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「たかが影の分際で言いたい事を言ってくれてるみたいだけど?」


 え?

 影?


『確かに影であるが』


『看破してみせた所で何も変わらぬ』


『不浄のくせに』


『いや、不浄が故に愚かである』


『気にしまいますな、ご主人様方。不浄なる者の言葉など』


「聞こえるのよね?なら用件だけ言うけどいいかしら?」


 ジュナさんの顔は遠目で見てもいい笑顔なのだが。

 口から出てくる言葉は毒に満てているかのようだ。

 怖いです。



「魔人。魔に身を委ねた可哀想な方々。ちょうどいいわ」


 ジュナさんの言葉は続く。


「この大陸にいた人間をどうされたのかしらね?聞かせて欲しいのだけど?」


 その声はオレの隣から聞こえていた。

 え?

 いつの間に?

 雛壇にもジュナさんの姿は見えるが。

 いや。

 徐々に消えていく。



 それまで一言も発していない魔人が口を開く。

 ザンニって奴の筈だ。

 ブカブカで白い服。

 その仮面は鷲鼻で長く、左右で色合いの違う銀色。

 白く長い顎髭を生やしている。

 露出する口元の印象は老人のようだが。


『笑止。汝等も害獣を駆除した所で何の痛痒も感じまいに』


「あら、同感」


 口調は相変わらずだ。

 しかし横目で見るジュナさんから立ち昇る気配もまた恐ろしい。

 直視できません。


「さて、これからどうなさるのかしら?」


『再び汝等にとっての惨劇が繰り返されるであろう』


 魔人達の姿が徐々に霞んで行く。

 最後に残ったのは、嘲笑。


 それは奇妙に長く耳の奥に残っていた。




「コンメディア・デッラルテ」


「え?」


 むう。

 知っているのか、シェルヴィ?

 オレの視線に気が付いたようです。


「さっきの連中、即興喜劇のキャラだわ」


「へえ」


「魔人、ね。南方面で1回戦ってるけど、今の連中は名前しか【識別】できなかったわ」


「こっちも西方面で魔人と2回ほど戦っている。同じく今の連中は名前しか【識別】できなかったな」


「何だと思います?」


「宣戦布告、だろうね」


 そう。

 恐らくは何かのイベントだろう。

 

 ジュナさんが地面に手を当てて目を閉じ、何かを探るような様子だ。

 その傍らに歩み寄る人影。


 師匠だ。

 それにゲルタ婆様。

 ギルド長も来ていた。


「魔人、ですな」


「問題はこの町の結界を抜けてきた事の方じゃのう」


「組んだのは誰?」


 ジュナさんの問いへの反応は?

 ギルド長とゲルタ婆様が師匠に視線を投げかけた。


「ワシです。師匠」


「鍵は何名分で組んでるの?」


「3名しかおりません」


「ここにはその内の2名がおりますぞ!」


 何故だろう。

 ギルド長の言葉には苦い感情があったような気がする。


「ゲルタ、新しく組むなら貴方が早いわ」


「承知致しました」


「鍵はここにいる4名で。既存の封印術の解除は私がやりましょう」


 一番若く見えるジュナさんだが。

 今は威厳たっぷりです。

 こっちが真の姿、なんだろうか?



 ギルド長がオレ達に向かって頭を下げる。

 続けて語りかけてきた。


「済まぬの。お主達を表彰すべき所であるのじゃが」


 そして雛壇に視線を送る。

 大陸から来た来訪者達は誰もいない。


「授与役がおらぬのでは、な」


「逃げおったか」


 師匠も苦笑する。


「面倒事になりそうですか?師匠」


「もうなっとる」


「魔人、とはな。本国では殆ど見なくなった筈じゃが」


 ゲルタ婆様がギルド長の耳元に何かを囁いている。

 何ですかね?


「仕方ない。お前さん達への褒美はワシから授与するとしよう。暫し待て」


 オレとシェルヴィ達にそう言い残すと、ギルド長は雛壇へ向かう。

 大会終了の宣言はギルド長が行った。

 だが会場内の様相は混沌としたままだ。

 結局、ギルド長からのご褒美は別室で、という事になってしまった。




 ギルド長の新しい執務室はオレ達とシェルヴィ達が全員入るには狭かった。

 つか戦鬼とジェリコがデカいってのもあるんだが。

 風通しを良くする意味でヴォルフ以外の召喚モンスターは帰還させた。


「済まぬが手早く済ませたいのでな」


 そう前置きするとシェルヴィ達1人1人に何かを渡していく。

 魔晶石?

 いや、水晶のようだな。

 美しくカットされている。


「で、優勝の褒美なんじゃが」


「はい」


「これじゃな」


 ギルド長が手にしているのは、箱だ。

 しかも2つ。

 左手にはやや大きい箱。

 右手にはかなり小さい箱。


「どっちがええかのう?」


「は?」


「お主が選ぶがいい」


 ここに来て選択ですか?

 つか舌切り雀?


「えっと、中身は?」


「内緒じゃ」


「え?」


「どっちにしてもお前さんにとって役に立つ代物なのは保証できよう」


 むう。

 非常事態に陥っているんじゃないんですかね?

 それにしては余裕の対応ですが。


「中身のヒントは?」


「なしじゃ」


 もう。

 ケチなんだから。


 大きな葛籠と小さな葛籠ならば大きい方が外れ?

 いや、あの御伽噺は因果応報の教訓を含むものであって、オレは何も酷い事はしていない。

 して、いないよね?

 思い当たる出来事が本選であったような気がする。


 一抹の不安もある。

 小さい方にしておこう。

 間違いなくオレは小心者なのだろう。


「では小さい方で」


「うむ」


 受け取るとすぐに中を確認した。

 仮に妖怪やらが出てきてもすぐに文句が言えますし。


 中身は原石が2つか?



【素材アイテム】アレキサンドライト 品質B レア度6 重量0+

 クリソベリルの変種。太陽光下では青緑、蝋燭光下では鮮紅に変色する。

 希少な宝石で、大きい石は更に少ない。

 魔法発動には色相変化が鮮やかな石である事が大きさよりも優先される。



《これまでの行動経験で【鑑定】がレベルアップしました!》



 うわ。

 レア度6か。

 原石段階で品質Bというのも凄い。

 2つの原石とも品質は同じ、大きさも同等か?

 こいつはそう大きな原石ではないようだが。

 それに原石だと綺麗と言い切れない部分がある。

 ラピダリーにカットして貰わないと、な。


 アイテムがレア度高めであったせいか【鑑定】もレベルアップだ。

 いや、【鑑定】は結構使ってたんだが久々、かな?

 つかここの所はポーションとマナポーションの【鑑定】ばかりだった。

 ようやく上がった、と言うべきだったか。



「うむ。済まぬが別件で用事があるでな。これで解散とする」


 オレとシェルヴィ達が一礼する。

 そのまま部屋を出るか、と思ったが気が付いたようにオレを振り返ってきた。


「おお、キースよ。師匠のオレニューに挨拶はしておけ。一緒に来るんじゃな」


「はあ」


 あちゃあ。

 何かまたあるのかね?

 師匠はまだいいが、苦手なのはジュナさんにゲルタ婆様だ。

 一体どういう事になるのか、読めないし。

 つかオレってば苦手な女性が多過ぎ!



 シェルヴィ達に礼を残して部屋を辞去する。

 ヴォルフだけを連れてギルド長の後を追いかけた。




 試合場になっていた新練兵場に観客は1人もいない。

 そこにいたのはオレの師匠とジュナさんだけだった。

 ゲルタ婆様はどこかに行ってしまっている。


「オレニューよ。封印結界はどうじゃな?」


「検証したが異常は無いの」


「うむ。ワシの見立てでも異常は無い」


「つまり、貴方達に感じ取らせずにこの封印結界を破った、と」


 ジュナさんの声がいつもと違う。

 真面目か。


「鍵となる術式を持っているのは?」


「3人しかおりませぬが」


「つまり犯人はその3人目って事よね?」


「あり得ん!」


 師匠が、吼えた。


「オレニューよ。そうでなければ封印結界をワシ等に気付かせずに抜けてきた事になる」


「ルグラン、それはない!」


「直視なさい、オレニュー!」


 叱る声は厳しく鋭かった。

 オレの姿勢も自然と直立不動に。

 ヴォルフは動く事も出来ない。



 ジュナさんの影から何かが現れる。

 以前にも見たバンパイアデュークだ。

 目は閉じているようだが。


「幻影であっても外側からここに送り込むのは不可能ね」


「では?」


「内側から呼び込んだ、というのも有り得る話だわ。力技になるけど、その方がまだ楽でしょうし」


「人間が、幻影であれ魔人を呼び込んだ?」


「それこそ信じられん!」


「術式は完璧。魔法で傀儡にされている人間も弾く筈」


「では自らの意思で魔人に協力しておると?」


 ふむ。

 どうあれ人間に裏切ってる者がいるって事?


「オレニューよ」


「なんじゃ」


「お主があ奴を追いかけておるのは知っている。足跡はどうかの?」


「残ってはおる。だが撹乱されておるでな。追跡は容易ではない」


 追跡?

 そういえば師匠はよく何処かへと出掛けていたが。


「隠蔽に封印術を使っておるでな」


「あ奴の仕業を疑わずに済むと思うか?」


「分からん」


 急に師匠がガックリとしてしまう。


「ワシにも、分からん」


「そうか」


 困ったな。

 声が出ない。



「本当はキースちゃんの祝勝会でもしたかったのにねえ」


「師匠、それは仕方ないでしょう」


「全く不愉快な連中よねー」


 うわ。

 口調が普段の調子に戻って来てるぞ?


「高位の魔人が直接動いてくれた方が駆除するのは楽なんだけどねー」


「まあキースには普段通り、冒険をして貰うのがええじゃろ」


「ポーションやマナポーションを作って貰う手もあるぞ?」


「ゲルタちゃんの所でお手伝いとか?」


「それではキースが不憫ですぞ」


 まあどっちでもいいんですが。

 先刻までのシリアスな雰囲気ブチ壊しの会話は続き、結論は?

 放流、という事になりました。


「ワシの家にある物は使っていいがの。悪用はしてはならんぞ?」


「はい」


 一応、釘は刺されたのだろうか?

 まあいいけど。



「あ、それとキースちゃん」


「はい」


 いや、ちゃんではなく。

 ツッコミは脳内だけで済ませました。


「試合は見たけど。第一回戦はお見事だったわね。いつも女の子相手にあんな事してるのかしら?」


「いや、あれは事故ですから!」


 くそう。

 これ、暫くの間、言われちゃうんだろうか?

 ジュナさんの場合、明らかに楽しんでいるのが困る。


「では、これで」


「うむ、息災で、な」


 そう願いたいものです。

 もう昼飯の時間を大きく過ぎてしまっている。

 師匠達に一礼して急いで辞去する事にした。




 リックの露店裏は見知った顔が占拠してました。

 マルグリッドさんを始めとした生産職の面々だ。

 与作やハンネスもいる。

 つか紅蓮までいる!


 既に食事を終えて、雑談に興じているようだが。

 屋台にいる優香の目がオレを捉える。

 その笑い顔を見るだけで気分が滅入る。

 屋台裏は雑談で盛り上がってるようだし。 

 仕方ない。

 行くしかないか。


「キースさん、食事はここで?」


「ええ、腹ペコでして」


「ではこれをどうぞ」


「ありがとうございます」


「優勝おめでとうございます。皆さんお待ちみたいですよ?」


 皆さんの視線がオレに集中してますが?

 ホットドッグとコールスローっぽい野菜料理を手にして屋台裏へ。

 更に盛り上がってしまいました。

 食事、させてね?



 優勝おめでとう、というのはまああれだ。

 社交辞令?

 優勝商品って何だった?というのもまあいい。

 宝石でしたよ、で済むからな。

 あの呪文、何だったんだ!という質問もまあいい。

 別に掲示板に書いたっていいし。


 眼福でした、というのはどうかと思う。

 ご馳走様でした、というのも意味が分からない。

 お前ら。

 黒縄で縛っちゃうぞ?


 女性陣の反応がやや心配だったが。

 マルグリッドさんはケラケラと実に楽しそうだ。

 優香やヘルガは特に気にする様子は無い。


「悪意がないって分かっているのよ?でも同じ相手にって運命?」


「勘弁して下さい」


 無論、本選の戦いぶりは語り尽くせないほどであった。

 与作、ハンネス、東雲、紅蓮とは結構話し込みました。


「高機動特化型との戦いは虚を衝かれたかな?」


「それにしてもスチーム・ミストで足止めか」


「少々、怖い手段でしたけどね」


 やはり与作達はあの敗戦を悔やんでいたようだ。

 というか与作も東雲も不完全燃焼、といった所だろう。


「足止めなら木魔法の呪文でも出来そうですし、壁呪文も利用できそうですよね?」


 紅蓮の指摘は尤もだな。

 まあタラレバの話ではあるのだが。


「真っ先にハンネスが沈んだのは地味に痛かったか?」


「だな」


「最初、明らかに攻撃が集中してましたからねえ」


 互いに同じ動画を視聴しながら反省会は続いた。

 無論、あの試合もあるのだがそこは敢えて無視で。


 そして問題の決勝戦。

 結果はさておき、話題の中心はあの魔人達だ。


「魔人、か」


「イベント、ですよね?」


「また何か魔物の行動に変化が起きるかな?」


 ですよね。

 魔人、とは言っても試合場に現れた連中とそのまま戦う事になるのか?

 レベルが見えてないし。

 不安は大きいです。

 まあエリアポータル開放時に戦った連中であれば何とかなりそうであるが。


「そうだ、マルグリッドさんに依頼しておきたいのですが」


「あら、何?」


「これの加工をお願いしたいのですが」


 取り出したのはアレキサンドライトの原石2つ。

 大会優勝の賞品だ。


「これを?例の台座に?」


「ええ」


「これまでにない代物になるわ、これ」


 おお。

 さすがレア度6ですか。


「私独力じゃ無理かも。工房で師匠の指導が必要だわ」


「え?」


「今までと違うカットにしたいのよね。ちょっと勿体無いし」


「はあ」


「師匠の予定次第だけどここで加工するわ。受け渡しがここか風霊の村になりそうだけど、いい?」


「お任せしますよ」


「分かったわ。早速行って来る」


 そう言い残すとリックに何事か伝言すると去って行った。

 急ぎの依頼ではないのですが。




 雑談は続く。

 昼飯時は過ぎていたし、客が少ないのが幸いしたようだ。

 周囲に迷惑になる程ではないが、結構盛り上がってました。

 まあ、たまにはいいだろう。

主人公 キース

種族 人間 男 種族Lv17

職業 グランドサモナー(召喚魔法師)Lv3

ボーナスポイント残 37


セットスキル

杖Lv14 打撃Lv11 蹴りLv11 関節技Lv11 投げ技Lv11

回避Lv11 受けLv11 召喚魔法Lv17 時空魔法Lv10

光魔法Lv9 風魔法Lv10 土魔法Lv9 水魔法Lv10

火魔法Lv10 闇魔法Lv9 氷魔法Lv8 雷魔法Lv8

木魔法Lv8 塵魔法Lv8 溶魔法Lv8 灼魔法Lv8

錬金術Lv8 薬師Lv7 ガラス工Lv6 木工Lv6

連携Lv13 鑑定Lv13(↑1)識別Lv13 看破Lv4 耐寒Lv6

掴みLv10 馬術Lv10 精密操作Lv12 ロープワークLv2

跳躍Lv6 軽業Lv3 耐暑Lv7 登攀Lv6 平衡Lv2

二刀流Lv10 解体Lv7

身体強化Lv8 精神強化Lv9 高速詠唱Lv11

魔法効果拡大Lv8 魔法範囲拡大Lv8


装備 呵責の杖×1 呵責のトンファー×2

   呵責の捕物棒×1 怒りのツルハシ+×2 白銀の首飾り+

   雪豹の隠し爪×1 疾風虎の隠し爪×2 雪豹のバグナグ×1

   草原獅子のバグナグ×1 闘牛の革鎧+ほか

   呵責の腕輪+×2 呵責の足輪+×2 獄卒の黒縄×1

   暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2


所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式


称号 老召喚術師の高弟 森守の紋章 中庸を知る者

   呪文辞書 格闘師範

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも女の子相手にあんな事してるのかしら? こんなの母親に言われてると思ったらかわいそうで笑える
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