1292 蛇足の蛇足5 会議は踊る
儂の名前は玄亀翁。
目の前にいる面々もまた玄亀翁。
個別の名前などない。
それは玄亀翁の後ろに控える者達も同様だ。
ノームにノッカー、スピリットワーム。
今日はストーンゴーレムまでいる。
広間だからこそ出来る芸当じゃな。
但しこれに大した意味はない。
我等は土精霊だ。
実体化するのは実際の作業で必要な時だけだ。
普段は土や岩の中に存在していられる。
移動も自由自在。
まあ召喚して使役するストーンゴーレムは別じゃがの。
今のように実体化していても魔物に襲われる心配はない。
実際、広間の片隅には数体の鬼が闊歩している。
連中も実体化した精霊を襲ったりしない。
そしてこちらも襲ったりしない。
互いに意味がないからの。
ん?
また玄亀翁が増えておるようじゃが・・・
後で挨拶したい?
うむ、殊勝なことじゃな。
儂がここ召魔の森の最初の玄亀翁じゃ。
それ故に責任者みたいな事をやらされておる。
偉い?
うむ、そう見えるじゃろうな。
じゃがの、実態は違うのじゃ。
各所の調整だけで手一杯でな。
いや、もっと正確に言おうかの。
面倒事は全部、儂の所に来るのじゃ。
分かるか?
玄亀翁は土の精霊の筈じゃ。
上にある城塞やこの地下洞窟を拡張するのがその使命。
儂、その作業が出来ないのじゃ!
面倒事が多すぎての。
全くキースの奴め・・・
うん?
儂が各所を視察してる際、頻繁に作業をしている?
・・・
設計担当の玄亀翁。
お前さんもじゃろ?
何?
設計だけさせられてるこっちの身になれ?
儂も同じ立場じゃ!
お前さんも儂の次に古株じゃから設計担当にしたんじゃ!
文句は聞かんぞ。
それに文句も言わせん。
儂を勝手に責任者にしおって・・・
巻き添えにしただけじゃろって?
だからどうした!
・・・
おお、すまなんだ。
みっともない所を見せてしもうたの。
新人の玄亀翁諸君!
召魔の森にようこそ!
歓迎するぞ!
仕事は幾らでもあるからそのつもりで。
少なくとも退屈だけはせんじゃろ。
ところで人事担当。
増えた、という事はアレか?
キースの奴、また強化を進めたんじゃろ?
そうか。
今日の会議で報告する予定だった、と。
ふむ。
それ、最優先で報告してくれって儂は言ったよね?
え?
監査担当が報告する筈だった?
・・・
監査担当。
何故、目を背けた?
まあいい。
後でお前さんには話がある。
今は会議を最優先じゃ。
では儂から現状報告をしておくかの。
最優先対応の闘技場問題。
結界強度の設計見直しは安全率十倍のままで。
但し強度ベースが変わる。
キースが全力で繰り出すレールガン、ではない。
キースが戦鬼の姿になって繰り出すレールガンの方じゃ。
勿論、呪文による強化と武技の使用も前提条件になる。
うむ。
無茶だと思ったじゃろ?
現状で計算すると安全率は三倍にも満たない。
これでは遠からず闘技場そのものが崩壊する。
対策を講じなければいずれそうなる。
必要だからやるだけじゃ。
カタストロフィ対策?
アレは無理。
そういう結論になった。
逐次補修で対応せんといかんじゃろな。
どうした闘技場担当。
顔色が悪いぞ?
いや、気持ちは分かるがの。
少し待て。
闘技場方面は増員を約束しよう。
上の木精霊達にも協力要請はもうしてある。
安心するがいい。
新人も配属するじゃろうし。
・・・
人事担当、どうした?
何?
新人にいきなり闘技場を担当させたくない?
ああ、キースがいるからか。
心配なのは分かる。
アレを目の当たりにしたら大抵は驚くじゃろうしな。
何、いずれ慣れる。
それに新人をいきなり闘技場担当にはせん。
各所を一通り体験させておく。
それでええかの?
おっと、話を元に戻そう。
もう一つの最優先対応の縦穴問題。
ドラゴン達が勝手に最下層まで掘った奴じゃな。
悪影響が出るかどうか、当面様子見しとったが問題なし。
いや、より正確に言おうか。
各階層に敷いた魔法円と魔方陣の微修正で済んだ。
ドラゴン達が使った結界は優秀じゃな。
積層構成で邪結晶が集積されても周囲への影響は全くなし。
ただ結界の存在そのものが影響しとる。
地脈の流れが変わっておるのじゃ。
今は問題ない。
上で常駐しておるキングトロールの酒船が修正しておる。
・・・何?
レッドシールドカーバンクルのノワールもいたらもっと助かる?
酒船がいるだけでも助かっているのじゃ。
感謝はしても泣き言は言ってはならんぞ?
楽を覚えてしもうてはならん。
例え酒船がいなくとも儂等で対応出来るようにしておくのじゃ!
おっと、話がまた逸れてしもうた。
儂等も一応、積層構成の結界は敷いてある訳じゃが。
各階層の結界を重ね合わせる構成じゃな。
相乗効果は相応にあるがより強化可能だと分かった。
そう、ドラゴン達の結界を参考に再設計をする事にしたんじゃ。
ただこれは大至急ではない。
いずれそうなる、という話じゃ。
実際の作業時期は設計担当に聞け。
各所に置く目印も増やさんといかんしの。
闘技場に捧げられたアイテム、まあ抜け殻は多数ある。
ただ魔法円や魔方陣を描く目印にするには時間が要る。
どうにかなるじゃろうがこればかりは仕方ない。
だがそれでも足りんのが現実じゃ。
折威やヘイフリックからせしめておるアイテムもあるがの。
それでも足りん!
作業そのものは長期間に及ぶじゃろ。
それだけに土精霊の数は増えておるのが救いじゃな。
・・・どうした、探査担当?
何?
キースが地下洞窟に入った、じゃと?
・・・
そうか。
そうか、キースが来るのか。
ところで新しく最下層に設置した罠は?
モンスターハウス、とか言っておったアレじゃ。
キースが難儀するような奴を用意すとか言っておったじゃろ?
・・・何?
魔物同士で殺し合いが始まってしまいダメ?
何で?
え?
魔物を色々と取り揃えたらそうなった?
・・・
今はどうなっている?
一体だけ生き残った?
変異種らしく識別も効かない、変な魔物になった?
・・・
それは強いのか?
ならばよし。
いや、キースの奴は喜ぶだけじゃろうがの。
今後もその手法を使えんかな?
検討の価値があるじゃろ。
少し急ぎたい。
他に何か言いたい者はおるか?
何?
ノッカー達の一部が筋トレしたいって?
・・・
それ、以前も却下したよな?
無意味だし。
日々の作業が筋トレになってるじゃろ?
何?
気分?
却下。
却下じゃ!
で、何を急いでいるのかって?
今から儂はキースの所に行く。
文句を言うのではない。
殴りに行く。
以前もやったけどダメージはなかったって?
うむ。
それでも行く。
皆の者も儂に続け!
どれもこれも面倒事はキースの奴が原因じゃからな!




