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新しい朝が来た。
野望の朝だ。
何かが違う。
いや、ある意味間違ってはいない。
本日の野望は新しいモンスターを召喚する事なのである。
フクロウにする事だけは決めてある。
名前もいくつか考えてあったし、今日はサクサクとゲームを進めていこうか。
ちょっと師匠の動向が気にはなるんだが。
やや早めのログインだったので、背負い袋と《アイテム・ボックス》の中身を整理して時間を潰す。
納品できないポーションも数が多くなってきているので部屋に半分ほどは置いておく。
整理もすぐに終わったので仕方がなく作業場に降りてみると、師匠もいないしいつものメタルスキンもいなかった。
手が開いたな。
先に新しい召喚を済ませておくか。
早速、召喚を行う。
召喚モンスターのリスト4行目の空欄を指定して召喚。
候補が並ぶ中、躊躇せずにフクロウを選択する。
「サモン・モンスター!」
地面に描かれた魔方陣の中にフクロウが出現する。
少しは成長した成果なのか、オレのMPバーの減りはこれまでよりも少ない。
それでも2割以上は減っているようだ。
それにしてもこのフクロウ、近くで見ると鷹のヘリックスと同様に獰猛な顔付きである。
脚はヘリックスよりも太く大きいし、脚爪も太めで長い。
鋭さは鷹に軍配が上がるかな?
どっちにしても凶悪な武器に見える。
そして最も特徴的なのはその目だ。
真っ黒で大きい。まるで底が見えない穴のようだ。
名前もとっさに別のものを思い付いた。
召喚モンスター
黒曜 フクロウLv1
器用値 11
敏捷値 16
知力値 19
筋力値 12
生命力 10
精神力 15
スキル
嘴撃 無音飛翔 遠視 夜目 奇襲 危険察知
名前を付け終えると早速飛びたってオレの肩口に収まった。
羽根の色は灰色に白か。
ステータスで見ると鷹に比べたら敏捷値で劣るようだが他のステータスが高めなのか。
ヘリックスのステータスも呼び出して並べてみる。
召喚モンスター
ヘリックス ホークLv2
器用値 10
敏捷値 22
知力値 18
筋力値 11
生命力 10
精神力 12
スキル
嘴撃 飛翔 遠視 広域探査 奇襲 危険察知
うん、同じ鳥な訳だし被るよね。
昼はヘリックス、夜は黒曜と使い分けるようにして被らせなければ問題ない。
黒曜と少し戯れていたら師匠がメタルスキンを引き連れて作業場に現れた。
「ほう、新しい召喚じゃな」
「はい」
「結構、結構」
昨日はややおかしな様子も見えていたのだが、今日は普段どおりに見える。
気のせいだったのかね?
食事はスタンダードな朝食で普通に旨かった。
さすがに熊肉はもうなくなったようだ。
食事を終えるといつものようにレムトへ向かう。
師匠はバトルホース、オレも残月を召喚して騎乗の人となった。
そしていつものサーチ・アンド・デストロイである。
今日は晴れているから狩りをするにはいい日だ。
で、新たに召喚した黒曜なのだが。
どうもフクロウだと鷹と比べたら高度をとって獲物を探すのは不得手なようだ。
その代わりに森の中で行動するのはまるで苦にしない。
暴れ銀鶏が相手だとオレの出番なしで仕留めるケースもあって、攻撃力も申し分ない。
いや、この場合は奇襲だ。
油断している所を音を立てずに後方から一撃である。
全て一撃で仕留める訳ではないのだが、それでも大きなダメージを与えているようだ。
流石、森の狩人は違うな。
草原でもオレの肩に掴まって周囲を見回すだけで獲物を見付けたりする。
例え飛んでいなくても索敵能力はなかなか優秀である。
ウサギも問題なく狩れた。
オレは馬上からホーンラビットをロッドで殴るだけの簡単なお仕事で済んでいる。
ヘリックスと比べてしまうと狩りの獲物は少ない感じはするが、十分だろう。
昨日はちょっと消化不良だったから気持ちいい。
《これまでの行動経験で【馬術】レベルがアップしました!》
《これまでの行動経験で【精密操作】レベルがアップしました!》
レムトの町に到達する寸前に色々とレベルアップしていたようだ。
えっと。
精密操作って馬上で手綱を操っていただけだったのに効いていたのかね?
それに変わらずフィジカルエンチャント・アクアで器用値を上乗せしている。
乗馬技術も向上するのと併せて馬上戦闘はもっと上手くいくのだろうか。
後で検証したいな。
いつものように冒険者ギルドでポーションの納品に臨んだ。
昨日とは少し雰囲気が違っていた。
スルー耐性が高く鉄面皮な筈の職員さん達が緊張しているのが分かる。
何があった?
まだギルド長の姿も見えない。
「先にキースさん依頼分を確認しましょう」
「お願いします」
いつもの中年の職員さんに確認して貰う。
ポーション作成依頼数が60本に対して87本である。
今回は全品合格であったらしい。
相変わらず計算は早く済んで、小袋で買取り金額を渡された。
中を確認したら100ディネ銀貨が26枚に10ディネ銅貨が1枚だ。
2,610ディネってことは買取価格は1個あたり30ディネか。
また値上がりしている。
プレイヤーへの販売価格は一体どうなっているんだ。
《ギルド指名依頼をクリアしました!》
《ボーナスポイントに5点、エクストラ評価で4点が加点され、ボーナスポイントは合計18点になりました!》
「それで次の依頼なんですが」
「受けます」
「いえ、大変申し訳ないですがポーション作成依頼ができないのです」
「は?」
「もう空き瓶の数に余裕がないのです」
これは想定外でした。
「いえ、あることはあるのですが、レムトの薬師の手元にある分だけでして」
「むう。もうそんなに逼迫したのか?」
「左様です。ガラス工房にも瓶の増産を頼んではいるんですが」
「間に合わんのか」
「はい。オレニュー様にも大変申し訳なく思います」
師匠が会話に割り込んでくる。
職員さんは恐縮するばかりだ。
依頼を受ける側からすると、師匠もポーション作成が本業ではない訳だが。
仮にポーション作成を生業にしていたとなるとこれは大きな失点だろう。
「お前さん方が悪いわけでもあるまい。無い物は無いのじゃしな」
師匠の表情からは何も読み取れそうも無い。
なんか怖いな。
「キースよ。今日はもうワシに構わず好きにして良いぞ。夕飯の時間までに家に戻って来たらええ」
「はい。今日は採集はなしですか?」
「うむ。瓶がないのではな」
ですよね。
師匠の無茶振りも無いって事になる。
そう思うと嬉しい様な悲しい様な、複雑な気分だ。
さて、今日はこの先どうしようか。
昼までの時間も十分に間があるから食事もないな。
部屋を辞去してギルド長の部屋を出ると、ギルド長であるルグランさんとばったり会った。
目礼して通り過ぎる。
あの部屋で何が起きるのか、なんとなく予想がつくのが怖い。
考えるのは止しておくか。
ギルド入り口側の壁にある依頼掲示を見て回った。
羊皮紙のようなもので簡単な依頼内容を記したものが貼ってあるだけだが。
仮想ウィンドウで翻訳したものを見てるのは辛いものがある。
一括、ソートと念じて目を凝らすと仮想ウィンドウ1つに纏めて表示してくれる。
概ねどういった依頼が多いのか、傾向を探っていく。
とりあえず手持ち資金は十分にあると思う。
何か切実に困っているような依頼はないものか。
そうでなければ今オレの持っているスキルを伸ばすようなものはないか。
または興味深く付き合えそうな依頼はないか。
ざっと眺めていくと目に付いた依頼があった。
その依頼に相当する羊皮紙らしきメモを手に取るとギルド窓口に向かった。
「この依頼、受けたいんですけどいいですか?」
今オレはギルド職員に教えて貰った場所へと残月の手綱を引きながら歩いている。
目的の場所は冒険者ギルドのある区画よりも更に古そうな街並みの一角にあった。
周囲はどこも喧騒で溢れている。
職人街なのだ。
鍛冶師、石工、木工などの工房が軒を連ねていて活気がある。
オレはその一角のある工房の扉を叩いた。
そこはガラス工房であった。
「すみません、冒険者ギルドの紹介でこちらの依頼を受けに来たんですが」
話しかけた職人らしき中年男性は筋骨隆々とした偉丈夫だった。
黄色マーカー持ちでNPCで間違いない。
なんか戦士として通用しそうな雰囲気がある。
「おう!大歓迎って言いたい所だがここは初心者でも見込みが無きゃ受け入れられねえ。それでもいいのか?」
「はい」
「そうかい。じゃあ紹介状を寄越しな」
ギルドで書いて貰った紹介状を渡す。
その職人は紹介状をチラ見しただけでオレの様子をしげしげと眺め始めていた。
「ふむ。まあなんとかなるかな。まずは腕試しと行こう」
テキパキとしてるのはいいのだが、色々と手順をすっ飛ばしそうな男だ。
職人としてはどうなんだろうか。
工房の中には職人らしき男女が何名かいるのだが、こっちに気を取られている人はいない。
いや。
一人だけプレイヤーがいるようだ。
緑のマーカー付がいて作業の手を止めてこっちを見ていた。
オレの視線に気が付いたようで、すぐに作業に戻っていったようだ。
他にもプレイヤーがいるのならば安心だな。
「裏手に馬留めがあるから馬はそこに繋いどけ。その鳥も工房内は入れてくれるな」
「はい」
まあいいか。
残月と黒曜はセットで待っていて貰うとしよう。
互いに護衛代わりになるだろうし、何かあればオレに伝わるようだし大丈夫だろう。
残月達には馬留めに待っていて貰って工房に入る。
最初に話しかけた職人はこの工房でもベテランになるらしい。
工房主がいない時はこの人が工房を切り盛りする、そういう立場なのだとか。
【識別】で見てみたらこんな感じであった。
ガラス屋のニルス Lv.???
グラスワークマスター
おお、なんか凄そうな職業だ。
グラスワーカーの上位職なのだろう。
「じゃあ筋を見させて貰うか。これと同じ事をやってみろ」
そういうとニルスさん、棚から細いガラスパイプを取り出した。
両手には軍手を装着する。
場所を移動してふいごらしきものを操作して小さな七輪のような台に空気を送り込む。
その一方で七輪の周囲を囲んである石を狭めてやる。
バーナーのようになって炎が細く力強く燃え上がっていた。
その炎の中でガラスパイプの真ん中を無造作に熱し始める。
少し待っていると熱した箇所が赤熱化し始めた。
すると。
両手を引き伸ばしてやる。
ガラスパイプは中央でより細くなって伸びていく。
そしてある程度伸びた時点で炎から外した。
空気中で見る見るうちに冷却されたガラスパイプ、その中央にヤスリをかけて二つに分けた。
先端がエンピツ状の形態のものが二つ出来上がっていた。
反対側に袋状のゴムでも付けたらスポイトになりそうだ。
もうちょっと長ければピペットに使えそうな感じがする。
「見たか?」
「はい」
「ではもう一度見せる。次はお前さんがやってみろ」
そう言うともう一回、同じ手順を見せてくれた。
手作業でしかも細かな手の感覚で調整する必要がある作業だ。
これはハードルが高そうだ。
小声でフィジカルエンチャント・アクアを自動詠唱させる。
呪文名も小声で唱えてステータスの器用値を底上げしておいた。
ステータスを確認すると+2が付与された。
多少はマシになるだろう。
「よし、じゃあやってみろ」
「はい」
見真似ではあるが一通りやってみた。
形状は似たような形にはなったが、明らかに歪になった。
念のため【鑑定】してみる。
【工具アイテム】スポイト(小) 品質D レア度1
少量の液体を滴定するための器具。
まだ目盛は刻んでいない。空気袋は未装着。
品質Dか。
ダメだこりゃ。
「ほう、初めてで形になってるじゃねえか」
「はあ」
「ま、確認だ。もう一本いってみろ」
今度はもっとゆっくりと正確に作業を試みる。
やはりやや歪んでいるようだ。
最初のものに比べたら出来はいいみたいだが。
【鑑定】してみると品質D+だった。
無念。
「まあいい方だろうさ。では次に行ってみるか」
ちょっと、早すぎませんか?
自信なんてないし、関連するスキルも得てないんですけどいいんですか?
「まあそんな顔するなって。習うより慣れろだ」
うん。
普段のオレのポリシーもそうなんだけど早すぎますって!
工房の中にはある分かりやすい特徴があった。
暑いのだ。
あちこちに熱源があるのだから仕方が無い。
当然オレも装備を出来るだけ外しておく。
上半身も裸だ。
そして作業台の傍には水を入れた水筒やら鍋やらコップやらが無造作に置いてある。
職人達はまめに水分を補給しているのだ。
そして盛り塩もある。
舐めておかないと汗でミネラルを失い体調を崩すからだ。
当然、皆汗を大量にかいている訳であるが、ガラスに付着しないように注意を払っている様子が窺える。
でも熱が篭っているし、思考を正常に保つ自信は無かった。
ヤバイ、ここは意外におっかないぞ。
対策は何か無いか。
思い当たる補助スキルならあった。
オレは既に耐寒を補助スキルに持っている。
ならば耐熱とか耐暑とかあっていい筈だ。
取得可能スキルのリストを呼び出して調べてみたらやはりあった。
耐暑だ。必要となるボーナスポイントは2である。
早速取得して有効化する。
楽になった、のか?
良く分からないがそんな気もする。
ニルスさんが早速ポーション用の空き瓶作成工程を見せてくれた。
手本として都合3回である。
そしてすぐに実践とか。
一応、工程を簡単に説明したら以下の通り。
1.植物灰、天然トロナ鉱石、石英鉱石を溶融してガラス種を作る。
2.型に一定量のガラス種を入れる。
3.細長いストロー状の金属筒で息を吹き込み(ブロー)ながら型を傾けて成型する。
4.ある程度冷却したら型を割って取り出して自然冷却する。
これだけだ。
これだけなんだけれど。
難しいんだな、これが。
品質D-、品質Dを連続で5つも出して御覧なさい。凹みますから。
でもニルスさん優しいんですよ。
使えなくないって言うんですよ。
インフォで生産スキル【ガラス工】が来た時は涙しました。
すぐ取得して有効化しました。
ボーナスポイントを5消費しましたが惜しくないです。
再度挑戦する。
フィジカルエンチャント・アクアも途切れていたのを掛け直してやる。
出来るだけの事はした、あとは結果を出すだけだ。
そして出来上がったのが品質D+ですよ。
ちょっと、いや、かなり凹む結果だ。
「おいおい、なかなか上達が早いじゃねえか」
むしろ褒められました。
このNPCのベテラン職人は褒めて部下を伸ばすタイプのようだ。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv4
職業 サモナー(召喚術師)Lv3
ボーナスポイント残11
セットスキル
杖Lv3 打撃Lv2 蹴りLv2 関節技Lv2 投げ技Lv1
回避Lv2 受けLv2 召喚魔法Lv4
光魔法Lv2 風魔法Lv2 土魔法Lv2 水魔法Lv2
錬金術Lv3 薬師Lv2 ガラス工Lv1(New!)
連携Lv3 鑑定Lv3 識別Lv3 耐寒Lv2 掴みLv2
馬術Lv2(↑1)精密操作Lv2(↑1)跳躍Lv1 耐暑Lv1(New!)
装備 初心者のロッド 野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー
布の靴 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv3 お休み
残月 ホースLv2
ヘリックス ホークLv2 お休み
黒曜 フクロウLv1(New!)
器用値 11
敏捷値 16
知力値 19
筋力値 12
生命力 10
精神力 15