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村の中の一番大きな通りを端から端まで歩いて折り返して様子を見て回る。
レムトの町と違うのは木工を扱う店が多く、農作物や家畜の扱いが盛んなことだ。
無論、町と村なのだから規模は違ってくる。
屋台もそれなりにあった。
因みにミオの屋台はないようだ。まだこの村に来ていないのかもしれない。
一応は冒険者が利用するような施設は一通り揃っているようである。
冒険者ギルドの窓口だけはさすがにない。
まあこんなものかな。
村の様子を概ね把握できたので師匠の家に戻るとするか。
戻る途中は出来るだけ森の中を通って狩りをしながら時間を潰すことに充てた。
移動速度を上げるのにフィジカルエンチャント・ウィンドを常時効力があるように調整しておく。
鷹であるヘリックスは肩にあって周囲を警戒させた。
森の中で飛び回るのはちょっと危ないからな。
ヴォルフには獲物を追い立てて貰う。
主に暴れ銀鶏が目標になった。
適当に狩るつもりでいないと夜の時間が迫ってくる。
あまり深追いはしなかったから、パッシブ状態の魔物はスルーした。
パッシブ状態の狸にだけは奇襲をかけたけどな!
問題なのは夕刻が迫って群れになりつつある暴れ銀鶏だ。
暴れ銀鶏と併せて十数匹の群れも見かけるようになっていた。
こいつらは遭遇を回避すべきだろう。
偶然だが、プレイヤーが銀鶏の集団に囲まれて死に戻りした瞬間を目にしたが。
おっかないな、オスは。
メスとは比べ物にならないほどの暴れ者だった。
いや、名前に暴れ銀鶏ってある訳だから間違ってはいないのだが。
周囲が暗くなる。
これはいけない、帰路を急いだ。
見込み違いだったのは天候が曇りであることを失念していたからだった。
完全にオレのミス。
イビルアントが出現し始めていた。
何匹目かのイビルアントを倒した時点でヴォルフに回復丸を与えた。
ダメージは深刻とは言えないが、まだ何回かアリとは戦闘が起きそうな状況と判断したからだ。
まだ師匠の家まで距離がある。
最善の回復手段は講じておくべきだ。
鷹のヘリックスは幸運にも途中まで無傷で済んでいたが、蝙蝠の奇襲を迎撃した際に大きくHPバーを削られた。
こっちはポーションを与えて凌ぐ。
当然、オレも無傷では済まない。
アリは早めに全滅させておかないと例の蟻玉状態になるのが目に見えている。
回復は後回し、先手で攻撃を加え続けて押し切る戦い方になってしまう訳だが。
そんな状況でも剥ぎ取りは止められないこの貧乏人根性が憎い。
結局、師匠の家の前に辿り着いた時にはオレのHPバーが半分ほどにまで減っていた。
だが終わらない。
目の前に未見の魔物が迫っていた。【識別】してみるが微妙に強そうではある。
ブラッディウッド Lv.3
魔物 討伐対象 アクティブ
高さはオレと同じ程度、だと思う。
木の根が絡み合って出来た人形みたいな魔物だ。
どうする?
オレ達と師匠の家の門の間に立ち塞がる魔物の頭上へと跳躍した。
いつでも門に走れる位置を確保しながら一撃を加えてみる。
ロッドから受けた手ごたえは芳しくない。
どういう魔物だ、こいつは。
触手のように絡み合った根を伸ばしてくるのを避ける。
動きそのものは遅い。
もう一撃、ロッドで攻撃を当てて見る。
木と木がぶつかる音だけが響いた感じがした。
ちょっとこれは効果的ではないようだ。
ヴォルフも噛み付き攻撃を繰り返すのだが、根が絡みつこうとするのを避けながらになっている。
ヘリックスもどこをどう攻撃してよいのか悩む気配がする。
なんか時間がかかるだけの面倒そうな奴みたいだな。
触手のように伸ばした根をまとめて抱え込むと引っ張った。
魔物がコケそうになるように見えた。
ん?
動きが急に悪くなったようだが。
MPも少ないしあの手を試してみるか。
ロッドを手放すと絡み合う根を掴んで腰を落とす。
そのまま一本背負いだ。
本気で、投げた。
魔物はまともに喰らって地面に叩きつけられる。
根がいくらか散乱したようで、魔物のHPバーも目に見えて減ったようである。
ロッドで叩くより大分マシだな。
いや、かなりマシだ。
投げにおける凶器とは地面である。
実践してみるか。
このブラッディウッドという奴は絡みついた獲物から根を通じて体液を吸い取る魔物のようである。
オレの傷に対して根を伸ばそうとしてくるのだ。
嫌な相手だな。
でもこれは使える。誘導する意味で、だが。
魔物が根を伸ばしてくるタイミングに合わせて投げを放つ。
だが今度は失敗した。何でだ。
そういえば【投げ技】は取得可能だったと思うが取得してなかったっけ。
早速取得して有効化する。
再度挑戦する。今度はうまくいくようになった、気がする。
それにしてもこの魔物、戦う相手には丁度いいな。
一本背負いに良し。
体落しに良し。
大外刈りに良し。
ついでに柔術の四方投げもやってみたら決まったのに驚いた。
いや、この魔物の動きが単純だから出来たんだと思うのだが。
この魔物はダメージが蓄積するに従ってその外観がバラバラになりそうになってくるようだ。
最後のほうでは魔物の胴体はスカスカであった。
ヴォルフもヘリックスも途中からは手出しせずにオレだけで投げの練習をしていたようなものだった。
いや、こういった稽古は久しぶりです。
稽古じゃないけどね!
魔物の最後は絡み合った根が一気に散乱する形になった。
《只今の戦闘勝利で【召喚魔法】レベルがアップしました!》
おお、最後の最後で召喚魔法がレベルアップしたか。
これで新たな召喚モンスターが追加できる。
まあこれは明日に持ち越しだ。
バラバラになった魔物の一番芯になるのであろう太い根に剥ぎ取りナイフを突き立てた。
なんか奇妙なアイテムを手の中に残して散乱していた根が消えていく。
【素材アイテム】血潮牛蒡 原料 品質C+ レア度1 重量0+
ブラッディウッドの芯。繊維質で固いが食用になる。
ゴ、ゴボウですか。
こんな魔物にまで食材になりそうなアイテムが剥ぎ取れるとかどうなってる?
運営に料理好きなスタッフが混じっているとか?
ありそうで困る。
門に辿り着くと師匠のマギフクロウが出迎えてくれた。
少し夕飯の時間には遅れたかもしれない。
作業場では師匠が待ち構えていた。
食事の用意も整っている。
「また奇妙な戦い方をしとったようじゃな」
「はあ」
見てましたか。
どうやら師匠は召喚モンスターを通じて色々と見通しているようだ。
今のオレには出来ない芸当だ。いずれオレにも出来るんでしょうかね?
実に便利そうです。
「さっさと食事を終わらせよう。ポーション作成が進んでおらんのでな」
「はい」
食事を慌しく済ませると師匠のポーション作成を手伝う。
とは言っても空き瓶にポーションの液体を玉杓子で入れるだけなのだが。
これまでになくその量は多い。
こういっちゃなんですけど師匠、受け取った空き瓶の分を全てポーション作成するのがいかんのです。
仕事が出来る人間は早く仕事を終わらせるので、周囲より時間に余裕が出来ます。
それを見ている上司はより多くの仕事を割り振ってくるのが常です。
仕事を早く終えることが出来ない人間を教育するのが上司の仕事ではあるんですが、実態はそんなものです。
周囲が残業する中、定時できっかり帰宅する図太い神経がないとそうなります。
そういうオレも持たされたポーションの空き瓶の分は概ね作成しているんですが。
師匠の手伝いが済んだ後、さっき森の中で使ったポーションの空き瓶の分は作成しておいた。
貧乏性だよね。
こういった所なんかは人の事が言えない所以でもある。
師匠はポーションの確認はせずに《アイテム・ボックス》に入れるのもメタルスキンに全て任せていた。
そして塔の地下へと篭ってしまう。
やっぱ何か様子がおかしい。
家の2階でヴォルフとヘリックスを帰還させる。
ああそうだ。
ログアウト前に4匹目となる召喚モンスターの候補を見ておきたい。
リストを呼び出してみると奇妙なことになっていた。
ウルフ
ホース
ホーク
フクロウ
ウッドパペット
バット
ウッドゴーレム
ビーストエイプ
鬼
赤狐
いつの間にか召喚できるモンスターの種類が増えてました。
これはどういった事態なんだろうか。
インフォで何かあった訳ではないんだが。
思い当たる節はないことはない。
今まで遭遇したモンスター達だ。
それがどういった由来のモンスターであるのかは関係なく【識別】した事があるモンスターの下位互換に見える。
例外なのは最初から召喚モンスターとして登録されていた狼のヴォルフだけだ。
ホース。はぐれ馬と遭遇している。但し倒してはいない。
ホーク。他のプレイヤーのドロップ品を奪っていた所を目撃していた。
フクロウ。師匠の召喚モンスターのマギフクロウだ。
ウッドパペット。恐らくはオートマトンやメタルスキンにシルバースキンといった師匠の人形達。
バット。これは森で遭遇したハンターバットだな。
ウッドゴーレム。この家の門番のストーンゴーレムだ。
ビーストエイプ、鬼、赤狐もそれぞれ今日見た師匠の召喚モンスターの下位互換だと考えていいだろう。
そういう仕組みなのか。
出来るだけ多くの場所を巡り、昼夜に渡って多くの魔物に遭遇していく事で召喚できるモンスターの種類も増えるのか。
納得はできる。
だがその一方で怖い考えも思いついてしまう。
師匠のロック鳥だ。
あれに対応する下位互換の召喚モンスターっている、よね?
まさか、ホークがそうとかないよね?
でもそうでなければ辻褄が合わなくなる。
それにどんだけ育てたらヘリックスがあんな怪獣みたいなのになるというのか。
かわいいままでいて欲しいんですけど。
おっと。
4匹目に召喚するモンスターを決めておかないといけないんだった。
各モンスターの説明位は読んでおくか。
【ウッドゴーレム】召喚モンスター 戦闘位置:地上
木製のゴーレム。主な攻撃手段は手足による格闘。
動きは鈍く細かな作業は不得手だが、タフで力が強く前衛での戦闘に向く。
疲れを知らない忠実な従僕。
【ビーストエイプ】召喚モンスター 戦闘位置:地上
猿獣。主な攻撃手段は手足による格闘。
体格は人間並み。タフで力も強く身軽でもあり前衛での戦闘に向く。
簡単な武器であれば使いこなす事が可能。
【鬼】召喚モンスター 戦闘位置:地上
人型の魔物。攻撃手段は武装による。
体格は人間よりもやや小さい。前衛も後衛もこなす器用さがある。
人間が使う武器はどれも使いこなす事が可能で夜目も利く。
【赤狐】召喚モンスター 戦闘位置:地上
狐。主な攻撃手段は噛み付きと光属性の特殊能力。
体格は小さいが、その動きは素早く、光属性の特殊能力で周囲を支援する。
うーむ、新たに召喚できるのが1匹だけなのに候補がこうも増えてしまっては悩みが増すばかりだ。
当初の考え方に従えば、夜間行動に対応するのが望ましい。
そうなるとフクロウか鬼だな。
今の所はダンジョンのような狭い場所で戦う機会がない。
フクロウでいいか。
師匠のマギフクロウのように先々では雷撃で支援してくれたらありがたいよな。
あれには憧れてしまう。
決めることを決めてしまったらスッキリした。
気持ちよくログアウトするとしよう。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv4
職業 サモナー(召喚術師)Lv3
ボーナスポイント残9
セットスキル
杖Lv3 打撃Lv2 蹴りLv2 関節技Lv2 投げ技Lv1(New!)
回避Lv2 受けLv2 召喚魔法Lv4(↑1)
光魔法Lv2 風魔法Lv2 土魔法Lv2 水魔法Lv2
錬金術Lv3 薬師Lv2
連携Lv3 鑑定Lv3 識別Lv3 耐寒Lv2 掴みLv2
馬術Lv1 精密操作Lv1 跳躍Lv1
装備 初心者のロッド 野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー
布の靴 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv3 お休み
残月 ホースLv2
ヘリックス ホークLv2