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本日更新1回目です。
サモナーさんが行くⅡは7月25日発売予定です。
「勝ったよ!」
「動画はありがとうございました。後で見返して反省会に活かします」
「うむ」
アデルとイリーナは互いに試合時の召喚モンスターを帰還させてしまっていた。
今はアデルが妖狐と白狐、イリーナはフェアリークイーンと大神を従えている。
ヴォルフもまた大神、イリーナの大神と挨拶であるのか、じゃれ合ってます。
それはいい。
微笑ましい光景なんだが、妖狐と白狐がオレの両肩の上で跳ね回ってます。
尻尾で見えないぞ!
スコーチはどこに行ったのかと思ったらオレの頭上に避難済みのようです。
狐系の召喚モンスターがオレに寄って来るのって何が原因なのよ?
誰か教えて!
「紅蓮、フィーナさん達の対戦相手は知ってるか?」
「ええ。共にドラゴンナイト3名と後衛3名で空中戦を得意にするパーティ同士のユニオンです」
「それが地上戦か」
「かなり実績はありますよ?」
「両方とも、以前の闘技大会でもいい所まで勝ち残ってましたし」
そうか。
だが、ユニオン編成というのは怖い。
強いパーティと強いパーティが組んだからと言って、その力量が発揮出来るとは限らない。
重要なのはお互いに阿吽の呼吸で意思疎通が出来るのか、行動が出来るのか。
一言であれば、連携次第だ。
フィーナさん達にとって、不安要素があるとしたら与作の存在だろう。
戦列に加わっていた時は上手く連携出来ていなかった。
オレの指摘を受けて、与作は遊撃に回る事で連携面への不安は減ったと思う。
この試合では、どうか。
与作が看過出来ない戦力であろう事は先方も知っている事だろう。
何かしら、あの巨大な斧の攻撃に対抗する手段を講じるに違いない。
「フィーナさん達、大丈夫かな?」
「心配ないさ。見ていれば分かる」
フィーナさん達のユニオンの強みは何だ?
指揮官役が味方の戦力、そして手札を熟知している事だろう。
この場合、指揮官役はフィーナさんだけではない。
サキさんもマルグリッドさんもその役目を担える事を、オレは知っている。
お互いに必要となれば指揮権を越えて指示を出す。
この個別の判断が早い事もこのユニオンの強みだろう。
問題は、与作だ。
遊撃で暴れて貰うのはいいと思うのだが、スタンドアローンでというのは厳しい。
誰か支援を付けるにしても、与作の戦闘スタイルを邪魔せずにとなると選択肢は限られる。
ユニオンの編成は?
フィーナさん、サキさん、マルグリッドさん、レイナ、ミオ、優香。
リック、不動、レン=レン、篠原、ヘルガ、そして与作になる。
スピードであれば優香だな。
攻撃距離が重ならないよう、弓矢持ちにするのも手ではある。
そうなるとレイナ、篠原、ヘルガがいるのだが。
何にしても、ドラゴンナイト6名による戦列は突撃を仕掛ける事だろう。
そこをどう捌くのか、見所はそこになる。
多分、突撃には堅実策を採ると思うが、相手だって人間だ。
読み合いになっている筈なのです。
「アデルちゃん、動画は私がやっておくわ」
「了解、じゃあ他の会場の進行状況、見ておくね!」
今日はまだ、春菜と此花の試合がある。
ヒョードルくん達の試合だってあるのだ。
他にも見ておける範囲で観戦したい。
「危ない! 突撃の第二波が壁を突破しちゃった!」
「キースさん?」
「想定内だったみたいだな。罠に嵌めたか」
「え?」
フィーナさん達は壁の死角で二手に分かれて壁の横を抜けていた。
元いた場所を囲うように蔦の壁が築かれている。
3名のドラゴンナイト達が蔦に絡んで動けなくなっている!
完全に突撃を読んでいた?
しかも時間差を付けた上での二段突撃を?
蔦の壁の周囲が白く煙る。
恐らくは【氷魔法】の呪文、ブリザード。
頭上からはヘイルストームが降り注ぎ、1名のドラゴンナイトは氷漬けになっている!
これはアイス・コフィンだ!
「いつの間に?」
「やった! これで勝てる?」
「いや、もう少し手が要るだろうな」
右へ回り込んだ与作が駆ける!
そして左からも優香?
残された対戦相手の9名は挟まれた形になる。
挟撃出来る形だが、この場合は挟撃される方が数が多い。
普通に考えたら焦るような場面じゃない筈。
だが、迷ったか?
ドラゴンナイト3名の脚が止まった。
後衛の弓持ち6名も与作と優香のどちらを攻撃すべきか、迷ったか?
4名は優香を、2名は与作を狙う。
だが、迷った分だけ対策が間に合ったようだ。
与作の背後からレイナが雷撃を放つ!
エフェクトから見てプラズマ・ブラスト?
そして優香の後方からマルグリッドさんが回り込んで杖を掲げた!
試合場が冷気を帯び、幾つもの氷の柱が出現する!
しかも針状?
これは【氷魔法】の呪文、ペニテンテだ!
相手は混乱したようだ。
特に呪文を喰らった訳じゃ無い。
パニックに陥ってしまったのか?
そこに突っ込む与作。
無論、単独でだ!
「あちゃー」
「これは勝負アリ?」
「だな」
与作だけでなく、リックとサキさんも加わり本格的な包囲網が出来上がってしまっていた。
個々の強さで言えばドラゴンナイト達も弱くは無いと思うのだが。
その実力を十全に発揮出来る環境では無くなっている。
このまま接近戦になってしまえば与作の独壇場だな。
ドラゴンナイト達の得物はどれも突撃槍、突進が伴っていなければ威力は半減以下だ。
詰んだ、と言うには早いかもだが。
ここから劣勢を挽回するのは至難だろう。
それに次々と打つ手が堅実でありながらエグい!
リックとサキさんが盾を並べて突進、その後方からもフィーナさんが続く。
与作の猛攻は凄まじい戦果になりつつあった。
最初の罠から脱したドラゴンナイト3名が戦場に復帰しようとしている。
だが、これも遅い。
結果的に分断されたまま、連携が断たれてしまっている。
「次の試合場はどこになりそうだ?」
「試合場E面!」
「春菜ちゃんと此花ちゃんの試合です」
「うわ、目玉の対戦が被っちゃうか?」
目玉?
紅蓮くんに視線だけを飛ばして問い掛ける。
「シェルヴィのパーティとガヴィのパーティが組んでるんです。見ておきたいですね」
「何?」
あの2つのパーティが、組んでいるだと?
それは、手強そうだ。
連携面でどうなのかは不明だが、戦力だけで言えばトップクラスで脅威になるぞ!
「他に注目の試合はあるかな?」
「ヒョードルの所とか、それにハンマードワーフに農協に漁協ですかねー」
「農協はこの後すぐです。ハンネスがいます」
「一緒に回りますか? 別行動で動画に保管して後で見る手もありますが」
うーむ。
確かに試合予定が前倒しになるのは仕方ない。
結果として、見たい試合が被る事態も生じてしまうだろう。
試合の幾つかは動画で視聴する方がいいのかな?
何にしても、春菜と此花の試合は見逃せない。
応援もせねば。
だが、純粋に対戦を楽しみたい気持ちが強かった。
エフェクトありで見ると派手で中々面白い。
1対1であればエフェクト無しで観戦したい事が多いけどね。
ユニオン同士では集団戦にしかならないのだ。
あちこちで戦いが展開するから、観客席からやや俯瞰する位置で見る方がいい。
これはこれで楽しめてます。
参考にもなるだろう。
「春菜と此花の試合に行くよ。注目の試合の動画はリンク先を知らせてくれたら有り難いが」
「お任せを!」
紅蓮くんとは別行動になりそうだ。
動画も送って貰える事になったし、後でお礼をしなきゃいけないかな?
まだ披露していない呪文もあったりする。
【封印術】の呪文、浄土曼荼羅だ。
何だったらサモナー系の交流会が明後日にある。
その時にでも見せてあげよう。
「春菜と此花の相手はアレか。事前に分かっていたのか?」
「いえ、知らないと思いますけど」
「アレってネタ、ですよね?」
イリーナも知らないのか。
それにアデルの言う通り、ネタのようにしか見えない相手なのも確かだ。
本当にネタで済めばいいんだけどね。
ネタで済みそうにない事は既に見ている。
またしても全員、ドワーフか。
紅蓮くんと九重の所と対戦したドワーフ達はツルハシ限定だった。
今度はポールウェポン?
長柄の得物が林立している!
「もしかして東雲もネタで参加しているのかな?」
「ええ。ハンマードワーフのユニオンだって言ってました」
「そうか」
今回、ドワーフのプレイヤーはネタに傾注し過ぎているんじゃなかろうか?
あ、頭が痛い。
春菜と此花が試合場の外で待機している。
その様子は普段通りで落ち着いているように見えた。
春菜の布陣は?
狒々面鵺、フェンリル、ゾンネティーガー、闇鬼狼、ゴールドシープ。
此花の布陣は?
羅喉、オーガロード、ゴーレム・オブ・リキッドメタル、アラクネダッチェス、黒竜です。
マズいな。
大型の体躯というのは基本的に戦闘では有利に働く事が多い。
でもドワーフにはその常識が通用しない。
低い背に強大な膂力、それを支えるだけの強靱な肉体は脅威そのものだ!
体重がある、というのは移動で不利に働くが戦闘になれば重心の低さと相俟って有利に働く。
得物の間合いも長い。
突撃されても、迎撃になっても、捌くのが厳しいだろう。
春菜と此花の布陣には大きな体躯の召喚モンスターが加わっている。
だがそれも有利に働くとは言えないのだ。
間合いを詰められ戦列が一部でも崩されたら?
召喚主である春菜と此花に1人でもドワーフに迫られたらもう危うい。
防具が色空竜の革ジャケットになっていたって関係無い。
ポールウェポンの先に引っ掛けて、場外に投げ飛ばす事もドワーフならやってのけるのだ。
春菜も此花も、そこを警戒しているのは確実だろう。
紅蓮くんと九重の所がツルハシドワーフ達に敗北した試合を彼女達も見ている。
考えている筈だ。
試合が始まった!
アデルとイリーナと同様、春菜と此花もゴールドシープに騎乗するかと思ったが違うな。
2人の護衛役は黒竜、地上で戦うつもりだが別の何かを狙っているな?
ゴールドシープに騎乗しているのは羅喉とアラクネダッチェスか。
此花は搦め手を好む傾向がある。
だが、中途半端な罠ではドワーフのパワーを封じ込める事は難しい。
更に一手か二手、要ると思う。
溶岩風呂に嵌める事が出来ればいいんだろうが、対策は用意してある事だろう。
既に陳腐化した戦術だからだ。
それでもオレは使うべきだと思う。
対策を講じる事は即ち、手数を掛ける事に他ならない。
時間稼ぎに出来るとしても僅かな時間だろうが、その時間が貴重なのだ。
「春菜ちゃん、此花ちゃん、ガンバレ!」
アデルの応援は周囲の歓声の中で届いているかな?
観客席からだと少し距離がある。
試合場が広くなっているから望み薄だが、応援は応援だ。
勝ち進めばいずれ対戦を余儀なくされるライバルだが、今は仲間だからな。
「キースさん、ポールウェポンですが」
「気付いたか。明らかに、長いな」
ドワーフ達は一般的に背が低い。
その対比で短槍などは普通の槍に見える。
普通の槍が長槍に見える程だ。
ドワーフ達の持つポールウェポンは視覚的に言えばどれも長柄ではある。
だが、与作辺りの体躯であっても長柄に見えるような代物なのは確実だな。
天沼矛よりは短いと思うが、亜氷雪竜の投槍よりも長そうだ。
「狙いは何でしょう?」
「すぐに分かるさ」
オレにも読めない。
長柄の利を活かすとしても、人数が多ければ振り回せないからだ。
巨躯の召喚モンスターへの対抗手段であれば突く事に特化した槍の方がいい。
絶対に、いい。
得物限定でネタプレイかと思うが。
いずれにしても、どんな連携を見せるのか?
注目すべきなのはそこだろう。
「エーーーーーーーッ?」
「うそ!」
アデルとイリーナの叫び声は周囲の歓声の中へと消えて行く。
オレも思わず唸ってしまった。
まさにポールウェポン縛りのネタプレイ、だがここまで徹底されると笑い声も出ない。
溶岩風呂を呪文抜きで回避する所を見る事になるとはな!
穴の縁にポールウェポンの先端を引っ掛けて、そこを支点に駆け上がるのならまだ分かる。
対戦開始直後、両端にいたドワーフがポールウェポンの先端同士を接続して投げ飛ばしていた!
その2名のドワーフが場外に飛ばされなかったのも、位置が絶妙であった事も脅威だろう。
しかも溶岩風呂から次々と味方を救出、その方法もまたポールウェポンを使ってのものだ。
味方が、味方をポールウェポンで引っ掛けて投げ飛ばす。
彼等の戦術はこれであったようだ!
それだけでもあると言えるが、恐るべき効果を発揮していた。
春菜は速度を活かしてドワーフ達を孤立させ2名を場外にしている。
此花もまた壁を使って突っ込んで来るドワーフ達にダメージを強いていた。
合間に2度、溶岩風呂を使っているんだが既に肉薄され掛かっている!
戦闘ログを見る。
春菜と此花もダメージを喰らっていた。
ポールウェポンの先端が掠っている、その証だ。
ドワーフ達は相互に呪文による強化はしている。
だが、攻撃呪文は無い。
それでこれだ。
春菜も此花も、こんな形で一気に距離を詰められるとは予想してなかっただろう。
オレもだ。
僅かに春菜と此花の連携に綻びが見えつつある。
そう見えた。
だが、ドワーフ達の動きが徐々に鈍る。
何が起きた?
攻撃の手数が急激に落ちる。
その攻撃もまるで鈍い。
いや、ポールウェポン同士が接着されたかのように動かなくなっている?
「糸か!」
「そのまま、いっちゃえ!」
「どうにか間に合った?」
アデルとイリーナはこの手順を知っていたようだ。
しかし危ないな!
アラクネダッチェスが最初から罠を仕掛けていた訳じゃ無い。
ある程度はどうしても時間が要る。
そこまで、攻撃を凌げるだけの自信があったのだろう。
戦況は完全に逆転した。
ドワーフ達も完全に守勢に転じたが、それでも油断は出来ないぞ?
彼等は皆、タフであるのだ。
例外はいない。
どこでどう反撃が飛んで来るのか、知れたものではないぞ?
「どうだったのかしら?」
「春菜ちゃんと此花ちゃんは勝ちました!」
「正直、危なかったですけど」
フィーナさん達が観客席に来てます。
但しサキさんとマルグリッドさんがいない。
装備作製があるそうで、これは仕方ないな。
ところで、ここに来る前にハンネス達の試合を観戦していたと思うのだが。
結果はどうだったんだろう?
「ハンネスの所はどうでした?」
「一応、勝ったわよ? でも内容がね?」
「文字通り泥仕合だったな」
与作がニヤニヤしている。
実に楽しそうなのは、きっと何かがあったに違いない。
「動画にしてあるけど、見る?」
「お願いします」
「後で纏めて送っておくわ」
「助かります」
今日は各所で動画で保存されている事だろう。
生で観戦する方がいいのは確かだが同時進行である以上、全ての試合を生で観戦は出来ない。
動画で視聴する事が出来るのは助かります。
紅蓮くんにも頼んであったりするけどね。
漏れが無いよう、フィーナさんにも頼んでおくべきだろう。
注目のカードは出来るだけ見逃したくありません!
「東雲の所の試合は少し前倒しになるみたいね。この後すぐだわ」
「C面、ですね。全員で行きますか?」
「同じC面ですが、次はヒョードル達のトコですよ?」
「ほう」
注目の試合が2つ、移動せずに観戦出来るのは有り難いな。
東雲はハンマードワーフのユニオンだと聞く。
ハンマーだ。
きっとドワーフらしく、その上で石工らしい戦いを展開するのだろう。
石工組合となると、高名な秘密結社を連想する。
そうでなければ戦国時代の石垣職人の穴太衆かな?
戦闘には無関係なイメージであるが、何しろドワーフであるのだ。
その脅威は既に見ている。
まだ、2つのチームによるユニオンだからいい。
その上、5つのパーティによるユニオンでもドワーフオンリーがいると聞く。
得物はバラバラらしいが、きっと酷い有様になるのだろう。
ドワーフ怖い。
集団になると、何かが起きそうな気がします。
「「「「「「「「「「「「ウィーアー、ハンマーズ!」」」」」」」」」」」」
歌が聞こえる。
まだ対戦が始まっている訳じゃないんだが。
これってラグビーの試合前で聞くハカかな?
「「「「「「「「「「「「叩くの大好きーーーッ!」」」」」」」」」」」」
おいおい!
石工なんだし、大好きなのは分かるけどさ。
組合であるなら当然だろう。
でもね、試合前ですよ?
違う意味に聞こえるんですけど?
「「「「「「「「「「「「ウィーアー、ハンマーズ!」」」」」」」」」」」」
まだ歌が聞こえる。
野太い歌声はどこまでも威嚇にしか聞こえません!
試合場の上は前の対戦の後始末が進んでいる。
今のうちに気合いを入れているのだろう。
「「「「「「「「「「「「砕くの大好きーーーッ!」」」」」」」」」」」」
ドワーフ達が一斉に両手を掲げている。
右手には槌、サイズも形状も色々だ。
中には妙見秘鎚や冥府の槌らしき得物も見受けられる。
2つ程、巨大過ぎて両手で掲げてある槌もあった。
だがそれら以上に目を惹く代物があったりします。
アレってオリハルコンハンマーか?
遠目だけど、確かに形状は虎斑の持つオリハルコンヒュージュハンマーに似ている。
色合いが同じだ。
「アレって東雲だよな?」
「ああ」
「槌はオリハルコン系なのか?」
「そうだ。それだけじゃないけどね。タガネもだよ」
与作の言葉に戦慄する。
確かに槌もタガネも工具として使うのであればそう大きくなくていい。
だが、対戦でそれをどう使うのか?
そこが問題だ。
「「「「「「「「「「「「ウィーアー、ハンマーズ!」」」」」」」」」」」」
同じ旋律で歌が続いている。
明るい曲調だと思うのだが、何しろ野太い声による合唱だ。
どうしても剣呑な響きになる。
それに歌詞が問題だな。
「「「「「「「「「「「「壊すの大好きーーーッ!」」」」」」」」」」」」
さて、何を壊すつもりなのかな?
対戦相手はスタンダードな編成に見える。
鍵になるのは接近する前にどれだけの手を打てるかだろう。
壁役が4枚あるものの、それで足りるかどうか。
どんな手でも構わない。
仕留められずとも、分断出来ればいいのだ。
問題はそこまでの余裕があるかどうかになりそうです。
「与作、東雲はレールガンを使えたのか?」
「つい最近の筈だな」
「オリハルコン球もあったとはね」
「虎の子だよ。ここで見せるとは思わなかったな」
東雲が以前から、状態異常対策でアクティベイションを使ってたのは知ってたけどな。
レールガンまで使えるようになっていたとは思わなかった。
そもそもドワーフである以上、魔法技能との相性は良くないのだ。
それでも基本は終始、力押しだ。
ショート・ジャンプの奇襲もドワーフがやったら意味がまるで異なる。
攻撃呪文の効力では劣っても、使い方次第だな。
何よりもハンマーがおっかない。
頭部を直撃しては昏倒させ、腹を直撃されたら悶絶する。
一番恐ろしいのは痛覚設定が100パーセントで変更出来ない事だろう。
相手のになったユニオンは散々な目に遭った訳だ。
場外に吹き飛ばされた後衛2名は幸運であったと言える。
「お待たせっ!」
「あの、これって何の騒ぎですか?」
「東雲達がふざけているのよ。困った事だわ」
春菜と此花も合流したか。
彼女達の疑問もまあ分かる。
フィーナさんの答えもまた簡潔だ。
試合が終了した後もドワーフ達は気勢を上げている。
審判役のギルド職員さんは苦々しい表情のようだが、止める気配は無い。
時間は十分に余っているからだろう。
オレの見解はフィーナさんとやや異なる。
ルール違反ではないのだろうし、士気を上げるにはいい方法なのだ。
自然と体中をアドレナリンが駆け巡ってくれるだろう。
これで今日の対戦が終わりであるのだとしても、プレイヤー間の結束を高める事になる。
「次はヒョードル達、よね?」
「ああ。今、出て来るみたいだな」
ヒョードルくん達の対戦相手は既に試合場の外で控えているようだ。
5つのパーティによるユニオン、細かい所まで編成は分からない。
標準的、と言っていいと思う。
後衛の弓持ちエルフが6名とやや多い印象があるけど、それだけだ。
プレイヤー30名のユニオン、鍵になるのは指揮官役になるだろう。
それが誰であるのかは分からない。
ヒョードルくん達の立場であれば、早い段階で見極めて排除したい所だろう。
ヒョードルくん達はギルドの職員さんに案内されて姿を現した。
先頭のヒョードルくんに付き従うのは?
オーガロード、ストーンコロッサス、タロス、青竜、エルダーマンティコア。
続けて野々村とスキュラクイーンが2体、ホーライ、オーケアニス、サイレンクイーンだ。
駿河もいる。
布陣は野々村と全く同一だ。
そしてゼータくんが大神、オーガロード、羅喉、オーディンガード、神将と共に続く。
最後にヘラクレイオスくんが現れた。
観客席が少し静かになる。
バンパイアダッチェス、ファントム、スカルロード、スケルトンハーミット、スカルウィザード。
付き従うのは全てがアンデッド、どうしても不気味な雰囲気が漂う。
アンデッドには定番の対策が有効だ。
サンシティフィ・アンデッドは魔法技能を持つプレイヤーなら取得するのは難しくない。
無差別級なら全員が持っていて使えると言っていいだろう。
それに【光魔法】の呪文、ホーリー・ライトも有効だ。
重ね掛けで相乗効果もある。
アンデッドが実際の狩りと異なり、HPバーが無くなった所で除外になるのも厳しい。
だが、一概に不利とは言えない。
アンデッド対策でそれだけの手を使わせる事になる。
ヒョードルくん達への攻撃の手が緩む事になる可能性は高い。
アンデッドを揃えた事によるボーナスもあるし、武技で呪文の効果を遮断する手があるのだ。
杖武技のマジック・フォートレス。
これにマジック・ブースターも加えたらかなり強化出来る。
ヘラクレイオスくん配下のスカルウィザードはまだ死霊結界を使えないと思うが、それでも脅威だ。
バンパイアダッチェスやファントムが影の中に潜んで奇襲を仕掛けると思われる。
中々、防ぎ切るのは至難だろう。
オレならば間違い無く、ヘラクレイオスくん自身を狙う。
彼が指揮官役であるからだけじゃない。
単純に後衛の火力の要になっているからだ。
少なくとも、装備を見たらそう判断する。
彼だけが杖を持っており、明らかな後衛であるのだから当然だ。
ほぼ確実に集中砲火で狙われるだろう。
それは読んでいる、と言うよりもそれが前提で戦いに臨んでいると思うが。
杖武技は恐らくだけど、間に合う。
問題はそこからだ。
マジック・フォートレスもマジック・ブースターもだが、その効果を維持するのに条件がある。
使用者の移動が出来ないのだ。
だからこそオレは使う機会が殆ど無い。
ヘラクレイオスくんのスタイルなら問題は無いのだが、動けないというのは色々と不利だ。
戦況を後方から指揮するのと併せて、彼こそが鍵になると思う。
防御を意識せずにはいられないだろうが、受け身に回ってしまえば危ういぞ?
「見えない!」
「これってどうなってます?」
「さて、どうかな?」
試合場の視界は極端に悪化している。
それは【灼魔法】の呪文、スチーム・ミストの効果ではなかった。
スチーム・エクスプロージョンを各所で炸裂させた跡になる!
戦闘ログによればヘラクレイオスくんの手だ!
そして聞こえる怪しい歌声。
スキュラクイーン、オーケアニス、サイレンクイーンが歌っている!
しかも合唱だ。
対戦相手にバード系の後衛がいたようで、歌で対抗しているようだが追い付かない。
戦闘ログでは【封印術】の呪文、六芒封印も使っていたらしいが、今は途切れている。
試合場の外に吹き飛ばされたのが使い手であったのだろう。
ゼータくん配下の大神と一緒に場外へ、これはどう考えても意図的なものだ。
どうやら呪歌の合唱で状態異常を強いて持久戦狙いか?
オレが一番、苦手にするパターンだよ!
「あ、見えた!」
「うわ、またスチーム・エクスプロージョン?」
「徹底しているわねえ」
対戦相手も【風魔法】の呪文を用いて視界の確保を図っている。
だが、その反応が遅い!
その上、スチーム・エクスプロージョンの追加が早いのだ。
狙いは何かを分かっているとは思うのだが、指揮系統が混乱でもしているのか?
「しかしこれ、動画にしておく意味ってあります?」
「言えてる」
「戦闘ログだけでいい気がする!」
確かに。
このまま続けていても同じ光景になるだけのような気がするぞ?
「場外はどうかな?」
「ヒョードルのトコは大神とオーケアニス!」
「対戦相手は5名が場外ですね。試合場内で更に2名、戦闘除外判定が出てます」
ふむ。
相当な戦力差が出来上がった訳だが。
それでも召喚主が戦闘不能に陥ったら差が一気に詰まるだろう。
油断は出来ない状況だ。
だからこそ、この戦い方を継続すべきだというのは、分かる。
でもね。
見てて楽しくない、というのは事実だ。
いや、戦況に変化?
勝勢を確信したのか、スチーム・エクスプロージョンの追加が止まる。
代わりにフラッシュオーバーが炸裂!
どうやらヒョードルくん達も混戦を避けたいようだが。
人魚系召喚モンスターはオーケアニスが1体減ってはいるが、5体の合唱は続いている。
この戦況を覆すのは確かに難しいだろう。
さて、思惑通りになるかな?
「すみません、変な試合を見せちゃいまして」
「いや、見えてないから!」
ゼータくんが謝る事は無いと思う。
それにアデルのツッコミもどうかと思うぞ?
「一応、勝っているんだからいいんじゃないかな?」
「反省点だらけですけどね」
オレの後ろでヒョードルくんとヘラクレイオスくんが何か話し合っている。
恐らくだが戦闘ログを確認しているのだろう。
試合場B面に移動しつつ反省会か。
まあ、いいんだが。
既に先刻の対戦を忘れていそうな駿河と野々村よりも遙かにいい。
「ヘラクレイオスが場外になった時は肝が冷えました」
「油断かな?」
「ですね。あそこまで反撃が苛烈になるとは思ってませんでした」
確かに油断だろう。
お互いの距離が詰まっていた事が不運であったとは思わない。
状況の把握、そして行動に移るまでの反応で負けていたと思えるからだ。
結果として勝っているのは召喚モンスター達に助けられている所が大きい。
「次の対戦は?」
「漁協の所ね。それが終わったら屋台に回りましょ」
「うん!」
漁協ですか、そうですか。
きっと二郎と譲二、宗雄がいるユニオンだろう。
読めてます。
それにしても今回、生産職の面々はネタユニオンが多いように思えるんですが。
お祭りでもあるんだし、いいんですけど。
漁協か。
要するに漁師だけで組まれたユニオンって事だ。
投網が次々と投げ込まれて行く展開ってどうなんだろうね?
そして身動きが出来なくなったプレイヤーを銛で突きまくる、そんな鬼畜な光景になる。
きっと、そうなる。
読めてますよ?
「そっちかよ!」
「え?」
「キースさん、どうしました?」
試合場B面なんだけど、控えている人数がおかしかった。
多い。
オレは2つのパーティによるユニオンかと思っていたんだが、どうやら違っていたようだ。
5つのパーティによるユニオンだった。
漁師が30名も揃ったら壮観だな!
全員、肩に投網をセットしてあり、中には両肩の者までいる。
得物は当然、銛だ。
遠目から見たら、槍で武装した騎士団のように見えるかな?
それ程まで、揃った武装。
戦い方に関しては迷いがあるまい。
あのドワーフ達に通じる何かを感じます。
漁師である事への誇りかな?
「あの編成での戦闘、見た事はあるかな?」
「ええ、まあ」
「普段から漁をしている間柄ですから」
駿河と野々村は知っていたか。
彼等もまた半分は漁師みたいなものだ。
戦闘スタイルも共通している。
対戦相手は?
こっちは重装備の壁役がやけに多いな。
少なくとも10枚、だが全体で見たら隙の少ない編成に見える。
ドワーフがいて、エルフもいる。
やや前衛が鈍重に思えるがそれだけだ。
「地上戦ではどんな戦い方を?」
「ああ、私達と変わんないですよ」
「あっちの方がちょっと、人数が多いですけど」
ふむ、やっぱりか。
ならば予想は簡単だ。
一方的な殺戮になるか、逆に惨敗になるかだな。
投網による足止めがどうなるか、そこが見所になりそうです。




