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1331 ここより永遠に

 彼だ。

 私は彼がキースだとすぐに分かった。

 カフェで携帯端末を眺めているその姿は普通の会社員のように見えるけど・・・

 近寄り難い雰囲気を身に纏っていた。

 こういった存在を私は知っている。

 警察官、そして自衛官。

 でも彼の場合、その本質はそれ以上に剣呑なものなのだ。

 多分、気配を抑えていても尚、このレベルになっているのだと思う。


 彼の顔付きは精悍そのもの。

 キースの現実の姿を幾つか知っている私には少し違和感があった。

 でもその雰囲気は一緒だった。

 スポーツ選手にも似たシルエット、鍛え上げられた肉体の持ち主だと分かる。

 どこか犬を・・・いえ、狼を連想するような感じ?

 携帯端末にぶら下がった可愛らしいストラップがまるで似合っていなかった。



「相席、いいですか?」


「・・・どうぞ」


 符号に関しては全く心配していない。

 問題はそこから先だ。


 私は防衛大学に進み、順調なら自衛官に任官する予定だ。

 当然だけどある程度、体は鍛えてある。

 武道だってやっている。

 いえ、あのジュナ様から武術の指導を受けていて何度も対戦している。

 でもキースの領域に到達なんて出来ない。

 ジュナ様ってば簡単に押し倒しちゃえなんて言ってたけど・・・

 ・・・押し倒す?

 ・・・この私が?

 ジュナ様なら可能なんでしょうけど、私があのキースに勝てるかって?

 無理。

 絶対、無理!

 でもそれ以上に『彼女』の存在が問題だった。

 先に結婚でもされていたら勝ち目なんて皆無。


 私はフィーナ達の記憶を受け継いでいる。

 その中にはフィーナ・ジュリエットの記憶だってある。

 キース・ヤンキーと現実でも結婚している、唯一の存在。

 その感情が、情念が、まるで炎のようになって私自身を灼いているのが分かる。

 ・・・私ってばこんなに嫉妬深い女だったの?

 フィーナ・ジュリエットの記憶がそうさせているのは確かだ。

 願わくばキース・ヤンキーの記憶が彼を衝き動かしてくれる事を願うしかない。



「・・・可愛らしいストラップですね。ワンちゃんですか?」


「・・・いや、これは狼なんですよ」


「名前は?」


「ヴォルフ」


 符号は完璧。

 あなた、と言いかけたけどその言葉は全力で心の奥に飲み込んだ。

 私は多分、笑っているのだと思う。

 泣いてもいるのだと思う。

 次の言葉は?

 もう符号なんて必要なかった。



「仲間がいるって素敵ね、キース」


「ええ、本当に」


 彼と手を握り合って、そう言うのが精一杯。

 本当に精一杯だった。

 ・・・

 ジュナ様からは色々と手管は教えて貰っているけれど、自信なんてない。

 どうする?

 どうやって、このキースを籠絡したらいいの?

 一応、彼の左手薬指に指輪は嵌められていないのは確認した。

 それでも怖い。

 彼に『彼女』の事を聞くのが、怖い。

 でも私を衝き動かすのはずっと胸の奥にしまってあった感情。

 抑えるのはもう、無理だった。



「ねえ、キース。早速で悪いけどお願いがあるの」


「・・・何です? フィーナさん。情報交換なら時間は十分にありますが」


「私と一緒にあそこに行かない?」


「・・・え? 食事しながら情報交換ですか?」


 私が指差した先にあるのは高級ホテルだった。

 ・・・確かにあのホテルには美味しいレストランがあるけど!

 私が言いたいのはそういう意味じゃないわよッ!



「違うわ。ベッドの上で」


「・・・はい?」


「ベッドの上で、情報交換しない?」


「・・・えっと・・・はい?」


 こうなったら正面突破!

 私は多分、顔を真っ赤にしているのだと思う。

 恥ずかしいけど、我慢なんて出来ないっ!



「・・・驚いたな」


「・・・私も驚いてるわ」


「・・・」


「・・・」


 私は彼の手を強く握りしめていた。

 そんな私の手を、彼は優しく握り返していた。



「それで、どうするの?」


「・・・受けて立ちますよ」


「本気で?」


 彼は苦笑していた。

 私を見る目はどこまでも優しい。

 そんな気もしたけど、それは一瞬だったように思う。



「家訓なんで。来る者は拒まず、迎撃せよってね」


 真剣な目で彼はそう言い放った。

 ・・・多分、厳しい戦いになるのかも?

 でも私は彼に負けるつもりなんて微塵もなかった。



「・・・負けないわよ?」


 私は泣き笑いのまま、彼の手を取り席を立った。

 ここより永遠に。

 そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

 そう、ここより永遠に、戦いが続くのだと私は思った。

1331話で区切りとさせて頂きます。

長い作品にお付き合い下さり誠にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
うわぁ…これはすごい強行突破 でも今までの結びつきを重ねて来た記憶があるならもういくしかないよね… この二人の未来に…幸あれ
[良い点] とても楽しませていただきました。ありがとうございます。 [一言] 最初の完結で唯一気になっていた、サモナーさんなのに召喚モンスター達を気にせず、一人で行ってしまう点が、今回の再編で解消され…
[気になる点] キース・ヤンキーが結婚してるのは『彼女』だったのでは?キース・マイクとフィーナ・オスカーが現実で結婚してたと1325話で描かれてるのにヤンキーとジュリエットが結婚してるってどういうこと…
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