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練兵場に入ると驚いた。
ギルド長はまあ、いい。
随分と派手な格好をした連中がいる。
遠目からでも上等と思えるマントや飾り帯が見えた。
何やら旗を捧げ持つ兵士もいたりするし。
一段と派手なマントを着込んだ奴が数名いる。
共通の意匠。
どこの騎士団だよ。
派手な兜を小脇に抱えたのが恐らくはこの一行のトップなのだろう。
あのギルド長を相手に鷹揚な態度を崩さない。
なんでしょうね、この人達?
「ギルド長、例の納品が確認できました。ゲルタ様の元に行かねばなりませんが」
「ふむ」
なにやら偉そうな連中はこっちを見ようともしない。
まあ面倒がなくていいか。
「申し訳ない。急用がありますのでお話の続きはまた後ほど」
「左様であるか」
「ではこちらへ」
職員さんが先導して一行を別の建屋の方へと先導していく。
なんでしょうね?
横目で手近な奴を【識別】してみた。
旗を持っている奴だ。
子爵家準騎士 ブレストン Lv.4
ランサー 移動中
戦闘位置:地上
なんじゃこりゃ。
ギルド長と同様、肩書きがあるんか。
一行がいなくなるとギルド長が大きな溜息を吐いた。
同時に弱音も吐いた。
「あれはまだいいんじゃよ、あれは」
「はあ」
「どうせお飾りの巡検使じゃしな。だが会いたくない奴もおる」
「巡検使、ですか?」
「海の向うの連中の、じゃがな。色々と便宜を図って貰っておる手前、邪険にも出来んしの」
長い愚痴になりそうな予感がした。
だがそれ以上、何も言わない。
深い事情でもあるんですかね?
「おお、そうじゃった。オレニューの奴はまだおったか?」
「今はどうか分かりませんが、昼前には家で会いました」
「あ奴が来たくないのも無理はない。だがマナポーションの作成はやって貰わないとのう」
「はあ」
どうも各地に探索活動をしている冒険者へマナポーションをより多く供給する事を企図しているみたいなんだが。
作れるレベルに達している薬師の数が足りないらしい。
いや、より正確に言えば、マナポーションそのものが量産し難いようだが。
世知辛い話になりそうだ。
かつてのポーション不足と基本的に事情が変わってない。
問題がもう1つあるらしい。
師匠も言っていた、アレだ。
依存性のある麻薬のような薬も作ってしまえるのだそうで。
まあマジックマッシュルームが原料じゃそうなりますって。
「悪用した連中を取り締まるのも難儀じゃ。奴らの中にはそれを生業とする連中も、おる」
「いるでしょうね」
「だからこそ作成依頼する相手も慎重にせんと、な」
ギルド長に促されて練兵場を横切っていく。
別の建屋に案内された。
新築、だな。
「ここがアルケミストとファーマシーの巣窟じゃ。つまりゲルタがここのボスという事になる」
「はあ」
「キースも発言には気をつけるんじゃな」
『聞こえとるぞ』
体が硬直しちゃいました。
今、オレは召喚モンスターを連れていない。
気がつきませんでした。
頭上に、ヘビがいます。
間違いなく、召喚モンスターだな。
『まあ、ええ。はよう入って来るんじゃな』
ギルド長と顔を見合わせる。
呆けた顔を見せられても、ねえ、
これはもう腹を括るしかないですって。
オレは無関係ですから!
入った先は作業場だろうか。
何やら柑橘類のいい匂いがする。
そこには当然だがゲルタ婆様がいた。
NPCを示す黄色のマーカーが他にも3つ。
プレイヤーを示す緑のマーカーが1つ。
そして緊張を増す様子のギルド長。
なんだ?
「ほう、オレニューの所の弟子もおったか」
「お久しぶりです」
「うむ。ところでオレニューめは一緒ではなかったのか?」
「いえ。代理で納品に来たのですが」
ゲルタ婆様がギルド長を睨み付けた。
「お前が知らせたのか?この愚か者め!」
「姉上、私が知らせずともアレに知られずに済むとお思いですか?」
「分かっておるわ!唯の八つ当たりじゃ!」
そう言うとゲルタ婆様の口調が一転する。
「申し訳ございません、師匠。不甲斐なき実弟と弟弟子でして」
そう言葉を投げかけたのはNPCのうちの1人だ。
品の良さそうな妙齢の女性のようだが。
師匠って?
「構いませんよ、オレニューが私を怖がるのは今に始まった事ではないのですから」
なんだろう。
この女性に対する態度が解せない。
積み重ねた年数を感じさせる雰囲気を持つ2人の老人が示しているのは間違いなく敬意である。
「それよりも気になる事を言ってましたね?ゲルタ」
「師匠?」
「オレニューの弟子、と言いましたか?」
「はい」
「そうなのですか?ルグラン」
「は。間違いございません」
訳が分からないな。
無礼は承知で【識別】してみよう。
枢密顧問 ジュナ Lv.???
デスカーディナル 会話中
???
《これまでの行動経験で【識別】がレベルアップしました!》
レベルアップは置いておくとして、だ。
なんか凄い肩書きが。
恐らくは職業の所がデスカーディナルなのかね?
聞いた事がないんですけど。
「私の名はジュナ、とある国で相談役のような事もしてます。まあ隠居みたいなものですよ」
「あ、サモナーのキースと申します」
一礼、しておく。
顔を上げたら品の良い女性という印象が一変していた。
「若いようですがもうグランドサモナーとは。オレニューにしては出来の良い弟子を育てているようですね?」
印象は変わらない、ように見える。
だがその目だけが違う。
恐怖をかきたててくる目だ。
そう、まるで爬虫類のような。
横合いからゲルタ婆様が付け加えた。
「キースよ、ジュナ様は私の召喚魔法と錬金術の師匠である」
「え?」
「ジュナ様は若き頃からネクロマンサーとして名高い方でもあった。若く見えるのも無理はない」
「ゲルタ、今はデスカーディナルですよ?」
「如何にも。師匠はネクロマンサーからデスカーディナルとなり、一層お若くなられたようにも見えます」
「中身は貴方よりも遥かに年上なのですよ?」
「師匠、単にこれは私のやっかみです」
ゲルタ婆様は師匠である筈のジュナの頬を両手で引っ張って怒るような口調で呪いの言葉を吐いた。
「何です?この肌!プニプニしててもう!」
「こ、これ、およしなさい!」
まあじゃれあってる様子は、いい。
ゲルタ婆様の師匠?
孫とかじゃなくて?
いや、それよりもゲルタ婆様の師匠って事は?
ギルド長を見る。
「もしかして、私の師匠の?」
「うむ。オレニューの奴の師匠でもある」
「にゅにょにきゅにー」
オレから見て師匠の師匠であるジュナさんですが、その言葉は完全に聞き取れませんでした。
「まあええわい。オレニューにはこれを渡しておけ」
ゲルタ婆様にそう言われて山のような量のマジックマッシュルームを渡されました。
半端ない量だ。
軽いからいいけどさ。
「あの子にマナポーション作らせてるの?」
「人手が要るのですよ」
「ルグラン、どうせここに長逗留するんだし、私も手伝いましょうか?」
「巡検使と同行しないで良いのですか?」
「放っておきなさい。どうせ物見遊山の連中なのです」
今度はオレに近寄ってくる。
顔!
顔が近いって!顔!
「貴方の召喚モンスターも見ておきたいわね?」
いかん。
この顔に覚えがあるぞ。
悪戯者の目だ。
師匠といっしょか。
「キースよ、諦めたが良いぞ」
「私も見ておきたいの」
ダメだ。
ギルド長もゲルタ婆様も助けにならない。
詰んでいたのだ。
この町に来た時点で、既に。
場所は練兵場。
ジュナさんとゲルタ婆様にギルド長しかいない。
そこへオレが馬留めから召喚モンスターを連れて行った
ヴォルフ、残月、ヘリックス、黒曜、ヘザーと揃っている。
「ゲルタはどう見る?」
「なかなかと見ますが」
「そう。でも私の好みとは違うのよねー」
「師匠はネクロマンサーだった時期が長かったですから。アンデッドに思い入れが強すぎるのですよ」
「ゲルタってばまだアンデッドは嫌い?」
「嫌いではありません!苦手なだけです!」
「それ、変わらないんじゃない?」
凄いな。
あのゲルタ婆様が押されてます。
オレだとまともに言い返せそうにない。
ジュナさんが手招きするとヴォルフが近寄っていく。
そして撫でる。
手つきが慣れているな。
この人もモフモフ好きなのかね?
「キース、だったわね?貴方の召喚モンスターにアンデッドはいる?」
「スケルトンとミストならいますが」
「あら!いいわね!」
食い付いた。
食いついちゃった。
アデル同様のモフモフ好きではないのか?
ヘザーを帰還させて、瑞雲、それに続いて無明を召喚する事になりました。
昼間なのに済まないな。
瑞雲はまだ召喚してから成長していない。
それにしても、だ。
無明を見たジュナさん爆笑です。
「カ、カニって、貴方って凄い感性してるわー」
オレ、ジュナさんに背中をバンバンと叩かれてます。
ツボに入ったみたいだ。
カニ由来の防具って軽くていいと思いますけど?
「いいわー貴方、じゃあ私もいいもの見せてあげるわ」
呪文詠唱が始まった。
ゲルタ婆様もギルド長も、一瞬にして顔色が変わっていた。
「師匠!」
「ジュナ様、自重して下され!」
「サモン・モンスター!」
制止を振り切るように呪文が唱えられて、何かが現れてくる。
大きくはないな。
人間と同じ大きさのようだが。
バンパイアデューク Lv.???
召喚モンスター 待機中
戦闘位置:地上、空中
その姿は異様とも言える美しい男だった。
間違いなく、ナルシストだろう。
ローブをまとった立ち姿はポーズをとっているようにしか見えない。
つか昼間からバンパイアってどうなのよ?
「かっこいいでしょ?」
「し、師匠!」
「ジュナ様、やり過ぎですぞ!」
「かっこいい、でしょ?」
無言で頷くしかないではないか。
バンパイアデュークはローブをより目深にして目を閉じたまま佇んでいる。
昼間ではあるのだが、頭上の黄色のマーカーに状態異常を示すマーカーが付いてない。
つまり、この状態でペナルティはないって事?
どんだけ化け物なんだ。
「ちゃんと目を瞑っているじゃないの。安心なさい」
「それでも怖いんです!」
「洒落になってませんぞ」
オレはもう言葉が出ない。
師匠も大概だと思っていたが、この人は更に酷い。
師匠の師匠だからなのかね?
「どう?」
「凄いですね」
「こういうの、召喚できるようになりたい?」
「憧れますね」
「そう、なら錬金術はよく学んでおく事ね」
うっ。
ここの所【錬金術】はそんなに成長できていない。
痛い所を突かれてしまっているな。
「錬金術を修めるといい事があると?」
「そのうちに分かると思うわよ?」
なんだろう。
師匠やゲルタ婆様の師匠というのだが、外見相応の女性にしか感じられない。
つか言動は子供っぽい所があるな。
それって師匠もそうだよな?
「では、納品は終えましたので戻ります」
「おお、そうじゃ。オレニューに伝えておいてくれ。100本を明後日までに、じゃ」
「確かに。お伝えします」
ギルド長達とは練兵場で辞去することにした。
ジュナさんがにこやかに片手を挙げて手を振ってますが。
騙されてはいけない。
この人が一番、危ない。
視界から消えるまで、緊張が解けませんでした。
残月を駆って師匠の家を目指す。
布陣はここに来る時のものに戻っている。
帰り道は順調でした。
魔物は相変わらず襲ってきてはいるが。
全部、簡単に返り討ちな訳でして。
だから襲ってくるなって!
森の入り口にある物見櫓に到達するまで、何故か魔物が定期的に襲ってきている。
森の中、レギアスの村への街道も同様であった。
はぐれ馬が襲ってくる。
まあ美味しい相手とも言えるし、それはいい。
暴れギンケイ(メス)が街道に出てきてまで襲ってくるのはそう多くない筈なんだが。
なんだろう、この違和感。
師匠の家に到着。
だが大きな違和感がある。
ストーンゴーレムが、動いている。
その肩にはマギフクロウもいた。
『キース!そこで止まれ!今のお主を通す訳にいかん!』
え?
オレ、なんかしましたか?
マギフクロウがオレの頭に飛び移ってくる。
確実に、敵意を感じた。
攻撃こそされなかったのだが。
「どうかしましたか?」
『お主のせいではない!だが厄介な』
「あら?誰が厄介なのかしらね?」
おかしい。
オレでも師匠でもない声がどこからか聞こえてきます。
『出たな妖怪!』
「誰が妖怪か」
どこだ?
どこに、いる?
この声は分かる。
ジュナさん?
「ここよ、ここなの」
オレの影が不自然に揺らいでいた。
その中からもう1つの影が生まれる。
黒一色の姿は徐々に本来の姿に戻ってくる。
ジュナさんであった。
レムトで会った時と同じ姿だ。
マジックショー?
「ふふ、驚いた?」
「ええ」
「もっと驚いていそうなのがいるわねえ」
家を囲む壁の向こうに何か大きな存在が現れた。
ロック鳥だ。
「逃げるつもり?この期に及んで往生際の悪い」
ジュナさんが手を伸ばす。
彼女は身に寸鉄も帯びていない。
杖も、ない。
だがその両手の指には指輪がある。
センス・マジックを掛けてなくても分かる。
凄まじい魔力を秘めていそうだ。
「ダーク・プリズン!」
周囲が闇に閉ざされていく。
師匠の家も全体が覆われてしまっていた。
ロック鳥は?
飛べない。
いや、飛ぼうとしているのだが、闇を突破できないらしい。
ジュナさんは師匠のマギフクロウに向かって語りかける。
「そんなに毛嫌いしなくていいじゃない?用件が済んだら退散するわよ?」
『その用件って奴が怖い!』
「なによー」
何だ?
師匠はジュナさんを相当忌避している様子だが、ジュナさんは師匠にそう悪い印象を持ってるようではない。
むしろ、逆だ。
押し問答は聞いていて頭が痛くなりそうであったが、結局ジュナさんの方が強かったようだ。
師匠が、押し切られた。
ストーンゴーレムは起動したままだったが、その足元をジュナさんは進む。
そこにストーンゴーレムが居ないかのように。
楽しそうにも見えた。
まあ、いいか。
師匠に逃げられたのではオレも困る所だったし。
マナポーション作成には興味があったからねえ。
家の前に師匠がいる。
ロック鳥はオレの目の前で帰還していった。
「あーら、オレニューちゃん、お久ー」
ジュナさん、オレの目の前で師匠に抱きつきに行ったぞ?
師匠はされるがままだ。
その目は虚ろである。
気の毒に。
でもオレを代理で納品に行かせた時点で詰んでいたと思います!
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv16
職業 グランドサモナー(召喚魔法師)Lv2
ボーナスポイント残 30
セットスキル
杖Lv13 打撃Lv10 蹴りLv10 関節技Lv10 投げ技Lv10
回避Lv10 受けLv10 召喚魔法Lv16 時空魔法Lv8
光魔法Lv9 風魔法Lv9 土魔法Lv9 水魔法Lv9
火魔法Lv9 闇魔法Lv9 氷魔法Lv7 雷魔法Lv7
木魔法Lv7 塵魔法Lv7 溶魔法Lv7 灼魔法Lv7
錬金術Lv6 薬師Lv5 ガラス工Lv3 木工Lv6
連携Lv12 鑑定Lv11 識別Lv12(↑1)看破Lv4 耐寒Lv6
掴みLv9 馬術Lv9 精密操作Lv11
跳躍Lv5 軽業Lv2 耐暑Lv6 登攀Lv6
二刀流Lv9 解体Lv7
身体強化Lv7 精神強化Lv8 高速詠唱Lv10
魔法効果拡大Lv7 魔法範囲拡大Lv7
装備 呵責の杖×1 呵責のトンファー×2
呵責の捕物棒×1 怒りのツルハシ+×2 白銀の首飾り+
雪豹の隠し爪×1 疾風虎の隠し爪×2 雪豹のバグナグ×1
草原獅子のバグナグ×1 闘牛の革鎧+ほか
呵責の腕輪+×2 呵責の足輪×2
暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の高弟 森守の紋章 中庸を知る者
呪文辞書 格闘師範




