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ログインしました。
時刻は午前5時50分。
普段通りの時間。
これが日常。
ペースが一定だと色々と調子がいいのは、精神的な面でも同じだ。
今日もいい天気?
だが。
周囲の雰囲気は緊張感が漂っている。
その原因はプレイヤーの面々にあるようだ。
半分程は慌しい様子を見せていたりする。
悠然としているのもいるのだが、やはり全体の雰囲気には変化が感じられた。
あの魔物の軍勢だが。
どこまでここに迫っているのか?
この感じだとかなり近くにまでいてもおかしくなさそうだ。
そうそう。
ヴォルフと護鬼は先に召喚しておこう。
装備を色々と見繕えたらいいんですがね。
在庫、あるんだろうか?
「おはようございます、あれ?」
「新しい子?」
「そうだな、新しい子で合ってる」
間違ってはない。
クラスチェンジして色々と一新しているし。
サイズはおかしいけどね。
アデルもイリーナも夜叉は初めてなのかな?
これでも師匠の夜叉よりもおとなしめの外観なんだが。
既にアデルとイリーナは朝食の用意を済ませているようだ。
ここはサキさんとレイナの姿を探す。
いた。
つか食事中だ。
マルグリッドさんもリックもいる。
在庫確認は今は止そう。
オレも同じテーブルで朝食を貰う事にしようかね?
先に食事を済ませた面々が会話を始めていた。
聞き役になりながら食事を摂る。
状況はやはり予想通りのようだ。
あの魔物の群れ、その尖兵となる軍勢が迫っている。
だが良く聞くと、最も先行して進撃してくる隷獣・外法蛇亀がここに到達するのは明日以降であるらしい。
飽くまでも、問題は尖兵であるようだ。
スヴァジルファリ・スレイブを駆る魔人。
それに付き従うガルムだ。
より広い範囲で活動するレッサーグリフォンを駆る魔人も当然だがいる。
朗報もある。
W2、W3方面の魔人の出没、それに伴う死に戻りは激減している事とか。
かなり魔人の数は減ってきているようだ。
どうも際限なく魔人が投入されているような様子はない。
これを朗報と言っていいのかな?
運営の匙加減で一気に増えてしまいそうなんですけど。
今日のお題は?
魔物の尖兵を迎撃らしい。
やる気になっている攻略組の中には積極的に攻めに転じているユニオンもいるそうです。
いい傾向ですね。
だがそれだけ多くのプレイヤーが参加していると、経験値的には旨みがないのだ。
迎撃はW5マップがメインであり、W6マップで活動しているユニオンはいないそうです。
それこそ朗報だ。
狩場を独占出来る。
明日は?
今日のうちに魔物の群れを全滅させた上で、あの隷獣・外法蛇亀を迎撃する計画であるらしい。
参加の呼び掛けは昨日から行われていたようだ。
発起人は例の如く、生産職の重鎮の面々らしいが。
またしても大規模戦な予感。
「では今日までは各自が自由に狩りを進めてもいい、という事ですかね?」
「そういう事でいいみたいよ?」
食事の手を止めて確認しておく。
ふむ。
明日は集団による大規模戦闘か。
参加するか?
まあ流れのままに、参加してもいいよね?
昨日の獲物の精算をリックに依頼。
やや少ないながらも宝石類はマルグリッドさんの手元に渡っている。
そしてオレはサキさんに護鬼の防具を見繕って貰う事にしたのですが。
「さすがに出来合いの防具を調整するよりは特注の方がいいんだけど」
「済みません、時間もないので」
「探してみるわ。少しこの子、借りていい?」
「ええ」
どうやら似たような事が朝食前にあったようです。
アデルが昨夜、誕生させたアラクネだ。
名前はあーちゃん、だったかな?
オレ配下のアラクネ、モジュラスで経験済みであったので、そう苦労しなかったそうですが。
まあここはサキさんにお任せしておきましょう。
「キースさんも今日はW6ですか?」
「だな。一緒に来るか?」
「行く!」
「お邪魔でなければ」
そうそう。
昨夜のエンドレスとも思えるあの戦闘も彼女達の戦力があればもっと楽に捌けただろう。
何よりもアイテムだ。
ゆっくりと剥げるだけの余裕がないと、困る。
困るのだ。
護鬼の装備は?
どうにかなったみたいだ。
その装備の基本は牛馬の革鎧であるのだが。
革兜だけがやや異なる。
幻影馬の革兜になっていた。
どうしてもこれだけは合うサイズがなかったそうです。
理由は髪の毛に隠れている角だ。
かなり目立たない形へと変貌していたようだが、まだ突起がある分、どうしても嵌まらなかったようだ。
幻影馬の革兜はより柔軟であるそうで、問題なく使えるそうです。
革鎧、腕カバー、ブーツはやや大きめの物だが、調整の上で使う形になる。
例えば、ブーツは中敷きを追加しているそうです。
シークレットブーツじゃないけど、身長が少しだけ高く見える筈なのだそうで。
分かりませんよ?
元々、大きいのだし。
感想は?
十分ですよ!
以前の装備とそう変わらない防御力を確保できたのだから。
問題ない。
いや、まだ残ってはいるけどさ。
武器です。
体格が大きくなっている分、どの武器も小振りになってしまっている。
使えなくはないと思うが。
だが新調する方がいい。
これは絶対にだ。
以前から使っている剣はまるで小剣になってるし、盾ももう少し大きい方がいい。
盾は?
普通であるならば重盾級の雪獣人の盾があったので、それを使わせてみる。
軽々と扱えるようだ。
オレでもどうにか使える。
だがオレでは大きさが合わないな。
使えなくはないが。
弓矢はどうだろう?
宿曜弓はどちらかといえば長弓サイズに近い。
いっそサイズ的に護鬼に見合うようになったとも言える。
これは問題ない。
手斧の轟音の鉈、それに予備で持たせていた金剛宝斧は片手で十分に扱える。
これは変更しなくて済みそうである。
雪獣のメイスも使わせてみたが大丈夫だ。
やはり間合いの長い武器を追加すべきだな?
剣と刀はレイナに見繕って貰う。
同時に使う予定が全く見当たらない鍛鉄の騎士槍は売る事にした。
この武器は型を取るためだけに買ったものだし、惜しくはない。
【武器アイテム:大刀】野太刀 品質B- レア度4
AP+20 破壊力3+ 重量5+ 耐久値300
クリティカル発生確率上昇[微]
長く分厚い刀身となる刀。通常は両手で用いる。
大きな攻撃力を備えるが扱うのは難しい。
【武器アイテム:両手剣】鋼の長剣 品質B- レア度3
AP+17 破壊力4+ 重量5+ 耐久値350
鍛冶師が鍛えた業物。一般的なサイズの両手剣。
重量がある分、高い破壊力を備えている。
これはオレにはダメだ。
呪文の強化抜きでは扱えそうにない。
無論、片手では、なのだが。
護鬼にしても片手で扱うにはギリギリの重さだろう。
だが重要なのは間合いだ。
そして振った時のバランスだ。
意外なほど器用に扱う様子であるし、大丈夫か?
大丈夫なようだ。
ところで。
野太刀と鋼の長剣の二刀流を披露しなくていい。
さすがにそれは効率が良くないと思うよ?
サキさんには別途、依頼も出しておく。
戦争馬のコードバンだ。
忘れてた奴です。
「これ、ちょっと時間が掛かるけどいい?」
「大丈夫です」
今更ですから。
オレが忘れているのがいけないんだし。
色々とあってからようやく精算だ。
リックに精算して貰ったんだが。
やはり持ち出しになりそうだな。
宝石の加工費は少し待って貰っている。
まあ半額後払いどころか、全額後払いも可能だそうで。
文句などあろう筈がない。
やはり昨夜、アイテムを剥げなかったのは痛い。
また愚痴が出てきそうだ。
魔石1つでもいい。
肉でも良かったのだ。
何か得ていたら。
いかん。
前向きに行こう。
前向きに、だ。
少し悩むのはメイスだ。
まあ斧があれば十分に代用できる。
雪獣のメイスはオレが使っている奴だけだ。
もう1つ組めるだけの素材は残っている。
雪獣石が1個、それに雪獣人の骨も1つあるのだ。
まあ急ぐ事もないか。
特に困ってはいない。
機会があったら作っておく事にしておこう。
そして護鬼の立ち姿は?
背中に矢筒と弓、そして野太刀と長剣を背負い、腰には手斧。
盾も背中に引っ掛けて装着出来るんだが。
なんだろう、この感じ。
武蔵坊弁慶?
どこか西洋風な雰囲気が強いけど。
まあ今は帰還させるんですけどね。
移動しなきゃいけないので。
いつもの移動用の布陣を組む。
ヴォルフ、残月、ヘリックス、リグ、ナイアスだ。
ナイアスの持つ旗魚の槍は白象の槍に交換で。
旗魚の槍2本は思い切って売る事にした。
リックに渡しておいて、精算は後日でお願いしましょう。
護鬼が装備していた防具は残しておく。
オレの予備に使えそうだからだ。
忘れ物は?
まだあるような気がする。
まあ、いいか。
大事な事なら思い出す事もあるだろう。
アデルも布陣を確定させていた。
ホワイトホース、ホワイトウルフ、ファイティングファルコン、オルトロス、インプとなっている。
インプは召喚したてのようだ。
名前はぷーちゃん。
イリーナも布陣を確定させていた。
バトルホーク、バトルホース、ピクシー、ウェアウルフ、インプだ。
このインプの名前が七星。
いい名前のようでありながら不吉でもある。
北斗七星には死を司る意味を伴って神格化されてもいるからだ。
まあいいか。
インプだしな。
ユニオンを組んで出発する。
周囲には進発する他のプレイヤー達の姿も多い。
中にはサモナーによるユニオンも幾つか見掛けた。
うん?
そう言えば春菜や此花、ヒョードルくんにヘラクレイオスくんも来ているんだっけ?
「知り合いのサモナーも来ているんだよな?」
『W5マップで魔物に魔人を狩っているサモナーは40名程って聞いてます』
『W4マップにW3マップでもかなりの数が活動中!』
「ふむ」
そうだよな。
ある意味で経験値的に美味しいんだよな。
運営の意図もあるのかな?
もっとマップの先へ進むのを加速させたいとか?
パーティ単位では難しい攻略もユニオン単位では捗る場合だってある。
平原であれば尚更だ。
洞窟と違って効果的に戦えるからな。
まあ数の暴力に頼るのは悪い事ばかりではない。
たが出来るだけ揉めずに分配できるだけの獲物は確保して欲しいものである。
向かう方向は北西だ。
狙いは昨日の続きです。
最も先行してきている魔物の群れは、他のプレイヤー達に任せた。
大勢いるのであればオレ達が加勢する事もあるまい。
経験値は皆で分かち合うべきであって、奪い合う物でもないだろう。
おお、そうだ。
移動中も弛むようではいけない。
適当に魔物を呼び込んで狩りながら進もうかね?
この場合の適当、というのは弱いって意味ではない。
苦戦しそうな相手の事だ。
やっぱり達成感がないとね。
まずはラクチャンゴの群れからいこうか?
《只今の戦闘勝利で【馬上槍】がレベルアップしました!》
《【馬上槍】武技のペネトレイトを取得しました!》
《只今の戦闘勝利で【掴み】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『リグ』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
移動しながらラクチャンゴの群れをただ狩るにしても、こっちの戦力は上がっている。
少し難易度を上げました。
どうしたのかと言えば、トレインです。
そう。
他にプレイヤーがいたら迷惑行為である。
でもちゃんとヘリックスに広域探索をさせて、プレイヤーがいない事を確認してある。
コール・モンスターで追加もした。
そうでもしないと難易度が高くなってくれないのですよ?
窮余の策なのだ。
分かって下さい。
ところで。
リグのステータス値で既に上昇しているのは器用値です。
もう1点のステータスアップは生命力とした。
リグ イエロープディングLv7→Lv8(↑1)
器用値 20(↑1)
敏捷値 13
知力値 8
筋力値 8
生命力 14(↑1)
精神力 8
スキル
溶解 形状変化 粘度変化 表面張力偏移 物理攻撃無効
雷属性 火属性 水耐性
これでいいだろう。
しかしアレだな。
群れの規模が大きければナイアスの歌による効果も高くなる。
いや、効率が良くなる。
一気に眠らせてからオレとイリーナがピットフォールの呪文で次々と穴の底にご案内。
落とし損ねた魔物も召喚モンスターに任せておける。
穴の底に落ちた魔物は呪文でじっくりと始末できるし。
中には這い上がってくる立派な奴もいたが、獅子賢者の騎士槍で突き落とすだけだ。
ナイアスも加勢してくれる。
新しい槍の調子はどうだ?
良さそうです。
さすがに片手で軽々と扱える訳ではないが、十分です。
突き落とすだけでいいのだから。
『プレイヤーが増えているマップでトレインはちょっとどうかと思いますが』
『進む先にプレイヤーがいなければ平気!』
まあまあ。
そう言うなって!
イリーナも本気で文句を言っている訳ではないだろう。
魔物の死体からアイテムを剥ぐのが不満なのだ。
闘牛から肉を剥ぐのは相当に手間だが、ラクチャンゴから紅水晶を剥ぐのはそう負担にならない。
10頭いて1個、剥げるかどうかなのだから確認作業も早い。
アデルもイリーナも料理をスキルに持っている。
もしかして肉が欲しいのか?
W6マップでツインホーンリザードを狩る機会を増やすのもいいかな?
それに、だ。
配下のインプは当然のようにレベルアップしている。
戦果は確実にあるのだ。
ところで。
オレが剥いだ紅水晶は3つ。
アデルが5つ。
イリーナは5つだ。
【解体】よ、どこかで職務放棄していないか?
W6マップの境界を目指し、北西から今度は西へと転進する。
無論、周囲にプレイヤーがいないのを確認してからだ。
え?
トレインですか?
やってはいけない理由が見当たらない。
皆で幸せになろうよ。
そう思います。
今回の戦闘では新たに得た武技も試してみました。
馬上槍の武技、ペネトレイト。
バスケットボールでも使われている用語ですな。
なんとなく、この武技がどんなものなのかが想像出来てしまう。
強引に、隙間を衝いて、捻じ込む。
イメージはそんな感じだ。
簡単な説明によると?
密集する集団に使えば弱い箇所を衝いて分断する。
大型の魔物相手では弱点に対して突撃を敢行する。
そういうものであるらしい。
ラクチャンゴ相手に使ってみたが、今一つ有用性を感じられない。
どうも使う状況と相手を間違えたかな?
蹂躙。
そう、蹂躙戦でこそ、使うべき武技なのではなかろうか?
蹂躙、か。
いい響きだ。
おっと、ラクチャンゴを始末しないとな?
オレの獲物が目の前で減っている。
少し、残しておいてくれよ?
そんな訳で。
現在は本日2回目のアイテム剥ぎ大会だ。
【解体】よ。
仮病で休むのは許しませんよ?
そして結果はどうであったのか?
オレが剥いだ紅水晶は2つ。
アデルが6つ。
イリーナは5つだ。
おい。
ところで、インプの様子は?
アデルもイリーナもインプを鍛えているのはフューズ・モンスターズ狙いだ。
どうも話を聞く範囲では、アデルはウェアウルフ狙い。
イリーナはアラクネ狙いのようだ。
特にイリーナはルームスパイダーが既に配下にいる。
現在鍛えているインプがクラスチェンジしたらすぐにでも誕生させる事が出来るだろう。
両者のインプは、2回のトレインによる狩りで2つレベルアップを果たしている。
アデルのインプ、ぷーちゃんはレベル3です。
イリーナのインプ、七星はレベル4だ。
さすがに成長が速い。
おっと。
コール・モンスターに魔物が引っ掛かっているぞ?
アイラーヴァタ3頭が近場にいる。
あれを狩ったら真面目に西に向かうとしよう。
真面目に。
いやいやいやいや。
魔物狩りに真面目も不真面目もないのだ。
狩って当然、なのですよ?
『さすがに来ちゃいましたか』
『亀さん、もういる!』
「いるなあ」
そう。
一番北側を進軍しているであろう隷獣・外法蛇亀は既にW5マップへと侵入を果たしていた。
ようやくかよ!
まあそうツッコミを入れたくなる訳だが。
でもW5に侵入されて分かる事もある。
W6マップと比較したら、W5マップは森の気配がより薄い。
隷獣・外法蛇亀に従う魔物の群れの全容が把握し易くなっている。
アデルもイリーナもスクショは当然、動画でも記録しているようです。
まあそれは任せるとして。
どうだ?
問題なのは魔人だ。
厄介な魔人さえいなければ魔物を討ち減らすのもかなり楽になると思うのだが。
センス・マジックを使ってみる。
わお!
さすがに隷獣・外法蛇亀は格が違う。
まあ見た目から格が違うし、当然であるのだが。
魔人らしき反応もまだ数が多い。
まだ、あんなにいるのか。
コール・モンスターも併用する。
トライホーンリザード、オブシディアンビースト、ガルム。
スヴァジルファリ・スレイブも当然、いるな。
だが喜ぶべき事だってある。
レッサーグリフォンだ。
減っている?
いいえ、いません。
いかん。
オレの表情には笑みが浮かんでいる事だろう。
そうだな。
どれから狙う?
今度はあの厄介な馬、スヴァジルファリ・スレイブに騎乗する魔人からかな?
無論、ガルムの群れが伴うだろう。
簡単なように見えて難しいかも?
いやいや。
そこは工夫次第で。
まずは嫌がらせから始めてみようか?
どこから襲う?
襲うのであればどこから?
当然、あの大型のカメの後方を狙おう。
機動力で大きく劣る相手だ。
真面目に相手の土俵に上がって戦闘を繰り広げる義理などない。
刺激してみて、逃げるか。
W6マップは近い。
森の中に誘い込んで罠って手もある。
何故だろう?
嫌がらせ、ともなると、色んなアイデアが浮かんでくるのですが。
しかも、楽しい。
腹黒いのも素敵だ。
『アレに挑むんですか?』
『ちょ!無茶!』
「真面目に挑むつもりはないぞ?」
基本戦術は?
まあ、釣りだな。
エサはオレ自身で。
魔物の群れの後背を衝く。
そして、逃げる。
機動力のある魔物が追い掛けてくれると有難い。
そして森に誘い込んで罠に仕掛け、狩る。
問題もある。
魔物が際限なく追い掛けてくれるかどうか。
途中で諦められても困るのだ。
特に魔人だ。
理性的な判断が出来るのであれば、罠の可能性を考慮して追撃を断念するって事はありそうだ。
だが、何事もやってみなければ分からない。
そういうものだろう。
「囮役は私がやろう。2人は森の中で罠を仕掛けて待機で」
『では布陣を大幅に変えないといけませんね』
『ぷーちゃんはここで帰還かー』
「いや、インプはそのままでいいと思うぞ?」
『え?』
『え?』
「鍛えていて、いい。インプでも十分に活躍できる」
そうなのだ。
あのガルムだ。
あの魔物相手にインプは相性がいい筈だ。
攻撃力も機動力も高いが、そうタフではない。
ある程度、HPバーを削った状態から止めを刺す事も出来るだろう。
それにインプは空中に位置する。
戦闘は一方的になるだろう。
魔人さえいなければ、であるが。
スヴァジルファリ・スレイブはタフだから仕留めるまでは無理があるが、牽制には十分だ。
魔物の群れの後背に回り込んだ。
W6の森の中である。
あの魔物の群れが通り過ぎた跡は酷い有様になっている。
そこから少し外れた森の一角を罠を仕掛ける場所にした。
地形的に分かり易いからな。
そしてアデルとイリーナには簡単にオレの考えを伝えておく。
2人の反応は?
半信半疑って所だろう。
まあそれでも上出来だ。
2人は召喚モンスターの布陣を変更していく。
オレは?
必要ない。
現状の布陣でやれる。
アデルの布陣はどうなったのか?
金毛狐、ミスティックアイ、キメラ、アラクネ、インプになった。
ではイリーナの布陣はどうか?
鵺、ピクシー、ルームスパイダー、ウェアウルフ、インプだ。
いい感じだ。
アラクネとルームスパイダーが糸を用いて罠を仕掛ける。
その罠だけでなく、森という地の利を活かし、奇襲を仕掛けられるメンバーが加わっている。
そして支援役だ。
特に光属性には期待が大きい。
幻影を作り上げる事ができるからだ。
MPバーの消費が大きいのが難点だが、それだけに大きな効果も期待できる。
無論、オレだってただ挑発するだけに留まるつもりもない。
出来るだけ、逃げながらも討ち減らしておく予定でいる。
まあ、試してみたらいいさ。
一時的にアデルとイリーナとはユニオンを解除する。
さあ。
始めよう。
目の前に見えるのが隷獣・外法蛇亀だ。
それは分かっている。
だが本当にこのサイズの魔物をどうにか出来るのか?
移動する砦だ。
その質感、重量感は岩だ。
岩塊そのものだ。
良く見ると、速度を合わせて足元を移動するのはオブシディアンビースト。
ガルムは思い思いの速度で小さな群れで周囲を駆け回っている。
トライホーンリザードもマイペースで移動。
所々で足を止め、周囲を警戒する動きを見せている。
そして、スヴァジルファリ・スレイブ。
騎乗するのは魔人だ。
例外はない。
その数は?
良く分からないな。
隷獣・外法蛇亀の向こう側が見えないし。
インビジブル・ブラインドの効果もそろそろ切れるだろう。
魔物の群れで後方に注意を向ける魔人はこれまでの所はいない。
インビジブル・ブラインドの存在を感知出来るとしたら魔人だと思っていたのだが。
まあ、そうだよな。
オレだって常時、センス・マジックは使っていない。
あの呪文も便利ではあるんだが、景色が別物に見えて気持ち悪くなる事がある。
魔人もそうなのかは知らないけどね。
おっと。
既に動画による記録はスタートしてあったんだっけ?
時間も勿体無い。
では。
やってみますか?
「ウォォォォォォォォォォォォオッ!」
それはヴォルフの遠吠えだ。
威嚇ではない。
それは挑発に近い。
そしてオレは残月を駆る。
ヴォルフが残月に追い付いて、オレと残月の左側を護衛する。
オレの上空にはヘリックス。
ナイアスがオレの背後にも騎乗していて、リグがナイアス騎乗の補佐となっている。
無論、オレ達の防御役を兼ねている訳だ。
全速力で隷獣・外法蛇亀の左側を通過する。
そう。
通過だ。
攻撃呪文はついでに喰らわせている。
本気で全滅させるのが目的ではない。
傍目ではそう見えないと思うけどね。
ガルムの群れの真ん中を突っ切る。
完全に虚を衝かれて混乱を生んだ時間はほんの数十秒?
まあそれはいいんだ、それは。
攻撃呪文の有効範囲がおかしい。
巨大な亀の傍にいるガルムにはまるでダメージが通っていないのだ。
これは?
思い当たるような現象はこれまでにもあったよな?
S4E1マップのエリアポータルだ。
ストーンゴーレム・スレイブ、それに石妖。
あの時は土魔法が最初から無効化されていた。
まさか、と思いながらも全体攻撃呪文を次々と試してみる。
どれも、亀の近くにいる魔物にはその効果がない。
エフェクトも掻き消されているようだ。
隷獣・外法蛇亀の背中には何かいるのか?
いない。
だが隷獣・外法蛇亀を追い越した所で確認した。
頭の上に、いる。
魔人、だな。
2名いるようだが。
呪禁導師 ???
イベントモンスター 魔人 ???
??? ???
ビーストマスター ???
イベントモンスター 魔人 ???
??? ???
名前が微妙に違うか?
呪禁道師、ではない。
呪禁導師、なのか。
見たぞ?
こいつ等がこの亀を従属させているのか?
操っているのは間違いなさそうではある。
センス・マジックの掛かっている目で見ると、呪禁導師が間違いなく格上のようだ。
ビーストマスターもまた魔人の中では上位なのだろう。
周囲に何頭かいるスヴァジルファリ・スレイブ。
騎乗するのは様々な魔人であったりするのだが。
格が違うようだな。
あのビーストマスターも厄介そうです。
それにしても、隷獣・外法蛇亀の正面に回った訳だが。
凶悪な顔付きなのもまあ分かる。
その足元で集るように群れを成している魔物が両翼から襲ってくるんですけど。
赤いマーカーで彩られた地平線が見える。
その大半がガルムか。
何匹いたんだよ!
では、撤退だ。
目的は撤退という名の誘導であり挑発な訳だが。
ナイアスに目で合図を送る。
そのナイアスの手に槍はない。
竪琴だ。
演奏するのと同時に歌声も響いていく。
ハミング。
だがその調べには恐るべき効果が込められている。
一定の音節を経ると、ダメージが入るのだ。
これまでも歌だけではあるのだが、使っている場面は見た事があった。
大集団である程、有効だろう。
音が届く範囲全てに効く。
かつてバード系の魔人にオレ自身が喰らっている。
聞こえるのであれば、何処に隠れようともダメージが通るのだ。
残月を駆る。
ヴォルフが残月の左側を追従する。
上空にはヘリックス。
目の前にはガルムの群れだ。
1匹だけ、その赤いマーカーを確認してみる。
ジリジリとだがHPバーが減っているようだ。
よし。
ではオレも続くとしよう。
「ペネトレイト!」
どうせだから使ってみた。
だって目の前にいるガルムの群れがまるで壁みたいだったから。
群れの中を残月が強引に突っ切る。
文字通り蹴散らされたガルムの何頭かはヘリックスの放つ風の刃を受けて仕留められていく。
おお。
オレもやっとけ!
「ストーム・ウェーブ!」
風属性の全体攻撃呪文だ。
有効範囲は広い。
でもダメージは低め。
これ。
だがそれがいい。
ナイアスの呪歌と呪曲にオレの全体攻撃呪文、それにヘリックスの放つ風の刃。
地道に戦果がある。
呪文と呪文の間、その繋ぎで武技も使う。
ガルムはダメージを喰らっても尚、追い掛けてくる。
正面にいる奴は襲ってくる。
思惑通り。
仕留めるかどうかは意識せずに武技も使って突破させて貰おう。
余裕?
ある訳がない!
特にナイアスだ。
MPバーの消耗は激しい。
途中でマナポーションでMPバーを回復させたが、クーリングタイムがあって連続使用が出来ないのだ。
早く、敵中突破しないと!
ガルムだけならいい。
トライホーンリザード、オブシディアンビーストはタフであり、仕留め切れないだろう。
だがこいつ等は残月に追い付けない。
だから問題があるとしたら、あいつだ。
そして罠に掛けたいのも、あいつだ。
スヴァジルファリ・スレイブ。
騎乗するのは様々な魔人。
おお。
釣れた!
初めてなのに、釣れちゃった!
そんな歓声は脳内に留めておく。
魔人共の駆るスヴァジルファリ・スレイブは残月の速度に負けない勢いである。
よし。
そのまま、そのまま。
こっちは先行馬だ。
あっちは末脚勝負って所か?
まだまだ最後の直線になっていない。
何よりもまだガルムが残っているのだ。
そして魔人が投じてくるナイフも厄介だ。
リグが大半を防いでくれてはいるが、武器そのものに属性が伴っているらしい。
リグにもダメージが僅かに積み重なっていく。
どの召喚モンスターにも余裕はなかった。
魔人をどれだけ、片付けられるか?
それはアデルとイリーナに期待したい所だ。
魔人を1名でも片付けられないようでは外れ馬券も同様だ。
出来れば万馬券を期待したい所だが。
そうだな。
半分!
いや、2割でもいいから仕留めたい!
ガルムの群れは既に後方になっている。
数を気にする余裕はない。
気にしているのはナイアスのMPバーだ。
2個目のマナポーション。
それでもMPバーは3割も残らない。
2割ちょっとだ。
次のマナポーションを服用する前にMPバーが枯渇するのは確実。
その前に、森だ。
罠を仕掛けてある地点まではもう少し。
心配なのはW6との境界を越えてくるかどうかだが。
来ているな?
よし!
『キースさん!いけます!』
アデルからウィスパー。
いや、テレパスの呪文だ。
同時にユニオン申請が来ている。
予定通り。
ユニオン申請を受諾すると森へと向かう。
「フォレスト・ウォーク!」
木魔法の支援呪文を残月に掛ける。
一瞬だけ後方を見た。
スヴァジルファリ・スレイブの数は?
ざっと10数頭。
全滅出来れば当り馬券は確実だな。
そして森の中へ。
さあ、罠の効果はどうだろう?
残月に後ろにいたスヴァジルファリ・スレイブがいきなり消えた。
いた、止まった?
全身に糸が絡んで一瞬宙に浮く。
そして地面に激突。
魔人も同様だ。
後続のスヴァジルファリ・スレイブが数頭、構わずにオレを追う。
だが罠は1箇所だけではない。
次々と引っ掛かってくれる。
森の中、先行しているスヴァジルファリ・スレイブがどうなっているのか?
後続の魔人にはその様子が見えていないだろう。
残月を追ってくるスヴァジルファリ・スレイブは皆無。
うん。
それはそれでつまらなくなった。
ではどうする?
反転だ。
ヘリックスがオレの肩に舞い降りた。
そのMPバーは2割もない。
残月の鞍の上にでも乗っかっていなさい。
恐らく、ここまでガルムの息の根を止めた数はヘリックスが最も多いだろう。
お見事。
ここからはスヴァジルファリ・スレイブと魔人を仕留めるだけだ。
アデルとイリーナ配下の召喚モンスターが既に大暴れしている事だろう。
オレ達はどうする?
無論、参加するのだ。
慈悲などない。
身動きが取れなくなった相手を一方的に屠る機会はそう多くないだろう。
卑怯って素敵だ。
《只今の戦闘勝利で【馬術】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『ヴォルフ』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
おお!
ヴォルフが屠った魔物の数はそう多くない。
だがオレは知っている。
残月の護衛に徹していたのだ。
それぞれが役割をしっかりと果たしている。
レベルアップも納得だ。
ヴォルフのステータス値で既に上昇しているのは敏捷値だ。
もう1点のステータスアップは筋力値を指定しておこう。
ヴォルフ シルバーウルフLv2→Lv3(↑1)
器用値 15
敏捷値 37(↑1)
知力値 15
筋力値 25(↑1)
生命力 26
精神力 15
スキル
噛付き 疾駆 裂帛 霊能 隠蔽 追跡
夜目 気配遮断 自己回復[微] 魔法抵抗[微]
だがインフォは続く。
今度は何だ?
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『ヘリックス』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
これも納得だ。
実にいい調子ですな。
後でヴォルフ共々、肉をあげよう。
ヘリックスのステータス値で既に上昇しているのは筋力値になっている。
もう1点のステータスアップは生命力にしておこう。
ヘリックス ファイティングファルコンLv10→Lv11(↑1)
器用値 15
敏捷値 32
知力値 24
筋力値 16(↑1)
生命力 16(↑1)
精神力 15
スキル
嘴撃 飛翔 遠視 広域探査 奇襲 危険察知 空中機動
風属性 土属性
インフォはこれで終わりだろう。
とか思っていたら続きがあったぞ?
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『ナイアス』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
確かに大活躍と言うのに不足はないが。
レベルアップのタイミング、早くないか?
朝から布陣に変更はない。
オレと残月以外、レベルアップしちゃってるじゃないの。
まあいいか。
ナイアスのステータス値で既に上昇しているのは知力値だ。
もう1ポイント分のステータスアップは精神力を指定する。
ナイアス メロウLv7→Lv8(↑1)
器用値 20
敏捷値 20
知力値 26(↑1)
筋力値 10
生命力 10
精神力 19(↑1)
スキル
両手槍 回避 水棲 変化 夜目 呪歌 呪曲
光属性 水属性
うむ。
さすがにインフォも途切れたようだ。
そして今回の作戦は成功、と見ていいのだろう。
だが、ヘリックスとナイアスはここまでにした方がいいのかね?
特にナイアスはMPバーが枯渇寸前だ。
交代させておきたいが。
『魔人は全滅!』
『キースさん、アイテム剥ぐのはどうしますか?』
「森の中の奴だけにしておこう」
『了解!』
森の中でもガルムの死体はそこそこの数が転がっている。
確率はそう高くないが、魔石が剥げる事だろう。
スヴァジルファリ・スレイブと魔人は?
期待できない。
煙と化して消えるのみだ。
うむ。
つまらん。
実につまらんな!
「どの位、減ってるかな?」
『ガルムと思われる魔物は半減って所までは減ってないですね。4割って所でしょうか?』
『スヴァジルファリ・スレイブは半減以下に!』
「つまり魔人も半減って所か」
『十分だと思います』
そうか。
そうなのか。
もう1回、やりたいよな?
でもナイアスのMPバーは枯渇寸前。
やりたくても出来ないだろう。
「ところで2人に相談なんだが」
『しません』
「うん?」
『いえ、出来ませんから!』
『キースさんじゃないと、無理!』
「そうか?2人で組んで、ローレライとメロウがいるのだし、罠は私が担当できると思うが」
『敵中突破はどうするんです?』
「何、魔物の数は減っている。リスクは減っていると思うぞ?」
そうそう。
難易度は先刻よりも間違いなく減っているのだ。
そうそう。
2人とその配下の召喚モンスターであれば出来るって!
「召喚モンスターに任せていい」
『えー』
『あれを、私達で?』
顔を見合わせる2人。
なに、慣れてしまえばなんて事はない。
そうそう、慣れてしまえばいいのだ。
もう一押し、しておくか?
「そうだ、このマナポーションを持っていくといい。クーリングタイムは短めの筈だ」
それでも悩む様子を見せるイリーナだが。
アデルは半分程、やる気になっている。
そうそう。
泣こかい、飛ぼかい。
泣こよか、ひっ飛べ!
オレの気分はそんな感じです。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv30
職業 グランドサモナー(召喚魔法師)Lv16
ボーナスポイント残 9
セットスキル
剣Lv12 両手槍Lv12 馬上槍Lv11(↑1)棍棒Lv12 刀Lv13
刺突剣Lv10 捕縄術Lv11 投槍Lv7 ポールウェポンLv6
杖Lv22 打撃Lv20 蹴りLv20 関節技Lv20 投げ技Lv20
回避Lv20 受けLv20
召喚魔法Lv30 時空魔法Lv18 封印術Lv12
光魔法Lv18 風魔法Lv18 土魔法Lv18 水魔法Lv18
火魔法Lv18 闇魔法Lv18 氷魔法Lv17 雷魔法Lv17
木魔法Lv17 塵魔法Lv17 溶魔法Lv17 灼魔法Lv17
錬金術Lv14 薬師Lv10 ガラス工Lv8 木工Lv12
連携Lv21 鑑定Lv21 識別Lv21 看破Lv7 耐寒Lv9
掴みLv18(↑1)馬術Lv19(↑1)精密操作Lv20 ロープワークLv11
跳躍Lv11 軽業Lv11 耐暑Lv12 登攀Lv10 平衡Lv11
二刀流Lv18 解体Lv17 水泳Lv6 潜水Lv6 投擲Lv9
ダッシュLv10 耐久走Lv10 隠蔽Lv6 気配遮断Lv6
身体強化Lv19 精神強化Lv19 高速詠唱Lv20
魔法効果拡大Lv19 魔法範囲拡大Lv19
耐石化Lv6 耐睡眠Lv6 耐麻痺Lv6
耐混乱Lv4 耐暗闇Lv4 耐気絶Lv8
耐魅了Lv1 耐毒Lv3
召喚モンスター
ヴォルフ シルバーウルフLv2→Lv3(↑1)
器用値 15
敏捷値 37(↑1)
知力値 15
筋力値 25(↑1)
生命力 26
精神力 15
スキル
噛付き 疾駆 裂帛 霊能 隠蔽 追跡
夜目 気配遮断 自己回復[微] 魔法抵抗[微]
ヘリックス ファイティングファルコンLv10→Lv11(↑1)
器用値 15
敏捷値 32
知力値 24
筋力値 16(↑1)
生命力 16(↑1)
精神力 15
スキル
嘴撃 飛翔 遠視 広域探査 奇襲 危険察知 空中機動
風属性 土属性
リグ イエロープディングLv7→Lv8(↑1)
器用値 20(↑1)
敏捷値 13
知力値 8
筋力値 8
生命力 14(↑1)
精神力 8
スキル
溶解 形状変化 粘度変化 表面張力偏移 物理攻撃無効
雷属性 火属性 水耐性
ナイアス メロウLv7→Lv8(↑1)
器用値 20
敏捷値 20
知力値 26(↑1)
筋力値 10
生命力 10
精神力 19(↑1)
スキル
両手槍 回避 水棲 変化 夜目 呪歌 呪曲
光属性 水属性




