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迫っている2つの影はどうやら野犬のように見える。
まだ距離があるせいか【識別】ではモンスター名称まで確認できない。
姿形は犬のように見えた。
いや、昨日も戦ったことがあるワイルドドッグと思われる。
赤の逆三角形のマーカーは点滅していて、俺達を攻撃目標と認識しているものと分かった。
昨日は一匹だけを相手に戦って問題なく勝ってはいる。
戦って見た感覚ではホーンラビットよりは難敵、といった所だろう。
一応逃げる選択肢もあるが。
「ヴォルフ、戦うぞ。但し無理はせず俺から遠く離れるなよ」
戦闘中でもポーションが使えるよう一つだけ服のポケットに入れてあるのを確認する。
一対一ならばノーダメージとはいかないがヴォルフが余裕で勝つだろう。
だが二対二ならばどうか。
ヴォルフとの連携が試される。
ヴォルフが姿勢を低くして迎撃の構えをとる。
こっちに迫るのは確かにワイルドドッグだ。
一匹が先行して突っ込んでくる所をヴォルフが飛びかかった。
最初、互いに首元を狙うようにグルグルと回ったが、互いに攻めきれない。
ワイルドドッグの意識はこっちに向いていないようだ。
ロッドでワイルドドッグを突く。
但し腹の下側に向けて捻じ込むように、だ。
そのまま跳ね上げて宙に放り上げるようにしてやった。
もう一匹はこっちに飛び掛ってくる所を横合いからヴォルフに体当たりを喰らっていた。
地面に倒れたワイルドドッグの腹をロッドで突いて地面に押し付ける。
一瞬だが動きが鈍ったワイルドドッグの咽笛をヴォルフが噛み付いた。
ワイルドドッグのHPバーが一気に減っていくのが分かる。
もう一匹のワイルドドッグが迫ってきていた。
攻撃対象はヴォルフのようだ。
今、行動を抑えているワイルドドッグの止めを刺すのを優先するか。
迫ってくるワイルドドッグを牽制するのを優先するか。
逡巡するが決断する前に体を動かしていた。
ロッドで抑えているワイルドドッグは右足で踏みつけ、ロッドはもう一匹に向けて構え直す。
ヴォルフに体当たりするような勢いで迫っているワイルドドッグの横っ面を叩いてやった。
そこそこダメージは与えたようだ。
だが距離が開いたので余裕ができた。呪文を選択する。
初期セットしてある共通魔法で最初から使える攻撃呪文だ。
足元のワイルドドッグはヴォルフに咽笛を噛まれたままダメージを受け続け、HPバーが消失した。
これでもうあと一匹。
形勢不利と見たのか、残ったワイルドドッグが身を翻して逃げようとする。
「フォース・バレット!」
目には見えない魔力の塊が背後からまともに命中し、その威力で転がっていった。
HPバーは大して減ってはいない。
だが転がってしまったことでヴォルフに対する隙を生じてしまっている。
後足に噛み付いたヴォルフはそのまま引き摺るように移動し、振り回すようにしてダメージを与え続ける。
こっちも即座に距離を詰めるとロッドで腹のあたりを突きまくる。
程なくしてHPバーが消失する。
《只今の戦闘勝利で種族レベルがアップしました!任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
目の前に小さくステータス画面が現れて、視線を移動するとステータス項目が点滅する。
基礎ステータス
器用値 15
敏捷値 15
知力値 18
筋力値 12
生命力 15
精神力 19
どうしようか。
他にパーティメンバーのプレイヤーがいるのなら特化したい所だが、今は相棒のヴォルフしか頼る存在がない。
戦闘ではロッドで殴りつける機会も多いことだろう。
筋力値を凝視する。
《筋力値に1ポイント加算しますか?》
《Yes》《No》と横に選択肢が現れる。
《Yes》を凝視すると筋力値が12から13に変化した。
キャラクター成長の最初の一歩だ。
《ボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で21ポイントになりました》
《取得が可能な武器スキルに【棍棒】【両手槍】【打撃】【蹴り】が追加されます》
《取得が可能な補助スキルに【投擲】が追加されます》
《スキル取得選択画面に移行しますか?》
一応《Yes》に進んで選択項目をザッと見る。
スキルは武器、防御、魔法、生産系、補助、と大まかに分けられている。
だが項目が多すぎて目移りしてしまい、真面目に選ぶ気は起きない。
・・・これはアドバイスを受けてからのほうがいい。
ここは移動を優先しよう。
最後にボーナスポイント残が19から21へと増えていたことは確認しておいた。
ワイルドドッグに剥ぎ取りナイフを突き立てると死体は煙と消えていく。
ドロップアイテムは残らなかった。
もう一匹も同様である。残念。
そこから更に西へと進む。
昨日うろついていたあたりの丘の上から見た光景は壮絶だった。
獲物を求めてうろつくパーティがいくつも見えている。
魔物を狩り尽くす勢いである。
だが西への移動がリスクが低くなることでもある。
遠目に目標となる森を眺めながら街道に沿って歩き続けた。
ホーンラビットは町の周囲で出現するポピュラーな魔物、らしい。
昨日も狩ったが、うまく立ち回れば、今のオレでも単独で勝てそうである。
無傷で、とはいかないだろうけどね。
ヴォルフがいるおかげで、一匹だけで遭遇したホーンラビットは五匹連続ノーダメージで葬っていった。
ドロップは【鑑定】してみると皮二枚に肉三塊だ。角も三つ拾っている。
【素材アイテム】野兎の皮 原料 品質C レア度1 重量1
ホーンラビットの皮。まだなめしていない。一般的に流通する小さな皮。
【素材アイテム】野兎の肉 原料 品質C レア度1 重量1
ホーンラビットの肉。野趣に溢れる味で知られているが肉質は硬い。
【素材アイテム】野兎の角 原料 品質C- レア度1 重量0+
ホーンラビットの角。先端は鋭く尖っている。
現時点で換金できるのはこれらドロップ品が頼りだ。
ホーンラビットもワイルドドッグもお金を落としたりしない。
三匹目を倒し、ドロップアイテムの肉の確認を終えた所でインフォメーションがあった。
《只今の戦闘勝利で職業レベルがアップしました!》
《取得が可能な補助スキルに【解体】が追加されます》
《只今の戦闘勝利で杖レベルがアップしました!》
《只今のドロップアイテム鑑定で鑑定レベルがアップしました!》
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『ヴォルフ』がレベルアップしました!》
ほう。
一気に増えたな。
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
おや。
召喚モンスターでもレベルアップ時に任意のステータスを上昇できるようだ。
俺の時の種族レベルアップと同様に目の前に小さくステータス画面が現れる。
視線を移動するとステータス項目が点滅していく。
召喚モンスター ヴォルフ ウルフLv1→Lv2
器用値 8
敏捷値 25(↑1)
知力値 12
筋力値 10
生命力 15
精神力 10
さすがに素早いんだな。
敏捷値には既に↑1となっている。
視線を移動して点滅させて見た。
《今回のレベルアップで上昇するステータスとなります。任意での上昇選択はできません》
おっと、残念。
どうやらステータスは2ポイント上昇したようだが、任意で選択できるのは1ポイントだけのようだ。
こうなると育成方針はどうすべきか、考えていなかった事が悔やまれる。
悩ましいが。
今、オレがヴォルフに求めている事は何か。
やはり近接攻撃における打撃力強化が欲しい所だ。
筋力値を凝視する。
《筋力値に1ポイント加算しますか?》
《Yes》《No》と横に選択肢が現れる。
《Yes》を凝視すると筋力値が10から11に変化した。
気のせいかヴォルフも嬉しそうに見える。
ご褒美をあげていいかもしれない。
ヴォルフってば野兎の肉って食うのかね?
メニュー画面を呼び出すと検索窓に『召喚』『モンスター』『エサ』と入力して検索してみる。
召喚魔法の説明欄の一部が呼び出され、別窓に表示された。
《召喚されたモンスターはそのタイプに関わらず食事やエサの必要はありません》
《HPの回復、MPの回復はプレイヤーと同様の扱いとなります》
《召喚状態を解除した場合、そのクーリングタイムの長さに従いHPの回復、MPの回復が行われます》
おっと。
関連項目にまで目を通しそうになった。危ない危ない。
熟読し始めると終わりが見えなくなるのはオレの悪い癖だ。
エサ不要とは便利だな。
でもまあ食わせてみてもペナルティがあるとも思えない。
「食うか?」
試しに食うかどうか、実地で試してみたらいい。
野兎の肉をヴォルフの目の前に差し出すと、うれしそうにがぶりつく。
ほう。
食うじゃないの。
ヴォルフの食事が終わるまで背中の毛並みの感触を楽しみながら待つ。
がっつき振りが半端ない。
野兎の肉は見る見るうちに骨だけになっていった。
「満足したか?」
舌で口元を舐めるヴォルフにそう囁く。
尻尾も弾んでいる。満足したようだな。
たまにならご褒美はアリってことにしよう。
移動しようとするとヴォルフが口に何か咥えている。
野兎の肉の成れの果て、野兎の骨だ。
【素材アイテム】野兎の骨 原料 品質E レア度0+ 重量0+
ホーンラビットの骨。もはや食べられる部分は骨髄しかない。
【鑑定】してみても利用価値があるとは思えないが。
「必要なのか?」
ヴォルフが名残り惜しそうにしているので、骨を受け取ると荷物に入れておいた。
満足そうに見えるのは気のせいだろうか?
「じゃあ先を急ごうか」
それから暫くは道沿いに進んだ。
他のパーティの狩りの様子もたまに見える。
ドロップのあるホーンラビットは狙って狩りに向かっているパーティが多いようだ。
ん?
何か鳥のようなものと戦っているパーティがいた。
【識別】で見てみようとするが距離があって確認できない。
いや待て。
距離が縮まったようで【識別】できたようだ。
ステップホーク Lv.1
魔物 討伐対象
頭上の赤い逆三角形のマーカーは点滅していない。
攻撃目標がこっちではないからだ。
この鷹はどうやら後衛の魔法使いを狙っているようだった。
いや違うな。
正確には魔法使いが持っている何かを狙っているように見える。
纏わり付くようにしつこく迫っていた。
そのパーティは五人いるようだが、攻撃を繰り出してはいるものの、その攻撃はまるで当たっていない。
魔法使いに攻撃が当たるのを躊躇しているためだろう。
魔法使いの頭を突いていた鳥は何かをその両足に掴んで飛び上がった。
肉塊だ。
【識別】なのか【鑑定】なのか分からないが、視線を合わせると野兎の肉であることが小さな別窓で表示される。
態勢を立て直した魔法使いが魔法を放つが、当たらずに終わった。
「あーーーー!!お肉返せえええええええ!!」
弓を持った女性が叫んでいた。
まあその気持ちは分かる。
ドロップしたホーンラビットの肉を横取りされたって事なのだろう。
そういう事もあるのね。オレも注意せねば。
《只今のモンスター識別で識別レベルがアップしました!》
おや?
戦闘に参加していないのにスキルがレベルアップしてしまった。
こういうのもアリなのか。
それから更に西へ、道沿いにずっと進む。
まだ目印になる物見櫓が見えない。
さすがに他のパーティを見かける事も少なくなった。
魔物に遭遇してもよさそうなのに・・・魔物ウェルカムな時に限って遭遇しない。
だがいずれは出会う。
道の外れで佇んでいたホーンラビットを見つけた。
頭上の赤い逆三角形のマーカーが点滅し、こっちに迫る。
【識別】で見てみると確かにホーンラビットだが。
ホーンドラビット Lv.1
魔物 討伐対象 アクティブ状態
あれ?
さっきよりも表示内容が増えているようだが。
識別がレベルアップした影響なのだろう。
「よし、行くぞヴォルフ」
ちょっとだけ強くなった手ごたえはあるだろうか?
戦闘は長引いていた。
おかしい。
このウサギってば随分とタフだな。
ヴォルフがいる分、有利に戦えている筈なのになかなか倒れてくれない。
魔物のHPバーは半分をようやく切った所のようだ。なんでこんなにタフなんだ。
なんで。
オレは一つ間違えていたようだ。
このウサギ、角が真っ直ぐではなく、微妙に反ってきているように見える。
実は別の魔物か?
改めて【識別】で見てみる。
ホーンドラビット Lv.1
魔物 討伐対象 アクティブ・激昂状態
えっと。
ホーン『ド』ラビット?
運営め、紛らわしい名前の魔物を用意するなんてバカじゃないの?(褒め言葉)
こういう遊びもあっていいと思う。個人的には好きだ。
でも今は別の事に注意を向けるべきだ。
激昂状態って何だ?
このウサギは最初、ホーンラビットと変わらない姿形だったのは間違いない。
それが変容している。
角は更に反っていっているようだ。
体も若干だが大きくなり、茶色の毛の一部が徐々に濃い黒になり縞模様になっていった。
口から牙のような前歯が伸びてきているのも分かる。
いやな予感しかしない。
目が赤く血走ってきている。
次の刹那。
目の前に何かが迫っていた、と見えたが次の瞬間には消えていた。
二つの獣の荒ぶる咆哮が響いている。
ウサギがこっちに飛び掛ると同時にヴォルフが横合いからウサギに攻撃を仕掛けたのだ、と分かった。
危なかった。
ヴォルフは、と言えば、ウサギの首に噛み付いたまま振り回そうとしていた。
ウサギはウサギで、自分にもダメージがあるのもかまわず飛び跳ねている。
獣同士の命の削り合いだ。
フォース・バレットを撃てるよう準備するが、なかなか呪文を放つ機会が掴めない。
ヴォルフが一旦離れてくれないと間違って当たりそうで撃てない。
こちらの思考を読み取ったのか、ヴォルフがウサギが跳ねるのと同時にその牙を離した。
今だ。
空中に浮いた状態のウサギに向けて魔法を撃つ。
「フォース・バレット!」
魔法は命中するが、HPバーはそんなには減ってくれない。
だが吹き飛ばされたウサギは背中から地面に着地してしまい、大きな隙を見せている。
ヴォルフが再び襲い掛かった。
噛み付いた箇所は後足だ。
そのまま振り回すと地面に叩き付けた。
何度も。
何度も。
その後はオレの出番はなかった。
「よくがんばったな」
ヴォルフのHPバーは半分を割り込んでこそいなかったが、三割ほど減っているように見える。
服のポケットに入れてあったポーションを取り出すと、背中にかけた。
全快とはいかなかったが、余裕はできただろう。
オレはと言えば何度か攻撃が掠っていて一割ほど減っている。
自分にはポーションは使わないでおく。
時間経過で僅かではあるがHPは回復してくれるのも分かっている。
剥ぎ取りナイフを突き立てると、ホーン『ド』ラビットはドロップ品を三つ残して消えた。
肉と角、それに宝物もあった。
【素材アイテム】縞野兎の肉 原料 品質C- レア度3 重量1
ホーンドラビットの肉。野生の力が宿る肉だがこのままでは硬くて歯が立たない。
【素材アイテム】縞野兎の角 原料 品質B- レア度4 重量0+
ホーンドラビットの角。先端は鋭く角そのものは反っている。
【宝物】魔石 魔法アイテム 品質E+ レア度2 重量0+
魔物に宿る魔力が集約されて核となった物質。
品質はともかく、レア度が微妙に高くなっていた。
最初のフィールドのレアモンスターか何かだろうか。妙に強かったし。
六人パーティでなら手強くはあっても問題ないのだろうが。
さらに西へ。
道沿いにホーンラビットを狩りながら進む。
遠目に森が見えた頃にそれは起きた。
《これまでの行動経験で召喚魔法レベルがアップしました!》
え?
移動してる最中にレベルアップ?
レベルアップしたのは召喚魔法スキルだ。
別に召喚魔法は使っていない。
いや。
召喚したヴォルフと行動を共にしているだけでも経験値を稼いでいるのか。
もう一度、ヘルプで魔法スキルの説明を見たら済むことだ。
【魔法スキル】召喚魔法Lv2
使役するモンスターを召喚する魔法スキル。
Lv向上に従いより強力なモンスターの使役が可能となる。
召喚したモンスターはパーティメンバーにカウントされ、Lvアップすることで成長していく。
※召喚モンスターと共に行動する時間は長いほど、行動に伴う経験が濃いほど早く成長します。
※場所によってはモンスターの召喚を制限される場合があります。
※召喚モンスターは死亡することでロストとなりませんが、経験値減少ペナルティとクールダウンが必要です。
うん、確かに書いてある。
確かに召喚魔法は呪文を乱発するようなスキルではない。冒険の最初に使う程度だし。
まあレベルアップの仕方としてはアリだと強引に納得する事にした。
主人公???
種族 人間 男 種族Lv2(↑1)
職業 サモナー(召喚術師)Lv2(↑1)
ボーナスポイント残21(↑2)
スキル
杖Lv2(↑1)召喚魔法Lv2(↑1)風魔法Lv1 錬金術Lv1
連携Lv1 鑑定Lv2(↑1)識別Lv2(↑1)
装備 初心者のロッド 簡素な服 布の靴 背負袋
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 老サモナー宅への地図
ステータス
器用値 15
敏捷値 15
知力値 18
筋力値 13(↑1)
生命力 15
精神力 19
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv2(↑1)
器用値 8
敏捷値 25(↑1)
知力値 12
筋力値 11(↑1)
生命力 15
精神力 10