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 ケンタウロスの一団が近寄ってくる。

 だが全力で駆けてきているようには見えない。

 最初に警戒すべきは弓だ。

 どれ程の射程があるのか?

 まだ間違いなく射程外だろう。


 そう思ってたら矢が残月の足元に届いてきましたよ?


『射程が!』


『遠すぎ!』


 アデルとイリーナは矢を番えてすらいない。

 完全に彼女達の想定外の距離から射ているのだ。

 どんな強弓を使っているんだか。


『固まるな!駆け抜けろ!』


 動かなければ矢の的にされるだけだ。

 機動力に賭けるしかあるまい。

 ヘリックスと黒曜に牽制を指示しておいてオレも残月を駆る。

 弓を相手にするにはどうする?

 ここは生憎と遮蔽物のない平原だ。

 緩やかな傾斜はあるものの、基本的に役に立たない。

 しかもケンタウロス共の方も機動力は高いだろう。

 下半身は馬だし。


 こっちが分散したのを見てケンタウロスも分散して来た。

 見た目では2騎対1騎の構図だが。

 ところがどっこい。

 こっちには召喚モンスター達がいるのだ。


 正面に急速に迫る2騎のケンタウロス。

 既に実行済みの2つの呪文を溜め込んだままこっちも速度を上げていく。

 後ろの奴が矢を番えているのは分かっていた。

 呪文を放つ。

 2つ連続してだ。


「ルート・スネア!」

「ルート・スネア!」


 1つは先頭にいた短槍持ちに。

 もう1つは後方の弓持ちに仕掛けた。

 見事に引っ掛かったのだが。

 弓持ちは転がすのに成功したが、短槍持ちは体勢を立て直しそうである。

 だが時間は稼いだ。

 それで十分。



『アデル!左にターン!転がってる奴を狙え!』


『後ろにまだいますけど?』


『そいつ等はオレが相手をする!』


 アデルがこっちに向かってくる。

 オレはその後方にいる弓持ちに呪文を放つ。


「ウィンド・カッター!」


 直撃。

 ダメージはさほど与えていない。

 だが弓を放つ事が出来ずに矢を落としてしまっていた。

 先ずは良し。


 もう1頭が繰り出す短槍を上半身ごと伏せて避け、至近距離から呪文を放つ。


「パラライズ!」


 魔物の頭上の赤いマーカーに状態異常を示す小さなマーカーが重なった。

 それだけ確認すると弓持ちに迫る。


 次の矢を番えようとする魔物にナインテイルが光を放った。

 残月の速度を緩めて近くに寄る。

 こっちを見ていない。

 赤いマーカーに小さなマーカーが重なっている。



 ケンタウロス Lv.4

 魔物 討伐対象 混乱中



 ほう。

 混乱中、ね。


 馬体を寄せるとロッドを使って魔物の上半身を引き寄せた。

 喉にロッドで押さえながら頭を曲げていく。

 暴れたが気にしない。

 むしろ好都合だ。


 ロッドごと抱えて喉を潰しながら頭を脇の下へ押し込んだ。

 そして捻る。

 首の骨が砕ける音がした。

 HPバーも消滅している。

 これでようやく1頭か。


 さっき麻痺させた奴は?

 そのまま硬直したままだ。

 後方から近寄って右腕で首を極める。

 そのまま左手で押さえながら魔物の首を挫いた。

 顔が上下に逆様になる。

 HPバーも消えていた。


 戦況はどうなってる?


 アデル、健在。

 イリーナ、健在。


 魔物は?

 ケンタウロスで健在なのは1頭だけになっていた。

 その残った1頭も窮地に陥っている。

 槍を振り回しているがまるで効果はない。

 鷹2羽、フクロウ3羽に集られているのだ。

 あれはキツイ。

 両目は抉られ、全身血だるまにされていた。

 無残。

 HPバーがまだ半分ほど残っているのが一層哀れだ。


 滅茶苦茶に振り回す槍先をロッドで抑える。

 ロッドを返して手首を打った。

 脇を突いて肘を打つと、ようやく短槍を落とす。


 残月が尻を魔物に向け、後ろ脚で蹴り上げた。

 腹を直撃。

 魔物は大きく吹き飛ぶと息絶えたようだ。



《只今の戦闘勝利で職業レベルがアップしました!》

《取得が可能な補助スキルに【舞踊】が追加されます》

《只今の戦闘勝利で【木魔法】がレベルアップしました!》



 まあ職業レベルがアップしたりするのはいいんですが。

 補助スキルの【舞踊】ってなんなの?

 まあスルーだな。


「なんとか倒せました。ありがとうございます」


「ダメージは大した事がなくて良かった!」


 そう。

 ダメージを食らっていたのはアデルの乗馬のまーちゃんだけだ。

 そのまーちゃんもきーちゃんに全快させて貰っている。

 ヘリックスと黒曜は最初からイリーナの支援に回していたのだが、なんとか上手くいったようだ。

 彼女も鷹とフクロウを引き連れている。

 4羽による連続攻撃でケンタウロス2頭を翻弄してくれていたに違いない。


 さて。

 ケンタウロスに剥ぎ取りナイフを突き立てた。

 何も剥げない。

 だが別の物を残していた。


 短槍が3つ。

 弓が3張。

 矢筒が3つと矢が数十本。 

 十分な収穫に見えるが、槍の穂先は黒曜石、矢尻はただの骨に見えるのですよ。

 【鑑定】してみようか。



【武器アイテム:槍】黒曜石の槍 品質C- レア度2

 AP+5 M・AP+1 破壊力4 重量3+ 耐久値90

 黒曜石を穂先とした槍。

 切れ味は良くないが、突きによる破壊力は高く侮れない。



【武器アイテム:矢】闘牛骨の矢 品質C- レア度2

 AP3 破壊力1 重量0+ 耐久値30 射程+10%

 闘牛の角を削って矢尻に利用した矢。

 比較的使い勝手は良い。



 ここまではまあ普通のレア度であるし、そう強力な武器に見えない。

 だが問題は弓であった。



【武器アイテム:弓】公孫木の弓+ 品質C+ レア度3

 AP+3 破壊力+1 重量3 耐久値120 射程80+

 必要筋力値25

 公孫木、即ち銀杏の木で作られた弓。

 人馬族が呪霊木とした銀杏の木から削りだしたもので、呪われている。

 [カスタム]

 呪峰蔦の皮で強化されている。装備者激高時に器用値上昇[小]が付与。



 呪われてるみたいですが。

 どうしませう?



《これまでの行動経験で【鑑定】がレベルアップしました!》



 【鑑定】がレベルアップしたけどそれはいいとして。

 オレ、手に持ってるんだけど平気だよな?

 手にした弓を手放すと声を掛けて行く。


「弓は呪われてるみたいだぞ?」


「え?」


「あっぶな!」


「私に異常はあるかな?」


 自分で自分のステータスを確認していく。

 問題はなさそうだが。

 それでも信用してはなるまい。

 2人にも確認してもらおう。


「おっけーです!」


「大丈夫みたいですよ?」


 ふむ。

 レジスト出来ていたとか?

 何にせよこのアイテムは危ないな。


「どうしましょう?」


 イリーナは困惑顔だ。


「燃やしちゃいます?」


 アデルの意見は至極分かり易いものだ。

 こんな危険物は放置していても良い物と思えない。

 それ、いいかも知れない。



「そうだな、燃やしてしまおうか。これはアデルに任せる」


「らじゃ」


 離れた場所に放置されていた弓も【鑑定】してみると呪われた弓だった。

 火魔法の呪文、パイロキネシスで燃やしていく。

 火を吹いて煙を上げていく弓は見る見るうちに崩れていった。

 耐久値は結構高かった筈なのだが脆い。


 もう1つの弓も同じくパイロキネシスで燃やしてしまう。

 これも実に脆い。


 アデルとイリーナの元に戻ると、弓は燃えカスと化していた。

 脆いな。

 脆すぎる。

 ゲームなんだし考えたら負けなのかもしれないが。

 銀杏の木って燃え難いんじゃなかったかな?



 闘牛骨の矢は消耗品として3者で分けるとして、だ。

 黒曜石の槍先だけはオレが引き取る事にした。

 槍先を外した状態で【鑑定】してみたらこんな感じである。



【素材アイテム】黒曜石 品質C+ レア度1 重量1+

 鋭い破断面を持つ黒茶色の鉱物。

 石としては切れ味が良いため石器として用いられる事が多い。



 普段拾っている黒曜石は重量0+なので、若干だが良い品のようではある。

 ま、どうせ加工する事になりそうではあるが。



「じゃあ行くか」


「「はい!」」


 これでこのW3マップで遭遇した魔物は2種である。

 本当にこれだけで済むだろうか?

 もう少し何かが居るような気もする。



 霧の泉の様子は変わっていない。

 ガスクラウドがたくさんいる。

 黄色のマーカーが上空にいくつも見えていた。

 鉄壁の防御。

 まるで要塞である。


「ここがエリアポータルなんですか?」


「不思議!」


「色々といるけど気にしなくていいと思うぞ?」


 近くに寄っていたガスクラウドに触れてみせる。

 何も感触はない。

 ダメージも当然、喰らうこともない。

 まるで霞だ。



 時刻はまだ午前10時を過ぎたばかりであった。

 昼飯には早過ぎる。


「一旦、ログアウトしておくか?」


「まだ平気です」


「休憩しなくてもいけますよー」


 元気だな。

 オレは水を飲んで暫し休息したいのですよ。

 分かって下さい。



「ここってキースさんが開放したんですか?」


「そういう事になるかな」


「霧の泉、ですか」


 泉の縁でアデルが遊んでいるように見えるが。

 ガスクラウドと戯れているらしい。

 元気だな。



「待たせたな。では狩りと行こうか」


「まだ西に行きますか?」


「行って見たい!」


「さすがにマップを超えるのは魔物が危険になる可能性が高いからな。11時になったら引き返して飯だな」


 冒険者というものは、見ていない風景は見たくなるものだ。

 少なくともオレはそうだ。

 彼女達もそうなのだろう。



 西へ向かう。

 ヘリックスと黒曜を含めた猛禽類5羽からなる偵察部隊が広域で魔物の動向を監視しながら進んで行った。

 危なそうな群れは避けていく。

 数の少ない闘牛だけを狩っていった。

 肉は当然、確保している。

 じゅる。


 そんなヘリックス達の視線から逃れている魔物が存在したのが意外であった。

 数こそ少ないが草叢があり、樹木もあるのだ。

 油断と言えなくもない。

 木陰の下にそいつはいた。



 ステップライオン(オス) Lv.6

 魔物 討伐対象 パッシブ



 なんと。

 寝ているように見えるのだ。

 しかも1匹だけ。

 その姿に題をつけるのであれば『怠惰』といった辺りだな。


 狩ってみたくはあったが、アデルが反対した。

 安眠妨害イクナイ!とは彼女の主張である。

 間違いなく本音は違うだろう。


 まああの様子だけを見たら微笑ましいのであるが。

 S1W2マップでトラ相手に苦戦した事が思い出される。

 1匹だからって油断ならない相手と思わねばなるまい。


 それにブッシュに潜む3匹の影も見つかっていた。



 ステップライオン(メス) Lv.2

 魔物 討伐対象 パッシブ



 3匹ともレベルは低めであったが、数頭単位だ。

 襲ってこないうちは無視、という事でスルーである。

 まあいずれ襲ってくる個体もいるだろう。

 最悪、残月達の脚があれば逃げる事も出来る。

 そんな思惑もあった。



 少し召喚モンスター達の陣容を変更する。

 黒曜だけはオレの肩に止まったまま移動する事にした。

 低い位置からの視線もないとカバーしきれない。


 良く見ると周囲の様子が徐々に変化していることが分かる。

 緑が更に少なくなっていたのだ。


 ヘリックスが捉えた魔物の動向で気になる点がある。

 たまに大集団がいるのだ。

 恐らくは50頭単位。

 それは闘牛ではなく、ケンタウロスらしいのだ。

 迂回しながら進んでいるので、直接の脅威になっていないが、遭遇していたらどんな事になるのか。

 想像するだけでも恐ろしい。


 だが脅威はそれだけではなかった。

 空中にもいたのである。



 その魔物は空中を悠然と滑空していた。

 空に位置しているだけに迂回は難しく、オレ達は簡単に捕捉されていたようだ。

 上昇気流に乗って悠然と飛び回ってくれるかと期待したものだが。

 そいつは翼を畳むと一気に高度を下げ、急加速して襲ってきていた。



 死肉喰らい Lv.4

 魔物 討伐対象 アクティブ



 その姿は鳥だ。

 しかも醜い。

 嘴は太く長いんだな。

 オレの頭があった場所を魔物が通過するのを眺めながらそんな事を考えていた。


 呪文は既に選択して実行済みであった。

 すぐには放たない。

 上空に浮くように飛び上がろうとする所を狙った。


「ウィンド・カッター!」


 一瞬、飛翔速度が落ちた所に呪文は直撃した。

 黒曜の追撃は頭部に加えられる。

 上空に位置していたヘリックス達は高度を急速に下げ、まるで急降下爆撃のように魔物の翼を刻んでいった。

 あっという間に地面に墜落した魔物に矢が次々と突き刺さる。


 仕留めたか?

 いや、HPバーはまだ半分以上を残している。

 タフな奴らしい。


 とはいえ空を飛ぶタイプの魔物だ。

 地上に縫いとめておけば楽勝かと思えたのだが。

 嘴が凄い。

 アデルの放った矢が嘴に直撃したら、矢の方が完全に弾かれていた。

 近寄ると首を伸ばして嘴で突こうとしてくる。

 ヘリックス達も後方から牽制しようと襲うのだが、嘴を振り回してきて実に危ういのだ。


『おっまかせー!』


『私達がやります!』


 2人が距離を置いて矢を射掛け続けていく。

 ジリジリとHPバーが減っていった。

 2匹の赤狐からも光の球が飛んでいく。

 オレはどうしたかって?

 呪文で支援だ。

 飛び上がろうとする気配を見せる所で呪文を叩き込んでやる。


「サンダー・アロー!」


 直撃。

 当然ダメージを与えてはいるが、麻痺の追加効果はレジストされたようだ。

 射線を邪魔しないように位置を変えて魔物の動向を観察し続ける。

 飛び上がろうとする度に呪文を叩き込む。

 今度は詠唱が短くて済むフォース・バレットだ。

 まあ牽制ではあるが効果はあった。

 そのまま魔物は飛び上がる事が出来ずに力尽きたようだ。



 死体を観察する。

 見れば見るほど醜い鳥であった。

 そしてデカい。

 翼は黒、首から上に羽はなく、腐った肉のような色の皮膚が露出している。

 嘴は太く真っ直ぐだ。

 拳で叩いてみるが実に硬い。

 期待して剥ぎ取りナイフを突き立てたのだが。

 何も残さなかった。


 【解体】仕事しろ!



「ところで2人は【解体】はあるのかな?」


「ありますよー」


「まだレベル3ですけど」


 おっと。

 まだオレの方がかろうじて上なのか。

 何故か安心するオレがいる。

 そして何も剥げなかった事が恥ずかしいオレがいる。

 無念である。



 時刻は午前11時になろうとしていた。

 霧の泉に戻るとするか。


「では泉に戻ろう。昼飯を終えたら本格的に狩りをしようか」


「はい!」


「了解です」


 馬首を反転させると東へと向かう。

 午後は闘牛狙いで狩りだな。

 大体、昼のW3マップの様子は知れたと思いたい。

主人公 キース

種族 人間 男 種族Lv12

職業 サモナー(召喚術師)Lv12(↑1)

ボーナスポイント残14


セットスキル

杖Lv10 打撃Lv6 蹴りLv7 関節技Lv6 投げ技Lv6

回避Lv7 受けLv6 召喚魔法Lv12 時空魔法Lv5

光魔法Lv6 風魔法Lv7 土魔法Lv6 水魔法Lv6

火魔法Lv6 闇魔法Lv6 氷魔法Lv4 雷魔法Lv4

木魔法Lv5(↑1)塵魔法Lv4 溶魔法Lv4 灼魔法Lv4

錬金術Lv6 薬師Lv5 ガラス工Lv3 木工Lv4

連携Lv9 鑑定Lv9(↑1)識別Lv9 看破Lv3 耐寒Lv5

掴みLv7 馬術Lv7 精密操作Lv9 跳躍Lv4

耐暑Lv4 登攀Lv4 二刀流Lv6 解体Lv4

身体強化Lv4 精神強化Lv5 高速詠唱Lv6


装備 カヤのロッド×1 カヤのトンファー×2 怒りのツルハシ+×2

   白銀の首飾り+ 雪豹の隠し爪×1 疾風虎の隠し爪×2

   雪豹のバグナグ×1

   野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+

   雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2


所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式


称号 老召喚術師の弟子、森守の紋章 中庸を望む者

   呪文目録


召喚モンスター

ヴォルフ グレイウルフLv2

残月 ホースLv7

ヘリックス ホークLv6

黒曜 フクロウLv6

ジーン バットLv6

ジェリコ ウッドゴーレムLv5

護鬼 鬼Lv5

戦鬼 ビーストエイプLv6

リグ スライムLv4

文楽 ウッドパペットLv4

無明 スケルトンLv3

ナインテイル 赤狐Lv2


同行者 アデル&イリーナ

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