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(タイフーン!)
春菜と此花が戻って来た所でタイフーンの呪文を使う。
粉塵の雲が渦巻く中、地上の全容が見えるのだが。
これは一体?
浮き島は地上に落下、かつて町があった場所に転がってしまったようだ。
地表を削ったような跡がある。
だが、直撃した筈なのにクレーター状ではないようだ。
その理由は何だ?
恐らくだが、厳密に言えば地表に直撃しなかったのだ。
地上に巨大な半球があるのが見えている。
結界か?
ドラゴン達にセンチネルゴーレム、バオバブエントが結界を形成しているように見える。
その内部にも更なる結界だろうか?
浮き島は直撃したものの、結界に跳ね返されたと考えるべきだろう。
その結界を包囲する形で地上戦力が展開しつつある。
もう【識別】する必要も感じない。
キムクイガーディアン・スレイブか!
結界に向け時間差でブレスを吐いていやがる!
春菜と此花が存在に気付かなかった理由は明らかだ。
姿を消して迫っていたのだろう。
『フィーナさん!』
『攻撃開始! 爆撃するわよ! 支援お願い!』
『了解!』『ラジャー!』『ヤー!』『シ!』
『アデルちゃんは【天馬疾駆】を! 【太公釣魚】は私が!』
『サキ! 地上部隊の増援を要請して!』
『了解! 一旦、ユニオンを抜けてマーカーに回るわ!』
『総員、爆撃後は戦場を離脱! 距離を置いてから再度攻撃を!』
ゼータくん配下のロック鳥が戦線を離脱する。
その背中にはサキさんがいるのだろう。
どうやら予備戦力の出番か?
確かにフィーナさんの言う通りだった。
与作達、地上戦向けの面々にも活躍の場がありそうだ!
では、そこに配慮するのか?
する訳がない。
獲物を目の前にして遠慮するなんて、オレの選択肢にはありません!
「人馬一体!」「金剛法!」「エンチャントブレーカー!」
「リミッターカット!」「ゴッズブレス!」
おかしいのは結界の中にいる面々が防御に徹している事だ。
反撃に転じていないのは何か理由があるのだろうか?
分からない。
分からないけど、戦いの中で見出せる事もあるだろう。
いずれ分かるものと思いたい。
(フィジカルエンチャント・ファイア!)
(フィジカルブースト・ファイア!)
(フィジカルエンチャント・アース!)
(フィジカルブースト・アース!)
(フィジカルエンチャント・ウィンド!)
(フィジカルブースト・ウィンド!)
(フィジカルエンチャント・アクア!)
(フィジカルブースト・アクア!)
(メンタルエンチャント・ライト!)
(メンタルブースト・ライト!)
(メンタルエンチャント・ダーク!)
(メンタルブースト・ダーク!)
(クロスドミナンス!)
(アクロバティック・フライト!)
(グラビティ・メイル!)
(サイコ・ポッド!)
(アクティベイション!)
(リジェネレート!)
(ボイド・スフィア!)
(ダーク・シールド!)
(ファイア・ヒール!)
(エンチャンテッド・アイス!)
(レジスト・ファイア!)
(十二神将封印!)
(ミラーリング!)
呪文で強化を進める。
オレのパーティの編成は全面的に変更済みだ!
アイソトープ、ビアンカ、ヘイフリック、アリョーシャ、バイヨネットになっている。
そして強化の対象はパーティの面々だけではない。
転生煙晶竜、長老様、ブラックドラゴンとフォレストドラゴンもだ。
それに駿河と野々村もです!
彼等も各々、配下の召喚モンスターを変更している。
野々村の編成は?
ヒッポグリフ、フォレストアイ、ミネルヴァオウル、朱雀、オーロラウィング。
野々村の編成は?
グリフォンロード、青竜、白竜、紅竜、黒竜。
美人さんを組み込むだけの余裕が無くなったか?
だがこれはこれでいいバランスだ!
ビアンカとバイヨネットが歌い始める!
これに併せて他にもいる呪歌持ちの召喚モンスター達も輪唱を始めていた。
呪曲の演奏も追加です!
だが今は音楽鑑賞の時間じゃないぞ?
(カタストロフィ!)
カタストロフィも使う。
初撃は上空からの急降下爆撃だが、そのまま離脱するつもりは無い。
無いったら無い!
「ッ? 長老様?」
『連中、結界を破るつもりのようじゃぞ! 急げ!』
「どうやって?」
『相克じゃよ。強引な手じゃが、結界を反転させるつもりじゃろうな』
「間に合いますか?」
『間に合わせる! それに連中、相克を利用しておるから結界を展開出来ておらんぞ?』
「え?」
至近距離に長老様の瞳が迫っている。
目の奥には剣呑な光が宿っていた。
そしてある感情も浮かんでいますよ?
笑っていた。
そう、笑っていたのだ!
面倒な結界の無い、キムクイガーディアン・スレイブ?
もうね、突撃し放題じゃないか!
だが今のオレの得物は虚無竜のデスサイズ。
どうしても攻撃をする間合いで動きを止めねばならない!
いや、引っ掻くような攻撃に終始する事は出来る。
投擲したっていいよな?
『天馬疾駆!』
『太公釣魚!』
((((((レビテーション!))))))
((((((((((テレキネシス!))))))))))
((((((((((マグネティック・フォース!))))))))))
(十二神将封印!)
(ミラーリング!)
どうやら【英霊召喚】も追加されたようだ。
オレもオリハルコン球で多面結界を敷き終えた。
そして眼下のキムクイガーディアン・スレイブの数を確認。
うん。
取り敢えず10体以上、いるような?
しまったな。
チェンジ・モンスターで船岡を使う手は今のオレ配下の面々では使い難いぞ?
そして周囲の風景が歪む。
カタストロフィのエフェクトだ!
『今じゃ!』
(((((((ファイア・ホイール!)))))))
(((((((デトネーション!)))))))
(((((((ダークマター!)))))))
((((((ソーラー・ファーニィス!)))))
((((((ミーティア・ストリーム!))))))
((((((メテオ・クラッシュ!))))))
(ミラーリング!)
長老様の合図と同時に攻撃呪文の詰め合わせを放つ!
眼下のキムクイガーディアン・スレイブだが、その頭上に人影がいたような?
魔人かな?
名前持ちであるかもしれない。
だがその姿は爆炎の向こう側に消えていた。
各所で一斉に爆撃が加えられる中、ドラゴン達のブレス攻撃も重ねられる!
急降下で攻撃を加えた面々は離脱を始めるけど、オレにその気は無い。
命令無視?
いや、ここは臨機応変という事にしておこう!
(((((((パンデミック!)))))))
(((((((アイス・エイジ!)))))))
((((((グリーンハウス・エフェクト!))))))
((((((ソーラー・ウィンド!))))))
((((((ダーク・フォール!))))))
((((((インスタント・テクトニクス!))))))
(十二神将封印!)
(ミラーリング!)
爆撃を喰らわなかったキムクイガーディアン・スレイブの頭上と甲羅の上に人影を確認。
魔人か?
魔人だよな?
グリフォンロードらしき魔物と共に空中へと跳ぼうとしているらしい。
ようやく迎撃する気か。
でもね、ちょっと遅かったようですよ?
「ハハハッ!」
甲羅の上にいたのは変態魔人だった。
パントマイムメンターめ!
何でギャラリーもいないのにポーズを取ってる?
格闘戦であれば全力で回避すべき奴だが、今のオレが手にしているのは虚無竜のデスサイズだ。
人によっては死神の鎌に見えるかもしれないな!
「ッ!」
胴体を両断されて尚、変態魔人は笑っていた。
ついでに呪禁導師もアリョーシャに肩口を喰い千切られている。
こいつがいて、結界が無いというのは?
朗報だ!
まさに獲物にすべきだ!
『長老様、まだいるようです!』
『ムムッ?』
確かにいる。
亀が次々と現れて地面に魔方陣と魔法円が重ねて描かれて行く。
だが、展開速度は遅い。
ダーク・フォールで身動きが鈍くなっている。
その上にインスタント・テクトニクスで地殻が激しく変動しているのだ!
中には転がってしまう亀までいるぞ?
追従戦力はそこまで酷く影響していないようだ。
ビッグホーンリザードにトライホーンリザード、そしてガルムの群れか!
ベリルビーストにオブシディアンビースト、もうお馴染みの敵だが物足りない。
数の上では十分にいるけど、個々の強さは物足りないぞ!
オリハルコンゴーレム・オブ・ドラゴン ???
??? ??? ???
??? ???
オリハルコンゴーレム・オブ・トライホーンリザード ???
??? ??? ???
??? ???
オリハルコンゴーレム・オブ・ビッグホーンリザード ???
魔物 ??? ???
??? ???
オリハルコンゴーレム・オブ・ケルベロス ???
??? ??? ???
??? ???
オリハルコンゴーレム・オブ・オーガ ???
魔物 ??? ???
??? ???
いや、どうやら別に用意があったみたいだ!
だがこれは厄介?
同様の魔物は他にも見ている。
基本、その仕様は変わらないだろう。
ストーンゴーレム、ミスリルゴーレム、アイスゴーレムといった存在と共通する筈だ。
召喚主を仕留めないと!
倒しても倒して復活する、アンデッド以上に厄介な連中なのだ!
多分、魔人のダークサモナーを仕留めねば止まらないぞ?
(((((((メテオ・クラッシュ!)))))))
(((((((ミーティア・ストリーム!)))))))
(((((((クェーサー!)))))))
((((((ダークマター!))))))
((((((ソーラー・ウィンド!))))))
((((((マイクロ・ブラックホール!))))))
(ミラーリング!)
スレイプニル・スレイブに騎乗した魔人達がいた!
爆撃を喰らって統率が取れていないのか、散り散りになっているぞ?
広域攻撃呪文だけで組んだ【呪文融合】の組み合わせを選んでいる暇が無かった。
亀には悪いが、お前はマイクロ・ブラックホールの的だ!
『援軍、第一陣が来ました! ユニオン申請を受諾!』
『敵の包囲を外側から半包囲、敵陣の突破は出来そう?』
『上空支援があるなら、やるさ!』
その声だけで与作だと分かる。
迎撃するよりも攻勢に出るのを好む、彼らしい答えだな!
だが、突出すると危険だぞ?
『サキより地上部隊へ! 重装の壁役はホバーダッシュの付与をします! 速度を最優先!』
『『『『『了解!』』』』』
『出し惜しみは無しよ! 【英霊召喚】を追加!』
様々な指示が飛び交う中、オレの目がダークサモナーを捕捉した!
スヴァジルファリ・スレイブを駆り、亀の陰に回り込もうとしてやがる。
させるか!
(((((((ファイア・ホイール!)))))))
(((((((デトネーション!)))))))
(((((((ダークマター!)))))))
((((((ソーラー・ファーニィス!)))))
((((((ミーティア・ストリーム!))))))
((((((メテオ・クラッシュ!))))))
(ミラーリング!)
アイス・エイジの呪文と干渉するかもだが仕方ない。
さっさと死ね!
亀と共に死ぬがいい!
過剰火力?
知るかよ!
(((((((アースフォルト!)))))))
(((((((ラーヴァ・フロー!)))))))
(((((((バックドラフト!)))))))
((((((エンブリットルメント・エリア!))))))
((((((ミーティア・ストリーム!))))))
((((((ボールダー・トス!))))))
(ミラーリング!)
オリハルコンゴーレム達の戦列を溶岩の谷にご案内だ!
これで終わる訳じゃないけど、一時的な措置としてなら効果はある。
但し例外もいた。
オリハルコンゴーレム・オブ・ドラゴンだ!
空を飛べるのだから当然だよな?
間抜けな奴の数体が溶岩谷に閉じ込められているように見えている。
だがこの場合、間抜けなのは召喚主の方だろう。
ボールダー・トスで蓋をした溶岩谷の上を魔物達が駆けて迫ろうとしている!
だがその動きも鈍い。
あっという間に蔦で覆われて絡め取られてしまっている!
ジャイアント・アイヴィーか?
誰かが使ったのかもだが、規模が段違いだ!
『長老様、足止めは我が!』
『紫晶竜様の無事を確認しませんと!』
『焦るでない。今、結界を解くようじゃぞ?』
どうやら蔦を操っているのはフォレストドラゴンか!
そして空中にいたオリハルコンゴーレム・オブ・ドラゴンのうち、数体が墜落する。
動かなくなったばかりか、消えてしまっている?
どこかで召喚主のダークサモナーが仕留められてしまったのだろう。
脆い。
こうして見ると脆いよ!
そして視線を転じると、半球状に重なった結界が解かれて行くのが分かる。
でもいいのか?
頭上にある浮き島が落とされるのでは?
『まつろわぬ者達よ、聞け。我は歌う。我は語る。滅びそのものを!』
『何だ?』
落下して転がったままの浮き島、その上に何かがあるぞ?
それは泡の球体のような何かだ。
そしてオレは以前にもこれを見た事がある!
まさか。
またなのか?
(シンクロセンス!)
アリョーシャの目を借りよう。
多分、予想は外れないと思うけどね!
ツィツィミトル ???
??? ??? ???
??? ???
うん。
大当たりだ!
それに以前見た時と印象が少し違うような?
仮面が変わっている。
まるで顔無し、のっぺらぼう?
より禍々しく見えるのは気のせいだろうか?
『破滅をもたらす女神め! 何を連れて来た?』
『語るに及ばぬ、その目で確かめるがいい!』
転生煙晶竜の問いに女神が答える。
そして天空を指差した。
浮き島を落とすのか?
だが、紫晶竜達が中心となった陣地に乱れは無い。
備えは万全、再度結界を展開する事も可能なのだろう。
だが、オレの予想はまたしても外れたようだ。
天空にあった浮き島が、その姿を変える。
これは一体?
ダイダラボッチ ???
??? ??? ???
??? ???
ガイア ???
??? ??? ???
??? ???
ユミル ???
??? ??? ???
??? ???
プルシャ ???
??? ??? ???
??? ???
おいおい!
浮き島に偽装してたのかよ!
いや、これは困った。
既にカタストロフィの呪文を使ったばかりだ。
何故か降下しつつある巨神達には全くダメージが無い。
困った。
そして期待は大きい。
これまでにない大苦戦になりますか?
だがそうなるには名前持ちの天使も寄越せと言いたい。
いるんだろ?
ハデス ???
??? ??? ???
??? ???
ポセイドン ???
??? ??? ???
??? ???
ツィツィミトルの頭上に幾つもの泡が現れていた。
最初に見えた泡の中にいるのはギリシャ神話の主神級の皆さんだ。
但しゼウスはいない。
プロメテウス達に捕らわれたままだし、これは当然だな。
残念?
いや、その地位を埋めるような存在は他にもいるみたいだぞ?
ラー ???
??? ??? ???
??? ???
オシリス ???
??? ??? ???
??? ???
ホルス ???
??? ??? ???
??? ???
天照大神 ???
??? ??? ???
??? ???
月読命 ???
??? ??? ???
??? ???
須佐之男命 ???
??? ??? ???
??? ???
オーディン ???
??? ??? ???
??? ???
トール ???
??? ??? ???
??? ???
フレイ ???
??? ??? ???
??? ???
シヴァ ???
??? ??? ???
??? ???
ブラフマー ???
??? ??? ???
??? ???
ヴィシュヌ ???
??? ??? ???
??? ???
墜落した浮き島の上で全ての泡が割れ、出現した神々が舞い降りた。
これはいけない!
空中戦でこのまま戦うのが、惜しい。
それに得物も良くないぞ?
格闘戦をするだけならいいけど、須佐之男命の目前で天照大神を仕留めるのが難儀だ。
グレイプニルの用意をしていません!
『魔神の助勢を得たか。女神よ、何を引き換えにしたか?』
『賢きドラゴンよ、汝も知り得ぬ領域があるのだと知るがいい』
『語るに及ばず、かな?』
転生煙晶竜が身構える。
目に見えてその全身が膨らんでいるかのよう。
本気だ。
どうやらここで本気になるようだぞ?
『キースよ、あの女神はお前さんがやれ!』
「ええ!」
長老様に言われるまでもない。
総大将の首は狙わずにいられません!
それが女神様であっても例外とする理由にはならないぞ!
『神殺しよ、汝の存在もまたここで終焉を迎えるのだ!』
「そうかい!」
ツィツィミトルの能力は何か?
いや、英霊のご老人の能力が効いているなら分かる筈も無い。
以前の転生煙晶竜の言葉を思い出す。
この女神は様々な魔物を使役すると言っていた。
それこそが最大の能力であるのかも?
今や主神級の神々を率いているかのように見えるぞ!
「ッ?」
全身に戦慄、巨大な何かに殴られたかのような感触!
それはオレの横で生じていた。
右に視線を転じる。
転生煙晶竜の全身に赤い筋が奔っていた。
だが、それは既に見慣れた光景で驚くに値しない。
驚愕すべきは更にその向こう側で起きていた!
遠近感が、おかしい。
より近くにいるのは転生煙晶竜、なのに長老様の姿の方が大きいぞ?
長老様の全身が膨張でもしているのか?
しかも全身にヒビ割れが生じているかのよう。
同じだ。
転生煙晶竜と同じく、これが長老様の本気モードなのか?
全身に青い筋が奔っています!
エンシェントドラゴン・オブ・ゴッドスローター
??? ??? ??? 戦闘中
??? ???
えっと。
エルダードラゴンの長老様を【識別】してみたらこうなっていた。
名前の意味は?
すぐに出て来ない。
落ち着け。
今は、落ち着け!
『何?』
『破壊の女神よ。汝もまた知り得ぬ領域があったようだな!』
『儂もまた神殺し。その意味を今、知るがいい!』
空気が震える。
いや、世界が歪んで一気に震えている?
まるでカタストロフィの呪文のエフェクトだが、違うだろう。
そう感じられるだけだ。
長老様が発した言葉に込められた気迫、単にそれだけだ!
『女神よ、どうやら最初から魔神に与していたな?』
長老様の問い掛けに答えは無かった。
ツィツィミトルは仮面を被っているから表情は全く読めない。
それでも分かる事があった。
アリョーシャの目で見ると、全身が震えているぞ?
『いや、魔神共をも使役していたのやも知れぬな。だがどちらであっても儂にはどうでもいい』
珍しく長老様の口調が厳しい。
そして饒舌だ!
『ここで滅びよ。再び辺獄で失う何かが残っていれば再会も出来よう!』
それはまるで死刑執行の宣言のよう。
そしてオレはツィツィミトルの為に用意された死刑執行人かな?
そうだ。
長老様は女神を仕留めろとオレに言った筈。
言ったよね?
『『ッ!』』
転生煙晶竜と長老様の全身から幾条もの光が放たれた!
赤い光と青い光が幾条も、互いに交差するかのようにだ!
それは巨神達へと叩き付けられている。
惜しい。
出来ればツィツィミトルだけじゃなく、巨神も仕留めたかったのに!
(ショート・ジャンプ!)
ツィツィミトルの背後に跳ぶ。
グレイプニルで梱包?
そんな選択肢は今のオレには無い。
手にしている得物は虚無竜のデスサイズ。
死刑執行人が使うなら斧が、介錯人であれば刀を使うべきだろうな!
これではまるで、死神のスタイルだ。
「シャァァァァァァァァァァーーーーーーッ!」
『何ッ?』
ツィツィミトルは長老様の存在に注意を向けていたからか、隙だらけだった。
女神様であっても遠慮は無しだ。
そして素顔を見ていなくて良かった。
痛痒を感じずに仕留めに行けそうです!
『ガッ!』
オレの頭上をアイソトープが通過したか?
ついでに格闘戦に介入しようとする連中にブレス攻撃を加えて行く。
ビアンカ、バイヨネットも空中からオレの支援に徹してくれていた。
アリョーシャもだ。
ヘイフリックはそのいずれかの影に潜んで支援してくれているのだろう。
たまにだが氷の槍や水の円盤が突如として出現していたりする。
でもそんな様子は断片的にしか把握出来ていません!
オレの目の前には須佐之男命が立ち塞がっていた。
だからじゃないけど、戦況の確認が難しい。
気にはなるけど、目の前の相手がそれを許してくれそうにありませんよ?
須佐之男命の様子は?
激怒しているのが明白だ!
その理由は?
天照大神を氷の棺に封じ込めた上でフリーズドライにして差し上げたからだな!
天照大神とは悠長に会話をする事も無かった。
どうも主神級の皆さんの中で最も話が通じそうなんだけど仕方ない。
こっちにも都合があるのです。
何しろ須佐之男命の目の前で偶然にも、仕留められそうだったからな!
見逃す事など出来なかったのだ。
『ケェェェェェェェェェェェェーーーーーッ!』
「フッ!」
須佐之男命からはまだ、天羽々斬を奪えていない。
嵐のような連続攻撃、その合間にカウンターを当てるのが精一杯だ!
オレの手に得物は無い。
むしろ無い事が良い方向へ作用しているかな?
持っていたらまともに受けてしまい、下手したら致命傷を喰らっていたかもしれない。
須佐之男命の左肘を僅かに押し込む。
反発する形で振り払おうとする所で低空タックル、だがこれは誘いだ!
密着しても尚、攻撃方法は残されている。
後頭部に天羽々斬の柄頭が叩き込まれてしまっては一大事だ!
『シャ!』
来た!
背筋に悪寒に似た感覚、これは死をも予感させる!
見えていないけど、狙い通りか?
自らスライディングする形で須佐之男命の足下に潜り込む。
一瞬のうちにスパイダーガード、右足首を狙う!
だがすぐに蹴り上げられてしまった!
左脇に直撃、だがダメージと引き換えに好機だ!
そのまま足首を左脇に抱え込む。
草刈りに行くだけの余裕は無い。
シンプルにヒールホールドに移行、体も反転させて捻りを加える!
それまでオレの体があった場所に天羽々斬が突き刺さっているのが見えた!
「ッ!」
須佐之男命の左膝を両脚で挟んで極めるべきだが。
その前に右足裏で股間を蹴り上げる!
男であれば悶絶必至だぞ?
だが、相手は怒りに我を忘れた様相の須佐之男命だ。
痛みを感じていないのかね?
どうやら股間を蹴ったのは余計だったようだ。
オレの体がフワリと浮く。
そして吹き飛ばされる!
須佐之男命に蹴り剥がされた?
いや、筋肉バカの魔神との格闘戦でも体験済みだ。
驚くに値しない。
『シャァァァァァァァーーーーーッ!』
「ハハハッ!」
天羽々斬を手にした須佐之男命が迫る!
それを目の当たりにしていながら、オレは笑い声を抑えられなかった。
仕方ないよね?
楽しいのだから、仕方ない!
苦痛はある。
そうでなければならない。
目の前にいる凶悪そのものの敵手から逃げ出したくもある。
そうでなければならない!
更に前へと踏み出すのを止める事も出来なかった。
いや、そうするのが正しい。
頭が理解して動いている訳じゃないのだ。
これがもう習い性なのです!
「クフッ!」
狙い目ならある。
怒りに我を忘れているからなのか、隙があるぞ?
天羽々斬を力任せに扱っていいのか?
脅威なのは確かだが、光明を見出せている。
見出せてしまえている!
『グッ?』
前蹴りを放つ!
足裏で脛を押さえる形になって須佐之男命の体躯が僅かにズレる!
須佐之男命の斬撃は僅かにオレの体を逸れた。
耳の奥に天羽々斬が生み出した風切り音が響く!
うん。
直撃してたら死んでたな!
天羽々斬の剣先は地面に深々と埋まってしまったようだ。
もうね、こんな危険な代物は使わせるべきじゃないな!
ここからは堂々と、殴り合いでいいだろ?
「ハッ!」
左肘を撃ち降ろす。
同時に左膝を蹴り上げる!
交差法は狙い通りに須佐之男命の右手首を直撃だ!
左足を着地、その勢いをも上乗せして右腕を抱え込んで思いっ切り手繰る。
右肘を逆関節に極めつつ、投げた!
腕の骨が折れるか?
肘関節が壊れるか?
そんな心配をしていい相手じゃないぞ!
何、まともな格闘戦にならないようなダメージになっても大丈夫だ。
ダーク・ヒールを使えばいいのです!
地面に叩き付けられた須佐之男命だが、すぐに起き上がってます!
その視線はオレに固定され、地面に突き刺さった天羽々斬には見向きもしない。
オレも目を逸らす事はしなかった。
いい目だ。
いい表情だ!
怒り、悲しみ、そんな感情すらも覆い隠すかのような殺意がオレの全身を叩いてやがる!
だが、それだけじゃないよな?
狂気だ。
もっと狂気に彩られた姿を見せてくれ!




