122
支道は少し進むと別の広間へと通じていた。
だが像はどこにも見当たらない。
正直、助かった。
いや、待て。
罠もあるかもよ?
一瞬、温泉のある部屋にでも戻ろうか、とも考えました。
でも好奇心には勝てない。
広間の中心に、あの人魂だ。
またか。
連続で戦闘はもう本当に勘弁。
《放浪する者達よ》
《放浪の果てに夢を追う者達よ》
《ここに新たなる糧はある》
《だが油断はならぬ》
《広き門を通るのも審判は厳しいものと知れ》
イベントらしきものは進まない。
何だ?
《伏魔鉱山の中継ポータルを開放しました!》
《ボーナスポイント5点が加算されます。合計で17ポイントになりました》
戦闘、ありませんでした。
ボーナスポイント、頂きました。
正直、気が抜けちゃいました。
よし、落ち着こうか。
まずはここの広場を調べてみよう
この広間には例の人魂が壁沿いに光っている。
光源としては十分だ。
だが水はない。
いや、排水溝は四隅にある事はある。
そして入ってきた扉とは別に2つの通路があった。
扉は無い。
その代わりなのだろうか、鳥居があります。
さっきまで無かったよな?
いつ出現したんだ?
で、その鳥居と共に1対の像が鎮座している。
獅子と狛犬。
阿吽の像だ。
動き出しやしないか、ドキドキしちゃうよね?
ヴォルフも黒曜もまるで騒がないから大丈夫?
頭を撫でてみた。
問題ない。
ただの石像のようだ。
合計4匹の像に守られた安全地帯かね?
エリアポータルに比べたらさすがに狭いのではあるが。
使えそうです。
それだけ、この先も長いと言われてるようなものだ。
さすがにMPバーの回復を図らないと、攻略に進む気が起きない。
いや、帰りたい。
この状態のまま長居して見たところで何も進展しない。
戦いを挑むにはリスクの高そうな相手がいるのに、現在のMPバーの状況は危機的である。
戻ろう。
ポータル内ではリターン・ホームは効かない。
だが一縷の望みで使ってみる。
ダメです。
では使える場所に移動するしかない。
先に進むのも不気味だ。
戻ることにしよう。
帳の広間に出た。
石像の前を通り過ぎ、広間の中央を避けて移動する。
出来るだけ、狛虎と離れるように。
あれとだけは戦っていないからね。
ここでもリターン・ホームを試して見るがダメであった。
むう。
戻れない仕様になっていた扉も再度チャレンジしてみる。
なんという事でしょう。
扉がちゃんと開くではないですか!
戻ってみる。
何も問題は無い。
金剛力士の石像も動こうともしなかった。
リターン・ホームの呪文を使ってみる。
いつもの転移の風景が始まっていた。
少し、安心しました。
目の前に風霊の村が見える。
さっきまでの出来事がまるで夢であったかのよう。
でも確かにあの戦闘の数々はあった筈だ。
オレ達のHPバーは全快に回復しているが、MPバーはもうボロボロである。
回復速度の速いヘザーですら3割ない。
村の周囲で狩りをする選択肢もあるが、今は少し腰を落ち着かせたかった。
村の中に入ると、冒険者の数は非常に少ない。
当然だ。
狩りに行ってる連中はいなくて当たり前。
それに現在の時刻は午後2時半といった所だ。
現実の世の中は深夜である。
普通に仕事や学校のある人間なら寝ているだろう。
それでも生産職はいる。
まあ暇潰しのついでに顔を出しておくか。
「あれ?キースさん、もう狩りから戻ったんですか?」
「ええ。ちょっと消耗が酷いのでね」
臨時露店は暇そうである。
商人のリックにしてみたら、客がいない時間帯は致命的じゃないの?
良く見たら何か縫い物をしてたみたいだ。
「縫製?」
「ええ。暇な時間はレン=レンの下請けですねえ」
「へえ」
ここで少しだけ立ち話で前情報を仕入れておく。
フィーナさんはログアウト中であった。
サキさんもマルグリッドさんも各々の工房で生産活動中。
他の面子もログアウトしてたり、探索に行ってたり、生産活動をしてたり、らしい。
目新しい情報は、原木栽培で作られたキノコの初収穫があったそうな。
へえ、あれってちゃんと進んでいたのか。
おっと。
邪魔するのも悪い。
一礼を残して辞去する。
まあこの村の中だけでもやりたい事はある。
木材置き場で端材でも漁るか。
矢の材料になりそうな端材は確保。
さて、どうしようかと思っていた所でレイナに出くわした。
「ありゃ?ここで会うとは珍しいね!」
「ども。矢の材料を貰いますけどいいですか?」
「いいって!ここのは端材だしね!」
そしてマシンガントークへ。
完全に守勢に、いや、聞き役に回ってしまった。
いかん。
ここから果たして攻勢に、いや、話を終わらせる事ができるのか?
しかも援護が無い。
だが意外な所に突破口を見つけた。
「どうでしょう。【木工】は本職じゃないですけど、椅子程度なら自力で作れます。手伝いますけど?」
「本当?頼んじゃっていい?」
交渉成立。
彼女曰く、机、椅子、それに家具といった木工製品はどれも不足しているそうだ。
実際、レイナが手掛けているのは机である。
椅子が作れるなら文句なしであった。
一応、彼女の手伝い、という事で、机作りもやらせて貰う事になった。
ずっと攻略にかかりきりだったしな。
たまには生産活動に本腰を入れるのも悪くない。
MPバーは少なかったが、ジェリコは帰還させて文楽を召喚する。
無論、手伝って貰うのだ。
ヴォルフ、黒曜、ヘザーは癒し要員としての任務を命じる。
言い換えるならば、休憩してて良し、だ。
今日これから、オレは日曜大工の鬼と化す。
本職には及ばずとも立派な品を作り出してみせよう。
では本日のメニューです。
まずは机から。
机は簡単な構造である。
基本、天板となる一枚板に脚を付けて、終わりだ。
だからこそ誤魔化しが効かない部分もある。
それぞれの部材に狂いが出ると、すぐ分かっちゃいますよ?
一通り、レイナと一緒に長机を作成。
そして自力で最初から作り上げたんですが。
品質Cです。
微妙?
いいえ、それはきっと文楽がいたから。
正直、部材の切り出しから成形、仕上げに至るまで、オレよりも文楽の方が優秀だったのだ。
く、悔しくなんかないぞ。
元々、器用値に大きな差があったんだし。
だが文楽の実力を知るべく、文楽だけで長机を作らせて見たり。
品質C+です。
え?
木工技能涙目。
心の中で泣きながら天板加工をしてました。
身内に恐るべき敵手がいる。
しかも勝ち目は最初から無いときた。
なんという戦力差。
まあそれはそれとして。
持ち運びのし易い小さめの机もいくつか作成。
既にいくつも出来つつあるログハウス用の折りたたみ机も作成。
そして椅子に取り掛かる。
「安楽椅子じゃなきゃいいし!」
レイナはそう言って最初から任せてくれました。
いや、投げっ放し?
彼女は彼女で長椅子を作り始めている。
さすがに、手際がいい。
因みに彼女の作り上げる作品は全て品質C+以上である。
もっと時間をかけて丁寧に作れば品質B-余裕ですとか何者?
オレが作り上げていったのは普通の椅子だ。
いえ、以前に作ってた奴と同じ物です。
意地でも品質C+で揃えにいってみよう。
目標があると燃えます。
で、あっという間に夕飯の時間が迫ってくる。
村の中にいい匂いが漂い始めていた。
今、作っている奴で今日は終わりにしよう。
作っているのは折りたたみ式の机に椅子だ。
軸受け部分が少し難しかったが、どうにか品質Cで作り上げている。
あ、危なかった。
文楽に手伝って貰ってて良かった。
いいタイミングだし、文楽には夕飯を作って貰うことにして、その間にも椅子を作っていく。
短い時間で品質C+を作り上げた事には満足できた。
もっと時間をかけて仕上げていけば品質B-まで手が届くだろう。
それだけの自信はあります。
文楽の作った料理は何か?
うどん、でした。
肉うどんだ。
どうしてこうなった。
いや、木工作業の合間に棒を1本、作っておいたのですよ。
ニョッキが作れるのなら生パスタもいけるんじゃね?
そう思ったが、パスタマシンは無理。
で、麺棒です。
ロッドにするために確保してあった角材で作った奴だ。
旨い。
少し麺生地を寝かせておく時間が足りなかったようだが、それでも旨い。
「うーん、旨い!」
これはレイナの評価だ。
いつのまにか彼女にも振舞う事になってました。
まあいけどさ。
食事の量は十分にあったし。
「で、この食事ってお代はどうする?」
「貰えませんよ、色々とお世話になってますから」
「端材なら持って行って、はもう今更よねえ?」
「いいんですよ、本当に」
「でも椅子とか机の加工費はいるわよね?新しく弓とか作る際の加工費、タダにしてあげる!」
「予約ですか」
まあそんな落とし所でいいと思います。
料理の後片付けを文楽が終えると帰還させた。
時刻は午後7時に迫ろうとしている。
既に夜の時間だ。
オレのMPバーも6割をやや超えてきている。
ずっとMPを消費せずの木工作業に没頭していたからな。
布陣はどうするか?
まずはヘザーも帰還させて外すことにした。
ホーンテッドミストを相手にするには相性が悪いしな。
相性の良い無明を召喚する。
もう1匹はどうする?
新しい召喚モンスターだ。
ところで14匹目は何にしようかね?
サモン・モンスターの呪文を選択して実行。
14行目に目を凝らしてリストを呼び出した。
ウルフ
ホース
ホーク
フクロウ
ウッドパペット
バット
ウッドゴーレム
ビーストエイプ
鬼
赤狐
タイガー
バイパー
スケルトン
スライム
ミスト
ライオン
大亀
フェアリー
ギガントビー
また、増えている。
ギガントビーって何?
【ギガントビー】召喚モンスター 戦闘位置:空中
巨大蜂。主な攻撃手段は腹の先にある針。
体格は中型の猛禽類にも匹敵する。
敏捷というよりも機動性が非常に高く好戦的な虫である。
まあ、あれだ。
空中位置のモンスターはヘリックスを始めかなり充実している。
ここはパスしてもいいかな?
で、リストからまだ召喚していないものだけを抽出してみる。
タイガー
バイパー
ミスト
ライオン
大亀
ギガントビー
ここは前衛にしておこうかね。
タイガーにするか。
そして現れたのがこいつだ。
ティグリス タイガーLv1(New!)
器用値 8
敏捷値 16
知力値 10
筋力値 18
生命力 18
精神力 10
スキル
噛付き 威嚇 危険察知 夜目 気配遮断
まあ名前の意味もトラなんですが。
さすがにトラだ、オオカミと比べても攻撃能力にかなり偏ってきている。
前衛、だよなあ。
「グルルルルルル」
「ガルルルルルル」
ヴォルフと対面すると互いに唸り始めた。
おいおい。
仲良くしてくれよ?
今度は互い値踏みするかのように無言で睨み合って。
互いの匂いを嗅ぎ始めた。
そうそう。
いい傾向だ。
次に互いの顔を舐め始めた。
ハハハッ。
仲が良くなるのが早いのな。
この先も上手くやっていけるだろう。
互いにじゃれあって地面を転がり回ってます。
2匹が互いに重なり合って、上の位置をとろうとしているらしい。
そろそろ出発したいんですけど、いいですか?
一瞬にして、整列。
宜しい。
では、夜の狩りに行ってみよう。
無論、最初にやるべきはティグリスの戦闘力の確認だ。
それはスケルトンラプターで済ませる。
概ね、予想通り。
つかアデル達と一緒に行動している間に散々見ているから知っている訳だが。
まあ、念のためだ。
やはりスピードではオオカミに一歩も二歩も及ばないが、攻撃においては実に力強い活躍をする。
スケルトンラプターの肋骨を噛み砕いてました。
なんという恐ろしい子。
ではメインの獲物を狩るとしよう。
ホーンテッドミストだ。
全員にエンチャンテッド・ウェポンを掛けて戦闘に備える。
コール・モンスターで呼び寄せた。
今日は獲物の数が多いようだ。
うむ。
美味しいかも知れない。
その群れの規模はまあそこそこって所だ。
全員が一斉に襲い掛かる。
オレが手にしているのは呵責の捕物棒だ。
ホーンテッドミスト相手にはこっちの方が良さそうだ。
適当に振り回すだけで、かなりの範囲を攻撃できる。
それだけに扱いは難しい。
細かなコントロールは特にそうだ。
槍のように突くのであれば問題は無いのだが。
ヴォルフとティグリスはペアで行動していた。
互いに取り付こうとする魔物に喰い付き、体当たりを敢行し、前脚で払いのけ続けている。
お互いをフォロー出来ているみたいで結構。
無明は着実に、淡々と目の前にいる魔物を片付けていった。
相変わらずホーンテッドミストと相性がいい。
接触していてもMPバーがまるで減らないし。
黒曜は低空を突っ込んで魔物の群れを散らすように攻撃を続けている。
オレも負けていられない。
物干し竿のような呵責の捕物棒を振り回して群れの中へ突っ込んだ。
呵責の捕物棒は中々の効率でホーンテッドミストを屠っていく。
手ごたえはないのがアレだが。
点よりも線、線よりも面で攻める事ができるならば、こういった相手にはダメージを与え易い。
つまり、呵責の捕物棒を何も考えずに振り回すだけで戦果があがってしまう。
そこに技はない。
そこに業もない。
槍術は本格的にやった事はないんですよ。
かじった程度で終わってる。
槍というのは扱い易い武器だ。
ある意味、そうなんだけど。
調練も比較的楽です。
手にしたらすぐに強くなった感覚になれるだろう。
槍は昔から重要な位置付けを持つ武器であった。
武士の修めるべき武術は何を優先すべきであるのか?
弓術に馬術だ。
そして槍術。
そのうちに鉄砲術も入ってくる訳で。
あれ?剣術って。
そこは触れてはいけない。
武芸者、という言葉があるが、あれはある意味蔑称なのですよ。
芸として武を見世物にするが故に武芸者なのだから。
剣術がより重要視されていったのは、江戸時代になってからだ。
無論、それまでに剣術がなかった訳ではないが。
何が言いたいのか?
槍は武術の中核を成す武器って事でして。
それでいて竹槍に代表されるように、身近なものでもあったのです。
オレみたいにそう扱ったことの無い奴でも有効に使える。
実に有効だ。
杖術で扱うには六尺棒あたりまでだな。
このサイズでも杖の技が使えなくも無いが、さすがに長すぎる。
ホーンテッドミストの群れをいくつも狩り進めていく。
村の周囲に魔物が減ってきたから、かなりの距離を遠征してきていた。
その合間にフロートアイも狩っている。
ホーリーレイスにも遭遇したが、これもなんとか返り討ちに。
スケルトンラプターも問題ない。
獲物は魔石10個に水晶球2つ。
まあまあ、かな?
時刻は午後11時半を過ぎていた。
最後に思いっきり規模の大きなホーンテッドミストの群れを仕留める。
MPも気にせず呪文もかなり奢ってあげました。
その甲斐はあったかもしれない。
《只今の戦闘勝利で【塵魔法】がレベルアップしました!》
《【塵魔法】呪文のディグレード・カーテンを取得しました!》
《【塵魔法】呪文のサーマル・エクステンションを取得しました!》
《只今の戦闘勝利で【火魔法】がレベルアップしました!》
魔法技能も2つほど、レベルアップしてくれている。
呪文も壁と全体攻撃だ。
また、増えてしまったか。
仕方が無いけどさ。
今日は新たな仲間も追加できた。
それだけでも良しとしよう。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv14
職業 サモナー(召喚術師)Lv14
ボーナスポイント残 17
セットスキル
杖Lv11 打撃Lv8 蹴りLv8 関節技Lv8 投げ技Lv8
回避Lv8 受けLv8 召喚魔法Lv14 時空魔法Lv6
光魔法Lv7 風魔法Lv8 土魔法Lv8 水魔法Lv8
火魔法Lv8(↑1)闇魔法Lv7 氷魔法Lv6 雷魔法Lv5
木魔法Lv6 塵魔法Lv6(↑1)溶魔法Lv6 灼魔法Lv5
錬金術Lv6 薬師Lv5 ガラス工Lv3 木工Lv5
連携Lv10 鑑定Lv10 識別Lv10 看破Lv3 耐寒Lv5
掴みLv8 馬術Lv8 精密操作Lv10 跳躍Lv4
耐暑Lv5 登攀Lv4 二刀流Lv8 解体Lv6
身体強化Lv6 精神強化Lv7 高速詠唱Lv8
魔法効果拡大Lv5 魔法範囲拡大Lv5
装備 呵責の杖×1 呵責のトンファー×2
呵責の捕物棒×1 怒りのツルハシ+×2 白銀の首飾り+
雪豹の隠し爪×1 疾風虎の隠し爪×2 雪豹のバグナグ×1
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の紋章 中庸を望む者
呪文辞書
召喚モンスター
ヴォルフ グレイウルフLv3
残月 ホワイトホースLv1
ヘリックス ファイティングファルコンLv1
黒曜 ミスティックアイLv1
ジーン ブラックバットLv1
ジェリコ ウッドゴーレムLv7
護鬼 鬼Lv6
戦鬼 ビーストエイプLv7
リグ スライムLv5
文楽 ウッドパペットLv5
無明 スケルトンLv5
ナインテイル 赤狐Lv4
ヘザー フェアリーLv4
ティグリス タイガーLv1(New!)
器用値 8
敏捷値 16
知力値 10
筋力値 18
生命力 18
精神力 10
スキル
噛付き 威嚇 危険察知 夜目 気配遮断




