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1310 番外編2 獣達

本日更新4回目です。

 これは一体、何じゃ?

 炭小屋に戻り休憩する筈だったが・・・

 明らかにおかしい。

 中で孫が食事の用意をして待っている。

 その筈じゃが・・・

 中から感じ取れるのは明らかな殺気。

 獣が炭小屋を襲いでもしたか?

 板戸の隙間から中を確認した方がええじゃろう。


 違った。

 殺気を放っていたのはその孫じゃった。

 いや、本当に我が孫か?

 朝、儂を送り出した孫と同一人物とは思えん。


 何が孫をここまで変貌させたのか?

 分からん。

 分からんが、殺意の主は我が孫。

 そして儂の視線と孫の視線が交錯した。


 ・・・何かが爆発した!

 それは狂気なのだと儂は知る。



「チェァァァァァァァァァァァァァーーーーッ!」


「カハハッ!」


 儂の中には獣がおる。

 その獣が孫の放つ狂気を受けて歓喜しておる!

 孫の放った斬撃は鎬で滑らせて跳ね返した。

 刀の切っ先を一気に回転させ、孫を袈裟斬りにする!

 ・・・その筈じゃった。


 儂が放った斬撃が斬り落とされた!

 まさか?

 切っ先が地面を抉っておる!

 土を跳ね上げて孫の顔面に放った。

 じゃが孫の姿はそこにはもうない。

 どこに消えた?



「どういうつもりかの?」


「・・・爺さん、アンタはここで死ね」


「ほう、死ねときたか」


 どこに隠れている?

 いや、それ以上に瞠目すべき事があるのう。

 先程までの殺気が見事に消えておる!

 儂がこの領域に足を踏み入れるまで、どれ程に鍛錬を重ねたか?

 それを思え。

 十年?

 いや、二十年?

 いやいや、もうどうでもよいわ!


 儂の中で獣が歓喜していた。

 そして戦慄していた。

 どうやって、とは思わん。

 目の前に儂を殺そうとする、儂と同様の獣がいる。

 今は姿を隠し儂の喉元を狙っておる!

 先程、剥き出しになった牙ならば見た。

 殺意は十分。

 狂気も申し分ない。

 ただ孫は体が出来上がっておらぬ筈。

 年は確か・・・十四歳であったか? 



「シャァァァァァァァァァァァァァーーーーッ!」


「キヒヒッ!」


 左か?

 横合いから放たれた斬撃。

 一瞬で抜刀術と知れた。

 一撃目は受け流し、二撃目は跳ね返す。

 そして三撃目!

 今のは何じゃ?



「クククッ!」


「何がおかしい?」


「儂が教えた剣ではないのう・・・」


「それで?」


「よいぞ! そのまま続けよ」


「・・・そうしよう」


 儂は思わず笑っていた。

 世の中には不思議な事があるもんじゃな。

 ・・・一撃目と二撃目は連続技。

 切っ先の軌道を途中で変える、竜尾じゃった。

 連続で放って右袈裟斬り、そして左袈裟斬りを狙ったか。

 そして三撃目の突き!

 問題はこの突きじゃな・・・


 殺意が無かった。

 狂気も無かった。

 意識の外から放たれた、必殺の一撃じゃな。

 恐らくは奥の手。

 実際、首の皮一枚を斬られたようじゃしの!



「・・・チッ!」


 孫の姿がまた消える。

 消える直前に儂が見たのは?

 両手に刀を手にする孫の姿じゃった。

 思わず舌打ちする。

 突きの正体はもう一方の刀と知れる。

 ・・・そうか。

 儂は失望していた。


 二刀流、か。

 片手で刀を振る事ならば今の孫でも出来よう。

 肉を浅く斬る程度ならば可能じゃろうな。

 だが骨まで断ち斬る事は出来まい。

 三撃目に突きを放ったのも道理じゃな。


 愚かな。

 我が孫ながら剣の才は十分にある。

 息子より上かもしれんの。

 じゃがこの孫は息子にない物が備わっておる!

 狂気じゃ。

 それは息子に宿る事がなかった。

 なればこそ、惜しい。

 今少し待てばよいものを!

 孫よ、儂を斬るにはまだ早いぞ!



「あんたは息子を殺した」


「・・・」


「オレの母も殺したな?」


「・・・どこで知った?」


「さて、どこだったかな?」


 ほう。

 知っておったのか?

 ならばこの殺気も納得じゃな。

 だがこれ程の狂気を宿すには若い。

 明らかに若い。

 幼いとすら言えるじゃろ。

 じゃがその疑問に答えはせんじゃろうな。


 空気が研ぎ澄まされてゆく。

 儂自身もまた一振りの刀と化す。

 孫の気配は断たれたまま。

 見事なり。

 さて孫よ、どう儂を斬る?



「シッ!」


「ケェェェェッ!」


 背後から来たか。

 バカめ!

 斬りかかる直前、殺気が漏れておったぞ!

 僅かに足を引き半身で孫を迎え撃つ。

 嵐のような連続攻撃じゃがどれも軽い。

 全く、この愚か者がっ!



「ムッ?」


 何じゃ、これは?

 腕に力が入らない?

 いや、腕が軽い?

 ・・・違う!

 両腕が肘の先からなくなっておる!

 バカな!



「この矢筈の山があんたの墓標だ」


「・・・ッ?」


 儂は地面に叩き付けられた。

 投げられた、のではないな。

 両脚が断たれた。

 横目には儂自身の脚が見えておる!



「ハハッ・・・ハハハハハハハハハハッ!」


「何がおかしい?」


「愉快じゃ!・・・よくぞここまで極めた!」


「そうか・・・では、死ね」


 いかんのう。

 意識が遠のく。

 血を流し過ぎたから、じゃな。

 ・・・まだじゃ。

 見せてくれ。

 最後に一目、我が孫の姿を見せてくれ!


 ・・・孫の姿はさながら鬼のようであった。

 目に宿る狂気だけでもそう思えたじゃろうな。

 これぞ出水兵児。

 こうでなくてはならん!

 息子には失望しかなかった。

 孫も肥後の血を半分引く半端者かと思ったが・・・

 儂の見込み違いであったようじゃ。


 儂の喉元に切っ先が触れる。

 愉快じゃ!

 死の間際にこれ程、愉快な気分になれるとは!

 我が孫よ。

 お前には感謝しかない。

 願わくば修羅の如き人生を送るがいい!

 恐らく、お前が最後の出水兵児となるのじゃろう、な・・・




 爺さん。

 何故、笑う?

 どこか吹っ切れた、そんな笑顔をしているぞ?

 これまで一度も見せてくれなかったな。

 いい笑顔だよ。

 ちょっと腹立たしいけどね。


 爺さん。

 あんたが看破した通りだ。

 オレの剣の師匠はあんただけじゃないんだ。

 様々な剣豪の英霊達を相手に己という刀を研ぎ続けた。

 それにもう一人のオレとも互いを磨き続けた。

 子供だと侮っていただろ?

 そう、子供だ。

 今日の朝まで、子供だった。

 今は違う。

 違っていたんだ。

 悪いけどね。

 殺気、それに狂気を放つ斬撃。

 それらに混じって殺気も狂気も感じさせない斬撃。

 斬られたのが分からなかっただろ?

 もうね、どれ程の鍛錬を必要とした事か!

 ただこれを修得しても尚、護法魔王尊には勝てていないんだ・・・

 不思議だよな?


 爺さん。

 あんたはいずれ、オレの恋人を殺す。

 その筈だった。

 そんな運命なんてオレには受け入れ難かったんだよ。

 いや、あんたを殺す理由なら他にもあったけどな。

 あんたは既にオレの両親を殺していた。

 理由ならそれだけで十分だよな?


 爺さん。

 オレはもう行く。

 悪いけどもう行くよ。

 やらなきゃいけない事がまだあるんだ。

 そう、あんた以外にも用事のある相手がまだいるんだよ。

 切っ先が届くかどうか、それすらも分からない。

 そんな相手なんでね。

 勿論、オレに負けるつもりはないんだ。


 爺さん。

 もうお別れだ。

 オレが死んだら多分、地獄に落ちると思うよ。

 あんたもきっとそうだ。

 地獄で会おう。

 いや、もっとお似合いの場所ならあるか。

 修羅道。

 戦いに身を投じ終始争う場所だって聞いたよ。

 地獄じゃなくてそこでまた会おう。

 きっと会えるよ。

 でもそれはきっと、もっと先の話だ。

 待っててくれ。

 あんたをまた殺したいんでね。

 待たせたお詫びに一回、殺されてもいい。

 そんな気分なんだ。

 オレの姿はもう目に焼き付いているだろ?

 もう目を閉じていいよ。


 さて、と。

 運営さん、運営さん。

 まだこの世界に姿を見せない、運営さん!

 今から行くから。

 そうそう、更に上位の存在があるんだって?

 面白い。

 いい情報を聞かせてくれたら助かる。

 まあ説得するのも悪くないけどね。

 いずれはそっちから話をしたくなると思う。

 うん。

 きっとそうなるから。

 間違いなくそうするから。

 オレって待つのが相当、苦手らしい。

 だからこっちから出向くよ。

 まずは出資者から、だな。


 久住。

 お前は今、どこにいるんだろうな?

 そう言えばオレの事が怖かった、とか言ってたっけ。

 ・・・大丈夫。

 オレは優しい男だ。

 それにお前は友達が欲しいだけの寂しい男って知っている。

 ああそうだ、友達になってやろうか?

 きっと退屈しないと思う。

 いや、退屈なんてさせないぞ!

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― 新着の感想 ―
こっちは両親が殺され爺に地獄を見せられてたキースかぁ… これから先「彼女」と出会う事になるのかな
[一言] 爺さんが満足そうだな…… キースもなんか目を閉じてやってるし 許せなくても何か通じるものがあったのか 気配消した剣を会得してそこまで強くなったのに まだパパにもママにも勝てなくて護法魔王尊に…
[良い点] 久住くん、逃げて!超逃げて!? [一言] 連続更新お疲れ様です。
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