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厨房と食堂に漂う匂いは味噌の匂いだ。
どうやら今日はスタンダードな和食かな?
期待していいだろう。
「おはようございます、キースさん」
「ああ、おはようさん」
優香と挨拶を交わしつつ、ミオを見る。
真剣な表情で何か計量しているようだが。
傍目から見てると怪しい儀式みたいだぞ?
「何かな?」
「デザートです。僅かな差でも出来が大幅に違うので挨拶する余裕も無いんですよ」
「そういうものなのか?」
「ええ」
ならば邪魔はしちゃいけないな。
しかし、デザートだって?
朝食は和食かと思っていたんだが、どうも毛色が違うらしい。
「他の皆は闘技場か」
「ええ。私達も朝一番で対戦をしてみたんですが、確かに危険になってましたね」
「危険?」
「以前と匙加減が全く違ってました。魔晶石でしたけど、ユニオンでも危なかったですね」
魔晶石で危なかった?
それはちょっとどうかと思うが。
様子を見に行こう。
どんな対戦になっていますかね?
ついでに召魔の森に配備しているポータルガードの見直しをしておきたい。
「キースも対戦はまだいいのか?」
「ああ。他にやっておく事もあるし」
「じゃあ、先にこっちが対戦にするぞ?」
「どうぞ」
「悪いな」
与作は申し訳なさそうに手を挙げているが、気にしなくていい。
対戦をする以前に確認をしておきたかった。
闘技場の難易度がどう変化しているのか?
観察しておく事も無意味じゃないのだ。
当然だけど、オレは完全に観客と化してます。
アデル、イリーナ、春菜、此花のユニオンの対戦も中々の苦戦だった。
内容的にも悪くない。
ヒョードルくん、ヘラクレイオスくん、ゼータくん、そして駿河と野々村のユニオンも同様だ。
どちらの対戦も普段と変わらないように見える
オベリスクに捧げているアイテムは魔晶石であるらしい。
魔水晶ですらない。
やはり難易度が跳ね上がっているのは間違いない。
召魔の森に配備しているポータルガードの見直しは終えてある。
ティグリス、火輪、十六夜、エジリオを外しました。
配備したのはタペタム、風花、パティオ、貴船です。
確認しよう。
召魔の森のポータルガードは?
ジェリコ、リグ、クーチュリエ、守屋、スーラジ、久重、テフラ。
岩鉄、虎斑、蝶丸、網代、スパーク、クラック、オーロ、プラータ。
タペタム、風花、酒船、コールサック、シュカブラ、シルフラ。
葛切、スコヴィル、デミタス、白磁、マラカイト、パティオ、貴船。
そしてエルミタージュ、ナーダムだ。
ティグリスに代わり指揮官役になるのは?
多分だけど風花になると思う。
ゾンネティーガーは全般的にバランス型、風花もその例に漏れない。
冷静に距離を置いて戦況を見つつ、攻撃手段を変える手際は指揮官役に向くだろう。
「どうでした?」
「魔晶石であれか」
「ええ」
ヒョードルくん達が戻って来た。
相手はエジプト神話関連の面々、以前の闘技場であればやや品質低めの魔結晶の難易度だ。
それが魔晶石で戦えるというのはある意味で美味しい。
見方を変えたらそうなる。
サムサラスフィンクスにサムサラスピンクスもいたようだし、アイテムの古代石柱も美味しいぞ!
「イリーナ、此花は次だな?」
「ええ。でもキースさんは本当にいいので?」
「アデルちゃんと春菜ちゃんはもっと堪能していたいみたいですけど」
視線を転じると?
アデルと春菜はタペタムと風花に挟まれた挙句、ゴールドシープ達に囲まれている!
モフモフの中で窒息死してもおかしくない。
「次は魔晶石か?」
「ええ。そのつもりですけど」
「魔水晶だ」
「いや、それじゃちょっと怖いですけど」
「私の所のポータルガードを付ける。それで戦えないようだと困るぞ?」
互いの顔を見るイリーナと此花だが。
いや、安定志向なのは知ってる。
でもね、そこから一歩踏み込むべきだろう。
それはヒョードルくん達も同様だ。
最近、温くなってませんか?
生産職の面々は同じ魔晶石ではあるけど、2つのパーティによるユニオンだ。
実際、日本神話の面々を相手により厳しい戦いを展開している。
与作と東雲の奮戦振りは確かに見事だが、相手は数も多く気が抜けないだろう。
前衛に出ながら指示を出し続けるフィーナさんは相変わらずか。
堅実であるように見えつつも、攻め込んでいるのが分かる。
危なくなったら介入する、とは言ってあるんだけどね。
これならその必要は無いかもしれないな。
「大丈夫でしょうか?」
「まあどうにかなるさ」
アデル達の対戦相手は?
ヴリトラの分身にヴリトラの幻影。
マハラジャアシパトラ、そしてハヌマーンとスグリーヴァ。
総大将格はシヴァの影にパールヴァティーの化身か。
問題は?
アプサラス達だな。
駿河と野々村が対戦をこれ以上になく凝視しているのは何故か?
スクリーンショットを撮っているに違いない。
うむ。
オレですら数枚、増えているのだから当然だな!
オレ配下のポータルガードも参戦していた。
特に壁役の酒船とゴーレム組はヴリトラの写身との戦いも経ている。
防御面では心配はそうしなくていい。
問題は攻撃面の方だろう。
連携はいい。
手数も足りている。
それでも尚、厳しい戦いが続いているのは?
やはり難易度的に厳しいようだな。
ヴリトラの分身の雷撃の雨による攻撃は広範囲に及ぶ。
それにシヴァの影の攻撃も防御は出来るだろうが回避は難しい。
かなりの大苦戦を演じている。
いや、大苦戦にさせられているようだ。
タペタムとコールサックが回り込み牽制しているが間に合うか?
風花はシュカブラと貴船と共にその支援を行いつつ、半包囲を完成しつつあった。
アデルも上空から支援を続けている。
今の所、戦況は拮抗しているが、もう少しだ。
もう少しで戦況は一変するだろう。
「闘技場はいいとして、問題は周辺の森だなあ」
「森か」
「ああ。最近はいい木材もあったりしていい調子だったんだけどな」
「今日は加工の方をするよ! 手伝ってくれないと!」
「分かっているって」
与作も今日はレイナと共に木工作業らしい。
彼単独で周辺の森に挑むのは無謀だろう。
それはオレだって同じだ。
少なくともパーティを組んでいないと厳しい。
「朝食、出来ましたよー」
「了解。じゃあ、この対戦が終わったらにしましょう」
戦況は?
どうやら優勢に転じたようだ。
これならば大丈夫。
召喚モンスター達のHPバーも危険域に達していない。
回復の手が十分に間に合っている証拠でもある。
敵の数は減りつつあるが、もう少し時間がかかるかな?
それでもイリーナと此花であれば堅実に勝ちを目指す事だろう。
それもまた正解であるのだが、困る事もある。
朝食、まだかな?
余りにも長く掛かるようなら先に食べちゃうぞ!
味噌の匂いの正体が判明した。
強烈に濃い味噌の風味のカツ丼。
味噌カツ丼か。
悪くない。
味が濃くて食べ応えもある。
何よりも美味しければ正義だ!
オレの両脇でも与作と東雲が豪快に食っている。
丼そのものが大きめの上に大盛り、それが急速に消えて行く。
負けていられない。
何だったらおかわり、行くかな?
「デザートにケーキもありますよー」
そうか。
しかしこんなに味の濃いメインにケーキですか?
悪くない。
どんな組み合わせであろうとも、美味しければ正義だ。
「ショートケーキ?」
「私が作ったの! 失敗作だけどね!」
「ミオ、もしかしてこれ、ホイップクリームは?」
「アマルテイアのお乳なんよ! でも何も効果が付かなかった!」
ほう。
これがねえ。
でも先に味噌カツ丼を片付けるのが先だ。
遅れてはならない!
「お替わり!」
「残念! もう残ってないよ!」
「むう」
東雲の無念は分かる。
美味いのは文句なしだ。
なのにお替わりは無いだって?
悶々とするだけではないか!
「ところでイベントの進捗はどうなってますか?」
「噂では明後日らしいわ」
「ほう」
「こっちの準備はもう概ね終わっているわ。一部は別口で依頼も受けてる所」
さすがだ。
手回しが良過ぎて依頼もこなすとか、素敵です!
オレもイベントが進む前に動くとしよう。
ちょっと怖いけど、ゲルタ婆様の所に顔を出そうかね?
どこにいるのかが問題だが。
何、悩む事は無い。
例によって東の陣地には黒い球体の監視と警戒をしているドラゴン達がいる。
そしてサビーネ女王もいるだろう。
ジュナさんも女王陛下の警護役で同行しているのも確実だ。
だが、その前に。
ケーキを片付けよう。
それに海魔の島にも先に行っておきたい。
無論、ポータルガードの配備を見直す為であるのだが。
皆が揃っているかな?
それに転生煙晶竜の様子も気になる。
ナイアスがいるから喰い過ぎはしていないと思うのだが。
大丈夫かな?
海魔の島、港湾の中で転生煙晶竜がプカプカと浮いている。
その隣にはパンタナール、甘えているのか尻尾が転生煙晶竜の背中に乗っかってます。
そんなパンタナールの頭上にナイアス。
背中の上にヴェルツァスカとプリトヴィッチェ。
ロジットとアチザリットは転生煙晶竜の頭上で仲良く並んでます。
港湾の出入り口はプリプレグが塞いでいて、他の面々はその周囲にいるようだが。
そのプリプレグの甲羅の上にエルダードラゴンの長老様がいる。
金紅竜、翡翠竜も一緒だ。
それだけじゃない。
黒曜竜、それに水晶竜がいる!
周囲の海上にいるのは?
フレイムドラゴン、フロストドラゴン、ブルードラゴン。
そしてブロンズドラゴン、フォレストドラゴン、クラウドドラゴンか。
ブロンズドラゴンは水晶竜と共に行動していた個体のようだ。
どうやら交代要員かな?
それはいいとしてだ、ポータルガードの見直しをしておこう。
アイソトープを外してラルゴを配備するだけですけどね。
『おお、キースか』
「ども。交代ですか?」
『うむ。だが少々、困っていてな』
ブロンズドラゴンの口調は困っているように思えない。
明らかに笑っていた。
『金紅竜様だ。長老様に文句を言い続けている』
「ありゃ」
まあ気持ちは分かるけどね。
まさかと思うけど、丸一日あんな様子だったんだろうか?
「ずっとですか?」
『交代を前に少し苦情を言うつもりであったようだが、長くなっているな』
「はあ」
まあ気持ちは分かる。
ここで交代、別れる前に改めて文句を言いたくなったのだろう。
『おお、キースか』
「ども。長く掛かりそうですか?」
『うむ。既に東への門は用意してあるのだがな』
黒曜竜が上空を見上げた。
例の黒い渦巻きだ。
門か。
きっと東に跳ぶ事になるのだろう。
オレも便乗して一緒に跳ばしてくれませんかね?
『金紅竜、そろそろ行くぞ!』
『むう、まだ言い足りないのだが』
『もう少し落ち着いてからでも良かろうに!』
翡翠竜は金紅竜の尻尾を後脚で掴むと強引に飛ぶ。
金紅竜は吊り上げられた格好になる!
おいおい、同格とは言えそんな事をしちゃっていいのかな?
『長老様! また後日、お話がありますぞ!』
『分かっておるとも』
長老様はそう答えつつも笑っているようだ。
長い年月を経たドラゴンの持つ余裕かな?
それでいて転生煙晶竜みたいな所もある。
謎だ。
その真の姿は一体?
やはり謎だ。
(フライ!)
(アクロバティック・フライト!)
(十二神将封印!)
(ミラーリング!)
『キース? どうした?』
「東に行くのでしょう? 便乗させて下さい」
門の中へ、翡翠竜と並んで飛び込む。
テレポートとはまた違った感覚だ。
よりこっちの方が安定しているように思える。
体に感じる違和感は僅かだ。
さて、東に行く訳だが。
ジュナさんはいるかな?
オレの目論見通り、ゲルタ婆様から依頼があればいいのだが。
そうでなって欲しい所ではある。
「おお、キース! いい所に来たの!」
「えっと」
オレの気分は回れ右をしている。
だがそれを許さないだけの事情があるのだ。
ここは我慢せねばならない。
ゲルタ婆様がいたのは好都合?
だがゲルタ婆様はギルド長の顎髭を引っ張っている。
姉による弟への虐待?
折檻?
多分、それに近いな。
「おお、キースか。ちょうど良かった」
「いや、あの」
「こ奴め、オレニューの居場所を吐かんのじゃ!」
「ゲ、ゲルタ姉! オレニューの方の準備は済んでおるんじゃろ?」
「だからこそじゃ! マナポーションの量産の手が足りない時にどこに行った!」
「息抜き、かのう」
ふむ。
師匠は逃げたか。
まあ逃げたくもなる気持ちは分かる。
でもね、犠牲になっているのはいつもギルド長のような気がします。
オレにはこれを止める術が無い。
止められそうな人なら心当たりはある。
ジュナさんだ。
だが、肝心のその人は助け船など出す様子は見せない。
面白そうに見守っているだけだ。
あの、サビーネ女王だけじゃなく女教皇シュザンヌもいるんですけど?
外交的に少々、問題がありそうです。
「止めなくていいんですか?」
「いいのよ、やらせておきなさい」
やはりか。
ジュナさんに止めるつもりは無いらしい。
その代わりオレの両手が何かに絡め取られていた。
右手はジュナさん。
左手はバンパイアダッチェス。
しまった。
これは罠か?
「確保したわよ、ゲルタちゃん!」
「お手柄ですな、ジュナ様」
「あのー」
こう言ってはアレだが。
もしかして、オレって飛んで火に入る何とやらでした?
いや、マナポーションの量産なら望む所であるんですけど!
オレの真正面にゲルタ婆様が立つ。
その笑顔はどう見ても、獲物を確保した肉食獣の笑みだ。
オレも笑おうとしたけど、間違いなく不自然に引き攣っている事だろう。
間違いない!
「用件は、分かるかな?」
「し、師匠の代役ですね」
「うむ。何をする事になるのかは?」
「マナポーションの量産ですね、ハイ」
「違う!」
「では瓶の作製なので?」
「それも、違う!」
「りょ、両方ですか!」
「そうじゃ!」
ああ、やっぱり。
でもね、こうなる事もまた渡りに船だ。
ゲルタ婆様は怖い。
正直、おっかない。
手伝いと思えないレベルで酷使されるのも毎度の事です。
師匠が逃げ出す程なのだ!
それでも確かな事がある。
報酬は常にあるのだ。
そこが師匠の場合と違う所だろう。
無償奉仕であればオレだって今すぐにでも逃げたい。
逃げる事が可能とは思えないけど、逃げたい。
そもそも、事前に無償奉仕になるのが分かっていたらここに来ないだろう。
「出来れば昼前までに済んでくれたら助かるのですが」
「それはお前さんの腕次第じゃのう」
ゲルタ婆様の周囲に影。
レプリカントが2体だ!
その各々がジュナさんの姿を写し取り、オレの身柄を確保する。
これでは逃げられないな。
いや、最初から逃げるつもりは無いのだが。
師匠が師匠なら弟子も弟子。
ゲルタ婆様はそういう考えなのかもしれません。
そしてここでオレは大きなミスに気付く。
召魔の森に配備している人形組を数体、連れ出しておけば良かった!
まだ朝の定常業務があったから見過ごしたか?
多少、負担が増えてでもそうすべきでした!
仕方ない。
手伝える召喚モンスターなら他にもいる。
待宵だ。
オレの姿を写し取らせたらいい。
運搬役や整理整頓程度なら人型の召喚モンスターでも出来そうな事はある。
やれる範囲でやれる事をこなすしかないな。
「で、手伝うという事でええんじゃな?」
「ええ」
オレの返答に満足そうなゲルタ婆様とジュナさんだが。
それでもオレの拘束は解かれないのね?
困った事だ。
信用してくれてもいいのにねえ?
《これまでの行動経験で【ガラス工】がレベルアップしました!》
《これまでの行動経験で【精密操作】がレベルアップしました!》
作業は師匠の家に移動して続けられる事になりました。
ここも久し振りだな。
そんな感慨に耽る事が出来たのはほんの一瞬だっただろう。
師匠の家ではオレとは別の虜囚がいた。
元宮廷魔術師のシルビオさんだ。
オレとの挨拶もそこそこに作業を分担して行う事になった。
オレの担当はやはりガラス瓶からだ。
新規作製は勿論だが、壊れた瓶も再利用になる。
これがまた、とんでもない量だった!
パーティの布陣は?
逢魔、モジュラス、清姫、待宵、キレートだ。
ガラス瓶作製を手伝っているのは主にオレの姿を写し取った待宵です。
他の面々は出来上がったガラス瓶を別の作業場も運ぶ役目を担っている。
それに素材の補充もだ。
ジュナさんの姿を写し取っているゲルタ婆様配下のレプリカントもいる。
手伝ってくれているけど、監視役を兼ねているのも間違いない。
「瓶はもうええじゃろ。上に手伝いに来てくれんか?」
「はい」
オレはまだいい。
シルビオさんは恐らく、オレ以上に酷使されているのは間違いない。
師匠もいるようなら負担は分散されている筈なのだが。
オレの顔を見た瞬間、まるで救いの神のように拝まれたものだ。
今はどうなっているんだろう?
MPバーの消耗は気にしなくていい筈。
それでも淡々と作業を続けるのは気分が憂鬱になるからな。
気分を変えるのも必要だろう。
「シルビオさんは大丈夫なので?」
「うむ。文句は言うがの、ああ見えて頑丈なんじゃよ」
「そうなんですか?」
「態度はどこはヘラヘラしておるがな。しかも自分の欲に正直でのう」
コンティ王家の宮廷魔術師になったのも秩序法典に興味があったからでしたっけ?
確かに知識欲が暴走でもしない限り、当時は敵国同然の所に行ったりはしないだろう。
しかも宮廷魔術師とか、並みの神経じゃ出来ない。
でもゲルタ婆様も本人がいる前で言わなくてもいいのに。
シルビオさんは力なく笑っているけど、怒ってもいいと思いますよ?
オレには出来ませんけどね!
「残りのポーションとマナポーションは任せるが良いかな?」
「この数をですか?」
「昼前までに片付けよ。但し、品質は揃えるのじゃぞ?」
「はあ」
もうね、唖然としてそう答えるしか無い。
机の上にあるだけではないのだ。
別口で《アイテム・ボックス》に保管してある分のガラス瓶も含めてだぞ?
短縮再現があるけど、果たして間に合うかどうか。
自信なんてありません!
「そっちは何を?」
「呪符じゃよ。シルビオ、お前さんも呪符じゃ!」
「へーい」
力の無い返答に対してゲルタ婆様は鉄拳で応えた。
いやはや、本当におっかない。
当然だけど、オレにも拒否権は無いのでした!
《これまでの行動経験で【錬金術】がレベルアップしました!》
《これまでの行動経験で【薬師】がレベルアップしました!》
時刻は?
午前11時50分。
間に合った。
間に合わせたぞ!
何気に品質Cを外したポーションとマナポーションの数は少ない。
合計しても20本と無いだろう。
短縮再現を使った量産は何度もやっているけど、ここまで大量にやる機会はそう無い。
自画自賛してもいい出来だと思う。
そして今回、ボーナスポイントの加算が無い。
そこが実に惜しい。
もう少しでイベント・ホライズンが有効化出来るのに!
「まあまあ、やるようになったではないか」
「はあ」
しかしゲルタ婆様の評価は厳しい。
まあまあ、ですか。
確かに。
ゲルタ婆様だけではなく、シルビオさんも呪符の品質Cを全く外さずに量産している。
その呪符の束がオレに現実を見せつけていた。
トーチカの札、それにホーリー・プリズンの札だ。
全く、どれ程の力量なのか恐ろしいよ!
「さて、報酬はアレで良いかな?」
「はい!」
ゲルタ婆様がまるで手を付けていない麻袋があった。
中身はきっと、マジックマッシュルーム。
今日の作業量と出来に比較したら麻袋3つは少なく思えるけど否は無い。
無いったら無い!
「では、私はここで失礼しても?」
「うむ、助かったぞ。これでどうにか冒険者ギルドの連中に顔向け出来よう」
ぐったりと机に突っ伏したシルビオさん。
だが労りの言葉はゲルタ婆様からは出ない。
その代わりなのか、ジュナさんの姿を写し取ったレプリカント達が優しく接してくれている。
いや、単純にゲルタ婆様との比較でしかないのだが。
そう見えてしまう程、ゲルタ婆様が厳しいのだ。
「食事の用意はさせてある。食って行け」
「はい、では遠慮無く」
誰が作ったのか?
そこは疑問だが敢えて聞く事はしない。
こういう時は出された食事には文句を言わずに全て平らげるのが正解だ。
そして味については何もコメントはすまい。
君子危うきに近寄らず、と諺にもある。
そしてオレはゲルタ婆様にとって何が地雷なのか、把握していない。
リスクは負わないように心掛けましょう。
「ところでキースよ、明後日にはまた例の黒い球体を封印をせねばならんのじゃがな」
「はい」
「ドラゴンの長達に妙な動きがある。何か知らんか?」
「さ、さあ」
「女王陛下にも詳細は知らされておらぬ。それ故に心配しておるようでな」
パンにスープという簡単なメニュー、量も多目であったけど意外に美味かった。
いや、意外にというのはおかしいけどね。
オレの食欲にはゲルタ婆様も半分は呆れ顔、でも半分はどこか嬉しそうでした。
余ってたスープも貰って平らげたのは余計だったかもしれない。
シルビオさんが少し恨めしそうな顔をしてました。
そして食後にこれだ。
危なかったな。
お茶を口に含んでいたら吹き出していたかも?
それにしても、詳細を知らせてないって?
紫晶竜も、そして金紅竜も明かしていない理由は概ね分かる。
転生煙晶竜も、それにエルダードラゴンの長老様も内輪の話なのだ。
敢えてサビーネ女王に話す事でもあるまい。
ある意味、身内の恥を晒す事でもある。
「どうやら知っておるようじゃの」
「えっと」
「無理に聞き出しはせん。そんな顔をするな」
いかん。
表情を読み取られている。
取り繕うにしても相手はゲルタ婆様、実に手強い。
緊張の糸が僅かに解れた瞬間を狙われたらどうしようもない!
「次の封印でも変化はあるじゃろ。その対応は頼むぞ?」
「ええ、それはもう」
「それにじゃ、神殺しの称号の件は迂闊に口にするでない。これは忠告じゃ」
「あの、危険なので?」
「歴史を紐解いても伝聞でしか知らぬ。長命のドラゴンですら神殺しは伝説なのじゃ」
ゲルタ婆様の視線はシルビオさんに向く。
怯えた様子を見せていたけど、シルビオさんがゲルタ婆様の言葉を継ぐようだ。
「無論、様々な文献にも歴代王家の人間を称揚するのに様々な称号を与える風潮はあるねえ」
「でも実際にはどうなんでしょう?」
「ほぼ後付けだよ。民衆に通りが良い称号を異名としているだけに過ぎない、と思う」
「宣伝の為、ですか」
「まあそうだろうね。それでも神殺しというのはどうだろうね」
シルビオさんは手にしたお茶に視線を落とす。
中身がもう無い事に顔を顰めていた。
すかさずレプリカントがお茶を注ぐ。
僅かに笑み。
この人、意外に分かり易いな。
「少なくとも法騎士達には知らせてはいけないねえ」
「そうなんですか?」
「見抜く事が出来るとしたら、女教皇かな? まあ大丈夫とは思うけどね」
「誰なら可能ですか?」
「本国にいる教皇だね。まあ身動きは出来ないだろうから心配ないさ」
「もしもですよ? バレたら何が起きるんです?」
「信仰する神を殺せる危険分子として命を狙われておかしくないよ」
それもそうか。
確かにそういう見方も出来る。
何だかこの神殺しの称号なんだけど、厄介だな。
メリットは分からない上にデメリットが際立っている!
「シルビオ、神殺しの称号は魔神相手にはどう作用するかね?」
「さて。試してみない事には何とも」
「何じゃ。お前さんの知識もその程度か」
「勘弁してくれませんかね? 私にだって知らない事は沢山あるんですから」
いや、シルビオさん。
十分です!
確かに法騎士達は神への信仰を拠り所にしている面々だ。
価値ある忠告です。
有り難い。
言われなければ気付きませんでした!
「今後は出来るだけ女教皇の前には姿を見せない方が良さそうですね」
「ま、念の為にそうするといいよ」
「ありがとうございます」
そうなるとサビーネ女王の前に顔を見せるのも避けるべきかな?
今は共同戦線を張っている状態だ。
イベントが終わるまで、注意しておくべきだろう。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv254
職業 サモンメンターLv143(召喚魔法導師)
ボーナスポイント残 49
セットスキル
小剣Lv203 剣Lv206 両手剣Lv206 両手槍Lv207
馬上槍Lv211 棍棒LvLv207 重棍Lv204 小刀Lv204
刀Lv205 大刀Lv208 手斧Lv205 両手斧Lv204
刺突剣Lv205 捕縄術Lv211 投槍Lv208
ポールウェポンLv205
杖Lv231 打撃Lv236 蹴りLv236 関節技Lv236
投げ技Lv236 回避Lv248 受けLv248
召喚魔法Lv254 時空魔法Lv247 封印術Lv246
光魔法Lv245 風魔法Lv245 土魔法Lv245
水魔法Lv245 火魔法Lv245 闇魔法Lv245
氷魔法Lv245 雷魔法Lv245 木魔法Lv245
塵魔法Lv245 溶魔法Lv245 灼魔法Lv245
英霊召喚Lv7 禁呪Lv246
錬金術Lv209(↑2)薬師Lv58(↑3)ガラス工Lv55(↑5)
木工Lv94 連携Lv215 鑑定Lv165 識別Lv225
看破Lv212 保護Lv84 耐寒Lv223
掴みLv220 馬術Lv219 精密操作Lv220(↑1)
ロープワークLv211 跳躍Lv222 軽業Lv227
耐暑Lv215 登攀Lv208 平衡Lv219
二刀流Lv216 解体Lv164 水泳Lv214
潜水Lv214 投擲Lv217
ダッシュLv219 耐久走Lv218 追跡Lv218
隠蔽Lv214 気配察知Lv217 気配遮断Lv217
魔力察知Lv217 魔力遮断Lv217 暗殺術Lv218
身体強化Lv218 精神強化Lv218 高速詠唱Lv232
無音詠唱Lv231 詠唱破棄Lv234 武技強化Lv228
魔法効果拡大Lv219 魔法範囲拡大Lv219
呪文融合Lv219
耐石化Lv80e 耐睡眠Lv80e 耐麻痺Lv80e 耐混乱Lv80e
耐暗闇Lv226 耐気絶Lv209 耐魅了Lv80e
耐毒Lv80e 耐沈黙Lv212 耐即死Lv121
全耐性Lv159 限界突破Lv115 獣魔化Lv127