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ログインしました。
昨夜はお疲れ様でした。
途中、垢BANの危機をどうにか回避したオレを褒めてあげたい。
最後の最後でオレを危機から救ってくれたのは?
ミオでした。
サキさんのギリギリの挑発を未然に防いだ手腕は見事としか言い様がない。
ありがとう。
本当に、ありがとう。
時刻は午前5時40分。
既にプレイヤーの姿も多く見掛ける。
今日は闘技大会の当日だ。
ラムダくんとの約束はあるが、気分には余裕がある。
参加しませんからね。
気楽な観客でいられそうだ。
「おお、こっちじゃこっち!」
「朝食の用意はあるよー」
ジルドレ、それにカヤだ。
北方面、そして南方面の生産職の重鎮。
実にバツの悪そうな顔付きをしている。
「昨夜は済まなかったなあ」
「さすがにあの女性陣に対抗するには力不足でね」
「はあ」
それはオレにも言える事だろう。
無力。
まさに無力。
男ってダメだね!
「昨夜は難しそうな話があったみたいですが」
「うむ」
「まあ予測に対する備えって域を出ないけどね」
食事を摂りながら話を聞いてみた。
前回の闘技大会直後、魔人が各地に出現した件。
それを踏まえた上で、運営が何かを仕掛けてくる筈。
要約するとそういう事らしい。
「レムトにプレイヤーが集まっている理由は闘技大会だけでないしな」
「僕らみたいな生産職が助長している面もあるんでね。少し気になってるんだ」
「というと?」
「東西南北から交易のために物資を持ち寄っているのでな」
「攻略組としてもレムトだけで装備を一通り揃えられる利点はあるからね」
「まあ出来合いの品がメインだが、プレイヤーが集まる大きな理由にはなってるのでね」
「成程」
確かに。
西に行けば闘牛や幻影馬の皮、それに水晶が採れる。
南へ行けば天斑馬の皮や宝石類。
北に行けば良質な鉄製品。
東の海でも様々な天然素材、真珠や珊瑚。
まあ他にもあるだろう。
そういった物資が集中するのであれば好機に違いない。
「不自然な程にプレイヤーが集中する。それを機会に運営がイベントを仕掛ける、ですか?」
「フィーナはその可能性は分かっておる筈だがな。どうにかなる、と思っておるようでな」
「まあ前回はどうにかなったみたいだしねえ」
「北も南も長引いたのでな。あれの再現は回避したいんだがな」
これも納得だ。
西で暴れていた魔人は一番最初に終息したんだっけ?
「そういえばキースは大会にエントリーしてないって?」
「ええ」
「残念じゃな」
「あ、そうだ。愚者の石版なら高額で買い取りたいけど、どう?」
「カヤ。やめておけ」
「つかさ。南に来てS5E1への派遣商隊の護衛とか、どう?個人依頼でもいいんだけど」
「やめい」
「そうは言うけどねえ、ジルドレ。目の前にお宝があるって分かっているだけに辛いんだけど?」
ジルドレも苦笑するだけだ。
どうも様々な物が色々と物議を醸してしまっているようなのだ。
ブロンズドラゴンの動画も一夜にして有名になってるみたいだし。
オレの知らない所で何かが動いている。
怖い怖い。
食事を摂り終えると移動だ。
時刻は午前7時30分。
さあ、改めて目にするその規模は?
此花に聞く所によると、サモナー系プレイヤーだけで130名を超えていたそうだ。
生産職やその他諸々まで含めると170名を超えていたのだとか。
もうね。
どんだけいたんだよ!
サモナー達が各々、召喚モンスターを召喚していく。
無論、オレもだ。
ヴォルフ、残月、ヘリックス、黒曜、逢魔とした。
ところで。
周囲の様子が凄い事になってます。
召喚モンスターを加えると総勢で約700って所だろうか?
えっと。
レムトの町を攻めに行くんでしたっけ?
どう見ても魔物の軍勢なんですけど。
「じゃ、出発しますよー」
アデルの先導で魔物の群れが動く。
彼女の周囲には狼系の召喚モンスターが不自然な程の規模で集結している。
春菜や此花がその中にいるのは分かるが、マルグリッドさんもいるようだ。
本望だろう。
アデルは馬上にいなければ毛皮の海にダイブしていそうな表情をしているし。
オレも少し遅れてアデルに続く。
後は残月にお任せである。
襲ってくるモンスターは?
いません。
このマップでそんなのがいたら間違いなく勇者だな!
レムトの町の盛況ぶりは凄い事になってました。
いや、本当にこれだけのプレイヤーがいたのかって位に、いる。
良く町の中に入るよねえ。
以前に比べたら町そのものの規模は大きくなっているのだが、それを上回る人口密集状態だろう。
「あ、キースさん。少し待って頂けますか?」
「うん?」
「僕とユニオン組んでるサモナーが来てます。紹介しますので」
ヒョードルくんの視線の先には確かにプレイヤーらしきサモナーがいる。
両肩に召喚モンスターの鷹とフクロウ。
両脇に控えるのは狼と虎。
その外見は若々しい好青年って所だな。
ヘラクレイオス Lv.11
サモナー 待機中
レベル11か。
同時召喚4匹なのだし、召喚魔法もレベル11相当だろう。
得物は杖か。
正しく、魔法使い系のサモナーだな。
「は、初めまして。ヘラクレイオスって言います」
「ども。キースです」
そう言えば事情があって暫くの間、ログイン出来なかったんだっけ?
ヒョードルくんも馬から降りると召喚モンスターの陣容を変えていく。
ああ、街中で馬の大きさは邪魔だよね。
オレも残月から降りると帰還させる。
啓明を召喚しよう。
周囲のサモナー達も馬は交代させていく。
で、アデルなんだが。
オルトロスを召喚してました。
イリーナが早速、突っ込みを入れているようです。
そりゃそうだな。
存在そのものが周囲を威嚇してるようなものだし。
「当面の目標はクラスチェンジです。なんとかヒョードルに付いていってます」
「ほう」
「彼はネクロマンサー志望ですから。僕も楽しみです」
見た所、コートは天斑馬の皮製らしい。
杖に埋め込まれている宝石は複数。
結構いい装備で身を固めているようだ。
地道に進めてもそう遠くない将来、クラスチェンジ出来るんじゃないかな?
それにしても、ヒョードルくん。
腰に下げているのはフルーレじゃないかな?
刺突剣、取得したのか。
背中に弓矢もあるのだし、サブウェポンだとは思うのだが。
エルフ、それもサモナーが前衛に出ちゃ危険だと思うんですけどねえ。
まあ突っ込みは止めて置こう。
オレだって他人の事を言えた義理ではあるまい。
「じゃあここで解散!」
「まったねー」
サモナー達も各々、散っていく。
ある者は買い物へ。
ある者はそれぞれの師匠の元へ。
無論、大部分は闘技大会の観客と化すようだ。
生産職の面々は露店や屋台の設営に走っている。
それぞれが、それぞれの目的に沿う形で動き始めていた。
では。
オレもそうしよう。
「あ、キースさん!ここです」
「時間は大丈夫かな?」
「ピッタシですよ」
「他の仲間は見当たらないようだが」
「2名1組で監視してます。今も1人が近くにいますよ」
周囲を見回すがラムダくん以外のアヴェンジャーは見当たらない。
別の顔で変装している可能性もあるだろう。
オレの【看破】では見抜けそうにないが。
ラムダくんの右隣の老人が目礼してくる。
え?
【変装】しているのかな?
ラムダくんが無言のまま頷いている。
凄いな。
オレの【看破】がまるで通じていない。
「で、例の半ソロバードは?」
「ドラクマ、として大会参加しているのが確認出来てます。今は控え室ですね」
「ほう」
「中級で参加ですので、会場は旧練兵場です」
「会場は混んでいるかな?」
「まだ大会は始まってません。客の入りもそれなりに少ないですから」
「早速だが席の確保はしておこうかね」
「ですね。行きましょう」
会場は前回と一緒か。
旧練兵場であればやや狭い会場になる筈だ。
客の入りは?
半分って所だろう。
開会式は新練兵場らしいから、NPCの観客もそっちが多いのかもしれない。
今更だが、運営インフォを確認してみる。
2つの階級で各々の参加枠が256名。
会場は旧練兵場、新練兵場、臨時試合場の3箇所。
試合場の数は4面、8面、12面となる。
大会そのものは今日だけで終わる日程か。
午前中だけで第一回戦と第二回戦が終わるようです。
優勝するには8連勝が必要になるとは。
午前はまだしも、午後はハードだな。
呪文による回復手段がなければ殺人スケジュールです。
ま、第一回戦は会場が狭くて助かるかな?
観戦する場所と対戦場所が比較的近いのだ。
近ければいいってものでもないけどね。
大会要綱を読み込んでいるうちに観客の入りが急に増えてきた。
9割方、観客席も埋まっています。
とはいえ、オレ達の周囲は比較的空席があったりする。
召喚モンスターを連れているからだ。
会場内も既にギルド職員が控えている。
遠くで地鳴りのように音が響く。
歓声、だな。
「開会式の時間ですね」
「始まったか」
こっちの試合場にも選手が登場してきている。
拍手。
歓声。
4面ある試合場には8名のプレイヤーが揃っている。
その中に半ソロバードこと、ドラクマらしき姿ははない。
だが。
その8名の中にハンネスの姿がありました。
会場では【識別】でも名前は表示されないけど、分かる。
装備しているのがフルフェイスの兜じゃないから当然だが。
それにしても、だ。
参加しているのは知ってたけどさ。
ファームリーダーのハンネスの相手は結構重装備のファイターのようだ。
しかもドワーフ。
まだクラスチェンジしていないとはいえ、生粋の戦闘職を相手に大丈夫なのかね?
期待もしてますけどね。
試合の様子は戦闘ログの形でも見る事が出来る。
ハンネスの選択は、ある意味で正しい。
いや、勝っているのだから、後付けで正しいと評するのは間違っていると思うけどね。
ただ、その選択は危険な賭けの部分もあったと思う。
スピードを重視。
それでいて木魔法の呪文の支援を中心にした組み立て。
盾はなし。
得物は何と鎌だ。
大会要綱を見たが、レベルが上がれば上がるほど、縛りもキツくなる条件のようだしな。
それだけにレベル差を感じさせない、いい試合だった。
いや、レベル的にハンネスが上とはいえ、生産職が勝っているのはややおかしいんですが。
そこは工夫の勝利だろう。
「お知り合いですか?」
「ああ、ちょっとね」
「応援する声が漏れてましたね」
そうか?
そうだったのかもな。
試合が粛々と進んでいく。
その内容は?
接戦が多い。
数は少ないが、豪快な一撃で決着する事もあるが。
戦闘ログを漁ると明白だが、どのプレイヤーも手の内が限られている事が分かる。
一点豪華主義で試合に臨むプレイヤーは大抵がクラスチェンジ済みのプレイヤーだ。
クラスチェンジを果たしていないプレイヤーは比較的だが手の内は豊富なようである。
それだけに試合内容は拮抗するのだろう。
面白いか?
これはこれで、面白いな。
レベルが上がる程、制約が大きくなる仕組みか。
レベルが低くとも手の内に数多くの手札を用意出来る。
もしも、オレが出場していたら?
セットしている技能の大部分を諦めないといけなくなるな。
「ここ、いいですか?」
「あれ?ヒョードルくん?」
「野暮用は済ませて来ましたので」
そのヒョードルくんの隣にはヘラクレイオスくんが目礼してました。
奇妙な構図になったな。
オレの右隣にラムダくん。
左隣にヒョードルくん。
更にその隣にヘラクレイオスくん。
それに召喚モンスター達。
観客の皆さん、済みません。
仕方ないんですよ!
口には出しませんけどね。
それとなくラムダくんの方を見る。
うん?
ラムダくんは試合会場を真剣に見ているようだが。
試合会場に、いた。
半ソロバード、だろう。
ラムダくんからウィスパー申請が来ていたので承認しておく。
「あれかな?」
『奴です』
オレはそれには答えずにそのプレイヤーの所作を見ていた。
森を見るように。
森の中の木を1本1本、見るように。
それでいて森全体も見ているかのように。
??? Lv.2
プリンシパルバード 待機中
無論【識別】はしておくが、会場内でプレイヤー名は見えない。
仮想ウィンドウに戦闘ログも表示出来るようにしてはあるが、そっちはラムダくんも見ている事だろう。
そこは任せた。
得物は?
腰にフルーレ、だな。
背中に楽器のリュートを背負っているようである。
「刺突剣、ですね」
「だな。そう言えば例のフルーレも使っているんだって?」
「ええ。あのプレイヤーの持っているフルーレと出所は一緒ですね」
「ほう」
「僕のはこれです」
ヒョードルくんが見せてくれたのは?
獅子賢者のフルーレだ。
確かに手元をガードする部分が共通しているようですな。
オレの間に合わせで作成した物に比べたらかなり丁寧な仕上がりのようです。
聞けば南方面、灰色の森で生産職に組んで貰ったのだとか。
彼自身も作ってみたそうだが、品質的にまるで敵わなかったそうです。
「この柄をガードしている部分は何だろう?」
「そこはカップ・ガード、と言うそうです。甲虫系の魔物の素材を使ってます」
「ああ、それなら軽そうだな」
「魔法技能へのペナもないですね」
それとなく会話を続けながら試合を見続ける。
半ソロバードの様子は?
まるでエルフのように見えない。
その顔は凛々しいと言っても良いのかもしれないが、没個性的でもある。
痩身のように見えないのは装備の影響もあるだろうか?
試合が開始されると、フルーレを抜く。
その構えは?
片手にフルーレを浮かせるかのように軽く持ち、右手を前に突き出す極端な半身だ。
ほう。
フェンシングはそう知っている訳ではないが、理に適っているかな?
まだ相手と距離を置いているのに、もう構える意味がやや不明だが。
剣術でもこういった構えはある。
片手で短刀を扱う場合、あれに近い構えはするんですがね。
相手から見ると、投影される胴体の幅は狭くなる。
即ち、防御面で有利になる。
避けるにせよ、受けるにせよ、攻撃を捌くのにもやり易くなるのだ。
反面、足運びには気を付けないといけない。
自然体とは違い、前後は問題ないが、左右に動くのに向かない。
横の動きを使う代わりに体を反転して凌ぐのがセオリーだが。
対戦相手の得物は槍だ。
ほう。
これはこれでフルーレには不利と思うが。
さあ、どう戦うのかね?
「フルーレで槍を相手に戦うとする。どうする?」
「距離があるうちはやはり呪文でしょうね」
「だよねー」
「後は刺突剣の武技次第、でしょうか?」
「武技?」
「レベル1の武技でも一気に距離を詰める事が出来ますから。【跳躍】もあれば効果は大きいかと」
【跳躍】ねえ。
オレもセットしてあるけど、意識してなかったな。
捨て身で一気に距離を詰める事はよくやってます。
でも客観的な視点で見てる訳じゃないからなあ。
魔法技能は?
セットしてるのは間違いない。
センス・マジックを使わずとも、エフェクト効果有りで見えている。
何を使ったのかは後で確認するとして。
自らに掛けたのであれば何かエンチャント系だろうな。
??? Lv.1
ランサー 戦闘中
相手もまたクラスチェンジ組か。
そのエフェクトから見てもエンチャントを掛けているだろう。
動きにも澱みがない。
互いの得物の間合いになる前に呪文が交錯する。
攻撃呪文。
互いに命中。
だが。
次の動きは意表を衝かれた。
槍の間合いにの内側へ、一気に距離を詰めていたのだ。
更に数撃の突きが命中しているようだが。
致命傷ではないようだ。
今度はランサーの反撃だ。
鋭い突きが放たれる。
恐らくは、武技。
槍の穂先に残像が生じるような連続攻撃だ。
二段突き?
だが。
その間合いに相手がいない。
スカされたようだ。
バックステップ?
それにしては速過ぎる。
「連続で武技を使ってますね。無茶な使い方ですが」
「連続?」
「攻撃では武技のボンナバンを連続で使って距離を詰めたんだと思います」
「ほう」
「攻撃の回避には武技のボンナリエールを連続で使っているんでしょう」
「無茶、というのは?」
「僕もやってみた事があるからです。とてもじゃないですが僕では抑制が効かないです」
「難しいのか?」
「武技が無駄になる可能性が高いですね。逆に武技を使った反動でバランスを崩しちゃう事が多くて」
半ソロバードは?
試合場の角に位置している。
構えは変わらない。
ランサーは?
同じだ。
構えは変わらない。
互いに呪文のダメージだけだが。
HPバーの減りは半ソロバードの方がやや大きいか?
だが互いに2割も減っていないのだ。
まだまだ、勝敗がどうなるかは分からない。
「あのランサー、危ないな」
「危ない、ですねえ」
「この攻防が続くようだといずれは麻痺か毒を喰らうだろうな」
「ですね。隅にいるうちに仕留めたい所でしょう」
「だが先程の攻防を見ていると窮地も窮地じゃなくなるかな?」
オレとヒョードルくんの会話はラムダくんも聞いている事だろう。
ウィスパー機能は繋がったままだが、これで用は足りてしまっている。
「槍であの場所に釘付けにしたい所だが、薙ぎ払うのはリスクが高いな」
「キースさんならどうします」
「足を狙う。払うのではなく、突く方がいいんだが」
「突きますか?」
「私なら突きを見せ技にして別の方法を使いたいねえ」
「別、ですか?」
「私なら槍を手放して組みに行くね。武技で間合いの利も保てない、手数で負けるのでは話にならない」
ヒョードルくんは苦笑するばかりだ。
「それ、キースさんならいいですけど。槍のまま、となればどうします?」
「力押しで対抗するかな」
そう。
武技も考慮するなら敢えて力押しだな。
間合いを保ったまま、武技の二段突きを連続で使うのもいい。
擬似的に槍衾を作り上げて足を止める。
足さえ止まれば間合いの利が活きるだろう。
だが。
ランサーはそうはしなかった。
足元を、薙ぎに行く。
その予備動作の間に、距離が詰まった。
いや。
ランサーも呪文を併用して薙ぎに行ったみたいだ。
工夫してるじゃん。
ダメージは?
残りHPバーで判断するならば、明らかにランサーが有利だが。
引き換えにしたものが大きい。
毒だ。
状態異常のマーカーも見えている。
大きな代償を支払ったのは果たしてどっちだろう?
試合は判定に持ち込まれた。
半ソロバードの勝利だ。
実に堅実。
卑怯、とも言える。
合理的、とも言える。
無論、ランサーは回復呪文も使っていた。
だがそれは他の呪文を使う機会を失っている事も意味している。
その間、対戦相手は攻撃呪文も支援呪文も使えるのだ。
状態異常の麻痺に陥った時点で形勢が一気に逆転した。
ランサーは麻痺からどうにか回復したものの、細かく積み上げられたダメージは大きい。
回復呪文の効力も毒で受けるダメージを回復するのが精一杯だった。
「凄かったですね、あのプリンシパルバード」
「いや、当然だよ。あの人って半ソロバードだろ?」
これはヘラクレイオスくんだ。
もしかして、顔見知り?
勝利したプレイヤーが革兜を外していた。
兜の一部が破損しているのを修復しているギルド職員の姿も見える。
うん。
遠目のせいもあるかもだが、やっぱりエルフに見えない。
どうやって誤魔化しているんだろう?
「うん。間違いないよ。確か名前がドラクマってプレイヤーだった筈」
「筈って」
「通称の方が有名だからねえ。半ソロバード。一時的にしかパーティ組まない事でも有名だよ」
まあヒョードルくんとヘラクレイオスくんの会話はいいとして。
隣のラムダくんを、見る。
分かる。
凄い、怒気。
ウィスパーで語りかけて来ましたよ?
『キースさん、どうですか?』
「基本はスピードファイター。問題なのはあのフルーレで間違いない」
『ですよね』
「それに相手の動きに合わせて堅実に戦い続ける姿勢も、だね」
『堅実、ですか?』
「それは卑怯とも言える。フルーレを持つ腕を封じたら話は簡単だがなあ」
『他に問題がありそうですか?』
「バードとしての能力もあるんだろう?」
『歌、ですね』
「時空魔法の呪文、サイコ・ポッドで対抗するのは当然だが、それも確実じゃないからねえ」
だが。
見方を変えると弱点だってある。
あのプレイヤーが堅実に戦う理由。
ステータス的に筋力値、それに生命力に難がある。
途中からはそうとしか思えない戦い方に移行していた。
ま、エルフであれば納得なんだけどね。
それに構えそのものにも付け入る隙がある。
前後の動きを捌くのは、まあいい。
それ以外は弱いという事でもある。
簡単な話、数の暴力で押し切ればいいのだ。
仲間がいるそうだし、そう簡単ではないか?
「ラムダくんの見立てはどうかな?」
『プレイヤーズスキルが高い、としか分かりませんでした』
「まあこの闘技大会のルールだし、そこは分かり易かったかもね」
『ええ。あれに加えて戦闘以外の技能が突出しているのも間違いなさそうですし』
「そうだね」
そう。
他に気になる事もある。
会場を見渡すと、プレイヤー、NPCに関わらず、マーカーの色が変わるのがいる。
オレの【看破】が働いているのだ。
それは試合会場も同様である。
隣の試合場で参加しているプレイヤーもPK職かPKK職なのだろう。
一瞬だが、マーカーの色が変わっていた。
だが。
あの半ソロバードにはそれがないのだ。
闘技大会のルールに沿っているとしたら?
補助スキルの【偽装】もセットして参加している事になる。
その分、不利の筈。
それなのに勝利。
そして【看破】がまるで通用していない。
油断ならない相手なのは間違いないだろう。
『目標がここの練兵場を出た形跡はないようです』
「監視してる?」
『ええ。全ての会場を複数のPKK職のチームで張ってますので』
「徹底してるね」
『PKK職の強みですから。PK職も仲間同士の互助組織があるようですが内紛も多いようですし』
「へえ」
『実はPKK職が潜入して内紛の種を付けて回ってます』
「そこも徹底している訳か」
PK職の数はPKK職の数の10倍近くにもなるそうです。
その分、PKK職の組織は小さい。
それだけに仲間内での調整が上手くいっているそうで。
この点に関してはPK職に同情する。
その上で分断工作とか怖いな!
「次の試合も注目ですね」
ヒョードルくんの視線の先には?
与作、なのか?
与作、なんだろうな。
両手斧だ。
以前の得物に比べても大きい気がする。
一点豪華主義、なんだろうな。
『第二回戦まで、このままでお願いしていいですか?』
「大丈夫だ。ではこのまま観戦するとしようか」
『了解です』
では。
純粋に観戦を楽しむとしようかね?




