくれ!周囲の魔物を引き剥がす!」
『はい!』
春菜と此花の元にサモナー達が集まってくる。
杖持ちの数、30名余り。
ヘラクレイオスくんの姿も見える。
そして狼系の召喚モンスター軍団だ。
アデルとイリーナの元にもサモナー達が集まっている。
弓持ちの数は杖持ちとほぼ同数かな?
その中にはヒョードルくんの姿もある。
良かったな。
例のお姉様サモナー達は全員杖持ちでこっちにいる。
支援役となるマーメイドやフェアリー等は召喚主の元に振り分ける。
まあこれはそう悩まなくていい。
そしてヘリックスやクーチュリエを含め、空中位置の召喚モンスターは上空で旋回していた。
まさに魔軍。
マーメイド達の歌声も始まった。
そう。
ヘリックス達、空中位置の召喚モンスターの群れの様子は、まるでホラー映画のようになっている。
何かが起きそうな予感がする。
では。
準備はいいな?
行ってみよう。
隷獣・外法蛇亀の護衛はオブシディアンビースト以外、殲滅出来れば上等だろう。
『周囲を回るだけでいいんですか?』
「それで構わない!亀から離れた奴だけを狙え!反時計回りでだ!」
ヴォルフ達に襲われると、オブシディアンビーストの列に乱れが生じている。
無論、ヴォルフ達に無理はさせない。
牽制程度だ。
だがこれはいいな。
直接、隷獣・外法蛇亀に迫れるかも?
だがもっと大事な事がある。
オブシディアンビーストの強さはどれほどのものであるのか?
夜の遭遇戦程度じゃ正直良く分からんのです。
「春菜、此花!暫く支援を頼む!」
『支援、ですか?』
「暫くの間、武技も呪文も使えなくなるからな」
『え?』
その問いに答える間もなく武技を使う。
既に呪文による強化はしてある。
力水も使った。
スットゥングの蜜酒(劣)も使う。
騎乗戦だから真闘気法ではなく、使っているのは人馬一体であるのだが、多少はカバー出来るだろう。
さて。
戦列を離れたオブシディアンビーストがいる。
あれにするか。
「ブーステッドパワー!」
そして黒い岩塊のような魔物へと突撃を敢行する。
さて。
どうなるのかね?
そのオブシディアンビーストを牽制していた狼達が引いたタイミングでその突きは入った。
腰溜めにした一撃。
残月の体重も加わっている。
直撃。
見るからに強固な外皮に、直撃。
それなのに手応えが軽い。
箸先で柔らかく煮た里芋を突き刺すような感じ?
アッサリと攻撃が通ってしまった。
その魔物のマーカーはどうだ?
小さくマーカーが重なる。
毒。
ついでに麻痺。
獅子賢者の騎士槍、有能過ぎる!
で、HPバーはどうだ?
2割以上、減っているようだ。
3割に届かないか?
でもまあ、それで十分だろう。
続いて極夜がその魔物に噛付いていたんだが。
まるで効いてない。
効いてないよ!
頭にきたのか、極夜は体当たりだけして離脱する。
おい。
自分で自分を傷付けるだけだし、お止しなさい!
オブシディアンビーストの攻撃手段は何か?
尻尾を振り回してくる。
そしてカウンターでの体当たりか。
恐らく、噛付き攻撃もあると思うが、あの重量そのものが既に武器だろう。
踏み潰されたら大ダメージは必至だ。
但し、足の遅さが致命的だな。
機動力を活かして戦いを継続するのは難しくないだろう。
問題は如何にしてダメージを与えて仕留めるかなんだが。
まだ攻撃呪文の有効範囲に入っていない。
掻き消されているのが分かる。
まだこいつに対する攻撃呪文の有効性は検証できない。
だが明確になる事もある。
武器そのものに宿る攻撃は、有効。
事前に付与した武技に呪文の効果は、有効。
まあ確認程度ですが。
では。
周囲の連中を始末しよう。
ガルムは既に次々と排除されていた。
ノーダメージとはいかないが、攻撃呪文が重ねて放たれて、次々と屠られる。
まだ残っているのは?
数は少ないが、スヴァジルファリ・スレイブと騎乗する魔人。
そしてトライホーンリザード。
まだまだ、ブーステッドパワーの効果は継続中である。
試すにはいい相手だ。
『亀を一周しました!』
『例の魔人2名、亀の頭上から落ちました!』
『まだトカゲもいるよー』
ウィスパーで様々な報告が飛び交う。
そうか。
魔人はいなくなったか?
まだ呪文無効化のエリアは健在なのかもしれないが。
『各自、攻撃呪文で試してみて!』
『ヤァ!』
『ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!』
隷獣・外法蛇亀とその周囲にいる魔物へと幾つもの全体攻撃呪文が放たれているのが見える。
センス・マジックはまだ有効だ。
これならば確実な訳だが。
どうだ?
通っている、な?
隷獣・外法蛇亀のすぐ傍で護衛するオブシディアンビーストのHPバーが減っているのだ。
間違いない。
「総員!亀を周回しながら攻撃を継続!足は止めるな」
『はい!』
さあ、ここからは好き勝手にダメージを与えまくりかな?
いや、それを成立させるにはまだ厄介な奴も残っている。
トライホーンリザード。
それにまだスヴァジルファリ・スレイブに騎乗する魔人も1名、残っているようだ。
オレはこいつらから始末してくれよう!
狼軍団がオレと残月の後を追従してくる。
さあ。
思い切って集って差し上げていいぞ?
その魔人は火吹き男であったようだ。
火炎を吐いていたので。
でもそれは無視してスヴァジルファリ・スレイブに突っ込んだ。
毒は無理だったようだが、麻痺してました。
HPバーは?
一気に8割近く削ってます。
凄い。
ブーステッドパワー、凄いよ!
でも心配もあったりする。
火吹き男が吐いた火炎攻撃でオレのHPバーも2割近く、削られている。
今はまだブーステッドパワーの効果が継続中だ。
呪文が使えない。
残月に騎乗しているから、ある程度は自然と回復すると思う。
でもこれはそう大きな効果ではないのだ。
やや心配になってくる。
おっと、いかんな。
迷うな。
ブーステッドパワーが切れてから幾らでも回復したらいい。
途中でブーステッドパワーはキャンセル出来ないようだしな。
正面にトライホーンリザード。
真正面から突っ込むと魔物の前脚に馬上槍を撃ち込んでいく。
貫通?
いや、肉そのものを剥いだような感じがする。
だがその戦果を確認する余裕はない。
右前方に、トライホーンリザード。
またしても突撃。
腰を落ち着ける暇もなさそうだな、こりゃ。
『護衛の残り数、確認しました!あと12匹!』
『隷獣・外法蛇亀ってあれ何?HPバーがようやく1割減りました!』
「まずは護衛の魔物を始末だけを考えろ!もう少しだ!」
『はい!』
亀の周囲をどれほど回っただろうか?
覚えていない。
分かっているのは、ブーステッドパワーは2回目って事だ。
空中戦力の召喚モンスター達も一旦召喚主の元で呪文の強化を受けると攻撃に参加している。
地上戦力も同様だ。
ここまで、移動しているだけで何も動きを見せていなかった隷獣・外法蛇亀がその脚を止めた。
4つの脚をより踏ん張るようにして、何かの動きを見せる。
「ガァッ!」
ヴォルフが短く吠える。
警告。
何かが、来る?
隷獣・外法蛇亀の首が伸びていく。
そして天空を見上げた。
何かを、溜めている。
センス・マジックで見えるのは?
強大な魔力の塊?
しまった。
何かの攻撃が、来る!
「ディメンション・ミラーを使え!他の壁呪文でもいい!」
オレが言えたのはそこまでだ。
間に合うのか?
間に合え!
隷獣・外法蛇亀が地上に向けて放ったのは?
ブレスだ。
そう思う。
何名かが作り上げた防御呪文による壁が数枚、まとめて突破されている。
ストーン・ウォールも。
アクア・シールドもだ。
迫るブレスを最後に受け止めたのはウェアウルフだった。
イリーナ配下のウェアウルフ、安生だ。
だが。
どうやら、次もあるようだ。
再びセンス・マジックの掛かっている目には危険な予兆が見えている。
すぐに連続で使えるような攻撃ではないのか?
それだけが助かる。
『各自、壁呪文の用意!』
『出来るだけ頭に近寄らないで!』
「このまま周回を続けろ!私はアレを止めてやる!」
春菜と此花に指示を任せてオレはサモナー達の戦列から離れる。
あの攻撃を止める。
思うように攻撃をさせない。
すぐに仕留められるような奴ではないのだが、あれは危険だ!
ブーステッドパワーの効果は?
まだ継続中だ。
効いているうちにさっさと攻撃してしまおう。
オレが狙ったのは、脚だ。
右の前脚。
それを亀の斜め前方から残月を駆って突撃。
目的は?
バランスを崩す事だ。
またあのブレス攻撃をしかねないほど、魔力の高まりが見えていた。
迷う暇もない。
突撃!
その一撃で与えたダメージは?
HPバーは?
目に見える程には減っていない。
これまでの累積ダメージで2割近くまで減っているようだが、ピクリとも動いてないよ!
だが大きな戦果もある。
毒だ。
麻痺は?
さすがに麻痺は無理だったか。
何よりも亀の放ったブレスは天空へと放たれ、空振りに終わった事の方が大きい。
よし。
このまま攻撃継続で。
亀の周囲を更に回ってみる。
最後に残っていたオブシディアンビーストが沈み、後はこの大物の隷獣・外法蛇亀だけなのだが。
既に別のサモナーにディフェンス・フォールが仕掛けられている。
オフェンス・フォールもだ。
それでもこの亀の脅威は落ちていない。
ブレス攻撃に対処もしているが、こちら側もダメージがそこそこにある。
何事も完璧に、とは行かないようだ。
これまでに亀に与えたダメージは3割を超えた。
毒によるダメージはそう長く続かなかったようで、今は状態異常を知らせるマーカーはない。
毒に頼るのもダメと。
何か決め手がないと、な?
「右前脚だけにピットフォールだ。出来るか?」
『繋げてやる形ですね?』
「右前脚だけを沈めて亀の首が地面近くに来るようにすれば、攻撃はし易いからな」
『了解!』
『ピットフォール使える人、前の方へ集合!』
春菜の元に数名のサモナーが来る。
その中にはイリーナもいた。
オレはと言えば、3回目のブーステッドパワーに向けて呪文の継ぎ足しをしてました。
そうそう、時空魔法の呪文、リジェネレートも忘れてはいけない。
これで、よし。
突撃準備、完了。
ついでに覚悟完了。
あの頭を目掛けての突撃とか、正直怖いのだが。
今は高揚感が勝っている。
ノリノリだ。
まあやってみるさ。
『ピットフォール!』
その大合唱に続いて隷獣・外法蛇亀の体が沈むように見えた。
右前へと、転ぶかのように。
おお!
これこそ、好機!
その状態を確かめるように首の周囲を回りこむと、亀の左側に出る。
狙うのは、喉だ。
「ブーステッドパワー!」
残月を駆り、魔物へと突撃する。
甲羅部分に比べたらまだ柔らかい箇所だろう。
狙うしかない!
その突撃は何度も何度も、何度も繰り返す事になりました。
途中で毒も与えたし、1回だけ麻痺も与えたのも効いていたのかもしれない。
4回目のブーステッドパワーの効果が途切れ、暫く経過すると隷獣・外法蛇亀は沈んだ。
うん。
確かに、HPバーはもう残っていない。
狩った。
いや、勝った。
勝っているよね?
《只今の戦闘勝利で【馬上槍】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【召喚魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【時空魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【精密操作】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【耐暑】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【平衡】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【精神強化】がレベルアップしました!》
《取得が可能な補助スキルに【耐沈黙】が追加されます》
《只今の戦闘勝利で職業レベルがアップしました!》
《只今の戦闘勝利で種族レベルがアップしました!任意のステータス値2つに1ポイントを加算して下さい》
色々と上がりすぎ!
こっちは70を超えるパーティ数だというのに、どれほどの経験値があったのか?
実に恐ろしい。
で、ステータス値の何を上げるのか?
これは悩まない。
前もって決めてありましたので。
基礎ステータス
器用値 21(↑1)
敏捷値 21(↑1)
知力値 32
筋力値 20
生命力 20
精神力 32
《ボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で11ポイントになりました》
だが。
インフォが終わらない。
終わらないのです。
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『残月』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
おい!
結構レベルアップするのが早くないか?
いや、活躍というか貢献度で言えば地味に大きいんですけどね。
残月のステータス値で既に上昇しているのは筋力値だ。
もう1ポイントは精神力にしておく。
残月 ホワイトホースLv11→Lv12(↑1)
器用値 9
敏捷値 29
知力値 9
筋力値 30(↑1)
生命力 30
精神力 9(↑1)
スキル
踏み付け 疾駆 耐久走 奔馬 蹂躙 蹴り上げ
騎乗者回復[微] 魔法抵抗[微] 光属性
《召喚モンスター『残月』がクラスチェンジ条件をクリアしました!》
《クラスチェンジは別途、モンスターのステータス画面から行って下さい》
する!
するよ!
だがここは一旦、周囲の状況を確認してからだな。
かなり長い戦闘時間であったのだ。
ここは被害の確認と回復だな。
『キースさん、剥ぎ取りは?』
「その前に被害の確認と回復だな。召喚モンスターは各自の元へ」
『はい!』
オレもマナポーションを使っておこう。
まだ先がある。
そしてヴォルフ達も回復させていく。
一番、ダメージがあったのはクーチュリエでした。
まあステータスにペナルティがなかっただけでも良しとするか。
死に戻りもいないしな。
『ガルムの死体が消え始めてますが』
「あれはいい。他の魔物から剥ごう」
幸運にも、オブシディアンビーストはサモナーの人数分以上の死体があった。
オレも剥いでみると、魔晶石です。
まあまあ?
他のサモナー達も大半は剥げているようです。
トライホーンリザードからはツインホーンリザードと同様に肉だ。
これはここにいる全員の昼飯でいいだろう。
無論、召喚モンスターも込みで。
量は十分、かな?
オルトロスがいるから心配だ。
魔人の死体は既に消えている。
そしてスヴァジルファリ・スレイブはどれも何も残しませんでした。
解せぬ。
最後に隷獣・外法蛇亀なんだが。
剥ぎ取る権利は周囲がオレに遠慮してたんで、仕方なくオレが剥いだ。
【解体】よ、こればかりは仕事しろ!
だが。
ちゃんとアイテムが残ったのでした!
安心した。
何も剥げなかったら落ち込む所だよ!
で、何が剥げたのかといえば。
愚者の石版なのでした。
ふむ。
これ、オレも持ってる!
つか愚者の石版ってかなり重要なアイテムなのかね?
『被害確認終わりました』
『サモナーに死に戻りはありません。ステータス異常もなしです』
『召喚モンスターに死に戻りは7、ステータス異常は26です』
「結構な被害があったか」
『でも』
『勝ちましたよ?』
まあそうなんだが。
それでも心が痛む。
戦友たる召喚モンスター達よ、君達の犠牲は無駄にはしない!
まあ時間が経過したら再び召喚出来るんですけどね。
時刻は?
午前10時ちょうどか。
余裕で集団戦となる戦場には間に合いそうだが。
まだサモナー達が色々と操作している。
相談しているサモナーも多い。
レベルアップしているのだ。
中にはクラスチェンジもさせているようだしな。
ここは少し、時間を掛けてもいいのだろう。
敢えてインスタント・ポータルは使わず、留まって休憩する形になっていた。
まあこの状況で襲ってくる魔物がいたら、その魔物は勇者だ。
愚者でもあるが。
おっと。
オレもクラスチェンジさせておくべきなのがいますよ?
残月だ。
《融合対象となる召喚モンスターではありません。クラスチェンジが必要です》
念の為、馬装具を外しておく。
融合識別も先に使っておいた。
さあ。
何があるんですか?
クラスチェンジ候補
ユニコーン
選択肢が1つだけ。
つかユニコーンって!
オレは男性なんだが、乗れるんですかね?
選択肢が1つだけなのにそれはない、と考えるしかない。
ここはクラスチェンジさせておこう。
残月 ホワイトホースLv12→ユニコーンLv1(New!)
器用値 10(↑1)
敏捷値 29
知力値 13(↑4)
筋力値 30
生命力 30
精神力 13(↑4)
スキル
頭突き(New!)踏み付け 疾駆 耐久走 奔馬 蹂躙
蹴り上げ 騎乗者回復[小](New!)魔法抵抗[小](New!)
光属性
【ユニコーン】召喚モンスター 戦闘位置:地上
霊力を身に宿す馬。白い毛並みが特徴。
精霊とも深い関わりがあるとされる事もある。
主な攻撃手段は頭突きに体当たりと踏み付け等。
気性が荒く、主人と認めた者にしか従わない。
鎮めるには聖女でなければ不可能とされている。
騎乗者を癒す力がある事でも有名。
《融合対象となる召喚モンスターです。もう1体召喚モンスターが必要です》
そしてその姿は?
白馬だ。
大きさもそう変わっているように見えない。
尻尾や鬣が長くなっているだけのように見える。
だが。
その角の存在は隠しようがない。
目立つ。
実に目立つな!
馬装具を装備させてみる。
サイズも問題ない。
面当てだけはどうしようもないから外したけどね。
しかし、頭突きがあるのか。
面当ては防御力に期待できない代物だし、それで十分に用が足りていたんだが。
しっかりとした代物にすべき?
多分、そうなのだろう。
『キースさん、その子!』
『クラスチェンジですか?』
「だな」
早速、アデルとイリーナに見付かった。
いや、ここにいる全員に見付かった。
目立つのは仕方がないよね?
皆、興味津々です。
『出来たらどんな感じになるのか、掲示板に書き込んで貰えると助かるんですが』
「うん?そうだな、時間に余裕が出来たらそうしようかな?」
アデルを始め、女性サモナーに集られている残月。
だが嫌がっている様子はない。
結構、嬉しそうだ。
そしてそんな女性サモナーを尻目にイリーナのお願いです。
おっと。
仮想ウィンドウのハードコピーは残しておこうかね?
他にもすべき事はある。
アイテムの分配はすんなりと済んだ。
全員が1個、魔晶石。
余った分は別口で精算する事にして、オレが預かる事になった。
愚者の石版も肉も同様だ。
それに装備の修復である。
オレの場合、獅子賢者の騎士槍の消耗が激しかった。
全て修復するのに魔石を何個、消費した事か!
素材が素材だけに、より手間が掛かってしまうようだ。
そして死に戻りとステータス異常のあった召喚モンスターの分、追加と入れ替えをしていく。
準備はいいかな?
では。
出発だ!
移動しながら状況を整理していく。
とはいっても全部、春菜と此花が中心でしたけどね。
フィーナさんの所にはイリーナが窓口になって連絡をしてくれている。
オレは?
移動の時間を使って掲示板のサモナースレに書き込んでました。
リロードしたら一気にスレが加速する。
どうも同行している面々のようです。
これではスレが埋まるのもそう遠くなさそうだな。
先刻の戦闘による戦果は他にもあり、その全容もまた凄まじいものであった。
サモナー職でレベル15に到達してクラスチェンジした者が7名もいたのだ。
つかクラスチェンジしていなかったサモナー全員が種族レベルがアップしている。
クラスチェンジ済みだった者のうち半分も同様なのだから凄まじい戦力の底上げになるな!
そして7名のサモナーはどんな選択をしたのか?
セージに3名、グランドサモナーに3名、ネクロマンサーに1名がクラスチェンジである。
まあ順当、なのかな?
そして召喚モンスターもまた戦力の向上がある。
生き残った召喚モンスターの大部分はレベルアップしているという凄まじさだ。
そして当然だが、クラスチェンジした召喚モンスターも多数。
中にはフューズ・モンスターズでウェアウルフやオルトロスまで誕生していたのだ!
間違いなく、先刻よりも強化されている。
特にレベル15に到達し、クラスチェンジしたプレイヤーは同時召喚数も増えている。
恐るべき戦果である。
『このまま南へ移動ですか?』
「先行しているカメの後方に出よう。南へ、やや東寄りに進もう」
『らじゃー』
『了解!』
移動しながらも各自の判断で各プレイヤーはマナポーションを使ってMPバーを回復させていく。
まだ侵攻してくる魔物の群れは多い。
早いうちにどれだけの魔物を狩って、減らせるだろうか?
間に合わなければ、静かなる竹林も潰されてしまうかもしれない。
だがまずは先行している隷獣・外法蛇亀とその軍勢だ。
各個に全滅できればいいんだが。
そして問題になるのは後続のキムクイ・スレイブ。
まああれをどうするか、悩むのはまだ早いかもしれないな。
ともかく、移動だ。
獲物が待っている。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv31(↑1)
職業 グランドサモナー(召喚魔法師)Lv17(↑1)
ボーナスポイント残 11
セットスキル
剣Lv12 両手槍Lv12 馬上槍Lv12(↑1)棍棒Lv13 刀Lv13
刺突剣Lv11 捕縄術Lv11 投槍Lv8 ポールウェポンLv7
杖Lv22 打撃Lv20 蹴りLv20 関節技Lv20 投げ技Lv20
回避Lv20 受けLv20
召喚魔法Lv31(↑1)時空魔法Lv19(↑1)封印術Lv12
光魔法Lv18 風魔法Lv18 土魔法Lv18 水魔法Lv18
火魔法Lv18 闇魔法Lv18 氷魔法Lv17 雷魔法Lv17
木魔法Lv17 塵魔法Lv17 溶魔法Lv17 灼魔法Lv17
錬金術Lv14 薬師Lv10 ガラス工Lv8 木工Lv12
連携Lv21 鑑定Lv21 識別Lv21 看破Lv7 耐寒Lv9
掴みLv18 馬術Lv19 精密操作Lv21(↑1)ロープワークLv11
跳躍Lv11 軽業Lv11 耐暑Lv13(↑1)登攀Lv11 平衡Lv12(↑1)
二刀流Lv18 解体Lv18 水泳Lv6 潜水Lv6 投擲Lv10
ダッシュLv11 耐久走Lv11 隠蔽Lv6 気配遮断Lv6
身体強化Lv19 精神強化Lv20(↑1)高速詠唱Lv20
魔法効果拡大Lv19 魔法範囲拡大Lv19
耐石化Lv6 耐睡眠Lv6 耐麻痺Lv6
耐混乱Lv4 耐暗闇Lv4 耐気絶Lv8
耐魅了Lv1 耐毒Lv3
ステータス値
器用値 21(↑1)
敏捷値 21(↑1)
知力値 32
筋力値 20
生命力 20
精神力 32
召喚モンスター
残月 ホワイトホースLv12→ユニコーンLv1(New!)
器用値 10(↑1)
敏捷値 29
知力値 13(↑4)
筋力値 30
生命力 30
精神力 13(↑4)
スキル
頭突き(New!)踏み付け 疾駆 耐久走 奔馬 蹂躙
蹴り上げ 騎乗者回復[小](New!)魔法抵抗[小](New!)
光属性
同行者
サモナー軍団




