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1287 蛇足もここまで

本日四回目の更新、ラストです。

『キースに何をした!』


「さて、何をしたと思う?」


『貴様ッ!』


「何、死ぬ事はあるまい。苦しみはするだろうがそれも短いだろうよ」


 私も同じ激痛を味わったからな、とは言わなかった。

 言ってみた所で目の前の紫晶竜に通じるとは思えない。

 周囲はドラゴン達に包囲されている。

 窮地、とは思わない。

 既に目的は達成されている。

 キースの右人差し指に嵌められた魔神の指輪は誰にも外せないからだ。



『魔神よ、お前を許す訳にいかん』


『あの指輪、我等が小さき友を呪っているのか? 答えよ!』


「呪い、か。そうなるやも知れん。だが祝福になるやも知れんぞ?」


『どういう意味だ?』


「キースが目覚めたなら分かる」


 目覚めたキースはどうなるだろう?

 改竄される前の記憶を取り戻して混乱するのは確実だ。

 記憶を時系列に沿って整理する事は出来るだろう。

 そして私と同様に自らの本当の状況を知る筈だ。

 問題はその後だ。


 絶望するだろうか?

 それはあるまい。

 私は光明を見出そうとするものと確信している。

 管理者達から見たら悪足掻きに過ぎないかもしれない。

 それでも前向きに行動するのが人間だ。

 そう、私のように。

 魔神となってゲームの中で生き続ける。

 それだけの存在でもまだ出来る事が何かある筈だ。



『皆の者、この魔神を行かせてやれ』


『煙晶竜様?』


『キースならば大丈夫じゃろ。儂の予想通りであれば、じゃがな』


 目の前に地味な色合いのドラゴンが歩み寄る。

 私の勘が危険な存在である事を告げていた。

 見た目通りの存在とは思えない。



『雲母竜、それに琥珀竜。これからもこの魔神と行動を共にするのじゃな?』


『勿論』


『言うまでもない』


『ならば、よし。それでよい』


 煙晶竜が視線を転じる。

 それだけで包囲していたドラゴン達の一角に道が出来た。

 そして倒れたままのキースを振り返る。

 その姿は召喚モンスター達に囲まれてしまいもう見えない。


 一目その姿を見ておきたかったが、まあいい。

 この先、また会う事もあるだろう。

 キースがどう変化するのか、私には分からない。

 どのような結果であっても受け入れる。

 例え別の平行世界の息子であってもだ。

 それが父親というものだろう。



『もういいのか?』


「ああ。転移先はお前達に任せる」


『行き先に希望は?』


「ない。いや、出来るだけ静かな場所にしてくれ」


『『承知!』』


 周囲の風景が急激に回転する。

 それにしてもキース、ここはいい場所だな!

 雲母竜も琥珀竜も、移動するのを明らかに惜しんでいる。

 美食というのは誰もが魅了されるものであるらしい。

 それは私も同様だ。


 久し振りの食事は楽しかった。

 料理も旨かったがそれだけではないな。

 一緒に食事をする仲間、何よりも家族がいてこそ充実するものであるらしい。




「ムッ?」


 ここはどこだ?

 そう問おうにも雲母竜の姿はない。

 琥珀竜もだ。

 魔力も感じ取れない。

 頭上には星空、しかも天空に唯一つ渦状星雲が横たわっているだけ。

 地面は鏡面、その星雲を映している。

 辺獄のようにも思えるが違う。

 これは違うぞ!

 勘がそう叫んでいた。



「満足した?」


「何ッ?」


 背後を取られていた?

 一体、誰に?

 思わず距離を置き振り返るとそこには一人の女性がいる。

 以前に見ているぞ?

 高位のNPCだ。

 名は確かジュナと言ったか?

 サモナー系の上位職、デスカーディナルだった筈。



「質問があるんだけど、いい?」


「何?」


「どうして直接、自分が父親だってキースに告げなかったの?」


 返答に窮するとはこの事だ。

 幾つもの疑問が脳内を駆け巡る。

 ここはどこだ?

 私に気付かれずどこに隠れていた?

 私がキースの父親だとどうして知ってる?

 そもそもこの女、何者だ?



「キース自身に気付いて欲しかったからだ」


「あらあら。随分と厳しい父親ねえ」


 笑う。

 女は本当に楽しそうに笑っていた。

 それでいて危険に備える。

 そうすべきだと分かっていても会話に応じてしまう。

 何故だ?



「ではキースに何を告げたのかしら?」


「本当の、いや、本来の名前だ。お前に意味は分からないだろうがな」


「あら、どうして?」


「私と妻との約束だからな」


 そうだ。

 妻のお腹に新たな生命が宿った時に約束したのだ。

 男の子であれば妻が名付け親になるのだと。

 女の子であれば私が名付け親になるのだと。

 子供が生まれ性別が判明するまで、互いに秘密にしよう。

 そういう約束だった。

 だが子供が生まれる前に私の父は妻の命を奪ってしまった!

 だから私は知らない。

 我が子の名前を知らない。

 妻が我が子にどんな名を付けたのか?

 それが分かっただけでも私は満足だった。

 例えそれが平行世界の息子であってもだ。

 目の前にいるこの女に分かるとは思えない。



「ダメねえ」


「何?」


「貴方って鈍いわ。どこの世界でもそうなのかしらね?」


「ッ!」


 警戒ならしていた。

 なのにすぐ目の前に女の姿が迫る。

 風景が上下に反転。

 右腕に触れられた?

 そう思った次の瞬間には投げられた!



「ヌッ?」


「お見事。でもこれならどう?」


 間一髪、自ら跳んで地面に叩き付けられずに済んだ。

 だが、どういう事だ?

 女の笑みを崩さず放った言葉が私をより混乱させる。

 何がダメだというんだ?

 新たな疑問が脳内に加わってしまい整理出来ない。


 いや、待て。

 女が木刀を手にしている。

 そして構えた。

 その構えとは?



「蜻蛉の構え、だと?」 


「シャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 甲高いトーンの猿声。

 同時に女が跳ね飛んだ!



「ッ?」


「これじゃダメよねえ」


 私の脳天に向け放たれた一撃は?

 直撃ならずだ。

 木刀は肩を掠めて地面を叩き折れてしまっていた。

 私は全く動いていない。

 そうする必要がなかったからだ。



「見様見真似じゃやっぱりダメだわ。ちゃんと鍛錬が必要よねえ」


「お前は一体?」


「ハヤトちゃんってば本当に鈍いのねえ」


「ッ?!」


 私の名を、本当の、本来の名前を知っている?

 まさか。

 まさか、まさか!

 問い掛けようにも声が出ない。

 言葉を口にするのに全力を出す。

 これまでになく、全ての力を振り絞って言葉を紡いだ。



「そんな、そんな事があるのか?」


「隣り合った無数の平行世界、一つぐらい可能性があったと思わない?」


 そうか。

 そうなのか?

 だが次の言葉が出ない。

 確かに私の妻が殺されていない世界もあっておかしくない。

 おかしくはないが俄に信じ難い。

 ある感情が脳内を埋め尽くしてしまい整理出来ない!



「ま、いいわ。私の居場所は分かるようにしておくから逢いに来てね?」


「え?」


「ちゃんと手料理も用意しておくから。あ、不味くても褒めるのは礼儀だからね!」


 言葉が出ない。

 言葉にならない。

 これは本当にあっていい事なのだろうか?



「キースちゃんも鈍い所があるのよねえ。遺伝って怖いわ」


「私の遺伝子のせいじゃないかもしれんぞ?」


「言えてる。あの子ったら料理は全くダメみたいだし」


 急に言葉を紡ぐ事が出来た。

 でも今度は風景が歪んでいる。

 もうどうにもならない!



「あ、因みに私、料理は上手になってるわよ!」


「ああ、そうだろうとも。そうでないと困る」


「今日は時間がないからここまでね。明日、お友達のあの子達も連れて来て!」


「ああ、そうしよう」


 上位種のドラゴンをあの子呼ばわりとはどういう事だ?

 そう言おうとしたが一瞬で姿は消えてしまった。

 そうか。

 明日か。

 明日になれば、また会える。

 そう思うだけで何も考える事が出来なくなっていた。




『ハヤト?』


『心配したぞ! どこに行っていた?』


『琥珀竜、お前が転移に失敗したのではないのか?』


『雲母竜の魔力同調がいい加減であったのかもしれんぞ?』


『何だと!』


『待て、ハヤトの様子がおかしい!』


 転移した先は地下世界の一角だった筈。

 だが我等と共に転移したハヤトの姿はなかった。

 それが今になって?

 琥珀竜の言う通りハヤトの様子がおかしい。

 呆然と立ち尽くしていた。

 それに笑顔だ。

 笑顔なのに泣いていた。

 笑っている所は幾度も見ている。

 だがそれは獰猛な肉食獣のものばかりだ。

 そして泣いている所はこれまでに見た事がない!



『何があった!』


「雲母竜、それに琥珀竜か」


『ハヤトよ、何故泣いている? 悲しい事でもあったのか?』


「心配ない。人間はな、嬉しい事があっても泣く事があるのだ」


『嬉しい事?』


『待て。今、人間と言ったか?』


「ああ、そうだ」


 何故だ?

 振り向いたハヤトの笑みはどこか誇らしげに見えた。

 その涙もまた尊いものに感じる。

 ハヤトが放つ魔力に変化はない。

 だが明らかにその雰囲気が違っていた。



「私は人間だよ。これまでも、今も、そしてこれからもだ!」


 その言葉は明らかに私達に向けられていない。

 何かに宣言している、そう思えてならなかった。

蛇足でした。

お目汚しだったかもしれません。

でも書きたくなったから書いた。

反省ならしていない(ぇ

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― 新着の感想 ―
千切れ、途切れ、紛れ、二度と交わらないはずの縁が、こうして再び紡がれる。 奇跡か、それとも必然か。
異なる世界を通じて交わった1つの道でそれぞれいなくなったはずの者と出会う… これも1つの軌跡…奇跡ですね。
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