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引き続き観戦するとしよう。
但し、先刻までと違い、オレの周囲は華やかだ。
女性プレイヤーが6名。
だがオレには潤いはない。
観戦しながら召喚モンスターが愛でられるばかりだ。
フェアリーのヘザー、赤狐のナインテイル、ライオンのレーヴェ。
女性陣の餌食である。
アデルとイリーナも召喚モンスターの陣容を切り替えている。
もうね。
オレ達のいる一角だけ、空気が違っている。
まあ仕方がないか。
しかし、まあ、なんだ。
マルグリッドさん、ライオンの手触りがいたくお気に入りのようだ。
片手でオレのレーヴェ、もう片手でアデルのらーちゃんを愛でながら観戦を楽しんでいる。
いや。
本当に試合を楽しんでますか?
レイナの膝の上でナインテイルは寝ている。
完全に、寝ている。
寝ている。
そこ、代わって欲しいデス。
おっと。
試合だ、試合。
オレ達が陣取った席からは臨時試合場のB面とD面が両方見える。
特等席と言って差し支えないポジションだ。
距離も十分に近く、それでいて戦闘の様子も見渡せる。
完璧に近い、な。
試合はどれも頭を空っぽにして楽しめた。
だからこそ、記憶に引っ掛かるチームもある。
特に興味を引く、という意味でもあるけどな。
全員が機動力重視の速攻型。
3名がファイター、1名がハンター、それにエルフソーサラーにトレジャーハンター。
これは見事だった。
全員、独楽鼠のように良く動く。
なんと言ってもファイターの1人とトレジャーハンターがいい。
2人とも格闘戦スタイルなのだ。
相手チームの前衛を潰すのには苦戦したけどな。
格闘ファイターが後衛の1人を仕留める過程が気に入った。
打撃も蹴りも使う。
投げも使った。
そして首を絞めたまま前衛への盾として利用するとか。
オレ好みです。
エルフソーサラーも機動力を活かして最後まで生き残っている。
互いに武技が交錯する中、呪文の支援は的確だったと言えるだろう。
自分自身のHPバーがなくなりそうだったけどな!
そして注目せざるを得ないチームだってある。
「東雲ちゃん、がんばれー!」
「ハンネスさん、ファイトー!」
レイナとヘルガの声が飛ぶ。
そう。
風霊の村、生産職選抜とも言えるチームの登場である。
??? Lv.13
ランバージャック 待機中
??? Lv.13
ストーンカッター 待機中
??? Lv.11
ブラックスミス 待機中
??? Lv.11
ファーマー 待機中
??? Lv.11
セラミックワーカー 待機中
??? Lv.11
アルケミスト 待機中
名前を知っているメンバーがいます。
ランバージャックさんこと与作。
ストーンカッターでドワーフの東雲。
ファーマーのハンネス。
全員、顔が見えたから分かる。
名前が分からない3名も見た覚えがある。
「生産職の選抜チーム、ですか?」
「そう。私も後衛で名前が挙がってたけど今回もパス。痛覚全開はさすがにキツイものね」
オレの目の前に座るマルグリッドさんはそう言うが。
マルグリッド Lv.12
ラピダリー 待機中
確かに【識別】してみたらマルグリッドさんも結構なレベルにまで達している。
さすがだな。
周囲の歓声も明らかに異なっている。
注目チームは違うなあ。
試合はすぐに決着してしまった。
相手は決して弱くない。
全員、レベル12だったし。
与作達のチーム戦術は単純そのものだった。
力押し。
それだけだ。
しかも前衛4名後衛2名の変則構成。
与作と東雲が並んで真正面から挑み、その両翼をブラックスミスとハンネスが遊撃となっていた。
半包囲する前に当然攻撃を何発も喰らいながら前進を止めなかった。
呪文で築かれた土壁もあったのだが、力技でぶち壊して進む。
相手の前衛は3名。
しかも2名は相当の重装備だった筈だ。
噛み砕かれた、という表現が適切だっただろう。
両手斧と重槌に盾ごと吹き飛ばされてましたよ?
何それ。
両翼の遊撃が攻撃を加えるまでもなく、前衛が沈黙する。
なんとまあ。
単純明快。
それでいて見事。
相手チームだって何もしていなかった訳ではないのに、な。
中央の前衛2名が力だけで蹂躙した格好だ。
「ねえ、キース」
「なんでしょう、マルグリッドさん」
「貴方なら、あれ相手にどうする?」
「何も。普段通りに当たって砕けろで」
「それはまた男前すぎるわねえ」
「ええ。お互いに策を弄する余裕はないと思いますが」
「そう?」
「そう思いますよ」
しょうがない。
正直な感想を言えばそうなのだ。
問題は与作だけではない。
隣で並んで戦闘を展開する東雲も与作に劣らない脅威なのが分かる。
考える余地はない。
正直、真正面からぶつかってみる以外にないと思う。
サモナー2名と召喚モンスター4匹で構成したチームも登場した。
つか昨日見た顔だよな?
前衛にウッドゴーレムとビッグクラブを並べ、タイガーとウルフで消耗を強いる戦術である。
残念ながら、敗北。
ウッドゴーレムが相手チームの集中砲火で沈んでしまってからは常に劣勢になってしまったのが痛かった。
カニは最後まで善戦してましたよ?
「今の対戦、何が敗因でしょう?」
オレの右隣にいるイリーナの質問であった。
まあ思う所は当然ある訳だが。
「呪文で支援出来るにしても後衛2名に絞られるからな。強化呪文の掛け合いでは分が悪いのは当然だな」
「壁役の召喚モンスターの特性を活かしてたとは思うのですが」
「そうだな。相手チームは全員がレベル10超えだったし、大健闘だったと思うよ?」
「途中で手はなかったんでしょうか?」
「前衛の1枚を先に倒しきっていたら展開が違った、だろうな」
そう。
途中で勝機はあった。
前衛が戦線離脱寸前にまでHPバーを減らしていたのだが。
後衛の回復呪文が間に合ってしまった。
「状況を冷静に俯瞰で見れるかも大切って事かな?」
「確かに」
イリーナも考え込んでしまう。
そう、それはサモナーでチームを組む全員に共通する課題だろう。
無論、オレにだって言える事だ。
第二回戦は続く。
見応えのある試合ばかりだ。
どの試合も、面白い。
個人戦と様相がまるで違うっていうのも面白い。
2試合ほど、バードを後衛に据えたチームの戦いを見た。
バードの防御を固めて呪歌と呪曲でHPダメージの効果を最大限活かそうとするチーム。
反対にバードの支援を攻撃力向上のみに限定、速攻を仕掛けるチーム。
考え方が真逆だったりするのも興味深いな。
精霊はわりと良く見る。
これがまた難しい存在だな。
精霊も長時間、顕現出来る訳ではないらしい。
だからこそ、いなくなるまで耐え切る、という選択をする相手チームは多かった。
それが良い方向に転ぶ事もあれば、悪い方向に転ぶ事もある。
それが果たして正解なのか?
分からない。
オレは真っ先に倒しに行ったが。
無論、オレ同様に先に倒そうとするチームもいた。
だがそれには呪文の支援が要るし、攻撃呪文にしても何発か叩き込む必要がある。
厄介だ。
だが精霊を使ってくるチームの勝率はそんなに高いように見えない。
使い所が難しいようだな。
プレイヤー1名分の活躍を得られずに終わると悲惨だ。
精霊にそれだけの能力があるだけに、エルフの判断が問われる。
面白い。
というよりも興味深いな。
普通に楽しんでいたつもりが、脳内で別の事を考えているオレがいる。
どうする?
オレなら、どうする?
答えは常に前傾姿勢、になっちゃうんだけどな。
第二回戦が全て終了したのは午後3時前だった。
試合進行が思いっきり早いってのもあったが。
「あー堪能した!」
「個人戦とはやっぱり全然違うわね」
感想は概ねそんなところに集約されるのだろう。
事前に分かっている事ではあるが、目の当たりにすると意味が違ってくるだろう。
具体的な比較対象が出来る。
うん。
いい事なんじゃないかな?
運営が企図しているのも案外単純なものなのかもしれない。
「じゃあ私達はここで!」
「お疲れ様でした」
何故だろう。
アデルとイリーナに両脇をブロックされてる気がするのだが。
マルグリッドさん一行とは臨時試合場の外で別れる事になった。
おい。
何をたくらんでいるんだ?
まあ分かるが。
「つまり、今日もあるんだな?」
「え?え?」
「えっと、実は」
「どうせ暇だしいいぞ」
うむ。
そんな所なんだろうな。
まあ予想はしてたし、悪くないと思うぞ?
だが予想外な事もあった。
参加者が昨日から更に増えてました。
今日の集会は最初から変則になった。
参加メンバーが集まった所でオレがインスタント・ポータルを展開。
その中で交流会兼食事会をする事に。
当たり前だが一番の利点はログアウト出来る事だ。
宿をレムトに求めなくともいいしな。
「広さは限られています!対戦モードの使用は控えてね!」
そう。
インスタント・ポータルの広さなのだが、サッカー場程度なら楽に入る広さがある。
その中で対戦モードを展開するのは楽に出来るのだが。
それが憚れるほどに人が多い。
いや、召喚モンスターが多い。
何なの、このカオス。
ふれあい動物園みたいで楽しいじゃないの。
食事会が始まる前からもうね。
女性陣から人気の召喚モンスターは昨日と同じな訳ですが。
より大きな話題を呼んだ存在が、いた。
「エルフのサモナーでヒョードルです」
そう。
そのエルフは可憐であった。
でも男の子。
そのエルフは小さかった。
男性ではある筈なのだが。
そのエルフは美形であった。
まあ、エルフだしな。
まだレベル4で大会には出場していないようだが、オフ会参加の為に来たのだとか。
「か、可愛い」
「ね?ね?お姉ちゃんって呼んでくれない?」
「これは、いける」
周囲の声はこんな感じだ。
逃げて。
ヒョードル君、逃げて!
男性陣の心からの声は通じなかったようだ。
お姉様達に捕まってしまってます。
済まぬ。
救出には、行けない。
そんな自信がないのですよ。
彼、初日には来ていたそうだが、昨日はいなかったよな?
目立つし。
つかアレだ。
召喚モンスター以上に人気者?
それに男性陣の心を奪うような存在がががが。
マーメイドだ。
しかも昨日から増えて4匹になっているし。
その可憐な姿は癒されるとしか言いようがない。
インスタント・ポータルの端は川にまで到達していたのが良かった。
その一角は男性サモナーが集結しています。
いやはや、4匹とも個性があっていいですな。
皆それぞれに魅力的です。
特に胸元とか。
恥ずかしがってる表情とか。
ちょっと怒ってる表情とか。
「この変態共めっ!」
女性サモナーにしてマーメイドを昨日披露してくれた此花さんが怒ってます。
その怒声に反応してる奴もいたりするんだが。
ヤバいな。
本物の変態が混じっているのではないかな?
「皆の衆!メシが出来たぞ!」
今日はアデルもイリーナも料理を手伝っていたらしい。
つかプレイヤー達に配ってました。
いやはや。
召喚モンスター達が周囲を駆け回っていてもうね。
今日は互いに披露する事はせず、互いに好みの子をナデナデする事がメインになりつつある。
大丈夫か?
まあ大丈夫なんだろうけどな。
オレが召喚している面子は?
グレイウルフのヴォルフ、フェアリーのヘザー、赤狐のナインテイル、タイガーのティグリス。
それにライオンのレーヴェだ。
明らかにナデナデされる事が前提のメンバーで固定です。
まあいいんですけど。
何名かは一旦ログアウトしてから戻ってきて参加している。
これはマズい。
不夜城になるぞ?
そういうオレもイリーナのトグロを枕にしてこの狂乱の宴を眺めていたりする訳だが。
大会についての話題?
なんですか、それ?
ヒョードルくんがオレに質問してきていましたが、あっという間にお姉さま達に拉致されてしまっていた。
済まぬ。
オレ、君を助けてあげる事は出来ないんだ。
ゴメンよ。
「こういう集会になるとは思っていましたけど」
「ま、こうなるよな」
「想像以上でした」
「アデルを見ていたら想像出来たんじゃないのか?」
イリーナも呆れ顔だが。
君だって大差ないぞ?
フェアリーのヘザーやミュレを愛でている時の様子を見せてあげたいものだ。
そういえばフェアリーも何匹か増えてるみたいです、ハイ。
やはり人気があるんだな。
目の前を赤狐軍団が駆け回る。
その後ろを追いかける狼軍団。
微笑ましい?
いや、ちょっと頭が痛いです。
「そういえば予選第三回戦に進んだのは?」
そう。
ここに集まったメンバーでは3チームだけになっている。
少ないのか。
サモナーの数のわりには多いのか。
「今日来れなかったサモナー同士で組んでるチームがもう2つありますね」
「やっぱり減っちゃうよな」
「本選は32チームか。サモナーさんは行くとして、もう1チーム予選突破できたらいいなあ」
待て。
待て待て待て待て。
オレは確定枠でいいのか?
結構強いチームも見掛けるんですけど?
時刻は既に午後9時を過ぎた。
歓談は2次会3次会の雰囲気になりつつある。
同好の士が必ずいるものだから会話が弾んでいるのは、分かる。
あまり夜更かしするのもどうかと思うぞ?
「そろそろお開きにするよ!」
春菜の号令で1本締めが行われた。
しかしまあなんだ。
アルコール入ってないのによくもまあここまで盛り上がれるものだ。
「じゃあ私もログアウトするかね」
「キースさん」
「うん?」
「明日の朝もまさか」
「対戦か」
アデルとイリーナが身構えているな。
ふむ。
実はジェリコについての工夫はもう1手、考えてはいたんだが。
上手くいく自信はまるでない。
できれば相手が欲しかったんですよね。
「何回か相手をして欲しいんだがなあ」
「やっぱり!」
「もう少しハンデが欲しいんですけど」
「そおかあ?」
何を甘えているか。
だが、まあそうだな。
いい試みになるかもしれない。
「まあ、それはいいか」
「助かります」
うむ。
まあオレとしても対戦相手を確保できる意味の方が大きいんですよ。
頼みます。




