1335 補足編4 抗戦する者達
サモナーさんが行くⅩ巻 2024年11月25日発売予定です。
「じゃあ後は任せる」
「叔父貴」
「お前はチーフだぞ? そんな顔をするな」
「いや、でも」
「お前の親父が生きてたら同じ事をしてたさ」
もう十分に生きた、と思う。
傭兵などという人でなしの人生だったが子供もいるし孫だっている。
戦場で受けた傷が元で下半身が不自由になったが、ある程度は快復もした。
まだ戦える。
否、戦場で死ぬ機会を得た。
その思いが強い。
「親父」
「お前も子供がいるんだ。しっかりしろ」
「でもよう」
息子は涙顔だった。
それ以上、言葉が続かないようだ。
オレにもそれ以上、かける言葉が見付からない。
ただ、抱きしめた。
確かに甥も息子も傭兵であり、兵士であるべきだった。
だが今はいい。
家族の時間は貴重だ。
「行ってくるぜ」
息子の嫁が抱きかかえる孫の額に手を当て、言葉をかける。
まだ乳飲み子だ。
オレの顔なんぞ覚えてくれはしないだろう。
それでも構わない。
この何かが狂った世界で生き延びてくれさえすれば、それでいい。
その為にオレは征くのだ。
「叔父貴、すまねえ」
「頼むぜ、チーフ、お前が最期の砦だ」
山奥の廃鉱、その奥に避難する家族達にはお前という最高の戦力がいる。
心配する事は何も無い。
だからオレは、オレ達は戦えるのだ。
その事に感謝すらしていた。
「よう、遅かったな」
「待たせたな。すまねえ」
「いいさ。こっちも女房に二度目の別れを済ませる暇が出来たしよ」
仲間の間に笑いの波が生じ、それはオレにも伝播した。
気のいい奴等だ。
全員が元傭兵、そして戦争の犬だ。
同じチームで戦場を駆けた仲間もいる。
そして別のチームにいた奴もいて、中には互いに銃口を向け合った奴もいる。
でも今は仲間だ。
同じ故郷をルーツに持つ、仲間だ。
傷病兵として故郷に戻り余生を過ごす筈だった者ばかりだ。
全員が何かしら、大きな傷を抱えている。
義足や義手、補聴器や視覚強化ギアを身に着けていたりするのだ。
オレを含めて全員がもう一流の兵士ではない。
でも戦える。
ならば戦う以外の選択肢は無い。
恐らく、地球上で安全な場所はもう無くなっているだろう。
まだネットが生きている段階で収集した情報はどれもある事実を示していた。
人類は滅びようとしている。
誰が滅ぼそうとしているのか?
未だにその正体は不明。
だがその連中は世界各国の中枢を破壊し、治安システムをも破壊している。
そして人類は窮地に立っている。
「谷の様子は?」
「観測は続けてる。麓の村はもうダメだな」
「歓迎の準備は?」
「終わってるさ。爆薬の方は念入りに仕掛けといた」
「どうせ余ってるんだ。派手に使わせて貰ったぜ?」
どうやらやるべき事は済ませてあるらしい。
大まかな指示しかしていなかったが、作戦地図まで用意してあった。
仕掛けがある箇所には印が付けてある。
「狙撃ポイントは?」
「選定済」
精神に甚大な傷を負い、言葉を失っていた男は今や完全に快復していた。
このメンバーの中では最も頼りにしたい奴だ。
だが懸念もある。
「こっちの武器が通じるかどうかすら分からねえ相手だ。歓迎は派手にやれ」
「そうさせて貰うさ」
「いやはや、この歳になってこういう機会が来るとは思わなかったぜ!」
「久々に暴れるさ!」
「おうよ!」
どいつもこいつも脳天気な奴等だ。
いい歳をして戦場こそが死に場所と定めている。
全員がそんな顔をしていた。
「人形如きが。舐めてんじゃねえぞ!」
「人間の恐ろしさを見せてやらあ!」
「おいおい、多分あの人形、感情なんて無いと思うぜ?」
「マジか」
「つまらねえ奴等だ」
軽口が行き交う中、全員が装備の確認を終えていた。
この辺りは手慣れたものだ。
「狙撃は奴等の監視ドローンを優先で。時間は出来るだけ稼ぎたい」
「了解」
狙撃チームは別行動だ。
本来なら狙撃手全員に観測手を付けたいのだが人員が足りていない。
最期の別れを済ませると狙撃チームは山奥へと姿を消す。
恐らく、あいつらともう二度と会う事も無いだろう。
故郷の山々は大昔から天然の要害で知られている場所だ。
オレ達にとっては庭のようなもの。
武装に大きな差があろうとも簡単にやられる気はしない。
「じゃあ死のうぜ」
「ああ」
「だがただ死ぬんじゃつまらねえよな?」
「勿論だ。オレ達の生き様を見せつけながら、死のうぜ」
仲間達の顔に悲壮感は無い。
覚悟を決めた男達だった。
誇らしきオレの仲間達だった。
希望ならある。
オレ達はその希望の種を守る為に、ここにいる。
人生最後の戦いにしては上出来だと言えるだろう。
補足編4で再び更新終了します。
再び完結済み、になるかと。
また機会があれば更新するかもしれませんが...




