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 軍手を着けスコップを持ち麻袋を抱えて傷塞草を根元から掘り起こす。

 この作業も2日目にしてもうプロの領域ではなかろうか?

 しかも今後、再度採集する事も考慮して、群生する傷塞草を適当に間引くようにして採取するのだ。

 実に配慮の行き届いた紳士にも通じる行いである。

 そう。

 このような美しい仕事を完遂するために艱難辛苦を乗り越えて様々なスキルを取得してきたのだ。

 見るがいい!この戦果を!

 麻袋1袋如き、1時間で満杯にするのなど朝飯前!

 それに傷塞草と苦悶草を見分ける術をも会得した!


 コツは剣道における見切りと同じだ。

 相手を正面から見据える。

 但し、細かく観察するように見るのではない。

 相手の姿の全体を視野に入れるように見る。

 そして凝視することもしない事だ。

 木を見て森を見るが如く。

 森を見て木を見るが如く。

 ほんの僅かな異変も見逃すなかれ。


 苦悶草は・・・お前だああああああ!!



 まあ大抵は外れてる訳だが。

 一種独特なナチュラル・ハイに自己誘導を行いながら黙々と作業を進めていった。

 師匠といえどオレの脳内で何が行われているか、知ることはできまい。

 単純作業を延々とこなすとなると、どうしても気分は緩むしミスだって起きる。

 必要だからやっているのだ。

 これは工夫なのだ。

 本当は退屈して飽きてしまうからっていうのは絶対に秘密だ。

 例え傍目から見たら危ない薬でもキメているように見えているのだとしても構わない。

 自分を偽るのって大変です。

 こういう楽しみ方があってもいいじゃないか!


 さて。

 そんなオレの努力も虚しく、2体のオートマトンの戦果はオレのほぼ倍の効率なのであった。

 クソッ、こういう仕事だと機械には勝ち目はないのか。


「おお、そろそろ一旦切り上げて昼飯にするとしよう」


 師匠のその一声でオートマトン2体もその動きを止める。

 いや、君達は物理的にメシは食えませんから!


 ヴォルフとヘリックスも師匠の声に反応していた。

 いや、正確には上空より舞い降りるものに反応していたようだ。

 ロック鳥は何やら脚に捕まえてこちらに迫ってきている。

 今度は一体何を狩ってきたのか。

 【識別】してみる。



 ハンターベア Lv.???

 魔物 討伐対象 死体



 またなんか不穏な名前の巨大熊をこの巨大鳥は片脚だけで持ってきてるし。

 ハンターがハントされてました。

 ロック鳥は一体どれ程の戦力なんだ。

 その熊の大きさは動物園で見たことがあるホッキョクグマの成獣を楽に上回っている。

 師匠が嬉しそうにナイフで剥ぎ取った。

 毛皮と肉塊が2つだ。


「これがワシの好物でな」


 手で触ってみると実に柔らかそうな肉、というか手首丸ごとじゃないか、これ?



【素材アイテム】狩人熊の掌 原料 品質B- レア度5 重量1 

 ハンターベアの掌肉。柔らかく味も良いので高値で取引される逸品。



【素材アイテム】狩人熊の肉 原料 品質C レア度3 重量5 

 ハンターベアの肉。独特の臭みはあるが滋養に富んでいる。



【素材アイテム】狩人熊の毛皮 原料 品質C レア度3 重量3 

 ハンターベアの毛皮。毛深く保温効果はそこそこ。皮は厚く加工するのに苦労しそうだ。



 掌肉はなんか見た事がないレア度なんですが。

 師匠が新たに召喚魔法を唱えるとまた人形が増えていた。

 メタルスキンにもオートマトンにも似た容姿。

 だがその表面は明らかにメタルスキンよりも輝いている。



 シルバースキン Lv.???

 召喚モンスター ???



 これまた謎な人形タイプの召喚モンスターだ。

 しかし師匠、何をさせるために召喚したんだろうか。

 するとシルバースキン、師匠の《アイテム・ボックス》から様々な器具を取り出していった。

 調理道具だ。

 狩人熊の肉の骨を外して包丁でスライス、表裏に包丁で筋目を入れて塩胡椒に何やら茶色のハーブらしき粉を振った。

 そのまま網焼きにしていった。

 肉、血抜きしてないのに豪快だな。

 狩人熊の掌は毛を取り除くと、師匠が用意した水で蒸し始めた。

 なんか異様に手際がいい。

 さては師匠、普段からこういったアウトドア料理をやらせているでしょ。


「そして苦悶草じゃがな、熱をじっくり通せばちゃんと食える。中々美味いんじゃよ」


 シルバースキンは狩人熊の肉から外した骨でスープをとり、それに適当に刻んだ苦悶草を煮込んでいくようである。

 いつ用意したのか、パンとチーズもちゃんとあった。

 思いもかけずちゃんとした昼食を摂る。

 師匠の言うとおり、料理として出た苦悶草はちゃんと食えた。

 つか【鑑定】で料理情報が見ることができるんだが。



【食料アイテム】狩人熊の肉のステーキ 満腹度+15% 品質C- レア度3 重量1

 筋力値微上昇の効果約1時間

 ハンターベアの肉をシンプルに塩胡椒とナツメグでステーキにした料理。

 


 バフ効果、付いちゃってるじゃないの。

 一時的に呪文のエンチャントと同様の効果があるアイテムがあるとはサキから聞いてはいた。

 彼女にバフって何?と聞いたら呆れながらも教えてくれたっけ。

 食料アイテム扱いになってるけど、料理でこういった効果も狙えるのか。

 


【食料アイテム】狩人熊の掌の清湯蒸し煮 満腹度+10% 品質B- レア度5 重量1

 知力値微上昇の効果約2時間

 狩人熊の掌を薄い出汁に浸して蒸し煮にした料理。

 珍味とされる狩人熊の掌の料理方法としては最も一般的。



 こっちもだ。

 狩人熊の掌の料理の効果は魔術師系なら誰もが欲しがるだろうな。

 一応、両方ともスクショで撮って保存しておこう。



【食料アイテム】苦悶草の狩人熊スープ煮込み 満腹度+30% 品質C レア度3 重量1

 狩人熊の骨でとったスープでを苦悶草を煮た料理。腹持ちが良いのが特徴。



 さすがにこの料理にまで妙な効果はないか。

 それにしても満腹度高いな!

 ステーキにパンとチーズ、それにスープまで食うと満腹度が50%をやや超えたよ。


 狩人熊の掌の方は一口だけ味見させて貰った。

 うん、旨い。

 どこがどう旨いと言うべきか、適切な言葉が出ないのがもどかしい。

 確実に言えることは、肉が非常に柔らかくて食べ易い。

 師匠はそのあたりも気に入っているのだろう。


 ヴォルフはスープの出汁に使った骨を、ヘリックスは熊肉の欠片を生のまま師匠から貰っていた。

 一応確認だけど、君達の主人はオレだから忘れないでね。

 

 食事の後片付けは全てシルバースキンが済ませてしまった。

 オレの手伝う暇もなかった。

 なんというか、作業に澱みがなく正確で素早い。

 オートマトンは恐らくウッドパペットの上位置換っぽい召喚モンスターなんだがシルバースキンは更にその上かもな。


 師匠がシルバースキンを帰還させた。

 いや、オートマトン2体も同時に帰還させたようだ。

 確かに麻袋5つが満杯で昨日と同じだけの量を確保している。

 じゃあ後は師匠の家に戻ってポーション作成だな。


「採集は終わりですか?」


「うむ」


「では次はポーション作成ですね」


「うん?まだ用事があるんじゃが」


 はい?

 えっと。

 師匠、その顔はやめて。


「もう一戦、いってみるかの。今度は最初から素手でやってみるかな?」


 現状ですが、HPバーはフルではあるもののMPバーは7割をやや欠いた状態。

 確かにスキルのいくつかはレベルアップしてるんですが、これ以上弟子に綱渡りをやらせますか?


「大丈夫、危うくなったらちゃんと助けるとも。そら、心の準備をしておけ」


 オレがハイと答えるのを待たずに呪文を唱え始める師匠。

 厳しいです。

 これも愛の鞭なんですかね?

 それとも虐待でしょうか?


「コール・モンスター!」


 そして暫く時間が過ぎると、オレの相手がやってきた。

 森の方向から迫ってきたのはまたもスノーエイプだ。

 ゆっくりとこちらに迫ってくる猿だが、今までとちょっと、何かが違う。

 手に何か持っていた。

 骨の柄に先端には石を括り付けているのが見て取れる。

 石斧、だよね。

 嫌な予感がして【識別】してみる。



 スノーエイプ Lv.5

 魔物 討伐対象 アクティブ・誘導



 レベルがさっきのより1つ上ですけど師匠。


「すみません、この魔物ですがさっきのより確実に強くなってる気がします」


「そうかの?うん・・・おお、間違えてしもうたかもしれんな。まあ一戦してみることじゃな」


 師匠、絶対それわざとやってますよね?

 少し泣きたくなってきた。



 結果を先に言えば惨敗でした。

 戦闘開始1分もかからず師匠が介入、スノーエイプは師匠の魔法一発で葬られた。

 その呪文が何だったのか、目を凝らしても何も分からなかった。

 一時的なステータス異常でスキルは軒並み使えず、視野は全て曇りガラス越しのような有様だったのだ。


 油断していた筈もない。

 元々Lv.4でも強敵だったのだ。

 寧ろ慎重に事を運んでいたのは間違いない。


 この猿は1つレベルが上がっただけだ。

 武器を1つ持ってるだけだ。

 そう自分に言い聞かせてはいたのだが、はっきり言って同じ猿とは思えない程の差があったように思える。

 最初の一撃は回避できた。

 意表を突かれたのはその次であった。

 手に持っていた石斧を投げてきたのだ。


 石斧そのものは避けたが、一緒に突っ込んできた猿のタックルは避けられなかった。

 直撃ではなかったのにHPバーは7割ほどが一気に減った、と思う。

 というのも酩酊にも似た症状がオレを襲っていたのだ。

 後でクリティカル・ヒットによる状態異常発生の説明を読んだ。

 それによると、物理ダメージの一撃でHPの半分以上を削られた場合には状態異常のペナルティが起きる可能性があるようだ。

 オレに起きたのは『意識朦朧』状態らしい。

 各ステータスもそれぞれが一時的に低下するペナルティがあるようだ。

 魔法なりポーションなりで回復すれば、精神力レジスト判定に成功すると状態回復する仕様になっている。

 だがそれもステータス異常を解消できる訳ではないようだ。

 一番酷い状態は『気絶昏倒』で精神力レジスト判定するのにすらマイナス補正が付く。

 一番軽いもので『眩暈』があり、これは行動はできるもののスキル依存行動の全てにマイナス補正がつくようだ。

 つまりは。

 大きなダメージは喰らうと大変って事だな。

 身を以って体験しました。痛覚も込みで。

 リアルに吐きそうです、師匠。


「良いかな?もしお前さんが戦えなくなったら召喚したモンスターもまた無力じゃ。意味は分かるじゃろ?」


 分かります、師匠。

 召喚主が先に倒れたら意味がありませんよね。

 確かに召喚モンスターを前衛に、サモナーは基本後衛に位置するのが最も合理的です。

 でも今のスタイルを変える気はありませんから。


「それを理解した上で為すべき事を為せば良い。手がない訳でもないじゃろ」


 師匠、何かを教えるにしても実地じゃなきゃダメなんですか。


「無理に喋ろうとせんでええ。暫く休んでおれ」


 師匠はスノーエイプに剥ぎ取りナイフを突き立てた。

 何かを剥ぎ取ったようだがよく見えない。


「皮は研究材料にワシが貰うぞ。骨と石斧はお前さんの物でええじゃろ」


 目の前にヴォルフが見える。

 このまま眠り込みたい所だが、意識を手放してなるものか。

 それは自動的にヴォルフとヘリックスを帰還させてしまう事を意味する。


「強情じゃな、まあそれもええじゃろ」


 師匠のロック鳥の背中にはなんとか自力でよじ登った。

 そう、この敗北も前向きに考えよう。

 死に戻りしなかったのだ、と。



 師匠の家への帰路は穏やかだった。

 いや、ロック鳥の飛ぶ高度は低めで速度も抑え目ではあるが、寒くなかった訳ではない。

 ヴォルフが暖房代わりに寄り添ってくれたので助かった。


 移動時間を利用して自分の状況でも確認しておこうか。



 ステータス

 器用値 15(-9)

 敏捷値 15(-9)

 知力値 18(-11)

 筋力値 14(-8)

 生命力 15(-9)

 精神力 19(-11)



 酷くやられたものだ。概ねステータス値は4割相当にまで低下って所だろう。

 これでは冒険どころではない。

 今は出来る事からしておこうか。


 師匠が譲ってくれたドロップ品の確認をしておこう。



【素材アイテム】雪猿の骨 原料 品質C レア度3 重量0+ 

 スノーエイプの骨。軽くて丈夫。



【武器アイテム:手斧】野猿の石斧 品質D- レア度3

 AP+3 破壊力3 重量3 耐久値90 投擲可、射程10

 雪猿の骨に斧形状の石を括り付けただけの斧。

 手斧サイズで投擲もできる。



 スクショだけは撮っておいて《アイテム・ボックス》に保管しておく。

 次だ。


 フィーナさんに教えて貰った掲示板アドレスを開いて書き込みをしておこうか。

 既に書き込んである内容をじっくり読む気にはなれない。

 なんとか気分を奮い立たせて情報の書き込みだけでもしておこう。



 師匠の家に到着した時にはステータス低下のペナルティもかなり緩和されてきていた。

 タイムスタンプを確認したら20分でこんな感じになっていた。



 ステータス

 器用値 15(-4)

 敏捷値 15(-4)

 知力値 18(-7)

 筋力値 14(-4)

 生命力 15(-4)

 精神力 19(-6)



 まだステータス値は7割相当か。

 だが半分は回復してるって事だ。

 冒険をするにはまだ十分じゃないかな。

 でも師匠の手伝いをやる位なら問題ないよね。

 一旦、家の2階でボロボロになった服を購入した綿の服に着替えておいた。

 改めて見ると、ダメージを受けた簡素の服は修繕するのが不可能に思えるほどであった。

 鎧なりを重ねて装備していたらアンダーウェアとして十分に長持ちしてただろうに。

 もうこれは捨てるしかないな。そうでなければ雑巾にしかなるまい。


 地下の作業室にヴォルフとヘリックスを従えて降りていくと、師匠はメタルスキンと先に作業を進めていた。



「いや、無理することはないんじゃがなあ」


「瓶に入れる位なら問題ないですから」


 師匠は相変わらず錬金術を行使し、凄い勢いでポーション作成を進めていく。

 オレはといえば、瓶を並べてはポーション液を漏斗と玉杓子で次々と入れ、《アイテム・ボックス》に入れていく。

 素早く、ミスなく、正確に。

 

 一回だけミスしかけて瓶同士をぶつけてしまったが問題なかった。

 レイナからメッセージが来たのに気を取られたからだが、これを読むのは後回しにする。

 まあ作業中だし。


 ポーションを400本分、作成し終えた所で師匠が作成の手を止めた。

 まだ傷塞草は麻袋にして1袋以上余っている。


「そろそろ体調はどうかな?」


 言われて気がついたが、ステータス低下ペナルティは完全になくなっていたようだ。


「はい、大丈夫みたいです」


「うむ。ではワシは下で篭もる。そこの傷塞草、それにこの作業場と器具は自由に使ってええぞ」


「分かりました、ありがとうございます」


「お前さんが作ってギルドに納品するポーションはこの《アイテム・ボックス》に入れておくようにな」


 そう言うとまた別の《アイテム・ボックス》を渡された。

 その《アイテム・ボックス》は肩掛け鞄で外見は布製の年季の入った代物だった。

 というか師匠、いくつ《アイテム・ボックス》を持ってるんだ。

 謎過ぎる。



 師匠のお許しもあった事だし、オレ自身が受けた冒険者ギルドの依頼を果たそうかと思う。

 MPバーは全快には程遠く半分といった所だ。

 錬金術はもう少し自然回復してから使おうか。

 当面は水作成にだけMPは使うべきだ。

 

 作成は昨日の手順を仮想ウィンドウに提示しながら進めていく。

 とりあえず依頼数30本分の空き瓶を机の上に並べておいた。

 最初は傷塞草を1本使ってポーション2本分を作成する。完成したポーションは2本とも品質はCだ。

 オッケー、問題ない。

 今度は傷塞草を2本使ってポーション4本分を作成する。

 やはり問題はない。

 簡単ながら手順を確認しながら進めているのだから当たり前なのだが。


 同じ作業を繰り返そうとした所である疑問がオレの中で生じた。

 ポーションの作成手順だ。



 1.傷塞草を乳鉢で擂り潰す。

 2.水で溶いて抽出する。

 3.固形物を濾紙で濾し取る。

 4.抽出液を熱して5分ほど沸騰させる。

 5.常温に冷やす。

 6.液体をギルド指定の瓶に入れる。



 お茶などでは、その成分を抽出するのには普通はお湯を使用する。

 水出しでお茶を淹れる事もない訳じゃないが、その場合は茶葉をより細かくしないと抽出効率は悪い。


 なんでわざわざ水で抽出してから熱するのか。


 擂り潰した傷塞草をお湯に入れて抽出するのは何故ダメなのか。

 何故だ。

 何か阻害する要因でもあるのか。

 論理的に考えると、水で抽出しなくてはいけない理由、熱を加える理由が必要な筈だ。

 そして抽出後の固形物を使って回復丸ができるのもおかしい。

 濃縮するとはいえ、抽出後の固形物に回復効果が残っている事を示唆しているのではないだろうか?


 うん。

 検証してみるのもいいな。


 でもその前に依頼分のポーションを作成してしまわねば。

 検証はその後でいいだろう。

 夢中になると他の事に気が回らなくなる、それもオレの悪い癖なのであった。

 自重しないといけない。



《これまでの行動経験で薬師レベルがアップしました!》



 そしてポーションの作成作業の途中で薬師がレベルアップした。

 その後に作成するポーションの品質が向上でもするかと思ったが、そんな事もなかった。

 ギルド依頼分の30本を作り終えた時点で品質C+が1本、他が全部品質Cで出来上がっている。

 あまり変わり映えがしない。

 こうして自分でやってみるとやはり師匠の腕前は異様だ。


 品質を安定させて生産するのは非常に難しい。


 今日、師匠が生産したポーションは400本分、全部が品質Cであった。

 脳内に品質管理部門でもあるんですか?

 工業製品でも品質を均質化するのは地味だが高い技術だ。

 行き過ぎたオーバースペックはコストアップでしかない。

 かといって品質を単純に下げても品質にブレが生じるとスペックアウトするだろう。

 安定した品質を保つことができれば、コストダウン出来るのはその為だ。


 そうだ、品質C+は冒険者ギルドに納品するのは避けたいので、不足分はまた別に作らないといけない。

 つまり素材も時間も余分にかけてしまっているって事になる。

 時間は即ち人件費と考えたら立派にコストアップ要因だ。

 

 品質Cを狙って百発百中で品質Cを実現する。

 ちょっと挑戦してみたい。


 テンポ良くポーション作成が進んでいたので、余分だけどもう少し作っていく。

 なかなかスムーズに作業できた所で最新のポーション作成作業を別枠で記憶させた。

 思い切って錬金術でポーション4本を一気に作ってみる。

 4本とも品質Cで作成できた。

 MPの減りはやはり大きいものの、昨日ほど消費していなかった。

 僅かに腕が上がったって事かね?



《これまでの行動経験で錬金術レベルがアップしました!》



 錬金術もレベルアップしたようだ。

 次の段階に進んでみよう。


 傷塞草3本でポーション6本を作成する段階へ進もう。

 作業工程で最も注意すべきなのは最初の工程で傷塞草を乳鉢で擂り潰す作業だ。

 量が増える分、均質に細かくするのが難しくなるからだ。

 念入りに擂り潰していく。

 手先の感触で潰しきれていない所を感じ取りながら、微妙に力加減を変えていく。

 指先に神経を集中させるように、念入りに作業する。


 ふと思いついた。

 この作業はオレのどのステータスが基準になって品質が決まっているのか。

 作業そのものは確かにプレイヤーズスキルによるものとしか思えないのだが。

 作成したポーションの品質には、器用度が関わっているのが自然、だよね。


 とりあえず今までと同様の作業工程を経てポーション6本を作成した。

 品質C-が2本、混じってしまっていた。

 むう。

 やや不満を残しながらも先程の仮定を元に試してみようか。


 仮想ウィンドウに表示された呪文リストから器用度を一時的に上昇させる呪文を選択する。

 そして実行。

 呪文詠唱は自動で完成した。

「フィジカルエンチャント・アクア!」


 ここでステータス画面も確認しておく。



 器用値 15(+3)

 敏捷値 15

 知力値 18

 筋力値 14

 生命力 15

 精神力 19



 フィジカルエンチャントで+3は初めてだ。

 たかが+3だが、これで結果にどう影響するだろうか。

 本来であれば、サンプルとして試作数を増やして統計をとらなければ断言はできないだろう。

 自分なりの手ごたえで判断するしかあるまい。

 それに時間を無駄に経過させるのも良くない。

 呪文の効果は約15分しかないのだ。

 ここでフィーナさんに教えてもらった小技を使ってみる。

 仮想ウィンドウを視野の一番上に極細長く表示してバフ有効時間の経過状況をバーにしてやるのだ。

 視覚で分かりやすい表示だ。


 作業を急ごう。

 動きに無駄が出ないように、正確に、慌てず騒がず、それでいて素早くポーション6本を作成する。

 作成し終えた時には額に汗がういていた。


 ポーションは6本とも品質Cである。

 うん、もっと細かく念入りに擂り潰し作業をするのであれば、狙って品質C+も出来そうな気がしていた。

 そしてインフォが脳内に鳴り響いた。



《これまでの経験で取得が可能な補助スキルに【精密操作】が追加されます》



 うん?

 これまでの行動の何かがトリガーになって、取得できるスキルが増えたようだ。

 【精密操作】か。

 必要なボーナスポイントが3、現在オレの持っているボーナスポイントの残りは5だ。

 使っちゃおうか。

 品質高めのポーションが安定して作成できるようになるのならば十分にそれだけの価値はある。

 早速取得して有効化した。


 さらにもう一回チャレンジしてみる。

 フィジカルエンチャント・アクアの効果が切れかかっているのが見えていた。

 MPは半分もないが、もう何回かを使うのに問題はない。


 今度は意識して品質向上を目指す。

 傷塞草は1本、ポーション2本分で作業を進めた。

 手早く、それでいて確実に、丁寧に。

 これ以上ないって程に作業は順調に進んだと思う。

 その結果を【鑑定】してみたらこうなった。



【回復アイテム】ポーション HP+11%回復 品質B- レア度1 重量1

 一般的なポーション。僅かにだがHPが回復する。

 飲むとやや苦みが舌先に残ってしまう。

 ※連続使用不可。クーリングタイムは概ね6分。



 2本とも品質B-だった。

 品質C+から更に回復量が増え、クーリングタイムも短縮されている。

 短縮再現用に作業手順は別枠で保存し、【鑑定】結果もハードコピーしておく。


 その後は夢中になった。

 都合4回、条件を全て変えて試作を進めた。

 作成する数を増やしてみる。条件は傷塞草を2本、3本とした。

 作業工程を高速化してわざと手抜きにしてみる。やや急いだもの、作業途中の出来栄えを見ないで最速で作業したものだ。

 いずれでも予測の範疇の結果を得た。

 断言するにはサンプル数を増やしてみないと分からないが、ある程度は体感できた。


 フィジカルエンチャント・アクアと補助スキルの【精密操作】の組み合わせでは明確な品質向上効果がある。


 面白いな。

 フィジカルエンチャント・アクアは、戦闘の場面で使って武器攻撃の命中率向上を狙うものだと思っていた。

 こういった使い方も有効とは、ね。


 つまり他の呪文にも同じような事ができるのかも知れない。

 まるで使っていない他属性のエンチャントもある事だし。

 間違いなく今まで光属性の呪文は使っていない。



 作成したポーションを品質毎に整理しておく。

 ポーションは上は品質B-、下は品質Dまでまた増えた。

 品質Cは冒険者ギルドに納品してしまえばいいし、品質C+も品質B-も冒険で使えばいいだろう。


 もうMPバーもかなり減ってるし実験はここまでにしておくか。

 いや。

 まだもっと出来ることがあるんじゃないかな?


 今日購入したばかりの軽量カップに品質B-のポーションの中身を出した。

 数量を確かめて鍋に移す。

 同量の水を計量カップに量りとって鍋に移す。

 玉杓子で混ぜて空き瓶に入れていく。

 半分に薄めたらどうなるかの実験だ。

 MPいらずで簡単に終わった。早速【鑑定】してみる。



【回復アイテム】ポーション HP+5%回復 品質D レア度1 重量1

 一般的なポーション。僅かにだがHPが回復する。

 飲むとやや苦みが舌先に残ってしまう。

 ※連続使用不可。クーリングタイムは概ね5分。



 うん、回復量はちゃんと半減した。実に合理的である。

 注目なのはそっちではなくクーリングタイムだ。

 3分、短縮されていた。

 これは何を示唆するものなのか。

 ポーションの連続使用といった濫用行為を抑制するためにクーリングタイムがあるものと思っていた。

 だがこの結果を見ると、他に何かの要素が関わっているように見える。

 なんだろうな。

 師匠に聞いてみるか。



 後片付けをしてると作業場の扉が開いてメタルスキンが入ってきた。

 どうやらもう夕食の時間になっていたようだ。

 そして師匠も入室してくる。


「どうかな、作業は捗ったかの」


「ギルドの依頼はなんとかなりました。いくつかは自分なりに高い品質のポーションも作れましたし」 


「うむ」


 夕食のメニューに熊肉は出なかった。

 兎肉の煮込みらしいが、あの硬い肉が柔らかくなっている。

 酸味が結構強くて独特だった。

 残念ながらバフ効果はない。


「師匠、質問はいいですか?これなんですが」


 師匠の目の前で品質B-のポーションと品質B-の中身を薄めた品質Dのポーションを見せる。

 師匠はじっとポーションを見たまま食事をしながら考え込む様子だ。



「自分で、考えて、それで作ったんじゃな?」


「はい」


「結構。その調子で精進することじゃ」


 今度は食事を中断して真剣な表情でオレに話し始めた。


「良いかな、何をするにしても自らが学び取るのじゃ。自らに問いかけるのじゃ。学問とはそういうものじゃよ」


「・・・」


「お前さんもいずれは既存の練成陣を使った錬金術を目にするかもしれないがの、ワシに言わせたらそれこそ邪道じゃ」


「?」


「魔術師たるものは世界の理を、真理を追究する学者でもある。そしてその真理の裏をかくのもまた魔術師の使命じゃ」


「はい」


「与えられたもの、奪ったもの、金で得たものばかりでは学問にはならんよ」


 ああ、知ってます。

 強いられているうちは勉強であって学問じゃないって親にも叱られました。

 それに、だ。

 クーリングタイムが短くなった品質Dのポーションの件、意見を聞き難い雰囲気です。

 冒険の合間にでも研究してみようか。


 ちょっと考え込んでいたら師匠はいつのまにか食事を摂り終えていた。

 メタルスキンが手際よく片付け始めている。


「では今日はこれまで。明日も朝はレムトに納品じゃ」


「はい」


「その後でポーション作成、ワシの手伝いじゃな」


 つまり今日と一緒ですね。

 明日もスノーエイプとの対決は避けられそうもなさそうだ。



 一旦、師匠の家の2階で荷物の再確認を終えると、夜の森を少し探索することにした。

 今日はヴォルフがまるで活躍していないからだ。

 朝、馬である残月と鷹のヘリックスとで草原をサーチ・アンド・デストロイ出来たが、狼と鷹ではどうだろう。


 狼と鷹、か。

 昔見た実写のファンタジー映画にあったな。

 恋人同士の男と女。

 男は陽が落ちて夜を迎えると狼にその身を変化させ、女は朝を迎えるとその身を鷹へと変化させる。

 2人は宵の刻と暁の刻の刹那でしか互いに会えない設定だった。

 そう、【---】と一緒に観たんだっけ。

 あれは何時だったろうか。

 【---】は映画が好きで、ああいった苦難を乗り越えるような恋物語が好きでよく涙を流しながら観ていた。

 オレは適当に相槌を打つだけで、あしらうような態度だったと思う。


 おっと、いかんな。


 そう、狼と鷹、だったな。

 陽は落ちきっていない今のうちならばまだ狩りはできそうだ。

 多少暗くなっても光魔法で明かりを使えばいい。

 蟻も蝙蝠もちょっと厄介だが、逃げる事を優先させよう。

 草原で一狩りしますか。



 森の見張り櫓を背後に見ながらサーチ・アンド・デストロイを敢行してみた。

 その結果、いくつかの問題点が浮き彫りにされた。


 一番問題になるのは機動力だ。

 オレの移動速度は馬である残月にまるで及ばない、ヴォルフとヘリックスに対しても同様だ。

 まあ当たり前ですよね。

 その点を多少なりともカバーする手段がある。

 フィジカルエンチャント・ウィンドだ。

 ほんのちょっとだが移動速度を上乗せできた。


 次に鷹であるヘリックスだ。

 最初は良かったのだが、日が完全に落ちて空に星が見え始めたとたんに高く飛べなくなった。

 怖がっているようでもある。

 夜目は少しは効くようではあるのだが、昼のようにはいかないようである。


 次に草原で奇襲攻撃を受ける機会が多くなった。

 ホーンラビットが地面の巣穴からいきなり飛び出して突っ込んでくるのだ。

 ヴォルフの危険察知能力で8割以上は避けられたが、それも完全とはいかなかった。

 肩に一撃、まともに食らってしまい、その一撃だけで3割近くもHPバーが削られていた。

 結局、日が落ちた後で狩ったホーンラビットはオレにダメージを与えたその1匹だけだった。

 この時間帯、兎達は巣穴から襲い掛かっては失敗すると別の巣穴に素早く逃げ込んでいく。

 追撃は当然出来ない。

 昼間と行動パターンが違っており厄介極まりない。


 最後に謎の存在である。

 【識別】出来る距離にまで近寄ってないので、名前すら分からないが、燐光のようなものが漂っているのが見えた。

 ヴォルフが絶対にオレを近寄らせない勢いで服の裾を噛んで引っ張るので、距離を置くことにした存在だ。

 遭遇したのは1回だけ。

 草原フィールドにわんさかいる訳ではないようだが、何となく不気味な存在ではある。

 一応、スクショも撮ってみたのだが、何が何やら訳の分からない画像にしかならないのだ。

 何でしょうね、これ。

 心霊写真?

 夜は草原も森も一段と怖い状況になるようだ。



 それでも日が落ちる前にいくつか成果を得ていたので、狩りに来た甲斐はあっただろう。

 周囲が真の闇へと変じる前に師匠の家に戻ることにした。

 森の見張り櫓にまで戻った所で明かりを付ける。


「フラッシュ・ライト!」

 

 オレの頭上よりやや前の空間に球体の照明が出現していた。

 周囲10mはかなり良く見えるし、20m先もそこそこ見えそうだ。

 意識を凝らして視野を移動させると、その明かりは絶妙の位置に移動するようである。

 便利です。

 だが森の中ではその利点は大きくスポイルされる。

 木々によって光は遮られて大きな影を生んでしまうからだ。

 死角は多い。

 ヘリックスは完全に空を飛ぶのを止めてロッドの先に佇んだまま動こうとしなくなった。

 その一方でヴォルフは闇をまるで苦にしない。

 所々で周囲を見回して警戒しながらオレを誘導してくれている。

 頼もしい奴だ。



 事件は師匠の家までもう少しの所で起きた。

 細いながらも草深い道を進んでいたオレの背後で音が迫ってきて、その音源が姿を現した。

 何かの球体。

 その高さはオレを余裕で超えている。

 【識別】してみると、目の前が赤い逆三角形のマーカーだらけになった。

 適当に目を凝らすとLv.1のイビルアントの群れである。

 少ないがLv.2も何匹か混じっているようだ。

 いや。

 蟻が集っている存在がある。

 緑のマーカーが1つだけ見えていた。

 HPバーを見ると残り少ない。

 この中に、プレイヤーが、捕らわれている、のか?


 蟻玉から剣が伸びて振り回されたが、蟻玉の中に飲み込まれていった。

 丁度HPバーが目の前でなくなり、緑のマーカーが徐々に薄れていって消えてしまった。

 蟻玉はそれ自体が一つの生き物のように蠢き続けている。

 プレイヤーの緑のマーカーが消えると同時にプレイヤーの体も消えたようだ。

 蟻玉の真ん中が一瞬凹むと蟻達は互いの体と絡み合いながら蠢き続ける。


 これが死に戻りか。

 そしてオレもこうなる運命かも知れないのだ。

 どうするか。


 決まっていますとも。


 逃げよう。


 蟻達の動きを刺激しないように後ずさりする。

 ヴォルフもおとなしく付いてきた。

 ヘリックスは置物のように固まっている。


 距離が開いた時点で走り出した。

 背後で何か音がしたように思うが構ってはいられない。

 そのまま駆け出した。


 背後の音は近付いて来る。

 急げ、急げ!

 その音はカチカチとした音でありながら、幾層にも重なった音となってオレの耳を叩く。

 急げ、急げ、間に合え!

 仮想ウィンドウの呪文リストからフィジカルエンチャント・ウィンドを選択して実行する。

 どうしてこうも時間の経過が遅いのか。


「フィジカルエンチャント・ウィンド!」

 少しだけだが蟻達の音が遠ざかっているようだ。

 本当に少しだけだ。

 師匠の家の門に辿り着いても門が開くのには時間がかかる。

 今のうちに出来るだけ引き離さないと危うい。


 家の明かりが見えた。もう少しだ。

 そこからはただ全力疾走で走ることしか頭になかった。

 何やらインフォがあったようだが今はそれ所ではない。

 急げ!


 門に辿り着く。

 門はゆっくりと、いつもの速さで開いていく。ああもう!

 後ろを振り返ると明らかにさっきよりも数の増えたイビルアントの大群が見えた。

 何で蟻玉が2つに増えてやがりますか。


 オレの傍で控えていたヴォルフが低く唸り戦う姿勢をとる。

 ヘリックスも羽が一層膨らんだように見えた。ロッドの先で翼を開き。蟻を威嚇するかのように軽く鳴いた。

 フラッシュ・ライトの明かりの下で赤く点滅するマーカーが乱舞する。

 蟻の甲も光を反射して奇妙に美しい光景を生んでいた。

 背筋を襲う不快感は頂点に至り、オレは吐き気を堪える事ができず、その場で盛大に吐いてしまっていた。


 勝ち目のない戦いを覚悟したその時、オレの両脇から地響きが起きた。

 大きな岩塊が動いて迫っている。

 いや、動いていたのは石塁の一部のようだ。

 それは今や石塁ではなくなっていた。

 2つの巨大な石塊の上には黄色のマーカーがある。

 【識別】が自然に働いて、その正体を知る事になった。



 ストーンゴーレム Lv.???

 召喚モンスター 迎撃態勢



 師匠が言ってたストーンゴーレムがこれなのか。

 その高さはオレの3倍はあろうかという巨体だ。

 頭はあるが顔らしきものはない。

 ゆっくりと蟻の群れに向かっていく。


 そして左側のストーンゴーレムの肩にはもう1つ黄色のマーカーが見えていた。

 師匠のマギフクロウだ。

 フクロウが音もなく空へと飛んだのが合図となったかのように。


 戦いは始まった。


 いや、蹂躙が開始された。



 ストーンゴーレムはゆっくりと動いているようでいながら攻撃に転じると意外に速い。

 拳を振るえば数匹の蟻を纏めて叩き潰した。

 足で踏みつけたら地響きとともに数匹を纏めて踏み潰し、文字通り平たくしてしまった。

 大雑把な戦い方だが確実に戦果を上げている。


 オレもヴォルフも、そしてヘリックスも目の前の敵を迎撃する。

 正直、次々と寄って来る蟻を払いのけるのが精一杯であった。

 ヴォルフもヘリックスも追い払うのを優先としていて、中々止めを刺すまでにいかないようだ。

 2体のゴーレムが急速に蟻の数を減らしているのだが。

 なんと言っても減っていく数以上に迫ってくる数が多いようだ。

 追加で何匹もの蟻が森の中から迫ってきていた。


 ゴーレムはオレの左右の位置を占めて寄って来る蟻を次々と屠り続けている。

 オレはヴォルフと共に中央で蟻を払いのけ続けた。

 時に回りこんできた蟻が背後に迫ることもあったが、ヘリックスが上空から襲って排除してくれていた。

 迎撃の陣形がいつのまにか形成され、それぞれの役割が自然と定まっていた。

 蟻の増える速度は落ちてきていたが、まだまだ蟻の数は多い。



 それが何だったのかは最初分からなかった。

 周囲が一瞬、明るく照らされ、何かが焦げるような匂いが漂ってきていた。

 何が起きた?

 蟻の群れを見るとかなりの数が動かないまま煙を上げている。

 そして次の瞬間、何が起きていたのかを見ることになった。

 翼を広げた師匠のマギフクロウ、その両翼から広範囲に亘って何十本もの雷撃の槍が降り注いだ。

 美しく、そして容赦なく殲滅していく。


 そしてもう一撃が放たれ、蟻の群れは全滅した。



《只今の戦闘勝利で【受け】レベルがアップしました!》

《只今の戦闘勝利で【光魔法】レベルがアップしました!》

《これまでの経験で取得が可能な補助スキルに【ダッシュ】が追加されます》

《これまでの経験で取得が可能な補助スキルに【耐久走】が追加されます》

《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『ヘリックス』がレベルアップしました!》

《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》



 呆然とインフォが流れる仮想ウィンドウを眺めていた。

 ヘリックスのステータス値が表示されていて、敏捷値が上昇していることが示されていた。

 任意ステータスアップは筋力値を指定しておく。


 召喚モンスター ヘリックス ホークLv1→Lv2

 器用値 10

 敏捷値 22(↑1)

 知力値 18

 筋力値 11(↑1)

 生命力 10

 精神力 12



 ヘリックスのステータスが表示された仮想ウィンドウを閉じると一気に緊張の糸が切れた。

 助かった、というのが正直信じられない。


《終わったようじゃな。そこの後片付けはお前さんに任せておくぞ》


 マギフクロウを通じて師匠の声がしていた。

 片付け、ですか。

 凄まじい光景を前に呆然とするより他なかった。


 時間がどれだけかかるんだ、これ?

 剥ぎ取りナイフを手にして蟻の死体の山を見た。

 結局、蟻の死体からアイテムを剥ぎ取る作業には1時間以上を要した。

主人公 キース

種族 人間 男 種族Lv3

職業 サモナー(召喚術師)Lv2

ボーナスポイント残2


セットスキル

杖Lv2 打撃Lv2 蹴りLv2 関節技Lv1

回避Lv1 受けLv2(↑1)召喚魔法Lv3

光魔法Lv2(↑1)風魔法Lv2 土魔法Lv2 水魔法Lv2

錬金術Lv2(↑1)薬師Lv2(↑1)

連携Lv3 鑑定Lv3 識別Lv3 耐寒Lv2 掴みLv2

馬術Lv1 精密操作Lv1


装備 初心者のロッド 綿の服 布の靴 背負袋 アイテムボックス


所持アイテム 剥ぎ取りナイフ


召喚モンスター

ヴォルフ ウルフLv3


残月 ホースLv1 帰還してお休み


ヘリックス ホークLv2(↑1)

 器用値 10

 敏捷値 22(↑1)

 知力値 18

 筋力値 11(↑1)

 生命力 10

 精神力 12

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男のオートは見たくないなぁ というかできるんだな。ふむ…
[気になる点] 誤字報告 〉【食料アイテム】苦悶草の狩人熊スープ煮込み 満腹度+30% 品質C レア度3 重量1  狩人熊の骨でとったスープでを苦悶草を煮た料理。腹持ちが良いのが特徴。←スープで苦悶草…
[一言] >ハンターがハントされてました。 >ロック鳥は一体どれ程の戦力なんだ。 ハンターをハントするなんてロックですね。 あぁ、ロック鳥って、そういう…(違)
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