表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1333/1335

1333 補足編2 最凶の兵士

サモナーさんが行くⅩ巻 2024年11月25日発売予定です。

「一体、何をやってるの?」


「見ての通りよ」


 監察官の誰何の声も今は煩わしい。

 この基地の補助電源はまだ生きているけど果たしていつまで保つ?

 否、ここだっていつあの戦闘ロボットが殺到して来てもおかしくない。


 そもそも誰何される謂われは無い。

 私は軍から命令されている事を実行しているだけ。

 即ち、あのオーバーテクノロジーの塊のような戦力への対抗手段の開発。

 でもこの基地に集められた技術者集団でもこのガラクタの解析が精一杯。

 だったら私はこうする。

 即ちガラクタから完成体を組み上げるのだ。



「貴女は逃げるかと思っていたわ」


「一応、軍人扱いだもの」


「軍人でも逃げている連中がいるのに?」


「どこに逃げても一緒よ」


 状況はもう切迫を通り越して絶望的だ。

 この国の政治の中枢、大統領府も今は機能していない。

 そう判断するしかなくなっていた。

 全国の発電所、水道といったライフラインも破壊された。

 港湾や駅も破壊され、残された移動手段も車だけだ。

 そして起きたのが暴動。

 治安システムが機能しなくなっているのだ。

 しかもこの国の市民は自衛のための武装も認められてきた。

 今やそれが最悪の状況を引き起こしている。

 即ち、市民同士の殺し合いだ。



「そっちこそまだこんな所に残っているなんてね」


「貴女が何をするのか、見届ける必要があるでしょ?」


「任務に忠実なのね。こんな時でも監視を緩めないなんて」


「逃げ損ねているだけよ」


 彼女の美しい顔に浮かぶ陰りの色は濃い。

 この基地の警備兵は早々に基地防衛に回っていてもう誰もいない。

 きっともう誰も戻って来ないだろう。

 そしてこの基地は既に包囲されている。

 あの忌々しいロボット達にだ。


 彼女は監察官であり、本来はこの基地の指揮命令系統の下にいない。

 それが結果的に今も命を長らえている理由だ。



「それ、動かせるの?」


「ええ」


「制御はどうするつもり? 敵の人工知能は使えないでしょ?」


「分かってるクセに」


「やっぱり。正気の沙汰じゃないわね」


「そうね。正気じゃいられないもの」


 彼女は露骨に顔を(しか)めた。

 予想済みだったのだとしても尚、忌避感は払拭出来ないらしい。


 もう準備は出来ている。

 私の専門は人間型ロボットの制御。

 彼を用いてそのプログラムはより洗練されていた。

 それでも足りない部分がある。

 それは触覚だ。

 でも擬似的にではあるが、指先の感圧で再現出来るようになっている。

 彼にとってはまだ不満だらけなんでしょうけど、無いよりはマシの筈。


 一番苦労したのはこのロボットに用いられている接続規格。

 それも他の技術者が解析済みだった。

 私が手を加えたのはもっと別のもの。

 それは彼を支援する人工知能。

 仮想人格に私自身を使っているけど彼は気付くだろうか?



「これ、使う?」


「要らない。私じゃ撃っても当たらないし」


「自決用に、よ」


「それでも要らない。野垂れ死に上等だもの」


 彼女が差し出したのはハンドガン。

 でも必要性を感じない。

 死に様は自分で決めたかった。



「じゃあ私は先に行くわよ」


「何処へ?」


「上層部へ報告しに行くのよ。貴女の行動は軍の規範に著しく反します」


「命令に充実で結構」


「貴女ほどじゃないわ」


 皮肉が効いてるけど普段ほどじゃないわね。

 キレが無い。

 私は手を挙げてヒラヒラと振ってみせた。

 彼女は普段見せない、笑顔を浮かべていた。




「遂にネットワークも使えない、か」


 軍の専用回線は数日前に使えなくなっていた。

 民間の方はまだ生き残っていたけれど、それも今や使えない。

 僅かに接続されている回線も混雑していて使えないも同然だった。

 情報収集はもう出来ない。

 そして彼も困る事だろう。

 例のゲームにはもう接続出来ないからだ。


 でも彼にとっては朗報かも?

 戦う相手は無数に存在する。

 戦う手段は私が用意した。

 戦う理由は?

 それは彼自身が勝手に見付けるだろう。


 私は手を動かし続けていた。

 彼を支援する人工知能のデータベースに補足情報を打ち込み続けていた。

 主にロボット達に割り振られていた敵味方識別コードだ。

 外付けユニットの探査ブローブも調整し続けていた。

 無駄になるかも知れないが、役に立つかも知れない。


 脳波モニターを確認する。

 その兆候ならある。

 もうすぐ彼は眠りから目覚めるだろう。

 私の迷いは、そして贖罪はそこで果たされるかも?

 即ち、彼による断罪。

 野垂れ死にするよりも遙かにマシだと思う。

 お願いよ、スクリューボール。

 私の期待に応えて欲しい。



『何だ? これは?』


「お目覚めのようね、スクリューボール」


 さて、彼には何から説明したらいいのかしら?

 混乱しているのはこっちも同様、多少の整理が出来ているだけだ。



『ネットワーク環境が全滅しているぞ?』


「分かっているわよっ!」


『困った。ログイン出来ないか』


「心配するのはそこなの?」


『何しろゲームに没頭するしか無かったんでね』


 やっぱりそう来るのね?

 本当に困った。

 彼が戦う理由にゲームがもっとやりたいから、というのはどうかしら?

 私にはそれで十分な気がしていた。


 彼は今、基地内のネットワークを用いて情報を収集している事だろう。

 私は少し待つ事にした。

 いずれ我が愛しのモルモットは解き放たれる。

 最強の、そして最悪にして最凶の兵士は既に誕生していた。

 でもその活躍を私は見届ける事が出来ないだろう。

 それだけが残念だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
モルモット扱いをしながら「愛しの」か… スクリューボールが聞いたらなんと答えるのやら 特別な感情をもちながらそういう扱いをしたのは監視の目がずっとあったからなのかね
更新超うれしい!
彼女の複雑な想いにスクリューボールと呼ばれる彼が気が付くことはあるのだろうか?その後の破壊活動とフィーナとの再会までを考えると厳しいものがあるね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ