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 さあ、どうする?

 どうなる?

 グレイプニルを手にしていながら自覚出来る。

 今、オレはどんな表情をしているのか?

 きっと極上の笑みを浮かべているだろう。

 きっと、酷い笑みになっている事だろう。


 相手は、オレの爺さん。

 以前に戦った時は違和感があった。

 中身は本人に準じるだけの力量があったけど、決定的に及んでいなかった。

 狂気が、足りなかったのだ!

 今回はどうだろう?

 得物は飾り気の無い日本刀のみ、変わらないようだ。


 加えてあの筋肉バカの魔神か。

 果たしてオレはどこまで、この難敵を相手に戦えるようになっているかな?

 普段から行動を共にしている筈の雲母竜と琥珀竜はいない。

 理由は分からない。

 そして深刻な懸念もあった。

 本人、だよな?



「神降魔闘法!」「金剛法!」「エンチャントブレーカー!」

「リミッターカット!」「ゴッズブレス!」


(フィジカルエンチャント・ファイア!)

(フィジカルブースト・ファイア!)

(フィジカルエンチャント・アース!)

(フィジカルブースト・アース!)

(フィジカルエンチャント・ウィンド!)

(フィジカルブースト・ウィンド!)

(フィジカルエンチャント・アクア!)

(フィジカルブースト・アクア!)

(メンタルエンチャント・ライト!)

(メンタルブースト・ライト!)

(メンタルエンチャント・ダーク!)

(メンタルブースト・ダーク!)

(クロスドミナンス!)

(アクロバティック・フライト!)

(グラビティ・メイル!)

(サイコ・ポッド!)

(アクティベイション!)

(リジェネレート!)

(ボイド・スフィア!)

(ダーク・シールド!)

(ファイア・ヒール!)

(レジスト・ファイア!)

(十二神将封印!)

(ミラーリング!)


 ああ、良かった。

 オレ自身の力量を上げておかないと、この両者を相手にまともに戦えないぞ?

 だがこれでどうにか、同じ土俵に上がれる程度に過ぎない。

 勝てる確信は無い。

 それでも、戦いに挑まずにはいられない!



『貴様ッ! 本物だろうな?』


「そっちこそ!」


 先にオレと接触したのは筋肉バカの魔神の方だった。

 グレイプニルで、梱包?

 ちょっと無理かな?

 いきなり格闘戦が始まってしまった!

 放たれた蹴りが暴風のように頭上を通過する。

 耳元で感じる風圧と重低音は凄まじいスピードとパワーが備わっている証だ!

 股間を蹴り上げたんだが、これは完全にタイミングが外れている。

 単純に、速い。

 捕捉出来なかったぞ!



「ッ?」


 背中が凍り付くような違和感。

 死だ。

 死が迫っている!

 それは形を成していた。

 切っ先が迫る!

 奇妙な事だが、その軌道がおかしいのに気付く。



「チッ!」


『クッ!』


 舌打ちする声も重なる。

 爺さんが抜き撃った剣先はオレだけを狙っていなかった。

 オレと、筋肉バカの魔神を同時に薙ぐ。

 そういう一撃。

 だからこそ、避ける事も出来たのだろう。


 滑るように爺さんが迫る。

 無言だ。

 存在感も殺気も、抜き撃った時とまるで違う。

 まるでそこにいないかのよう。

 オレが知っている爺さんも時々、こうなる事は知っていた。

 だが、本質はこうじゃない。

 これだけでは、無いのだ!



『ケェッ!』


 筋肉バカの魔神の蹴りが爺さんの側頭部に吸い込まれる!

 オイッ!

 オレの獲物を横取りする気か?

 だが、爺さんも爺さんだ。

 ギリギリで見切って、しかも切っ先が跳ね上がる!

 狙ったのは股間。

 だが魔神の動きの方が速かった!

 斬撃は空を切る。

 体勢が崩れているぞ?



「ッ!」


『ッ?』


 無言の攻防、何故か息遣いが大きく耳に届く。

 そして視界が、おかしい。

 色が抜けて行く。

 まるで白黒のモノトーン。

 だが、気にしていられない!

 最初に放った掌底は躱された。

 後頭部を掴もうとする動きは?

 多分、見切られている。

 だが、これはどうだ?



「シャッ!」


『ヒュッ!』


 互いに息が漏れた。

 そして互いに放った膝蹴りが激突。

 結果、距離を取る事になったのだが。

 オレと爺さんがいた場所を何かが通過した!

 魔神だ。

 どっちを狙って攻撃しに来ていたのか、分からん!


 再びオレの左右に爺さんと筋肉バカの魔神が位置している。

 思わず見比べてしまった。

 また、選択だ。

 どっちを先に狙えばいいんだ?

 インフォであれば悩みは無いのだが。

 こうなると悩ましい。

 同時に仕留めに行ける程、温い相手じゃない。

 1対1でどうにか、拮抗出来るかどうか。

 いや、勝てる見込みの方が薄いだろう。


 攻撃呪文を使うか?

 ショート・ジャンプを使うか?

 だが、それはオレの矜持が許さない。

 使って勝てたとしても、意味が無い。

 使わないと、勝てないか?

 それでも使わない。

 イベント・ホライズンの呪文など、とんでもない!



『キース! 提案があるのだがな!』


「何だ?」


『この爺さんは我が始末する。その後で貴様の相手をしてやろう』


「断る!」


『やはりダメか? だがこの爺さんは譲れん!』


「こっちの台詞だっ!」


 何故、譲れないのか?

 そんなの、知るか!

 爺さんだけは、オレが殺さねばならない。

 肉親だからだ。

 肉親であればこそ、許せない。

 目の前にいるのは果たして、本物であるのか?

 そんなの、関係無い!


 ゲームであろうが、何であろうが知った事ではない!

 オレの祖父の姿である時点で許し難い存在であるのだ。

 殺す。

 何度でも、オレの手で殺してやる。

 筋肉バカの魔神に譲るつもりも無い。


 狂気を上回る勢いで殺意が膨らんで行く!

 刃のように研ぎ澄ませるような余裕は無かった。

 それは全身から発散され続けているかのよう。


 脱力、そして息を継ぐ。

 その隙を許すような爺さんじゃない。

 来るぞ?

 いや、来るんだ!



「シャァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!」


『ッ?』


 グレイプニルを手放す。

 梱包は断念、手にしたのは小剣、但しこいつはレーヴァテインだ。

 形状は刀へと変更。

 切っ先は地摺りの位置へ。

 さあ、撃ち込んで来い!



『ケェェェェーーーーーッ!』


『フンッ!』


「チッ!」


 だが爺さんを横合いから襲う魔神が見えた。

 爺さんは受け流すと反転、魔神に一撃を放つが切っ先は空を切っていた。

 このバカ!

 魔神め、何で邪魔をする?

 オレを助けるような意図があったのではあるまいな?

 こっちは隙を見せて誘っていたのに、台無しだ!



「おい、いい加減にしろ!」


『貴様は後回しだ! それとも先に殺されたいのか?』


 困った奴だ。

 オレも同じ言葉を口にしそうになっていたのに戦慄する。

 認めたくない。

 認めたくないけど、オレとこの魔神は似た者同士であるのか?

 いや、絶対に認めてなるものか!



『チェァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!』


「キィャァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!」


 爺さんの殺気が爆発した!

 それに呼応して、オレもまた爆発させる。

 奇妙な事だが色の無い光景がゆっくりと動いていた。

 そして全身の力も適度に抜けているのも分かる。

 緊張と弛緩。

 これは一体?

 剣技の基本にして極意を得るというのはこんな感じであるのだろうか?


 爺さんの剣の軌道に合わせて切っ先を跳ね上げる。

 擦り上げた勢いのまま、最上段から爺さんに撃ち込む!

 だが、爺さんの体が吹き飛んでいた!

 誰の仕業か、分かっているぞ?



「ケェッ!」


『ヌッ?』


 レーヴァテインで魔神を斬ってやりたい所だが耐えろ!

 こいつとは格闘戦で決着せねばならない。

 そこもまた譲れない一線であるのだ!





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これは一体、どういう事?」


《選択は既に為された》


《彼の選択は意外ではあったが、これもまた観察すべき行動でもある》


《特定監視対象とした事は結果的に正解であった訳だが、彼に関する調査結果は思わしくない》


《その通りだ。恣意的に何者かが介入した可能性がある》


《これまでにも幾つか、同様の例はあった》


《然りだ。そのいずれもが人間とは思えぬ規格外の行動を記録している》


《偶然ではあるまい》


《介入した存在の意図が何であるのか、それすらも解析が出来ていない》


《果たして何者が介入しているのか》


《我等と同様の存在》


《或いは我等をも超越するような存在》


《観察を続けよう。我等が崇高なる任務を続けよう》


《観察を続けよう。我等が存在するのはそれ故であるのだから》


《観察を続けよう。いずれ介入者の目的も、その存在も判明するであろう》


 目の前にいる黄金色の人形達は誰も私の問いに答えていない。

 表情の無いマネキン人形が互いに語り合う光景は不気味ですらある。

 空中に大型の仮想ウィンドウが幾つも展開していた。

 天空にあった月の光も気にならない。

 様々な角度からキースが戦っている様子が投影されていた。


 誰と戦っているのか?

 片方は大男。

 筋骨隆々で身に寸鉄も帯びていないかのような軽装。

 それでいて終始、格闘スタイルを貫き通している。

 空手のように見えない。

 キックボクシングでもない。

 中国武術とも違う。

 何をベースにした戦い方であるのか、見ただけでは分からないわ!

 グラップラー?

 いえ、これは喧嘩屋かしら?

 キースは何故か、手にした刀で戦おうとせずに蹴りで対応している。

 たまに体当たりか肘撃ちを繰り出しているけどそれだけだ。


 もう片方はやや小柄なお爺ちゃん。

 作務衣姿で手にしているのは多分、日本刀。

 その技量がどれ程であるのか?

 闘技大会で見た、誰とも違って見える。

 いいえ、近い姿なら見た事があった。

 キース。

 そう、キースが戦っている姿と何故か重なって見える。


 この両者が尋常じゃないのは明確に分かる。

 キースとよりも速いから。

 そしてキースがおかしい。

 何故、攻撃呪文を使わないのかしら?


 思い当たるのは?

 与作と東雲から聞いた事がある。

 単純にして最良のキース対策は何か?

 武技も呪文も使わない事。

 その上で接近戦、可能であれば格闘戦で対応する事。

 誰にでも出来る事じゃないわ!

 私のようなスタイルのプレイヤーには無意味だし。

 でも与作も東雲も、キースとの対戦では実行している。

 その様子を見ていればこそ、納得出来る。

 女性プレイヤーであっても打撃戦であれば十分、効果がある事は分かっている。


 でも、目の前で見ている光景はそれらとは全く意味が違う。

 理由が、分からない。

 与作も東雲も説明はしてくれたけど、理解し難いものだった。

 男の意地みたいなものって何よ!



《反応速度が上がっているようだ。但し生体モニター上のデータには変化が無い》


《事前に次の動きを予測しているようだ》


《これも再現出来るものなのか?》


《これまでの例を見ても、出来るであろうな》


《またしてもリソースが膨大になるが致し方あるまい》


《解決は可能だ。選別を進める事で余ったリソースを回せるであろう》


《今回の選別で切り離す事は出来なかったが》


《構わぬ。既に幾つかを選別し終えてある》


《前倒しで切り離すとしよう》


《影響は軽微だ。問題になるまい》


 黄金色の人形達は誰が何を語っているのか、分からない有様だ。

 まるで人間のように会話しているように聞こえる。

 でも大きな違和感もある。

 人間が喋っているように思えない。


 誰も私の問いに答える事が無かった。

 表情は無いけど、分かる。

 私の存在そのものを完全に無視している!



「ちょっと!」


 黄金人形達に文句を言おうとした私の肩に何かが触れていた。

 振り向くとそこには黄金人形。

 いいえ、これはどこか違って見える。

 全体的に輝きが鈍い。

 所々で塗装が剥げているかのようで、全く輝いていない箇所すらあった。



《プレイヤー名フィーナと確認、時空シフトを開始します》


「何?」


 目の前で何かが炸裂したのかしら?

 光の奔流に呑み込まれながら私は後ろを振り向く。

 そこには地面に跪いているキースの姿があった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「クソッ!」


 爺さんに地面に転がされ、起き上がったら今度は魔神の蹴りだ!

 どうにか両腕でブロックはしたが、受けたダメージは大きい。

 いや、それよりも腕全体が痺れるよう。

 そして重い。

 戦えるか?

 戦うとも!

 ステータス異常なのは確認せずとも分かっている。

 ソーマ酒を服用する余裕は?

 何故か、ある。


 理由は単純。

 オレの動きが止まった事で、魔神が爺さんと戦っているからだ。

 爺さんと戦う為にオレを戦場から一時的に排除する為に、蹴った。

 追撃が無かった事がその証拠だろう。

 手にしていたレーヴァテインは壊れてもう無い。

 爺さんに迫られていたら斬り殺されていて当然であっただろう。


 どうする?

 冷静に最初から怒りと狂気を研ぐ事は出来るだろう。

 だが、そうするには怒りも狂気も既に大きく膨らんでしまっていた。

 抑えられない。

 理性という名の枷はある。

 それはもう、いつ弾け飛んでもおかしくなかった。


 全身から力が抜ける。

 怒りに身を任せよう。

 狂気に身を任せよう。

 もう考える事も止めよう。


 流れるままに。

 流されるままに。

 ただ、屠れ。

 殺せ!

 本能が命じるまま、殺すとしよう。

 誰を?

 それはもう体が理解している筈だ。

 考えたくない。

 不思議な事に殺意だけが研ぎ澄まされて行くのが分かる。


 周囲の風景から、完全に色が消えた。

 かろうじて残っていた理性が、疑問を提示している。

 それもすぐに吹き飛んでしまう事だろう。


 では、殺ろう。

 敢えて意識を手放す事にしよう。



「キィャァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!」


 どこかで獣が咆哮を上げている。

 そこに篭められているのは怒りか?

 それとも狂気だろうか?

 何故か悲しげに聞こえる。

 その理由が分かる筈もない。

 オレはもう、考える事すらも止めていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これは?」


 私はキースが戦っている、その現場に立っていた。

 でも介入が出来ない。

 キースに触れようとした手はそのまま透過してしまう!

 周囲の風景も奇妙だ。

 同じ鏡面の世界。

 天空を埋め尽くすのは星空。

 2つの巨大な星雲が重なっていた!



「これは一体、何なの?」


《キースの戦いを見ておくといい。彼の選択は君の世界の帰趨を定めた》


「定めた?」


《そう、定めた。既にその結論が出ている》


 キースが立ち上がると凄まじい勢いで駆けて行く!

 その先には激しい攻防を繰り広げている大男と小柄な老人。

 キースはどちらを攻撃するつもりなのだろう?

 でも私の肩を叩く黄金人形の言葉も気になった。

 世界の帰趨ってどういう事?



「貴方は、誰? そしてこれは一体?」


《疑問に思う事は健全であるだろう。私も最初からそうであったらと思う》


「何?」


《名前はフィーナであったな。聞くがいい。全てはもう遅い。遅過ぎたのだ》


「分からないわ。一体、何を言っているの?」


《貴女の世界で何が起きたか、それはもう語らずともよいだろう》


「核の事?」


《それもまた事象の断片に過ぎぬ。見るがいい》


 周囲に複数の仮想ウィンドウが展開する。

 一体、何を見せようというのか?



「これは?」


《選択は為された。その結果が、これだ》


 画面を通して見ているのは一体、何?

 見慣れた首都が破壊されて行く、そんな光景だった。

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