1283 蛇足なんじゃないかな?
複数回更新はもう無理...orz
『あれ? いつからそこにいたの?』
『さあ、いつからだったかしら?』
もう身を隠している意味はない。
次元の狭間から覗き見するのに慣れてしまった。
我ながら卑怯な気がするけど仕方ない。
必要ならばどんな手でも使うべきだ。
目の前にいる管理者はキースの姿のままだった。
だから私も普通ではいられない。
言葉に棘が含まれてしまう。
それが分かってしまう。
平静に。
可能な限り、平静に。
この管理者は異常だ。
理由は分からないけどイレギュラーな存在を重視している。
他の管理者がまるで関心を示さず放置しているのも不安だった。
私もその外見を変える。
黄金人形の姿から使い慣れたアバターの姿へ。
目の前にいるキースの姿には違和感しかない。
少しでも緩和しておきたかった。
『新人さん、いらっしゃい! フィーナだったっけ? 確か本名は・・・』
『もう調べてあるのでしょ? わざとやってるのは知ってる。止めて』
『何だ、面白くない』
言葉通りには受け取れなかった。
過敏な反応を誘導し楽しんでいるとしか思えない。
先刻までの魔神との会話でもそうだった。
警告されていた通りだ。
同時に利用価値があるとも忠告されている。
それだけに会話には慎重を期す必要があるだろう。
でも私は人間だ。
まだ人間である筈だ。
私の世界はまだ剪定されていない。
そこには本来の肉体も健在で普段通りの生活を営んでいる筈。
そしてアナザーリンク・サーガ・オンラインにも私がいる筈。
幾つもの平行世界には私の分身が送り込まれている筈。
全て私の人格であり同時に分身でもある。
群体、とでも言えばいいのかしら?
『彼がキースの父親なのね』
『別の世界の父親だけどね』
『他の平行世界にもいるんでしょ?』
『いるよ。興味あるの?』
『ええ。キースも、よね?』
『勿論。君もね』
『そして私も彼等も存在していない世界だってある。そうよね?』
返事はなかった。
それが答えだ。
頭上に輝く星団は平行世界の集団を意味する。
互いに似通った平行世界の筈。
それでも大きな差が生じている事がある。
基本、管理者側から干渉は出来ない。
観察、そして選定であり剪定を判断するだけだ。
目的はより望ましい世界の維持。
でもそれって誰にとって、望ましい世界であるのか?
私の疑問はそこに集約されていた。
これを解き明かす事が私の元いた世界を救う事にも繋がる。
そう確信していた。
『キースの爺さんもそうだね』
『意図的にやってるの?』
『あの爺様、どこの世界でも奇矯でね。見てて飽きないんだよ』
『悪趣味だわ』
『そう言われても止める気はないよ』
ええ、そうでしょうとも!
そして私にも止める気など毛頭ない。
恐らく、この管理者がいる限りキースは観察対象のまま存在するだろう。
そしてキースの現実の世界は剪定候補でありながら保留される筈。
ある意味、私とこの管理者は利害が一致しているのだ。
頭上の球状星団、その中の星の一つを見る。
それは私が元々いた世界。
戻れるものなら戻りたい。
仮に今すぐにでも戻れるとしたら?
多分、私はここに留まる事を選ぶだろう。
あの世界を剪定させてはならない。
それに私の分身もいるでしょうし。
いや、ここにいる私の方が分身と言える。
ちょっとややこしいけど仕方ない。
それにしても気になる。
以前にあった筈の幾つかの星が消えていた。
それは平行世界の剪定が進んでいる事を意味する。
しかもその消えた世界って私が元々いた世界に近いんだけど!
『じゃあ僕は行くよ。気になる事もあってね』
『楽しめるといいわね』
『うん、そうだね』
この管理者には皮肉も通用しそうにない。
キースの姿のまま嬉しそうに笑っている。
いや笑みが消えた。
黄金の人形に戻る。
そしてその黄金人形も徐々に消えてゆく。
どこかへと転移したようだ。
では私も転移しよう。
やるべき事はまだまだ多い。
私の分身を送り込んだ世界は数多くある。
それぞれの世界の情勢を確認せねばならないのだ。
リソースは十分にあるが時間は十分にあるとは言えなかった。