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PVがいつの間にか1000万アクセス
・・・えっ?
ログインした時刻は午前6時といった所だ。
少し、冷静になれたかな?
9時間ほど時間を置いていたのか。
まあ頭を冷やすにはそれ位の時間が要るだろう。
少し眠れた事だし。
先に文楽だけを召喚して肉だけを渡しておいた。
野菜を調達しに行こうかね。
「ああ、キースさん、おはようございます!」
「おはようございます」
野菜を並べた机の前で品出ししていたのはハンネスであった。
おっと。
グロウ・プラントの催促あるかな?
机の向こう側で不動が目礼してくる。
こっちも目礼で返した。
他にもプレイヤーの応対をしているからな。
「ああ、もう好きなの持っていっていいですから」
「ありがとうございます」
「いえ、昨日も樹木の方に呪文を掛けて貰っているのは承知してますし」
「はあ」
「後で畑の方に来て頂けたら助かります。牧草地で少し手が欲しかった所でして」
ほらね。
人の縁があると断りきれません。
結局、品出ししてた全種の野菜を多めに持たされてしまいました。
実家の田舎に行った時とか、帰りに色々と持たされた記憶が蘇る。
似た構図になってますが?
フィーナさんもマルグリッドさんもまだログインしてないそうなので、改めて出直す事に。
まあ文楽に料理をさせているしな。
文楽に野菜を渡しておく。
料理は多めに夕方の分まで作らせておこうか。
つか渡された食材の中に小麦粉まである。
パンとかも作れそうか?
まあその辺も任せてみよう。
文楽に料理を任せている間に召喚もしておこうか。
残月は確定。
そしてヴォルフなのだが、デスペナルティはまだ続いているようだ。
召喚したいが、出来ない。
《デスペナルティ継続中で召喚できません》
そんなインフォが流れてくるだけだ。
仕方がないな。
ヘリックスとナインテイルを召喚しておく。
そして朝食が出来上がるのを待つことにした。
「おはよー!」
「おはようございます、キースさん」
珍しい。
アデルとイリーナはどうやらログインしたばかりのようだ。
「昨日はどちらへ?」
「ここから南だな。S1W2のエリアポータルはもう開放した」
「すご!」
「でもヴォルフが死に戻ってね」
2人がなんとも言えない顔になる。
まあいい話題じゃないけどな。
「私も2度、ありましたね。デスペナは丸1日召喚できないので困りました」
「うん、私も1度あったけど、あれは悲しい。でも死に戻った後は愛着も増したよ!」
「そうか」
2人とも召喚モンスターの死に戻りは経験済みでしたか。
慰められてる感じが何か恥ずかしい。
それはそれとして。
アデルがいつものようにナインテイルを愛でているのであるが。
イリーナの挙動がおかしい。
「今日は妖精さんは?」
「召喚してないよ」
「ああん、残念」
あれ?
普段と態度が違いすぎる。
いや、こっちが素なのか?
「おお、そう言えば昨日は黒曜がクラスチェンジしたな」
「マジ?」
「フクロウのクラスチェンジですね?」
雑談は続く。
いつの間にかしんみりとした空気は吹き飛んでしまっていた。
ユニオンを組んでクラスチェンジ談義をしている合間に朝飯が出来ていた。
オレの隣に文楽が来ている。
「朝飯が出来たようだし、どうせなら一緒に食うか?」
「え?」
「いいんですか?」
「どうせついでだ」
そして一緒に朝食を摂りながら雑談に興じる。
文楽の作ってくれた朝食は焼き立てのパンに腿肉の串焼きにスープだ。
なかなかである。
で、雑談の中で気になる事を耳にした。
フィーナさんの所にオレに関する問い合わせがあったらしい。
問題だったのはアレだ。
インスタント・ポータルの呪文だった。
それも1件だけではなかったようである。
なんかフィーナさんに迷惑かけちゃった?
片付けを終えると文楽は帰還させる。
そこでイリーナが目敏く気がついたようだ。
「今、装備したまま帰還しませんでした?」
「ああ、いずれサモナーなら出来るようになるさ」
「それ、レベル幾つなんです?」
「レベル12、かな?」
イリーナだけでなくアデルも絶句である。
何か変な事を言ったかな?
おっと。
ヘザーを召喚しておこう。
ナインテイルと併せて2人の相手をさせておくとするか。
アデルもイリーナも各々の召喚モンスターを呼び出しているから、異様な光景になっている。
どこのファンタジー世界なのかと。
白馬の残月とかいい雰囲気が出てる。
いつもの場所にフィーナさんはいた。
サキさんもレイナもいる。
そしてマルグリッドさんも。
これはまとめて相談出来るかな?
「おはようございます」
「あら、いらっしゃい」
「何か色々と問い合わせがあったとか聞きましたが」
「いいのよ。まあ掲示板に情報を上げて貰ってるだけで進歩してると思うし」
なんだろう。
微妙な評価?
「新しい装備はもうちょっとかかるわよ?」
「ええ、アデルとイリーナからさっき聞きました」
「じゃあ他に相談?買取りなら出来るわ。でも7時からミーティングがあるから、その後でどう?」
「ええ。そっちの方がいいですかね。マルグリッドさんにも依頼がありまして」
「私?」
「はい。宝石ですが、召喚モンスター達の強化に色々と作成をお願いしたいんですが」
「貴方、じゃなくて召喚モンスターに、なのね?」
「ええ」
「それ、面白そうね」
話が弾んでしまった。
結局、その後の雑談はミーティング開始時まで続くのであった。
「フィーナさん、ミーティングの時間です」
セラミックワーカーのルパートに促されてそのままミーティングに突入となった。
すぐに大規模なユニオンが組まれて情報交換が行われる。
無論、既に聞き知っている情報も多いのだが。
気になる情報もある。
攻略組はその半分ほどが西のW3マップで狩りをトライしているようだ。
目的は恐らくは肉と皮だろう。
闘牛がマップの境目を越えられるか、試してみた事例が興味深かった。
なんと、半分以上の確率で越えてくるのだ。
これは気をつけねばなるまい。
別マップに逃げ込むのが安全とは限らないって事か。
北の森は相変わらずらしい。
夜の森でアントマン相手に戦列戦闘を行った事例が報告されていた。
与作だ。
彼の所属するパーティを含めて4つがユニオンを組み、殲滅戦を行ったそうである。
かなり、手こずったようだが、全員無事に乗り切ったそうである。
夜のアントマンはかなり活発化しているようだ。
南の洞窟ではオレ以外にもいくつかのパーティが挑んでいたようだ。
メインの洞窟の先でトラ以外にモグラがいるらしい。
こいつは落とし穴の罠もあるようだから注意が要るだろう。
これは危うい。
ヘリックスや黒曜のように空中からの索敵が極めて難しい相手ではあるまいか?
土の中にいるのだし。
そして南の洞窟の支道だが、広域に亘っているのが確実視されていた。
いくつかのパーティは先に進むのを断念したようだが。
オレが進んだ経路以外にもコボルトが出る支道、ゴブリンが出る支道もあるようだ。
でも牛頭と馬頭、それにフロートボムの話が出て来なかった。
なので。
オレも報告した。
支道の先で出会った魔物達、仕掛け。
まあ宝箱の中身は伏せましたが。
S1W2のエリアポータル開放も併せて報告する。
今更気がついたが、S1W2のエリアポータルの名前は『断罪の塔』になっていた。
唸り声が聞こえた気がするが、この際無視する。
生産職からの報告は進捗だけであった。
まあ順調、で終わる話なのだが。
どうも今日の夕刻には鍛冶師が追加で大挙して到着予定なのだとか。
本格的に工房建設が進んでいるようである。
そしてイベント情報だ。
昨日の夕刻、冒険者ギルドがようやく調査依頼を出したようだ。
依頼を受けるにはレムトの町に行く必要があり、レギアスの村ではダメらしい。
ほう。
戻って依頼を受けるのもいいかな?
だがその前に南の洞窟の別の支道を潜って行くのもいいかな?
牛頭と馬頭との戦闘は中々面白いものがある。
宝箱が他にもあるかも?
そんな事を考えていたんですが。
いつの間にかミーティングは終了していた。
気づかなかったよ。
プレイヤー達が各々に散っていく。
何やら広場で残っているパーティもいるようだが。
対戦らしき事をしている連中までいる。
見物人もいるようだが。
そう言えば対戦は初めて見たな。
剣戟に合わせて普段は見ないエフェクトが見える。
あんな派手な演出もあるのか。
傍にいたリックに質問をぶつけてみる。
「あれは対戦ですよね?」
「え?ああ、対戦だけ済ませてすぐにログアウトする組ですね、あれ」
「すぐにログアウト?」
「ええ」
リックによると、対戦で得られる経験値は結構大きなものになる、らしい。
勝ち負け関係なしに、だそうだ。
その為、時間がなく探索も攻略もしないプレイヤー同士が示し合わせて対戦をやっているのだと言う。
長時間ログアウトしているうちにHPMPは全快になるから思いっきり戦えるって事らしい。
フィーナさんの所の臨時露店に戻る。
さて。
色々と済ませて置こうか。
泥炭は結構いい値段になった。
意外だ。
西の森で炭を入手してくるプレイヤーは多いだろうに。
どうやら燃料は色々と入用であるらしい。
問題は亀の甲羅だ。
「盾にする、というのが妥当!」
「でもかなり大きいわよ?これ」
「サイズは重盾クラス?でも方形じゃないから身長2m超えじゃないと使えないんじゃない?」
「人を選びそうよね」
いつものメンバーの評価だ。
オレも同感である。
フィーナさんの一声で買取は決まったが、一応、盾に加工してみることにしたらしい。
どんな物になるんだか。
「また宝石が増えちゃったわね」
「依頼できますか?」
「断るなんてとんでもない!でも依頼内容が少し高度なのよね」
マルグリッドさんはそう言いながらも興味津々である。
一応、溜まってる宝石は全部出してみた。
モルガナイト、アイオライト、ブルースピネル、サードニックス、プレーナイト、レッドジャスパー。
本命のツァボライトが2個、大本命のアクアマリン。
加工は保留であろう紫水晶、紅水晶、黄水晶。
それに琥珀が複数。
依頼内容は宝石を今まで通り、台座に嵌め込んだ形にする事だ。
但し共通の形状で。
そこまではいいらしいが。
問題なのは召喚モンスターそれぞれにどうやって装備させるかだ。
これが悩ましいようである。
マルグリッドさんの目の前にヘザーがいる。
一番の問題はこいつだ。
試しにオレが装備している白銀の首飾りから宝石を外して持たせてみたんですが。
ヘザーでは持ち上がらないのである。
飛べないのである。
貧弱にも程があるよな?
いや、サイズ的に言えばおかしくはないが。
そんな様子を色んな角度から愛でているイリーナにもドン引きですが。
多かれ少なかれ、フィーナさんの所のメンバーにヘザーは好評のようだ。
女性陣、多いからなあ。
「入れ替えができるように工夫はするわ。当面、この妖精さんにはレッドジャスパーを削って軽くしてみるとか?」
「お任せします」
だってその辺りの機微は分からないですから!
水晶3種は当面保留で変わらず。
そして琥珀だが1個だけを加工を依頼してみる事にした。
単にどんな物になるのか、興味があったんですが。
魔石も余分に渡しておく。
加工費は後日相談になった。
そしてサイズ測定です。
ヴォルフが召喚できないので、アデルの所のうーちゃんに代理になって貰った。
ヘリックス、黒曜、ジーン、ナインテイル、ヘザーのサイズ測定は慌しく進んでいく。
召喚し直しとかもあって混乱してしまいそうだ。
あと、マルグリッドさんには黒曜が装備している首飾りに目を付けられた。
「これ、何?」
「戦利品でして」
「これ、首飾りじゃないわね?ブレスレットみたいだけど」
「へ?」
なんと。
間違えていたのはオレですか。
「これ、凄いわ」
外して見せると言葉を失ったようですが、大丈夫?
まあすぐに返して頂きましたが。
「ラピダリーがもう1名、ここに来る予定があるけど手伝わせていい?」
「お任せします」
「了解。出来上がり予定が分かり次第、連絡するわ」
「はい」
うむ。
これでいいか。
レムトの町に戻る事も考えたが、ここは装備が出来上がるまでこの周辺で粘ってみよう。
今日は南の洞窟に行こうかね?
さて。
周囲に人が少なくなった所でフィーナさんに相談でもするか。
「フィーナさん、別件で相談がありまして」
「あら、何かしら?」
だからミオよ。
そんな目でオレを見るなって。
ナンパしてる訳じゃないぞ?
「じゃあウィスパーでいいかしら?」
「はい」
「私から申請は出すわ。それからミオ、今日は燻製があるんじゃなかったかしら?」
「むう」
スゴスゴと引き下がるミオなのであった。
まあ色々と吐露できたのは良かった。
より一層、フィーナさんに呆れられた、というのはあったけどさ。
称号の呪文目録が呪文辞書へ。
【高速詠唱】に加えて【魔法効果拡大】【魔法範囲拡大】の取得。
ついでに取得していないけど【多節棍】【鞭】の取得が可能になってる事。
「もうなんか今更なんだけど、相当な時間をゲームに費やしてて現実の方は大丈夫?」
「はあ。まあなんとか」
「私も半分以上、廃人みたいなものなんだけど」
ため息をつきはするが非難めいた感触はない。
彼女なりに何やら納得しているようなのだが。
「多分、【高速詠唱】【魔法効果拡大】【魔法範囲拡大】は多技能取得の不利を埋める技能じゃないかしら?」
「え?」
「興味深い報告をまとめたプレイヤーがいるのよ。メッセで送っておくわ」
「はあ」
「まあ技能の件を掲示板に載せる載せないは貴方に任せるわ」
「また迷惑かけちゃうんじゃ?」
「それも今更。それより聞いておきたいんだけど、いい?」
なんだろう?
怖い感じはしないが。
ちょっと緊張である。
「クレヤボヤンス。使ってみた?」
「いえ」
「じゃあ女性の中身には使ってないって訳ね?」
「まあ当然ですが使ってません」
「私に使ってみない?」
「はい?」
思考が停止しましたが。
オレの耳元で悪魔の囁きが聞こえる。
本能に忠実であれ。
「何故です?」
「インスタント・ポータルはいいのよ。でもクレヤボヤンスにも問い合わせがあったりするの。確認は必要でしょ?」
「別にフィーナさんじゃなくても」
「運営が女性キャラだけに細工をしてるかも知れないでしょ?確認よ確認」
ゴクリ。
なんという役得。
違う違う。
これも悪行になるんだし、闇落ちだか悪落ちだかするんじゃね?
「大丈夫、ですかね?」
「合意があるなら見えたって大した事ないと思うけど?」
いや、それでも怖いですから!
「それとも私が相手じゃ嫌とか?」
なんだろう、実に艶かしい。
いや、オレにどうしろと?
落ちた。
オレの中の全ての思考領域が一気に機能停止する。
クレヤボヤンスの呪文を、選択して、実行しちゃいましたよ?
まあオチは読めていたんですが。
それだけに落差は激しい。
フィーナさんはいい骨格標本になれそうですね。
フィーナさんの所を辞去し、樹木ゾーンでグロウ・プラントを掛けると村の外に出た。
ハンネスに言われるがまま、何箇所かにグロウ・プラントを掛ける。
植物が目の前で一気に成長する様子はある意味不気味だ。
本日の農作業が終わったそうなので、村の縁に移動する。
出発しよう、と思った所でインフォが来ていた。
《フレンド登録者からメッセージがあります》
ラムダくんからだ。
何かな?
『あれから15名を裸絞めで仕留めましたが、3人は即死させちゃいました。まだまだ未熟です』
十分じゃね?
『ダーク・ヒールをどうにか覚えました。強制回復させて苦しめる時間を延ばすやり方は模倣させて貰ってます』
ほう。
着実に強くなってるみたいじゃないの。
ダーク・ヒールはいいんじゃないかな?楽しめる時間が増えるし。
『今夜からPK職狩りをPKK職でパーティを組んで実施予定です。良い報告が出来るようがんばります!』
まあ、あれだ。
PK職も大変だな。
こんなのに狙われちゃうのでは割に合わないんじゃないかね?
今日、目指すのは南の洞窟だ。
現在の陣容は、残月、ヘリックス、黒曜、ナインテイルとなっている。
移動優先、ですな。
まあナインテイルは残月に便乗しているだけなのだが。
そしてラプターとアンガークレインを村の周囲で狩って確かめる。
うん。
普段通りの感触だ。
昨日はヴォルフが死に戻りしたが。
後衛で召喚モンスターの支援に徹する方が果たしていいのか?
いや。
今まで成功している方法を大きく変える必要はない。
成功体験に埋没して考えるのを止めるのがマズイのだ。
さて。
行ってみるか。
成長は何もありませんでした・・・




