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本日更新5回目です。

サモナーさんが行くⅡは7月25日発売予定です。

「そうか、アデルとイリーナは勝ち進んだか。フィーナさん達の所が相手になるとはね」


『ええ。知り合い同士だとどっちを応援していいんだか、困りますねー』


「もう一方の決勝戦はどうだ?」


『これも困ってしまいまして。漁協とドワーフユニオンですよ!』


「何?」


『ネタで出場したユニオン同士でまさかの優勝決定戦ですねー』


 ネタか。

 確かにネタではあったんだろうな。

 だがその連携は本物。

 お互いに手の内を大幅に変更して戦うような愚策は採るまい。

 いや、この場合は愚策と表現するのは違うな。

 己の戦い方にどこまで拘りつつ、相手の土俵で戦うか?

 意地と意地とのぶつかり合いになりそうな気がします。



「動画は?」


『勿論、全部揃ってます。今からお送りしますか?』


「いや、決勝戦の分も纏めて貰いたい所なんだけど、大丈夫か」


『大丈夫です。じゃあ交流会にも顔は出しますんで、その時にでも』


「了解だ。助かるよ」


 さて、これでよし。

 後は決勝戦を観戦するだけだ。

 判定の試合もあったけど、基本的に前倒しで試合は消化されている。

 これならば午後1時までに全試合が終わるだろう。


 既に試合場A面は対戦が始まろうとしている。

 まずは初級、5つのパーティのユニオンからのようだ。

 ギルド長が何か演説をしているようだけど、聞こえているのかな?

 観客席からの歓声が凄いぞ!



「どうにか無事に済みそうじゃな」


「そうでしょうか?」


 師匠の問いにはそう答えておいた。

 疑問の視線が飛んで来るけど、脅威はもうすぐそこまで迫っている。

 ゲルタ婆様だ!

 見えざる脅威の前ではオレも口を噤むのは当然の事なのです。


 師匠の背後でゲルタ婆様が笑っていた。

 その後ろにはゲッソリとした表情の元宮廷魔術師、シルビオさんもいる。

 一体、どんなこき使われ方だったんだろう?

 正直、気の毒に思えます。



「これ!」


「ゲェッ!」


「作業を放り出してここにいるとはな。折檻が欲しいか?」


 見ていない。

 オレには見えていないですよ?

 ここには賓客もいるのです。

 見なかった事にして頂きたいものだ。





 試合は順調に進行、初級と中級の4つのカテゴリーの対戦はどれも見応えがあった、と思う。

 興味深いのは速攻を選択するユニオンが多かった事だろうか?

 中級の決勝戦は2つのカテゴリーのいずれもが片方がサモナー系であったからかな?

 召喚主を真っ先に狙うというのは最早セオリーだ。

 残念な事に結果はいずれもサモナー系のユニオンが敗北。

 セオリーがセオリーである事を示していた。

 打つ手があった、とは思うが無理は言うべきでは無いだろう。


 本番とも言える無差別級が始まる。

 既に試合場A面の上に出場者が揃っているのが見えた。

 正直、異様だ。

 片方はドワーフ達、得物こそバラバラであるがそこに目が行かない。

 岩の塊が整列しているかのような印象になってしまう。

 片方は漁師達、片手に銛を持ち肩に投網をセットしていて装備が揃っている。

 中には両肩に亘っている者もいるから完全に揃っている訳じゃないけどね。

 異様という意味では共通する。


 正直、決勝戦に相応しい戦いになってくれるかどうか怪しい。

 お互いにシンプルな戦い方を貫いて来ているだけに分かる。

 分かってしまう!

 シンプルではあってもスマートな戦いにはなるまい。

 これは絶対にだ!





「終わらんのう」


「はあ」


「投網に閉じ込められてもあそこまで動けるとはの。ドワーフの膂力も凄まじいものじゃな」


「はあ」


「キース様、この展開はどっちが有利になっていますので?」


「はあ。あ、いえ、失礼!」


 茫洋と師匠の呟きに答えていたら女王様の問い掛けが!

 罠だ。

 サビーネ女王にも、女教皇シュザンヌにまでも笑われているぞ!



「ペースはドワーフ達が握ってます。ですがダメージの蓄積がありますから五分五分でしょう」


「判定になりそうですか?」


「ここからは間違い無く乱戦になるでしょう。その結果次第ですね」


「この展開のいまま乱戦、ですか?」


「ええ」


 残念なお知らせです。

 特に法騎士の皆さんにはきっと見るに堪えない対戦になりそうだ。

 次の対戦に期待して頂くしかないな。


 ここからは秩序の無い乱戦になるだろう。

 既にお互いに連携が取れるような状況では無くなりつつある。

 ユニオン対ユニオンで戦列を組んだぶつかり合いとか、最初から無かった。

 投網が投入される事は最初から既定事項であったのだから仕方ない。


 既にドワーフ側は4名、戦闘除外になったようだな。

 試合場の外に転がり出ているのが見えている。

 だが、投網共々投げ飛ばされた漁師が出たぞ?

 試合場の中では投網に捕捉されながらもドワーフ達が反撃しているんだが。

 網って手で引っ張って破れるような物なんだろうか?

 強度が、ではなく伸びる特性は厄介だと思えるんだが。

 それに投網を手にしたままの漁師が振り回されている場面も散見される。

 数で漁師が勝っているんだが、これではな!

 もう少し経過したら数で拮抗、下手したら逆転するかも?


 それでも漁師達は戦い方を変えない。

 ドワーフ達も変えない。

 変えようが無い!

 今の所はまだ漁師達が数の上では優位だ。

 でも主導権はドワーフ達が握っている。

 但しそのドワーフ達も投網を通して加えられる雷撃攻撃に終始苦しめられている展開だ。

 だが、そこから脱するドワーフ達が動く。

 投網そのものを斬り裂きつつ、仲間の救出を始めてますよ?

 漁師達も銛を並べて対抗するのだが、数の利が活かせていない。

 乱戦で得物が銛であるからだ!


 戦況は徐々にドワーフ達にとって優位になりつつある。

 漁師達もピットフォールで更に優位を築こうとしているが、果たして間に合うのかな?

 かなり怪しい雰囲気になってます。


 結果はどうなるかはもうオレにも分からない。

 判定になるのはもう避けられないように思える。

 残るのは各々の奮戦あるのみ。

 連携も近場にいる仲間としか取れそうにない。

 普段の狩りや漁でどれだけ鍛えて来ているのかどうか、そこも試される事になりそうだ。





「これが最後か」


「ええ」


「あの娘達もかなり鍛えてあるようじゃな」


 ゲルタ婆様もどこか満足そうな様子でアデルとイリーナに従う召喚モンスター達を眺めている。

 ゴールドシープ、白竜、紅竜、黒竜がいる時点で相当な修練を積んでいる事が分かるだろう。

 まだその先もある。

 ジュナさんは勿論、ゲルタ婆様も師匠も当然そこを通過しているのだと思う。

 未だにオレも各々の力量を推し量る事が出来ない。

 あの筋肉バカの魔神のように格闘戦を通してなら分かるんだけどな。

 そんな機会はこれからもありそうにない。


 試合場A面では次の試合に向けて整備が進んでいる。

 結局、漁協ユニオンは僅差でドワーフユニオンに敗北した。

 残り1分の時点では9名対8名で人数で上回っていたのだが、残り10秒で大逆転だ!

 二郎も譲二も銛を失う程の激闘を最後まで戦い抜いたが、最後の最後で気が抜けたか?

 タックルを喰らって場外になってしまってます。


 内容は見た目、スマートではないのは確かだ。

 でもね、勝ちに拘る以上に自分達の戦い方に妥協しなかった所は実に面白い!

 オレの目には好ましい対戦であった事は確かです。


 では、最後の試合はどうか?

 片方はアデルとイリーナ、前回無差別級の優勝者と準優勝者のユニオンになる。

 これがユニオンを組んで挑むというのだから優勝候補なのも当然だ。

 大会当初からマークされていた筈。

 研究されていても尚、勝ち抜いた所に意味がある。


 アデルのパーティは?

 妖狐、ケルベロス、フラッシュキメラ、獅子神、ゴールドシープだ。

 モフモフな召喚モンスターで埋めているだけじゃない。

 脚を止めて戦うには不向きだが、速度と機動力を活かして戦う事を意識した布陣だ。

 偏っているように見えて結構バランスもいい。

 そしてイリーナのパーティは?

 マッドヒュドラ、青竜、白竜、紅竜、黒竜です。

 本人は蛇姫と呼ばれたくないみたいなんだが、蛇身の召喚モンスターで埋めている。

 だが、これはこれでバランスはいい。

 アデルの布陣とも相互に補う形が取れるだろう。

 特に鬼竜変カルテットは各々の特性を活かしつつ、弱点を補い合う関係にある。

 連携面も蛇身同士であるだけに良好の筈だ。


 そして対戦相手は生産職ユニオンになるのか。

 フィーナさん、サキさん、マルグリッドさん、レイナ、ミオ、優香。

 リック、不動、レン=レン、篠原、ヘルガ、そして与作。

 個人で見たら与作が少々規格外だが、他の面々はそうでも無い。

 準決勝戦でもそうだったが、恐るべきであるのは連携そのものだろう。

 指揮官役のフィーナさんは基本的に堅実に戦う事を旨とする。

 その性格が色濃く反映されているのがこのユニオンだ。

 連携面の不安要素は与作になるのだが、これは遊撃で固定だろう。

 良くも悪くも、この与作が鍵になりそうだ。

 その動きを止められる召喚モンスターは?

 いる。

 いるけど、そこに拘っているようでは危ないと思う。

 それに準決勝戦で見せたようにいきなり奇襲、主導権確保に賭ける可能性もあるだろうな。



「どうじゃな、キース。どっちが勝ちそうかの?」


「両方共に知り合いなんで。答えは控えたいですね」


「ではどっちを応援しとるんじゃ?」


「どっちもですよ?」


 師匠、何だって波風が立ちそうな話題をするんですか!

 単に意地悪なだけかな?

 ニヤニヤ笑っています。



「キース様であればどう戦いますか?」


「1対1であれば殴り合いで戦いたい相手がいますが、他はどうでしょう?」


「あの斧使いですね。以前の大会でも見た方と一緒でしょうか?」


「ええ」


 与作の装備も以前とは違ってグレードアップしている。

 それだけに単独で突っ込んで来る可能性は高い。

 だが、マッドヒュドラと鬼竜変カルテットに巻き付かれてしまえばどうか。

 単独で突っ込んで来るようだと、そうなる可能性は高い。

 互いにどんな手を選択するのか?

 やはり現時点で読み合いが始まっている事だろう。

 だが感性で動いてしまうアデルがいる。

 フィーナさんでもその動きを読めるかどうか、大いに疑問だ。



「そこにいるのは貴方の召喚モンスターですね?」


「ええ、まあ」


「成程。でも剣指南者でもあるとか。貴方の力量も見てみたいものですね」


 女教皇様に言いたい。

 試合に注目して欲しいものです。

 意味ありげな視線がヴォルフとノワールに注がれている。

 興味を持たれてもね、譲れないですから!

 それにオレに向けられる視線もどこか面白がっているような。

 ここで腕を見せろと?

 それは相手次第になると思います。

 それに大会終了後の予定もあるのだ。



「始まるようじゃな」


「ええ」


 観客席からの声援がより一層高まって行く。

 試合場A面では対戦者が整列、雛壇に向けて一礼が済んだ所だった。

 オレの姿に気付いたのかな?

 アデルとイリーナが、そしてフィーナさんとサキさんと視線が合ったような。

 軽く手を掲げて応じつつ、互いの動きを見る。

 アデルとイリーナは得物は弓矢を選択、だが矢筒に杖を忍ばせているだろう。

 彼女達のいつもの手だ。

 弓矢は速射も出来るし汎用性は高い。

 杖なら呪文の効果を高める事が出来る。

 これはフィーナさん達も承知であるが、警戒させる意味で有効だ。


 フィーナさん達の手の内をイリーナも承知だろう。

 まだ隠している手があるかもだが、最も警戒すべきなのが与作になる。

 お互いに普段から対戦している所を見ているだけに、悩ましいな。

 手の内を知っていたとしても有利になると限らない。

 迷う原因にすらなるだろう。

 そういう意味ではアデルや与作には悩みは無いと思える。

 アデルであれば、自身はゴールドシープに騎乗して上空支援だな。

 与作は遊撃で地上に位置する召喚モンスター達を狙うだろう。

 問題は何が相手になるかだ。

 オレの最初の見所はそこかな?

 恐らくだが判定になる事はあるまい。

 かと言って、速攻で決まるとも思えない。

 アデルとイリーナはゴールドシープに騎乗する筈。

 フィーナさん達にも空中位置への攻撃する手はある。

 それでも空中に位置出来るというのは有利であるのだ。





「す、凄い!」


「何というパワー!」


 先手を取ったのは?

 両者が、と言うべきだろう。

 フィーナさん達は密集したまま戦列を押し上げた!

 積極策を採った理由は?

 遊撃に位置する与作の打撃力を活かす、その意図があったようだ。

 その支援役には優香が付く形だけで搦め手は無いように見える。

 だが、戦闘ログを見たら違っていた。

 何度も【時空魔法】の呪文、グラビティ・プリズンが仕掛け続けられている。

 恐るべきであるのはそれが僅かな時間差で継続している事だろう。


 それでもゴールドシープは空中位置を維持し続けている。

 但しその動きはどうしても緩慢になっていた。

 そこを攻撃呪文と矢が襲うのだが、鬼竜変カルテットが完璧な防御陣を敷いてます!

 当然、鬼竜変を使っているのだが。

 防御に数を割いた事で地上では与作にとって戦い易い状況になっている!

 しかも今の一撃で獅子神は大ダメージを喰らってステータス異常になっているぞ?

 だがそれも軽度、ゴールドシープの祝福が間に合えば不利も補えるだろう。


 しかし与作め!

 オレの中で何かが疼いているのが分かる。

 躍動しているけど、頭上から襲い掛かるのは鬼竜変カルテットだ!

 何?

 防御を解いた、だと?

 もしかしてイリーナめ、狙ったのか?

 矢が数本、アデルとイリーナに向け飛んでいるが構わず高度を下げ始めている。

 これは、賭けだ。

 このまま与作を数に任せて戦闘不能に追い込むか?

 それとも攻撃に身を晒し続け、更なる不利になるか?

 さあ、どっちだ!



「む?」


「ま、眩しいっ!」


 妖狐とフラッシュキメラが地上近くで光を炸裂させ、分断を図る。

 それでもフィーナさん、突っ込むかよ!

 そして与作と優香は一旦距離を置くようだ。

 与作のマーカーに状態異常を示すマーカーが重なっていた。


 何だ?

 戦闘ログによれば暗闇か!

 多分だけど黒竜の攻撃を喰らった影響だろう。

 そして召喚モンスター達全員のHPバーが回復している?

 ああ、アレか。

 ヒール・モンスターズ。

 オレには使えないが、イリーナであれば使えた筈だな。


 フィーナさん達の前衛が一気に獅子神を狙う。

 そこにマッドヒュドラとケルベロスが介入、乱戦になるか?

 だが、与作がまたしても突っ込んで来る!

 状態異常を優香に回復して貰ったらしいな。

 横合いから襲い掛かる与作の姿はまさに蛮族、その打撃力は強烈だ。

 ケルベロス、獅子神、マッドヒュドラのいずれが相手でも致命的なダメージを与えるだろう。

 例え鬼竜変を使っている黒竜でもどうなるか分からんぞ?


 だが、その与作の前にイリーナが!

 おい、何をする気だ?



「いかん!」


「危ない!」


 師匠とゲルタ婆様の悲鳴にも似た声が聞こえている。

 だが、多分これは誘いだ。

 罠だ!

 何も策が無くてゴールドシープの背中から地上に降りるとは思えない。

 それでも殴りに行くのが与作なのだとオレは知っている。


 与作の攻撃はイリーナの目前で跳ね返った?

 壁呪文、これは【時空魔法】の呪文、ディメンション・ミラーか?

 いや、戦闘ログではディメンション・ウォールの方だった。

 そうか、もう使えるようになってたのね?


 しかも与作自身の体も吹き飛んだ!

 こっちは【風魔法】の呪文、スーパーローテーション?

 多分だがアデルが仕掛けたのだろう。

 与作も体勢が崩れていたのがマズかったな。

 一気に場外にまで、吹き飛ばされてしまった!


 これで戦力差が生まれたな。

 だが、地上に留まるイリーナにフィーナさん達も襲い掛かる。

 鬼竜変カルテットが防御に回るが、フィーナさん達も速い!

 まだまだ、攻防はあるだろう。

 与作が戦闘除外になっているが、獅子神はまだステータス異常から回復出来ていない。

 アドバンテージを得たのと引き換えに窮地に陥っているぞ?

 イリーナが戦闘除外になったら一気に戦況は逆転するだろう。

 さあ、どう凌ぐ?

 勝敗の帰趨はここで決まる、そんな予感がしています!





「やはり召喚主が狙われるか」


「まあそれがセオリーですから」


「あの斧使いを狙ったのは分かるが、その後がいかん!」


「まあ集中砲火を喰らえばあんな感じになりますから」


「召喚モンスターも召喚主あっての事、なのですね」


「まあそれが運命ですから」


 もうね、師匠もゲルタ婆様もサビーネ女王も何でオレに話題を振るんですか?

 女王陛下にまで失礼な口調になってるじゃないの!

 これでは誤魔化しようが無い。

 女王にも女教皇にも笑われているような気がする。

 いや、間違いなく笑ってるよね?


 それに今の対戦も結果で見ればフィーナさん達の勝利だが。

 残されたアデルも良く粘ったと思う。

 フラッシュキメラ、ケルベロスと戦闘除外になった時には全滅かと思ったものだ。

 結果は確かに敗北したが、判定になるとは思いませんでしたよ?



「では、表彰式じゃな」


 ギルド長が試合場へと移動するようだ。

 さて、オレはどうする?

 このままイベントらしき出来事が起きるかどうか、そこまで見極めないといけないだろう。



《フレンド登録者からメッセージがあります》


 誰からかと思ったら春菜からだ。

 用件は表題で分かる。

 交流会の参加案内だ!

 中身も単純、表彰式が終了次第移動、場所は港町ソルトロックの北になるらしい。

 そうか。

 あの辺りは砂浜であった筈。

 海岸でバーベキューかな?

 重要な事に昼食の用意もあるという。


 時刻は午後1時ちょうどになってます。

 交流会では少し遅い昼食会も兼ねる事になるのだろう。





「明日も、ですか?」


「そ!」


「お主にも来て貰わないと困るのでな」


 表彰式はトラブルも無く進行、アッサリと終わってしまっていた。

 法騎士達にも異変は無い。

 魔神が乱入するような事も無いようだ。

 残念!


 それに帰り際になって師匠達から明日もこのサニアの町に来るよう、言い含められている。

 オレは女教皇シュザンヌがここに来ていたのは停戦交渉の続きかと思ってたんだが。

 それだけじゃなかったみたいだ。



「魔神の件、ですか」


「ええ。例の王女様2人をどうするかもあるわよ?」


「シルビオの身柄をどうするか、というのもあるがまあ些末な事じゃな」


「些末とは酷い。こっちは身の置き場が無いんだけどねえ」


 元宮廷魔術師シルビオに向けられる法騎士達の視線は好意的とは言い難かったしな。

 確かに身の置き場も無いのだろう。

 だが、ゲルタ婆様に延々とコキ使われるのもどうかと思いますよ?



「明日の朝、また伺います」


「済まんな」


「いえ、私が持ち込んだ問題でもあるんで」


 ここは殊勝に従っておきましょう。

 いや、違うな。

 あの魔神化のイベントには何か裏がある。

 オーティスとテルマとの会話を思い出せ!

 NPCから魔の神が生じた場合、その世界は切り離されてしまっている、と確かに聞いた。

 オレの場合、より注意を喚起せねばならないのは?

 女教皇シュザンヌを始めとした法騎士達ではない。

 ホーリーランド・オンラインの住人であるからだ。

 そう、警戒すべきなのは別なのだと思う。


 サビーネ女王を筆頭とする竜騎士達だな。

 それにジュナさんも、師匠も、ギルド長とゲルタ婆様も加えておくべきかもしれない。

 出来るだけ、関係を壊すような行動は慎むべきだ。

 異変があるようなら、それは兆しなのだと思う。

 そうであっては欲しくないが、魔神に変じる可能性を否定出来ない。

 トリガーが分かっているようで分かっていないからだ。


 恐ろしい。

 知らない、というのは本当に恐ろしい。

 世界が滅ぶかどうか、その瀬戸際にいるのかもしれない。

 同時に信じ切れない。

 悩みは確かにある。

 だがそれもまた受け入れるしかないのだろう





「キースさん、こっちこっち!」


「サモナーさんが来てるぞーーーッ!」


 砂浜ではインスタント・ポータルが展開され、既にバーベキュー祭りだ!

 いや、召喚モンスター達は各種入り交じって大混乱?

 そんな中で人が群がっている場所もある。

 浅瀬にいる巨躯の亀、アスピドケロンの頭上だ。

 その周囲には人魚が戯れているのが分かる。

 砂浜で寝転がっているゴールドシープ達の周囲はもっと酷い!

 モフモフな各種召喚モンスター達が群がっていて、プレイヤーの敷布団と化している!

 もうね、どっちも堕落した姿にしか見えませんよ?



「食事にします?」


「それともモフモフ?」


「人魚もいいですよー」


 お風呂で、と言いそうになっていたオレがいる。

 今はお祭りの続きだからなのか、思考がどうも不真面目になってるな?



「はい、これ!」


「お、おう。ああ、そうそう。優勝、おめでとう」


 串焼きを手渡してくれていたのはミオだ。

 どうもサモナー系以外のプレイヤーも多数参加しているらしい。



「早速ですけど、キースさん?」


「あの子達が見たい!」


「食事が先。こればかりは譲れんな」


「「ええーーーーーッ?」」


 アデルと春菜の気持ちも分かるが、今はダメ。

 食事の誘惑には抗えないのです!







「ドラゴンを全部揃えるのは厳しそうだな。他に何がいるんだ?」


「フロストドラゴン、フォレストドラゴン、クラウドドラゴンだな」


「追加出来るなら、増やせばいいのに」


「与作、そうは言うけどあそこまで成長させるのがまた大変なんだよ」


 オレと与作は砂浜に並んで海岸線を見ていた。

 いや、浅瀬で繰り広げられている狂騒を見ていた。

 周囲にも多数のプレイヤーがいるんだが、近寄ろうとする者は少数だ。

 普段から付き合いのある面々はモフモフを堪能しているか人魚と戯れています。


 浅瀬で遊んでいるのは人魚系の召喚モンスター達とドラゴン達だ。

 人魚達の中にはナイアスが、ドラゴン達の中にはパンタナールも含まれる。

 エジリオとパイリンはゴールドシープ達と共に毛玉と化していた。

 オリアナもいるんだけど、オレ達の後方で控えてます。

 ここはインスタント・ポータルの中で警戒の必要は無いんだけどね。

 他の竜達と遊んでいてもいいのに、オレの傍を離れようとしないのだ。


 ま、たまにはいい。

 こうしてゆったりと過ごすのも気晴らしになる。

 オリアナは精神的に休憩にならないかもだが、大丈夫だろう。



「ところで決勝戦、油断したか?」


「場外になったのはミスじゃないと思ってるよ。相手が上だった。それだけだ」


「そうか?」


 だが与作の笑顔にはどこか苦々しい思いが滲んでいる。

 多分、思ったような戦いになっていなかったからだろうな。

 終始、あの巨大な斧を振り回していた印象がある。

 そう、闘技大会を通して格闘戦をしていた所を見た事が無い!



「戦い足りない。そんな顔をしてる」


「そうか? だけどそっちこそ、今日は観戦だけだったろ?」


「ああ。だからこれが終わったら狩りにでも行くよ」


「今日も時間があれば対戦を申し込んでいただろうよ。ま、それはいつでも出来るよな?」


「歓迎するよ。但し格闘戦限定にさせて貰うがいいのか?」


「勿論。じゃあ、ログアウトの時間なんでここで失礼」


 お互いに拳を合わせる。

 最近、与作と格闘戦はしてないよな?

 その機会は作ろうと思えばいつでも作れる。

 焦る事は無いのだ。




「じゃあ交流会はこれで解散です!」


「「「「「「おつかれさまーーーー!」」」」」」


 時刻は午後4時ちょうどです。

 狂騒の宴は意外な程、長く続いたように思う。

 知り合いも多かったし雑談も長くなったのもあったけどね。

 やはり召喚モンスターの披露に時間が掛かってしまっている。

 まあいい機会になってくれるだろう。

 後続のサモナー系プレイヤーもやる気を出してくれるものと思いたい。


 それに与作の言葉が引っ掛かっている。

 次に召喚モンスターを追加するなら?

 ドラゴンパピーにしたいと思う。

 問題はフロストドラゴン、フォレストドラゴン、クラウドドラゴンと揃えられるかどうかだな。

 そもそもドラゴンパピーを3体、一気に追加出来るかどうかは不明なのだ。

 1体だけを追加して促成栽培というのも寂しい展開に思えてしまう。


 だが、今は優先すべき事もある。

 暴れたい。

 暴れたくて、仕方ない!

 一旦、召魔の森に跳ぼう。

 ポータルガードがいるようなら地下洞窟に挑みたい。

 そうでないなら闘技場で連戦かな?

 欺瞞の根源から緑の回廊を進むのもいい。


 いずれにしても目的は1つ。

 体の中で疼くこの感覚を鎮めるのだ!

 そうするしかないだろう。



「キースさん、今日はありがと!」


「明日の朝、ご馳走しちゃいますよ?」


「おお、そうか。期待してるよ」


 明日の朝、か。

 その後はサニアの町に行く事になる。

 そこで何が起きるのかは分からない。

 分からないけど、何か事態が進展するように思えます。




 召魔の森に到着。

 ポータルガードの面々は?

 全員揃ってます。

 ならば行き先は地下洞窟だ。

 まだ未踏のルートが残っている。

 きっと長いのだろうけど問題ない。

 目的は暴れる事がメインで、踏破は二の次であるからだ!


 それでもきっと、ある程度進めてしまえば踏破したくなるんだろうけどね。

 日付を跨ぐ事になるかもだが、そこは大丈夫。

 朝の定常業務に支障が出ないよう配慮する気持ちがオレにだってあると思う。

 だからきっと、大丈夫。

 オレもそこまで人でなしではあるまい。


 さて、ここで問題になるのはドラゴンパピーを追加するかどうかだ。

 ついでだし、促成栽培も並行して進めてしまおうかね?

 そんな気分じゃなかったんだけどな。

 気が変わった。

 今、変わった。

 意志薄弱と言うよりもこれは移り気なだけだ。

 強引に良い意味で受け取るならば、臨機応変としておこう。


 それにポータルガードも留守番を残すにしても、相当な戦力を連れ歩く事になる。

 同時に促成栽培をするのも可能なのだ!

 地下洞窟で促成栽培するのもグレータードラゴンは無理があるけどね。

 ドラゴンまでなら平気だ。

 問題は教官役になるけど、それはドラゴンにクラスチェンジしてから付けても遅くは無い。

 代行で古参の召喚モンスターを付ける事も有効だろう。

 例えばヴォルフとか。

 例えば、ナイアスとか?

 いや、ストランドがいいかもしれないな。

 何にしても古参を付けるのが正解だと思えます。


 では、召喚しようか。

 これまでの感じだと、ドラゴンパピーの追加は1体に留まるものと思える。

 それもすぐに確認出来るだろう。





 イルリサット ドラゴンパピーLv1(New!)

 器用値 19

 敏捷値 18

 知力値 16

 筋力値 20

 生命力 20

 精神力 16


 スキル

 噛付き 引裂き 跳躍 疾駆 夜目 半水棲

 自己回復[微] 魔法抵抗[微] 捕食吸収

 ブレス 火属性 水属性



 常磐 ドラゴンパピーLv1(New!)

 器用値 17

 敏捷値 17

 知力値 17

 筋力値 20

 生命力 21

 精神力 17


 スキル

 噛付き 引裂き 跳躍 疾駆 夜目 半水棲

 自己回復[微] 魔法抵抗[微] 捕食吸収

 ブレス 火属性 土属性



 ポルポラ ドラゴンパピーLv1(New!)

 器用値 17

 敏捷値 19

 知力値 17

 筋力値 20

 生命力 19

 精神力 17


 スキル

 噛付き 引裂き 跳躍 疾駆 夜目 半水棲

 自己回復[微] 魔法抵抗[微] 捕食吸収

 ブレス 火属性 風属性



 気が付いたら3体のドラゴンパピーが目の前にいる件。

 しかも恐ろしい事にまだドラゴンパピーの項目が新規召喚リストにある。

 でも更に追加する気にはなれない。

 フロストドラゴン、フォレストドラゴン、クラウドドラゴンを埋めるには3体いたらいいのだ!

 これはどうした事だろう?

 思い当たるのは称号、ドラゴンメンター。

 もしかして、ドラゴンパピーが無制限に追加出来るようになってたりして?


 でもね。

 今更そう多くを必要としていないのです。

 3体いれば十分ですよ!


 一応、名前には意味を込めてある。

 イルリサットは氷河で有名な地名、フロストドラゴンを目指す予定だ。

 常磐は緑色を長く呈色する常緑樹の事で、フォレストドラゴンが目標になる。

 ポルポラはイタリア語で紫色の事で、クラウドドラゴンを目指そうと思う。

 各々、何がクラスチェンジ条件となるのかは読めている。

 氷属性、木属性、雷属性を揃えるべきだろう。

 ステータス値の構成も影響するように思えるが、そこはある程度イメージがある。

 大丈夫、やれると思います!


召喚モンスター

イルリサット ドラゴンパピーLv1(New!)

 器用値 19

 敏捷値 18

 知力値 16

 筋力値 20

 生命力 20

 精神力 16

 スキル

 噛付き 引裂き 跳躍 疾駆 夜目 半水棲

 自己回復[微] 魔法抵抗[微] 捕食吸収

 ブレス 火属性 水属性


常磐 ドラゴンパピーLv1(New!)

 器用値 17

 敏捷値 17

 知力値 17

 筋力値 20

 生命力 21

 精神力 17

 スキル

 噛付き 引裂き 跳躍 疾駆 夜目 半水棲

 自己回復[微] 魔法抵抗[微] 捕食吸収

 ブレス 火属性 土属性


ポルポラ ドラゴンパピーLv1(New!)

 器用値 17

 敏捷値 19

 知力値 17

 筋力値 20

 生命力 19

 精神力 17

 スキル

 噛付き 引裂き 跳躍 疾駆 夜目 半水棲

 自己回復[微] 魔法抵抗[微] 捕食吸収

 ブレス 火属性 風属性


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― 新着の感想 ―
なんだか気弱っぽくてご主人の傍を離れないオリアナが可愛い… どこぞの狐とはえらい違いw
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