1327 反撃編4
「あなたッ!」
『戦線から離脱する、後は任せた!』
「無事に帰って来てね!」
返答はない。
既にあの人の頭の中はお爺さんの事しかなくなっているだろう。
「フィーナ・アルファへ! キース・ヤンキーがそちらへ急行中!」
『了解、ジュリエット! こちらの戦況は視覚化して送ります!』
キース・ブラボーから送られた映像なら見た。
無数にいる作務衣姿の老人。
それがキースのお爺さんの分身だというのは分かる。
そして本体のお爺さんが一種の特異点なのだというのも承知していた。
夫が、否、キース達がお爺さんに対して殺意を抱く理由も分かる。
・・・分かっている。
私の中で僅かだけど、嫉妬の炎が燃えさかっていた。
「アデル! イリーナ! 戦況はどう?」
『マハラジャアシパトラとヴリトラの写身は片付けました!』
『ジズが厄介! でも何とかなりそう!』
地上の状況は先程確認してあるから大丈夫。
ジズは確かに強敵、キース・ヤンキー抜きで倒すのは時間が掛かるだろう。
フィーナ・ロメオに援軍を頼もうかしら?
でもアデルの見立ても確かだと思える。
黄晶竜の繰り出した精霊達はまだ半分以上残っていた。
支援も十分に間に合う。
敵右翼は全滅、中央は残敵掃討の段階だ。
半包囲していた味方は敵左翼の後背に回り込みつつある。
第二遊撃軍が突撃して敵陣内は大混戦となっていて戦況把握が難しかった。
でも確かな事がある。
戦況はこちら側の圧倒的有利だ。
しかし分からない。
運営側はこの結果を予測していなかったのだろうか?
確かに繰り出してきた戦力は前回を大幅に上回っていた。
でもそれはこちらが想定していた程じゃなかった。
予想外だったのはキースのお爺さんが現れた事。
・・・
急に不安になってきた。
何かがおかしい。
「地上戦力は戦線を一旦下げます! 再編成組の防御陣まで後退!」
『『『『了解!』』』』
「春菜、此花へ! 地上のサモナー組は編成を対地攻撃布陣に変更!」
『『ハイッ!』』
敵中央の残敵掃討も順調。
私達も早めに敵左翼を包囲したい所だけど・・・
フィーナ・エコーとリンクしている仮想ウィンドウを確認。
今の所、危険な兆候は見られない。
『フィーナ・アルファより各位、黄金人形三体を確保!』
『了解! 第七軍は後退、本部と合流します!』
『相互距離を再確認! 包囲を崩さないで!』
全体の戦況でも順調みたい。
それだけに運営側の動きが不気味に思えた。
「状況は!」
「見ての通りだ!」
キース・アルファが爺さんと戦っていた。
しかも・・・爺さんが七人?
いや、遠目だが他にも爺さんがいる!
キース・ブラボーと親父殿も戦っているのだろう。
傷だらけのキース・アルファの肩に触れて回復呪文を使おうとしたが・・・
発動しない?
「武技も呪文も全部ダメだ! 使うなら呪符を!」
「応ッ!」
「動かないアダムカドモンは攻撃してこないが破壊出来ない!」
上空から魔法円と魔方陣が重なって描かれているのは見た。
各所にいるアダムカドモンの間に幾つもの線が走っていたのだ。
そうか。
アダムカドモンを使って結界を張っている訳か。
刀を手にしつつ爺さん達に対峙する。
ダメだ。
冷静に。
冷静になれ!
自分に言い聞かせたくとも抑えが効かない!
爺さん達が同時に動く!
但し無言のままだ。
襲い掛かってくる斬撃を躱し、弾き返し、そして受け流す。
・・・おかしい。
おかしい!
オレの中で違和感が膨れ上がる。
強い。
間違いなく、強い。
剣豪の英霊達に匹敵する強さだ。
でもこれが爺さんか?
まるで狂気を感じなかった。
「分かるか、ズール!」
「・・・ああ!」
「本体が別にいる! こいつらは劣化コピーに過ぎない!」
「・・・だろうな!」
だがそんな劣化コピーの爺さんの数は多い。
しかし問題ない。
剣豪の英霊達とどれだけ対戦しただろう?
複数を相手にする事だって珍しくない。
攻勢を凌ぐだけなら十分に可能だ。
すぐにキース・ビクターとキース・エクスレイが来る。
今は守勢に回っているが十分に逆転可能!
「「キィャャャャャャャャャャャャャャャャーーーッ!」」
否。
いや、今からでも逆転してやる!
キース・アルファはずっと守勢だった鬱憤が堪っていたいたのだろう。
攻勢に出やがった!
オレも続いた。
そもそも爺さんを目の前にして、我慢出来るか!
例えそれが劣化コピーであったとしてもだ!
「・・・キララ、コーパル! ジュナ・アルファと合流しろ!」
『そんな!』
『ボク達も、行く!』
「・・・お前達にはまだ早い」
ハンドサインで雲母竜と琥珀竜に合図を出す。
もうこの辺りに展開していたアストラルドラゴンもユニバーサルドラゴンもいない。
敵左翼もかなりの戦力を維持しているが包囲の輪は完成しつつある。
このまま押し切れるだろう。
本部を奇襲してきた戦力も壊滅しつつある。
スローンは残り二体だが、援軍の第八軍を相手に粘っているのも事実だ。
雲母竜と琥珀竜にはこの戦いの総仕上げに暴れて貰おう。
オレは?
勿論、行く。
爺さんがいるなら行く以外の選択肢はない。
・・・プラネットダイバー・オンラインは大型ロボットを用いるゲームだ。
その一方で生身で用いるスキルも用意されていた。
当然だがオレは取得して鍛え上げてある。
特に格闘系はそうだ。
刀については言うまでもない。
ロボットと動作リンクさせてあるから必須なのだ。
ああ、ダメだ!
オレの中で狂気が溢れかえっているのが、分かる。
発散する方法は唯一つ。
殺す。
この手で爺さんを、殺す。
だがそれだけでは終わらない。
終わらせない!
オレにはもう帰る場所はない。
ログアウトしてみた所でそれは虚無の世界だ。
・・・世界を救えなかった。
その思いは慟哭となり、心の奥底で狂気へと変換されていた。
運営め。
爺さんを使って何を企む?
・・・いずれにしてもその目論見は潰す。
潰さずにおくものかよッ!
オレはキース・ケベック。
プラネットダイバー・オンラインの残党。
そして運営にとっての凶刃。
待っているがいい。
運営の首を刈り取るその日まで、オレは戦い続けてやる!




