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1285 蛇足でしかない

本日二回目の更新です。

『何ッ!』


『魔神だと?』


『鎮まれ!』


 筋肉バカの出現と同時に金紅竜達が動こうとする。

 柘榴竜と水晶竜などは突進しかけていた。

 だが紫晶竜が制止している。

 激発はさせない構えだ。

 そして浅瀬に低い音階でハミングが流れる。

 しかも合唱になっている。

 ナイアス、ロジット、アチザリットだった。

 警告だろうか?

 金紅竜達が急におとなしくなる。

 ある意味これって凄い事だよな?


 オレはどうか?

 ドラゴン達の前だった事もあり、突進はしなかった。

 だが、臨戦態勢に移行する。

 仮想ウィンドウを展開、手札を確認。

 切り札は全部、使える。

 MPバーに多少の消耗はあるが九割あれば大丈夫。

 覚悟は?

 勿論、ある。

 むしろ歓迎したい心境だ!



「あんたか!」


「キース、また汝に会えて嬉しいぞ!」


『これこれ、待たんか!』


 今度は最長老が制止する。

 魔神も歩みを止めた。

 その声色が以前と違うような気がしたけど今はいい。



『食事が先じゃろが!』


 えっと。

 最長老は一喝すると元始蜃帝を炙り始める。

 うん。

 どうしよう、この空気?

 筋肉バカと戦う雰囲気じゃない。



『ちょうどいい。お前達もご相伴に預かるといい』


『最長老様?』


『これを? 食べた事ならありますが』


『うむ。だがな、一手間かけるともっと旨くなるぞ!』


 最長老は雲母竜と琥珀竜にも振る舞うつもりのようだ。

 うん。

 嫌な予感がするぞ?

 雲母竜や琥珀竜まで海魔の島に通ってくる、そんな未来が見える。

 下手したら常駐しかねない。

 そして他のドラゴン達と揉め事を起こすだろう。

 最長老に裁定を一任しておけば大丈夫と思えるが心配だ。



『魔神よ。汝がキースに用事があるのは分かるがの。少し待て』


「ぬ・・・?」


『キースも食事を楽しんでおくことじゃ。ほれほれ』


「はあ」


 クォークの背中の上でナイアスが食事の準備をしているのが見えた。

 もうダメだ。

 この流れ、食事を摂り終えてからじゃないと何も始まりそうにない。

 それに、だ。

 この騒動の間ずっと、煙晶竜はクォークの背中で寝ていた訳だが。

 今、起きた。

 大きな欠伸をしてやがる!

 やっぱり戦える雰囲気じゃない!


 最長老は二体目の元始蜃帝を炙り始めた。

 既に炙り終えた一体目にドラゴン達の視線が注がれている。

 えっと。

 魔神はどうでもいいの?

 雲母竜に琥珀竜もいますよ?

 本当に、いいの?

 まあその雲母竜と琥珀竜の視線も元始蜃帝に向いていたりする訳だが。

 その様子に筋肉バカの魔神も呆れていた。



「お預けのようだな、キース」


「ああ」


 仕方ない。

 ここは仕切り直しだ。




「キースよ」


「何だ?」


「早食いはするな。ゆっくりと摂るがいい」


「余計なお世話だ」


「それは作ってくれた者への感謝にもなる」


「う・・・」


 何でこの筋肉バカに説教じみた事を言われないといけないのか?

 だが一理ある。

 箸を休めて一息つく。

 ナイアスが作ったのは撃針海栗のいちご煮、そして定番の海鮮鍋だった。

 昼食のメニューとしては豪華だ。

 早食いで済ませるには確かに惜しい。

 ゆっくりと味わうのも悪くない。

 だがオレには焦りがあった。

 目の前にはあの筋肉バカがいる。

 理由はそれだけだ。

 それにしても何故だろう。

 魔神と同じ鍋をつつく事になるなんて!

 間違っても仲良しじゃないからな!


 食事の間、魔神は落ち着いた様子だった。

 隙だらけのように見えたが姿勢を崩さずゆっくりと咀嚼する。

 黙々と食べ続けた。

 オレに襲われる事なんて念頭にないのか?

 そう疑って腰を僅かに上げ殺気を放っても無反応。

 こういう奴だったのか?


 ドラゴン達もまた食事中だ。

 一部は楽しそうに見えない。

 雲母竜と琥珀竜は並んで炙られた元始蜃帝の貝柱を喰っている。

 その真正面には金紅竜と柘榴竜、それに水晶竜。

 間に最長老と煙晶竜がいるから戦い始める事はないだろう。

 ただ、居心地は悪いだろうな。

 人間なら仏頂面になっている筈だ。

 いや、他人をどうこう言えた立場じゃないな。

 今のオレこそ仏頂面を晒しているのだと思う。



「魔神も食事をするんだな」


「普段は飲み食いしない。食おうと思えば食える。それだけだ」


「味気ないな」


「問題ない。他に楽しみは見出してある」


「飽きないのか?」 


「退屈な相手が多いのは確かだ。だが我には雲母竜と琥珀竜がいるからな」


 何を楽しみにしているのか?

 聞かずとも分かる。

 ただ、戦いを、楽しむ。

 それがこいつの唯一絶対の価値観なのだ。

 納得するしかない。

 退屈な相手ばかりで面白くなければどうするのか?

 雲母竜や琥珀竜と対戦でもしているのだろう。

 オレだって似たようなものだ。

 闘技場で星結晶を捧げたらいつでも大苦戦が出来る。


 今日はその必要はなさそうだ。

 こいつがいるからな!



「ご馳走様」


 筋肉バカは食事を摂り終えたようだ。

 お椀と箸を地面に置き手を合わせて一礼。

 終始、正座を崩さずこっちの挑発にも乗らなかった。

 態度にも乱れがない。

 ある意味で見事と言うしかない。



「では、やるか?」


「食事は摂り終えたのか? ならば先に感謝を示すべきだな」


「う・・・」


 いかんな。

 筋肉バカに生活態度を改めるよう指導されてる気分だ。

 いや、躾か。

 いやいや、言葉はどうでもいいのだ。

 言い返せない程に正論で反撃の隙がない。

 それが腹立たしかった。



「ご馳走様でした!」


 お椀とお箸をナイアスに渡す。

 両手を合わせて一礼。

 それにしても筋肉バカめ、何で満足そうに笑っていやがる?



「ここでやるか?」


「下の浅瀬の方がよかろう。この亀を壊しかねんからな」


 巨大な亀のクォークだがその背中は当然、甲羅だ。

 当然、極めて頑丈で呪文の強化なしでも上位ドラゴンのブレスに耐える。

 対戦だって出来るのだ。

 実際、何度も鞍馬とやっているから問題ない。

 それを壊しかねない、と筋肉バカが言う。

 その言葉に疑念はあるが、一抹の不安があるのも確かだった。


 下は浅瀬だ。

 潮位は低く膝下までしかない。

 だが、たったそれだけでも動きを阻害するのも確かだ。

 お互いにとっていい条件じゃない。

 でも断る理由にはならないな!



「分かった。浅瀬でやろう」


「うむ。食後の急な運動は控えるべきだが仕方あるまい」


「ああ」


「準備があるなら済ませておけ。下で待っているぞ」


 そう言い残すとクォークの甲羅の縁で筋肉バカの姿が消えた。

 何だろう。

 今日は終始、奴のペースに嵌まっている気がする。

 これは危険な予兆なのだろうか?


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