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1312 蛇足の蛇足22 家族の風景3

「かわいー」


「わ、我にも抱かせてくれ!」


「ダメ! おっぱいが先!」


「「・・・」」


 オレ達はその光景を直視出来なかった。

 母さんと生まれたばかりの赤ん坊までなら微笑ましいで済む。

 父である魔神がもうメロメロになっている!

 普段なら対戦相手にしたい所だが今は役立たずだ。

 こんな有様で勝っても意味はない。

 そもそも対戦を望んでも受けてはくれないだろう。



「師匠、追加ですぞ!」


「あらゲルタちゃん、ありがと!」


 多分、ゲルタ婆様が哺乳瓶を手渡しているのだろう。

 しかも中身は豊穣の乳の筈。

 母乳だけでは足りないからだ。

 その理由とは?



「ところでキースちゃん達! 名前は決まった?」


「・・・まだ考え中です」


「・・・同じく」


「早くしてねー」


 どちらが赤ん坊の名前を決めるのか?

 そこは悩まなくて済んだ。

 双子だったのだ!

 相談しつつ名前を決めようとするがどれも今ひとつ。

 お互いにセンスがない。

 オレも、もう一人のオレも元々は同一人物なのだと思い知る。

 それにしても不思議だ。

 召喚モンスターだとサッサと決めていたのに!

 何故なんだろう?



「師匠。この場合って赤ん坊の人格は誰なんです?」


「基本的に適当に選ばれた人格のコピーになる筈じゃが」


「大丈夫なんですか、それで?」


「人格形成は後天的なものじゃよ。教育が肝心じゃな」


「そういうものですか・・・」


 オレニュー師匠の見解に納得はするのだが・・・

 同時に恐怖した。

 後天的に?

 この両親の元で教育?

 父親が魔神で母親が死霊術師。

 両親揃ってオレ達が勝てないような高位の存在。

 どんな幼児教育が施されるのだろう?

 物心がついた頃には立派な化け物になっている未来が見える!



「キースよ。お前さん達の場合はどうじゃったかな?」


「どう、とは?」


「教育じゃよ。さぞかし厳しかったんじゃろうがの・・・」


「厳しい、という言葉じゃ足りませんね」


「狂気の沙汰でしたよ」


「・・・ほう?」


 もう一人のオレと視線を交わす。

 同時に溜息。

 思い出したくないけど思い出してしまった。

 あの爺様がオレに課した鍛錬、か。

 一言で表現するなら、異常だ。

 ただ異常な鍛錬も毎日続けば日常になる。

 そう、当時は異常と感じる事すらなかった。

 しかも爺様の場合、己にもオレに課した以上の鍛錬をこなしていた。

 異常と感じるようになったのは爺様を殺した後の話になる。



「キースちゃん、名前はまだー?」


「は、ハイッ!」


「もうちょっと待ってて下さいッ!」


 母に急かされてしまった!

 ・・・それにしてもオレ達が名付け親になるのか。

 そう思うと感慨深い。

 急がれている一方で少し嬉しくもあった。





「女の子が・・・キララ?」


「で、男の子が、コーパル・・・か!」


 キララは雲母、コーパルは半ば化石となった琥珀を意味する。

 そう、雲母竜と琥珀竜にちなんで名付けた。

 キララは日本語だしコーパルは英語で統一感はないが・・・

 オレは召喚モンスター達には何かに因んで名前を与えていた。

 だから赤ん坊の名前もそうした。

 我ながらいい名前だと思う。

 いや、どちらももう一人のオレが提案した名前だけどな!



「う、うむ! そうか!」


「キララちゃん、それにコーパルちゃんね!」


 両親の嬉しそうな声。

 喜んでくれて一安心。

 そう思ったのだが・・・

 魔神がどこか寂しそうだ。

 ゲルタ婆様が抱くコーパルを覗き込んでいた。

 ・・・まだ抱かせて貰えていないのか?



「・・・我が友にも見せたいが、いいか?」


「いいわよ? ゲルタちゃん、キララちゃんもお願い!」


「・・・我はまだダメか?」


「だってハヤトちゃん、危なっかしいんだもの!」


 父である魔神が涙目になってる。

 赤ん坊を抱くのはまだダメか。

 まあそうかも?

 魔神のパワーで加減を間違えたら大変な事になりそうだし。


 ゲルタ婆様は双子を抱いて部屋を出た。

 父はその後をオロオロとした様子でついて行くだけだ。

 母はそんな様子を見届けるとベッドに身を任せる。

 ここまで疲労困憊な母は初めて見た。

 どれだけ高位の存在であっても出産は大変なんだな・・・



「・・・キースちゃん、現実の方は順調?」


「ボチボチ進めてます」


「・・・いいのよ、それで。焦ってみても仕方ないもの」


 復興は順調なのだろうか?

 オレには判断し難い。

 最初の生存者達を発見してから一年以上が経過していた。

 捜索なら今も続けている。

 ここ数ヶ月の間、新たな生存者は発見出来ていない。

 それでも望みは捨てない。

 捨ててはならないと思う。


 避難キャンプは数万人規模になっている。

 衣食住の問題はない。

 ただ宇宙への移住については難航中だ。

 軌道エレベーターの先端、アンカー部に小型コロニーはあるのだが・・・

 移住者は千人に満たない。

 それだけ地上に留まる事を希望する者は多かった。

 ・・・まあいきなりじゃ無理だよな?

 時間を掛けるしかない。


 それに説得したくともオレは脳と脳幹だけの存在だ。

 直接対面した避難民はいない。

 偵察ドローンや作業ロボットを通して対話する程度だ。

 未だに不信感は払拭出来ていなかった。

 当然だな。

 それにあの戦闘ロボットに搭載して対話は逆効果だ。

 突破口は見えない。


 除染作業の方は順調に推移した。

 ナノマシンの量産比率も改質用を減らして製造用を増やしている。

 ケニアとエクアドルの軌道エレベーターを完成させたいからだ。

 そして三つの軌道エレベーターの中継ステーションを繋ぐ。

 土星の輪のように地球に輪を作るようなものだ。

 それすらも完成形ではない。

 その輪に幾つもの施設が備わっていないと意味がない。

 計画では農耕プラントと小型コロニーを建設する予定でいる。

 工業プラントはその次の段階だ。

 必要となる資材は膨大だが調達の目処はついていた。

 試作で製造した宇宙船を使って小惑星を一つ、搬送中だ。

 ナノマシンのエサにしては巨大過ぎるが次の準備もしている。

 宇宙船は現在、五隻を建造中。

 目下の所、次元航行デバイスの製造を急いでいる。

 中継ステーションのスペースが限られているのが悩みだが・・・

 何、平行世界で出来ている事なのだ。

 出来る。

 やれば、出来る!



「ママの方は?」


「順調、なのかしらね?」


 ジュナさんは自らと魔神の両方の人格を平行世界に飛ばしていた。

 但しその数は少なく三箇所だけ。

 父母、それにオレが揃って生存している世界は少なかったらしい。

 それに管理者としてのリソースが少なかった。

 多くの世界で爺様は猛威を奮っていた訳だ。

 息子を殺し、嫁を殺し、時に孫すらも殺す。

 尋常じゃない。

 それでもオレの人格形成に大きく関わったのも爺様だ。

 そして魔神でもある父も、だな。



「オレニューちゃんの方はどう?」


「昨日、新たな世界が接続されましたが・・・」


「師匠、何か問題でも?」


「場所が海魔の島の西でな・・・」


「「・・・」」


 師匠がどこか恨みがましい視線をオレ達に送っていた。

 海魔の島周辺は強力な魔物が多数、生息している。

 ゲームを始めたばかりのプレイヤーでは勝てない。

 ユニオン編成であっても無理だな。

 一掃されて終わりだ!

 でもそれってオレ達の責任なんだろうか?



「新たなゲーム世界、ですか」


「私もいますかね?」


「どうじゃろうな。探すにしても時間を掛けるしかないのじゃが・・・」


「「・・・」」


「お前さん達の時は失敗じゃったからの・・・」


 あの、師匠?

 ・・・それもオレ達の責任じゃないですよね?

 オレ達が失敗したんじゃないですよね?



「こっちのキースにも手伝って貰わんと、な?」


「えっ?」


「何、難しい事ではないぞ? 儂もルグランもやっておるし」


「えっ? えっ?」


「弟子を鍛えるつもりで何人か預かってくれたらええんじゃ」


 もう一人のオレは困惑しているようだ。

 自分の時間を割かれるのは困るのだろう。

 それにしても弟子か。

 アデル達やゼータくん達のような感じになるかな?


 もう一人のオレがオレの肩を掴む。

 目で何かを訴えかけていた。

 ・・・うん、ガンバレ!

 オレは心の底から応援しているぞ!



「実は相談があるんだが・・・」


「そうか。ところで対戦でもしとくか?」


「真面目に聞け!」


「こっちは真面目だぞ?」


「じゃあその目は何だ! 笑ってるぞ!」


「あ、そうだ。そろそろ戻って復興作業の進捗状況を確認しないと・・・」


「お前な・・・表に出ろ!」


「望むところだ!」


 通算の対戦成績ではオレが一つ負け越している。

 悪いが今日、イーブンにさせて貰おう。

 きっとそうなる。

 そんな予感がしていた。

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― 新着の感想 ―
双子ちゃんかぁ…それにしてもミルクが豊穣の乳とか家庭環境も含めてとんでもないエリートが育つのでは…?
[良い点] 家族が増えた [一言] 妹と弟誕生おめでとうー! ジュナさんお疲れ様! 魔神が形無しだけど気持ちはわかる 両親があれとあれで兄がそれ、ギルド関係者のあれそれもドラゴンズと召喚獣も周囲にいて…
[一言] 魔神とジュナさんはたった3か所か…、あの爺様暴れすぎ! 双子ちゃんかぁ、周りの人たちが高位存在だからその教育が怖いなァ。 そういえばPC、NPC化したら年を取るようになるのだろうか?ゲーム…
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