1297 蛇足の蛇足10 荒野を征く
夜が明ける。
地平線に幾つかの影が浮かんでいた。
既に動かないガラクタでしかないが、確認は要る。
使える部品が残っていたらいいのだが・・・
停滞フィールド展開は続行。
光学迷彩も続行。
パワー消費は半端ないが問題ない。
この義体の主動力は反物質だ。
小型ハンドガンの弾倉程度の大きさの容器に収まっている。
動力ユニット、とオレは呼んでいた。
停滞フィールドと光学迷彩の同時展開もこれ一つで長期間、維持可能。
ただ、念には念を入れてガラクタから反物質は収集している。
どこで必要になるのか、分からないからな!
義体もチェックしておこう。
特に左腕は入念に。
一昨日、交換したばかりだ。
四肢は全てユニット化されていて換装が容易になっている。
アップグレードされた腕を拾った場合、換装するようにしていた。
兵装も幾つか、用途を絞って交換している。
メインはハンドガンサイズの陽電子銃。
それにライフルサイズの小型レールガン。
そして高周波ブレード。
いずれも反物質が出力源で義体と同じ動力ユニットが収まっている。
最近、質量共鳴砲を入手した。
使ってみたが使い勝手は悪い。
一定時間の貯めを必要とするからだ。
しかも射程も短い。
戦闘中に射撃対象に照準し続けるのは至難なのだ!
しかも敵の装備品が残り難い。
ただ姿を消して接敵、葬るには便利。
砲と呼んでいるがサイズは小さく触手状の音叉みたいなものだ。
今は左腕の外装に取り付けてあるが、戦闘中でも邪魔にならない。
動力ユニットが備わっておらず義体からパワー供給が要るけどね。
まあそのうち慣れるだろう。
問題が大きい兵装もある。
空間歪曲砲。
いや、これは停滞フィールドの応用で砲塔はないけどね。
その効果は一定空間を封鎖、一点にまで凝縮。
当然、ガラクタすら残らない。
範囲にもよるが、動力ユニットの消費が目に見えてある。
これまで二回しか使っていない。
不毛なので使う機会が少ない。
何よりも戦っているという実感が、ない!
当然だがお気に入りの兵装は高周波ブレードだった。
ただこれにも不満がある。
斬れ過ぎる。
それに刃身が短い。
ああ、最後の手段とも言える兵装もあったな。
それは動力ユニットそのもの。
通常は安全装置が働いていて、中の反物質が何かと接触する事はない。
だがオレは試行錯誤の上、細工を施した。
反物質が対消滅する、その現象を利用しない手はない。
手榴弾や地雷のように使える。
そう思ったものだが・・・
全然、違いました。
ロボット兵団の駐留基地で試したけど、大きめのクレーターが出来たし。
いや、地殻を破壊したかのような・・・
停滞フィールドが無かったらオレの義体も消滅していただろう。
以降、この細工を行うに際してはより慎重になった。
動力ユニット内の反物質をもっと小さくするようにしたのだ。
反物質上限の1パーセント以下に調整した動力ユニットは三つ、携行してあった。
これ一つで都市を壊滅させられるだろう。
まあその意味は既に無いのだが・・・
多分、現在の地球上にまともな機能を維持した都市は皆無。
あるとしたら?
それは敵だ。
地球をこんな有様にした連中がいる筈。
出来れば高周波ブレードだけで撫で斬りにしたいが・・・
逃がしていい訳でもないしな。
用意はしておくべきだろう。
チェックを続ける。
情報収集だ。
兵装以上にこれが重要。
オレの義体、その頭部と胸郭は敵性と認識されている筈。
だからガラクタから拾った敵味方識別コードでネットに繋ぐ。
そう、ネットは健在だ。
ロボット兵団の運用にも必要だからだ。
全てスタンドアローンで運用するレベルに達していないのは幸運だろう。
だからオレもまた、健在でいられる。
オレはここ数日、南へと向かっていた。
北米大陸から、南米へ。
運営が何かを建設しているからだ。
かつて千島列島にあったと思われる運営の拠点は既にない。
アラスカから海を渡り、実際に確かめた。
その跡地を丹念に調べた結果、どうやら運営は移動し続けているらしい。
何を使って移動しているのかは不明。
ただ、元運営拠点の規模から見て船である公算は高い。
これから向かう場所はどうだろう?
運営がそこで拠点を建設している可能性は捨てきれない。
そうでない可能性も高い。
分からない。
分からないから、確かめる。
それだけだ。
問題は?
大いにある。
メキシコを抜けた先、パナマ周辺に展開する敵戦力だ。
敵味方識別コードの数が半端じゃない。
地形的に見ても難所なのは確実。
・・・
さて、どう攻略しようか?
期待は大きい。
可能なら格闘戦も楽しみたい所だが。
最近は人型ロボットの比率が低くなり続けている。
要塞内に至っては蜘蛛型や蛇型がメインだ。
地上戦力も戦車が多過ぎて面白くない。
実際、兵装が強力過ぎて分厚い装甲が意味を為さないのだ。
・・・
どこかでこういう戦場を経験したような?
ゲームの中ではあったけど、近未来兵器を相手にした記憶。
得物は全く異なるけど、類似点は多い。
その時の経験が今になってオレを生かしているような?
夜が明けた。
情報収集を続けよう。
膨大な敵味方識別コードの分布、その密集地域を精査する。
運営は衛星をそのまま利用している。
位置情報は全て、把握可能だった。
但し、その量が膨大。
これらを処理する為に背中には情報処理ユニットを二つ、装備してある。
オレは計算を情報処理ユニット任せ、ガラクタ処理に専念する。
使えそうな兵装がないか確認。
義体がアップデートされてないか確認。
そして動力ユニットの回収。
頭脳ユニットから敵味方識別コードの吸い出し。
まあ適当な所で切り上げる事も多い。
時間が幾らあっても足りなくなるしな!
ん?
脳内に警報。
どうやら位置を察知されたか?
まあこれはいつもの事だ。
最近、敵の初手は遠距離からの狙撃が主だった。
今回もそうだろう。
大抵は反物質弾頭を使ってくるが問題ない。
停滞フィールドで防げる。
問題があるとしたら、周辺の被害が甚大になる事だけだ。
そしてここは何もない荒野。
気にしなくていい。
いや、待て。
センサーが感じ取る空気の振動がおかしい。
異様な低周波。
その原因は、何だ?
考える前に動いていた。
振動が止まる。
質量共鳴砲だったのかな?
どうやら捕捉されていたらしい。
敵もまた、停滞フィールドと光学迷彩を展開しているのだろう。
どう始末しようか?
無論、近接戦闘に持ち込むのだ!
停滞フィールドは強力な防御力を誇るがその中に侵入されたら無力だ。
相殺するには手間が要るが、オレには気にならない。
地平線に幾つもの土煙が疾っていた。
笑いたくなった。
ではこっちからも仕掛けよう。
義体は笑えないのが残念だ。
脳内で歓喜の叫び声!
それはきっと、猿声であるに違いない!
敵味方識別コードを切り替えつつ、陽電子銃を手にする。
ヒートガン設定のまま、銃口を薙ぐ。
地表が沸騰、凄まじい勢いで煙が生じた。
ただの目眩ましだが、多少はセンサーを狂わせる筈。
両脚のホバー機能を全開にして前進。
後退はしない。
ロボットの人工知能なら絶対にしない行動だ。
だからこそ効果がある。
『シャァァァァァァ!』
この義体の発声器官はダメだな。
猿声を使うと割れたかのようにしか響かない。
これ、もっといいパーツはないのかね?
経験則で知っている。
発声器官のモジュールを持つロボットの数は圧倒的に少ない。
しかもこれまで、アップデートされていない。
最初から期待していなかった。
期待するのは苦戦。
いや、大苦戦だ!
それは今も昔も変わらない。
オレには変えようがなかった。
では存分に楽しもうか。
ここまで接敵を許したのは久し振りだ。
オレの期待を裏切らないで欲しい。
荒野を征く、オレの進路を邪魔する奴は敵だ!
簡単に止まると思うなよ?
止めたいならより強力な敵を寄越すがいい!




