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1308 蛇足の蛇足21 種蒔き

本日更新2回目です。

「はい、時間切れよ!」


「「・・・ッ!」」


 声が出ない。

 互いに声が出ない。

 整息、したいがどうにもならなかった。

 判定になったか。

 出来れば裸絞めの時点で仕留めたかった!



「こっちのキースちゃんの勝ち!」


「・・・オッシャッ!」


 思わずガッツポーズ。

 ついでに声も出た。

 今日は二連勝、通算で一つ勝ち越しだ!

 もう一人のオレを見る。

 あ、分かる。

 何を考えているのか、顔に書いてある!



「・・・も、もう一戦!」


「ブーーーーーッ! 今日はここまで!」


 やはりな。

 一戦目が終わった時点でもう一回だけと釘を刺されていたしな。

 残念だが今日はここまで。

 対戦の続きは明日になるだろう。



「・・・ジュナさ・・・いえ、母さん!」


「ダメなものはダメ! それに今日は大事な用件もあるし!」


「・・・用件が終わった後なら?」


「いいんじゃない? ただここではダメ! 召魔の森か海魔の島でやってね!」


「・・・了解」


 もう一人のオレの視線を受けオレは大きく頷く。

 こいつと対戦をどれだけやっても飽きる事がない。

 面白かった。

 得物なしではあるが、戦いの様相は殺し合いと変わらない。

 なのに楽しいのだ!

 拒否する理由は全くない。


 ここは普段、対戦をしている場所じゃなかった。

 鏡面の世界だ。

 頭上に輝くのは球状星団が一つだけ。

 但し大きい。

 そしてこれが何を示しているのか、もう分かっていた。

 各々の星が一つの世界を示している。

 そしてこの球状星団はそんな世界の大集団。

 似通った平行世界が集っている訳だ。


 で、オレの世界はどれなのか?

 ・・・分からん!

 文字通り星の数だけあるのだ。

 どれかなんて分かる筈もない。

 だがジュナさんには分かるらしい。

 理由は分からない。

 黄金人形の力を引き継いでいるから、と納得するしかない。



「じゃ、始めるわよ?」


「・・・了解」


 事前に何が行われるのかはもう分かっていた。

 いや、分かったつもりになっていた。

 正直に言って理解が追いつかない。

 それでも要点さえ分かれば十分!


 ジュナさんの提案、より積極的な手段とは?

 平行世界の幾つかにオレの人格を飛ばす事だった。

 飛ばす先にはその世界のオレがいる。

 無論、記憶を伴ったままだ。

 当然だが飛ばされた先では人格の統合を伴う事になる。

 記憶をそのまま保持出来るかどうかは、賭けだ。

 賭けに勝ったとしてもその先でまた別の賭けになる筈。

 そして運営に接触する時期を逃さず、早期から追跡を始める。

 運営に、更にその上に迫れるかどうかはまさに賭けだ。

 目論見通りに進めるかどうかは飛ばされたオレ次第になる。


 それに各々の平行世界で時間の流れが違っている。

 オレの世界を基準にしたら過去かもしれない。

 いや、未来かもしれない。

 オレがいない世界だってあるだろう。

 ただ、確かな事がある。

 この頭上に展開する平行世界は剪定されていない。

 いや、これから剪定されるかもしれない世界が大半だ。

 そして選定されて維持され続ける世界もある。

 無論、オレの世界も含まれている。


 ジュナさんの世界もあるそうだが時間軸が違い過ぎてオレが存在していない。

 それに選定済みだからオレの人格を飛ばす意味が無かった。

 ・・・あれ?

 どれだけの数の平行世界にオレを送り込むのだろう?

 そこを聞いていなかった!

 ジュナさんがオレの額に右手で触れる。

 まるで体温を測るかのよう。

 さあ、いつでも来い!



「・・・はい、終了!」


「「・・・え?」」


 もう一人のオレが間抜けな顔をしてやがる!

 いや、きっとオレも同じ顔だろう。

 互いに顔を見合わせて何か言葉を紡ごうとする。

 えっと、何を言えばいいんだ?



「あの、本当に終わったので?」


「終わってるけど?」


「・・・幾つ、飛ばしたんですか?」


「えっと・・・ちょっと待ってて!」


 ジュナさんは天空を見上げて指差ししながら数え始めた。

 ・・・そしてすぐに止めた。

 あの、一体どれだけの数なんですか!

 オレの人格ってそんな簡単にコピー出来るんですか!

 どうなんです?



「分かんない! ゴメンねー」


「・・・大体でいいです」


「数万箇所って感じ?」


「「・・・ええ?」」


 オレの人格を平行世界に送り込む。

 これは賭けだ。

 荒野に植物の種を蒔くようなものだ。

 無駄に終わる可能性は高い。

 それでもやる。

 種を蒔かねば芽吹きもしないし花も咲かないからな。

 だからある程度の数を送り込むのは当然。

 そう思っていたのだが・・・

 それにしても、数万だって?


 もう一人のオレもまた驚いていた。

 共に天空を見上げる。

 巨大な球状星団は一体幾つの星々の集団であるのか?

 ・・・分からない。

 だからこそ星の数ほど、などと表現されるのだろう。

 そう考えると数万という数字も少ないのかもしれない。



「後は待つだけね!」


「・・・そうですね」


 上手く行けば各々の平行世界でオレは運営を追う。

 それに運営が主催するゲームに参加する事になる。

 繋いだ先のゲーム世界ではジュナさんが、そしてオレも待ち構えている。

 そういう手筈だ。

 その課程で運営に迫れる糸口を得られていたら上々だろう。

 ゲームを進める内に運営側から接触がある可能性だってある。

 チャンスなら必ずある。

 そのチャンスを逃さない事だ。

 僅かな手掛かりでも構わない!

 収穫なしで終わらせるつもりはない。

 ・・・頼むぞ、オレの分身達!



「ありがとうございました」


「・・・あら?」


 ジュナさんに歩み寄ると抱きしめた。

 感謝しかない。

 管理者として所持するリソースの大半を注ぎ込んだ筈だ。

 いや、感謝の念を伝えるならばもうこれしかない!



「本当にありがとう、ママ!」


「まあっ!」


 抱きしめ返された。

 そして母さんの肩越しにもう一人のオレを見る。

 驚愕の表情。

 バカめ!

 オレはお前の先を行くのだ。

 もう遅いからな?

 参ったか!


 そして周囲を見回す。

 オレニュー師匠がいる。

 ゲルタ婆様がいる。

 ギルド長のルグランさんがいる。

 皆、笑顔だった。

 そして筋肉バカの魔神がいた。

 ・・・泣いていた。

 まさか、こいつの泣き顔を見るとは思わなかった!



「もーッ! この子ってば! ママ、嬉しいッ!」


「・・・ところでキースよ」


「・・・何です? 父さん」


「わ、我の事は今後、パパと呼ぶがいい!」


「・・・」


 オレはもう一つのハードルを越えた。

 次の瞬間、目の前に新たなハードルが出現していた。

 ・・・これを越えるのは並大抵の事じゃない。

 だがもう一人のオレにとってもそうだろう。

 どちらが先にクリアする事になるんだろうか?

 そんな事を考えていたのだが・・・

 言葉が出ない。


 あの、ママ?

 そろそろベアハッグを解いて!

 こ、呼吸が出来ない?

 言いたい事があるのに話せないんですけど!



「あの、師匠?」


「・・・何、ゲルタちゃん?」


「このままではキースが落ちますぞ!」


 ママの声は涙声だった。

 どんな表情をしているんだろう?

 そうも思ったが今は無理だな。

 意識を繋ぎ止めるだけで今のオレは精一杯です・・・

 ところでもう一人のオレ!

 この場面をスクリーンショットで保存しておいてくれ!

 た、頼む・・・ッ!

 頼む・・・から・・・な・・・?


 オレは意識を手放した。

 多分、次に目覚めた時には現実世界になっている事だろう。

 再ログインしたらまた同じ有様になるかもしれない。

 オレは頭の片隅でそんな事を考えていた。

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― 新着の感想 ―
そっかただ接続されてもキース親子が見つかる可能性が薄いから人格を飛ばして融合させて 積極的にゲーム世界を通して繋がるように仕向けるわけか…。 でも並行世界の可能性はそれこそ無限大だし数万放ってもいくつ…
[一言] 某所では魔王軍団とか呼称されるキース軍団だが 数万のキースの軍団こそ魔王軍団である実際怖い
[一言] 運営のゲームはどんな感じでプレイするんだろう? SAOキリトのガンゲイルオンラインみたいに、 銃が主流の世界で一人だけ格闘で戦うとかな感じだろうか? とりあえず、こうなって来るとぞれぞ…
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