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『此度は余計な介入は無い。存分に痛め付けてやるがいい』


『最後は私にやらせて!』


『ならば今すぐに攻撃の手を止めろ!簡単に息の根を止めては面白くない!』


 女魔神がドワーフの魔神に向けて蔑むような視線を飛ばしている。

 楽しんでいた所を邪魔されたのが不満か?

 表情を取り繕う事が出来ない性格であるらしい。



『先に取り戻さねばならん物があろう。そっちが先だ』


『うむ』


『そうだったわね』


 魔神達が一斉にオレに向けて右手を掲げた。

 そして各々の目の前に指輪が浮かぶ。

 魔神の指輪であるのだろう。

 ドワーフの魔神の目の前には見覚えのある杖もあった。

 違った、棍棒だったか。

 魔神の棍棒だ。

 まさか《アイテム・ボックス》から強制的に奪われたのか?

 この場合、元の持ち主から奪ったのはオレになるんだけどさ。



「今のあんたの方が好ましいんだがな」


『そうかね』


「髭があった方が似合うぞ」


『フン!』


 鼻で笑われた。

 ドワーフの魔神はどこか満足気に見える。

 挑発してみたがダメみたいです。

 どうもオレの思惑は外れてしまっているようだ。



『では、次だな』


『強制的に回復させてやろうよ。簡単に死なせては面白くないしさ』


『そうね。それがいいわね』


 そうか。

 嬲る気なんだな?

 嫌な奴等だ!

 やはりオレの趣味に合わないみたいだ。

 そこが筋肉バカの魔神と一線を画している。




「ッ!」


 何本目かの矢が太股に突き刺さる!

 痛みは?

 ある。

 しかも増幅してだ!

 狩人の魔神の放つ矢はオレの防具をも易々と貫いていた。

 嫌な奴!

 眉間に命中させたら一発で殺せるのにそうはしない。

 そしてこいつだけが笑っていない。

 淡々とやってのける所がある意味で素敵だ。

 次の機会があるならばその鉄面皮を剥がしてやろう。

 絶対にだ。


 体の芯にも重たい痛みが残っている。

 こっちはドワーフの魔神が残した置き土産だ。

 鈍痛と表現するのも適当じゃないな。

 体の中に鉛を埋め込まれたかのような感覚。

 体重が倍になっているように、重い。

 そもそもまともに動けない!

 地上をいいように転がされていた。


 女魔神がまたオレの頭を踏み付けてやがるし!

 しかもこれ、ピンヒールか?

 明らかに刺さっている。

 これはもう凶器だ。

 足の甲を踏み抜かれたら貫通しておかしくない。

 真性のマゾなら歓喜するかもだが、生憎オレは違う。

 兜は脱がされているから痛みがダイレクトなんだよ!

 加減しろって!


 オレの両腕はドワーフの魔神に関節を捻られて砕かれてしまっている。

 ここまで痛めつけられていながら死ねない。

 ルーズリーフの魔神が回復しているからだ。

 優しいからじゃない。

 より長くオレを痛めつける為にやっているのだ。

 軽薄な笑顔は挑発そのもの。

 いずれその顔を粉砕してやろう。


 そしてこれだけの目に遭いながらオレは納得していた。

 お互い様だ。

 拷問をする方もまた、拷問される事を受け入れるべきだ。

 オレもそうするよ!

 次があるなら説得に留めておかなくていいよね?



『あ奴が来る事を期待しているようなら無駄だ』


「そうかい」


 筋肉バカの魔神は相変わらずこの連中を追跡しているらしい。

 確かにその期待はあってもいいのかもしれない。

 だが、それではダメなのだ。

 仮に復讐するのであれば、オレ自身の手でやらねばなるまい。


 しかしこれ、いつまで続くんだ?

 強制ログアウトをする手はあるだろう。

 だがそのペナルティは受け入れ難い。

 当面このまま様子見かな?

 痛覚設定は?

 このままでいい。

 痛みを全て、覚えておきたいのだ。

 忘れていたくないのだ。

 それはオレの糧にもなる。

 無駄にするには、惜しいのです。




 それは突然に起きた。

 老人姿の魔神の表情が歪む。

 その胸元に矢が突き刺さっていた!

 狩人姿の魔神が放った物ではない。

 誰だ?

 ルーズリーフの魔神、女魔神にもいつの間にか矢が突き刺さっていた。

 しかも胸元の心臓に直撃している、だと?

 誰だろう。

 プレイヤーかな?



『何だ?』


『奴じゃないぞ!備えよ!』


 ドワーフの魔神が狩人姿の魔神を一喝、盾を構えた。

 その盾を貫通して矢がドワーフの魔神を直撃している!

 アレを貫通だって?

 一体、どんな矢だよ!



『一体、何なの?』


『マズいのが来る!退くぞ!』


『何だと?こいつはどうする』


『放っておけ!』


 魔神達は矢を喰らいながらも平気な様子で会話を続けている。

 老人姿の魔神の周囲に集まると、その姿は陽炎のように揺れ続けていた。

 そして、消える。

 だがオレの体はまともに動かない。

 呪文も武技も使えないままのようだ。

 どうする?


 オレの周囲に迫るのはギリシャ神話の十二神級の面々だ。

 動けるのならこれだけの数を相手にしても手はあるのだが。

 呪文も武技も使えず、動けないとなれば打つ手は無い。

 周囲にはまだ色々と戦力が残っている。

 このままでは嬲り殺しにされて詰むだろう。


 だが。

 それだけの戦力が、いきなり吹き飛ばされた!

 巨大な何かが通り過ぎたようなんだが。

 キングトロール的な何かかな?



 アンタイオス ???

 巨神 戦闘中

 ??? ???


 【識別】が効いてくれたようだ。

 そして別の何かがオレの傍にいるようだ。

 日陰になっているぞ?



 アルゴス ???

 巨神 警戒中

 ??? ???


 目をどうにか転じてこっちも確認出来た。

 あのアポロン神に付き従う巨人達か!

 いや、巨神でした。

 それにアルゴスは小さな姿となって周囲を警戒しているようだ。

 全身に備わる目は全て見開いている。

 どうやら手加減している状態ではないらしい。

 このアルゴスは開いている目が多い程、その力量が高まっている証拠なのだ。



『全く、なんて様なのかしらね?』


『今はそれ所じゃありませんぞ?』


『分かっているわよ!』


 僅かに怒りを含んだ呆れた声の主は誰だ?

 聞き覚えがあるような、無いような。

 誰でしたっけ?



 アルテミス ???

 ??? ??? ???

 ???



 アルセイド ???

 森精 警戒中 ???

 ???


 引き連れているのは女狩人達だ。

 森精?

 美人さんだらけだが、それ以上に勇ましいな!

 スクリーンショットにして保存しておこう。

 軽装なので色々とはみ出てますよ?

 脇の辺りとか。

 太股辺りなんてもう堪らない!

 見えそうで見えない。

 でもそれがいいのだ。



「こんな様ですが、ども」


『退却するなら分かるけど、敵中に飛び込むなんて!』


「ちょっと失敗でしたね」


 でもね。

 楽しめたらそれでいいのだ。

 戦わずに退却する事を思えば今の状況の方がより好ましい。



『介抱はしませんので?』


『そこまで私は優しくないわよ』


『しかし恩義もありましょう』


 アルゴスが何を指して恩義と言ったのだろう?

 何かあったような気がしたけど。



『わ、分かったわよ!』


「済みません」


 オレとしては恐縮するしか無い。

 両腕を各々、アルセイドに抱えられた。

 惜しいな。

 腕カバーさえ無ければ絶妙の感触を味わえただろうに。

 魔神め!

 兜を外したついでに他の装備も外しとけよ!

 痛め付けられた事よりも大きな怒りが生じた。


 これは許せない。

 絶対にだ!




《只今の戦闘で【身体強化】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘で【精神強化】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘で【全耐性】がレベルアップしました!》

《取得が可能な補助スキルに【保護】が追加されます》


『動ける?』


「ええ。どうにか」


 呪文は?

 使えるようになっていた。

 武技はまだ試してないが、恐らく使えるだろう。

 そして周囲に獲物は殆ど残っていなかった。


 アンタイオスが文字通り蹂躙したのだろう。

 周囲は酷い有様になっていた。



『あのバカ兄貴!余計な事を!』


 アルテミス神は黙っていたら凜々しくも美しい女神様だ。

 但しその美しい唇が紡ぎ出す言葉は粗暴で残念な事になってしまう。

 そんな女神様だがオレの評価は急上昇です。

 癒してくれたのだから当然だ。

 その際、胸元を大いに凝視してしまったのは許して欲しい。

 懺悔したい。

 でもスクリーンショットの破棄は断る。


 そんな女神様は無造作に矢を番え、すかさず放つ!

 どこまでも自然でゆっくりと見えたが凄まじい早業だ!

 武術でもそうだが、無駄を削いだ所作は美しくなる。

 オレは弓矢は使わないが、これが尋常じゃないって事だけは分かった。



『この場を確保!2名は私に続け!』


 アルテミス神の指示でアルセイド達が動く。

 皆さん実に勇ましいですね。

 オレも戦闘に参加しようと思ったんだが、出来ない。

 両腕をアルセイドに抱えられたままなのだ。

 力があるように見えない。

 振り払おうと思えば出来るのだろうが、そんな乱暴狼藉は出来ないだろう。



「あの、外してくれます?」


 答えは無かった。

 その代わりに無言で極上の笑顔で返された!

 いかん。

 これでは身動きが出来ないではないか! 





 アポロン ???

 ??? ??? ???

 ???


 ムーサ ???

 女神 ??? ???

 ???



 アルテミス神にとってのバカ兄貴だ。

 アポロン神か。

 今日は以前に見た姿とかなり違う。

 軽装ではあるものの弓矢を使うらしい。

 武装してます。


 周囲に付き従うのは戦場に似合わない女神様達だ。

 アポロン神が侍らせているのだとは思うが、実は立場が逆なのかも?

 弟を放っておけないお姉様達って感じがする。

 何故だろうね?

 アポロン神の方が間違いなく格上なのに。



『無事のようだね』


「ども」


 アポロン神が凜々しいと思えたのは一瞬だった。

 弓と矢筒をアルゴスに放り投げると両脇にいたムーサの腰に手が自然と伸びている。

 死ねばいいのに。



『痛い!』


 そんなバカ兄貴の後頭部を無言のフルスイングで叩くアルテミス神。

 ボケとツッコミかな、これ?



『余計な真似をするな!』


『いいじゃないか!これが無いと死んじゃう!』


『そうじゃない!アレよ、アレ!』


 アルテミス神が指差す先にはアンタイオス。

 その両手には何かが握られていた。

 何だろう?


 遠目で判別し難かったが、それはアポロンの縛霊身とアルテミスの縛霊身だった。

 姿形は似ている。

 そのままと言ってもいい。

 だがこうして見比べると格の差は隔絶しているようです。



『私の獲物なのに!邪魔するな!』


『それ、聞いてないけど?』


『そこは察して!』


『えー』


 ダメだ。

 素でコントになりかねない。

 いや、これはこれで仲良しの兄妹なのだろう。

 喧嘩が絶えそうにないし、周囲は迷惑なんだろうけどね。





《これまでの行動経験で【錬金術】がレベルアップしました!》



 周囲の戦場跡は完全に修復されていた。

 いや、全面的に森と化していた。

 アルテミス神とアルセイド達の仕業だ。

 木魔法の呪文、ジャングルは一時的に森を生成する。

 だがこの森は一時的なものじゃない。

 アンタイオスもアルゴス達もその巨躯を縮めている。

 森を破壊しないよう遠慮しているのだろう。


 オレ自身は装備の修復を終えました。

 召喚モンスター達の分も全部だ。

 その合間にスキルの【保護】も追加しておく。

 必要なボーナスポイントは1で実に軽い。

 いや、取得出来るようになるのが遅くないか?

 今更だな。

 しかも成長する機会はアイテム狙いで襲われないといけないのだ!


 それでもいい。

 ある意味、お布施みたいな気持ちになってます。



『どう?』


『ダメね。追跡出来たけど既に破壊されているわ』


『連中の拠点はまだ他にもあるよ』


『全部、潰してやるわ!』


 アルテミス神の声には剣呑過ぎる凄みが加わっていた。

 きっとやるんだろうな。

 そしてアルテミスの縛霊身が消える。

 額を鷲掴みにされ、先刻まで痙攣していたのだ。

 自分と同じ姿を相手によくそこまで酷い事が出来るよね?

 オレならきっと躊躇する事だろう。

 そうでなければ対等な立場で対戦しちゃうと思います。



『残滓から追えるかもしれないわ。行くわよ!』


『了解。じゃあ戻ろっかな?』


 後ろ!

 後えおが大変ですよ?

 アポロン神は我関せずのスタンスだったようだが。

 アルテミス神はそうじゃなかったようです。

 反転したアポロン神に向けるアルテミス神の目付きは尋常じゃない。

 殺されちゃいますよ?



『一緒に、来い』


『え?』


『何度も言わせないで!一緒に来るのよ!』


『頼む口調じゃないなあ』


 面白そうなコントになりそうだけど、聞き込みが要る。

 この場合はアルゴスがいい。

 まともに会話が通じるからな。

 事情は知っておいた方がいいだろう。





「不逞な輩、ですか」


『うむ。神々の力のみを写し取っておるのは許せんという事だな』


 2柱の巨神、アルゴスの説明は簡潔で分かり易かった。

 要するに気に入らないって事だ。

 その気持ちは分かる。


 但し気に入らない理由は兄妹でかなり違っている模様。

 アポロン神は同じ容姿であるのに真面目なのがダメであるらしい。

 アルテミス神はそもそも神の姿を写し取っているのが不敬であると断じている。

 他の十二神級にしても同様らしい。


 だが。

 アポロン神はかなり微妙な立場であるらしい。

 出来れば引き篭もっていたいというのだから困った神様だ。

 以前にもアポロンの化身を相手にアルテミス神が行った呵責は苛烈を極めたそうだが。

 それでも外に出る事は全力で拒否していた。

 それが今回は不承不承でありながらも出て来ている。

 色んな意味で危険な兆候なのかもしれない。



『アルゴス!アンタイオス!移動するわよ!』


 アルゴスもアンタイオスもアポロン神の配下の筈。

 それがもう唯々諾々とアルテミス神に従っているのも面白い。

 不平不満は無いようだし、これでいいのだろう。

 アポロン神が不憫だけど。



『今後は注意するようにねー』


『これに懲りたら無茶しない事!』


「善処します」


 オレとしてはそう答えるしかない。

 でもね。

 今日と同じ状況に陥ったら、どうする?

 きっと同じ事をしでかすだろう。

 断言してもいい。



「魔神の拠点に行くようですが」


『ええ、そうよ』


「同行出来ますか?」


『無理ね。貴方は人間、そうである以上は生きていられないわ』


 そうか。

 それは残念だが。

 逆に言えば人間じゃなければ行けるって事でいいの?



「代理で召喚モンスターを連れて行くのもダメでしょうか?」


『存在が打ち消されてしまうのでな』


『我等のような者でなければ魔神の加護が要る。諦めるがいい』


 召喚モンスターでもダメみたいだ。

 いや、ここで諦めていいのか?

 良くない。

 全然、良くないぞ!


 うん?

 ちょっと待て。

 魔神の加護、だって?

 もしかしてアレを使えるのではないかな?

 《アイテム・ボックス》の中に残されていた唯一の魔神の指輪があった。

 あの筋肉バカの魔神から預かっている代物だ!



『それは!』


『魔神より奪ったのか?』


「これは預かり物でして」


 そう。

 奪った分もあったけど奪い返されてしまっている。

 今、手元にあるのはこれだけだ。


 だがこれのみが今のオレにとっては希望の星だ。

 これがあれば同行出来るのかな?



『同行させてもいいけど、私は面倒見ないから!』


「結構です」


 アルテミス神の言い分も分かる。

 これはどこまでもオレの我儘であるのだ。

 でもね。

 こればかりは自分の目で確かめたい。


 魔神がどんな場所に拠点を設けているのか?

 純粋に興味があります。






『平気か?』


「ええ、どうにか」


 アルゴスにはそう答えたけど、実際は全く異なる。

 平気な訳が無かった。

 高山病になった事は無いけど、きっとこんな感じであるのかも知れない。

 そうで無ければ酷い船酔いかな?

 頭がクラクラしてしまう。

 思考を維持するのも難儀だよ!

 その上に空気が薄い。

 そして体も重たい。

 だがこれはオレが望んだ事なのだ。

 耐えてみせよう。


 周囲の風景は?

 荒涼とした砂漠だ。

 天空は星空。

 でも星の瞬きは皆無。

 真空であれば星が瞬かないのが当然だ。

 まさかと思うが、ここって真空に近いのかね?

 会話が出来ているのだから多少は空気があると考えるべきだが。

 魔神の指輪が影響している可能性もある。


 それにしてもここって何なの?

 広域マップには何も表示が無い。

 謎だ。

 アポロン神はこの場所が気に入らないようで、顔を顰めている。

 アルテミス神は厳しい表情のままだ。

 周囲にいるアルセイド達は全員、目を閉じて瞑想している。

 ムーサ達も同様だ。

 アンタイオスとアルゴス達も警戒を解かず、いつでも戦える様子です。


 負けてなるか!

 オレだって少しでも魔神の情報に触れておきたい。



『どうやら、下ね』


『面倒だなあ』


『いいから、やって!』


『強引に暴くのは趣味じゃない』


 アポロン神は嫌そうな様子を見せているが。

 妹の表情を見て、考えを変えたみたいです。

 オレからはアルテミス神の顔は見えなかった。

 どんな表情だったのか?

 きっと般若のようであったのだろう。

 そそくさと距離を置くと、跪いて地面に手を置いた。


 次の瞬間。

 強烈な砂嵐だ!

 だがアンタイオスとアルゴス達が壁となってくれていた。

 アポロン神の姿は砂嵐の中に消えているけど、他の面々に砂は飛んで来ない。


 そして砂嵐はすぐに止んだ。

 風景は一変、どこかで見たような?

 u4マップに近い。

 地面が鏡面ではなく、どこまでも透き通っている所が異なる。


 その足下にあるのは一体何だ?

 城があった。

 但しボロボロ、破壊され尽くされたかのように見える。

 かろうじて塔が1つ、無傷で残っていた。

 城壁は半分程が崩落しているようだ。



『全く!これだから嫌だったのに!』


 アポロン神は砂埃にまみれていた。

 成程ね。

 これじゃ嫌がるのも当然だ。



『魔力の残滓は私が追うから』


『そうして欲しいねえ』


 アポロン神はその場に座り込む。

 ムーサ達が面倒を見ているから大丈夫だろう。

 問題はここから魔神達を追えるのかどうかだ。

 そしてその先にあるのは?

 復讐だ。

 色々と解消しておかないと気が済まない。

 復讐の連鎖?

 だからどうした!




『どうだった?』


『ダメみたいね』


『彼等に聞いてみようか?』


『それは私が嫌!』


 彼等って何だ?

 視線をアルゴス達に向けるが、顔を横に振るのみだ。

 ここで聞くのはどうやらマズいらしい。



『次の機会を待とう。その方が楽でいい』


『もう!面倒!』


 ところで。

 ここって何だ?

 魔神達が拠点にしていたって事は?

 思い付く言葉ならあった。



「ここはもしかして、辺獄?」


『答えは否だ』


『辺獄へと通じる途上ではあるが、辺獄ではない』


「では、どこです?」


 アルゴス達は黙り込んでしまった。

 体中にある多数の目はどれも閉じてしまう。

 アンタイオスは?

 ダメだな。

 そもそもこいつは喋ってくれません!



『気にしなくていいさ』


『ここは彷徨える者達にとっての拠り所といった所。そのうちの1つよ』


『辺獄にも通じる道でもあるけどそれだけじゃない』


『涅槃と言ってもいいかしら?』


『彼岸とか言わなかったか?いや、解脱だったっけ』


『もう!何だか色々と混乱しちゃうじゃない!』


 何だろう。

 オレまで混乱してしまいそうです。

 確かなのはもうここに留まっていても何も進みそうにないって事だ。

 ここにまた来る意味はあるのかな?

 そもそもテレポートで跳べるような場所に思えない。

 エリアポータルじゃないのだし。

 ここは撤退すべきだろう。




 テレポートで召魔の森に到着。

 但しアルゴスが1柱、同行してます。

 何で?

 対戦したいとの有り難い申し出があったからだ。

 無論、アポロン神が引き篭もっていたN6u1マップの太陽の牢獄でも良かったんだが。

 他のプレイヤーの目もあるからこっちでやる事にしました。


 これ以上の賓客があるだろうか?

 応接室でお茶を出すようなお客様じゃないけどな。

 通す場所は闘技場です。



『中々、大きいな』


「元の大きさでも戦えそうですか」


『無論だ。アンタイオスでも戦えるであろうな』


 闘技場は空いていた。

 そしてポータルガードの面々もオーロとプラータを除いて狩りに出ている。

 ちょっと寂しいけど、対戦に集中出来そうだ。



「有り難い申し出ですが、何かあるんですか?」


『無論、ある。だがそれは後にするとしよう』


 僅かにアルゴスの雰囲気に変化がある。

 その肉体に宿る魔力が徐々に高まっていた。

 全身に備わる目が一斉にオレを見る。

 さて。

 オレの得物は?

 当然だけど無しです。

 格闘戦をする以外の選択肢など無い。

 相手は神様、化身でも影でもない。

 勝てないのだとしても、可能な限り挑むべきであるのだ。






《只今の戦闘で【打撃】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘で【蹴り】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘で【関節技】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘で【投げ技】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘で【回避】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘で【受け】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘で【掴み】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘で【気配察知】がレベルアップしました!》


 アルゴスは全身に目がある。

 常に半分が見開いて全方位を監視するようになっているそうだが。

 今や8割を超える数の瞳が見開かれていた。

 全ての目を見開く時が全力であるらしいが、そんな機会は稀であるそうな。


 8割、それに小さくなっていてこの強さ!

 奥が深い。

 それでいて勝てなくても悔しさは無かった。

 そこが不思議だ。


 想定、筋肉バカの魔神として戦ってみたんだが微妙に違ってしまうのは仕方ない。

 何よりも雰囲気が全く異なる。

 狂気が無い。

 それだけでオレの方もどこか遠慮してしまっているのが分かる。

 畏敬の念?

 それもちょっと違う。

 使ってはいけない技を使っていない、それだけなのだ。


 そしてポータルガードの面々が戻って来た。

 アルゴスの視線の先には酒船。

 大型化したアンタイオスを知っているから分かるが、まだまだ鍛えなきゃダメだな!



『汝の召喚モンスターであるな?』


「ええ」


『ならばあれが良かろう』


 アルゴスはそう告げると一気に大型化、酒船にゆっくりと近寄って行く。

 その酒船の様子は?

 やはり格の差は感じ取れるものであるらしい。

 大型化してもアルゴスの体格は酒船よりも僅かに小さい。

 なのにその場で跪くと控える姿勢をとった。

 他の召喚モンスター達もおとなしいものだ。

 パティオだけが無邪気にアルゴスの周囲を飛び回っている!

 失礼な事はしないでくれよ?



『汝がここにいる限り、汝の目を通して我もここを見る事になるであろう』


 アルゴスはそう言うと、右手を酒船に向けて掲げた。

 その掌にも大きく見開かれた目がある。

 瞳の色は虹色。

 それはゆっくりと閉じて行く。


 酒船の目に変化がある。

 その瞳は漆黒だったのが、右の瞳だけが虹色にと変じて行く。

 そう、アルゴスの瞳のようにだ。



『ここが襲われるとは思えんが、念の為だ』


「何だか色々と申し訳ありません」


『よい。それに好意があっての事でもない』


 恐らく気付いているのだろう。

 魔神達がオレを狙っている。

 ならば監視を付けるのは当然だな。

 本当はアルゴス自身がここにいてくれたら面白いんだが。

 それだと毎日のようにアルゴスを相手に格闘戦が出来る!

 そうなったらオレも本格的に召魔の森に篭もってしまうかもしれない。



『そして汝にもだ』


「え?」


 アルゴスの左手がオレに向けて掲げられている。

 えっと。

 確かにそれも効果的なんだろうけど。

 向けられた瞳に射抜かれたらちょっと怖いです。

 酒船も同じような思いをしたんだろうか?



《称号【百眼巨神の瞳】を得ました!》


 おや?

 称号が増えてしまった。

 もしかして、オレの瞳の色も変わっていますか?

 ここには鏡が無いから確認は出来ないけど。

 後でシンクロセンスでも使って確認しておこう。

主人公 キース


種族 人間 男 種族Lv185

職業 サモンメンターLv74(召喚魔法導師)

ボーナスポイント残 12


セットスキル

小剣Lv149 剣Lv149 両手剣Lv147 両手槍Lv150

馬上槍Lv153 棍棒Lv150 重棍Lv148 小刀Lv149

刀Lv148 大刀Lv149 手斧Lv148 両手斧Lv148

刺突剣Lv150 捕縄術Lv152 投槍Lv149

ポールウェポンLv149

杖Lv167 打撃Lv175(↑1)蹴りLv175(↑1)

関節技Lv175(↑1)投げ技Lv175(↑1)

回避Lv184(↑1)受けLv184(↑1)

召喚魔法Lv185 時空魔法Lv170 封印術Lv169

光魔法Lv168 風魔法Lv168 土魔法Lv168

水魔法Lv168 火魔法Lv168 闇魔法Lv168

氷魔法Lv167 雷魔法Lv168 木魔法Lv168 

塵魔法Lv168 溶魔法Lv168 灼魔法Lv167

英霊召喚Lv6 禁呪Lv169

錬金術Lv156(↑1)薬師Lv43 ガラス工Lv45

木工Lv80 連携Lv160 鑑定Lv135 識別Lv151

看破Lv122 保護Lv1(New!)耐寒Lv110

掴みLv163(↑1)馬術Lv158 精密操作Lv162

ロープワークLv100e 跳躍Lv162 軽業Lv164

耐暑Lv80e 登攀Lv60e 平衡Lv161

二刀流Lv155 解体Lv134 水泳Lv113 潜水Lv113

投擲Lv161

ダッシュLv160 耐久走Lv160 追跡Lv151

隠蔽Lv140 気配察知Lv159(↑1)気配遮断Lv155

魔力察知Lv159 魔力遮断Lv120e 暗殺術Lv160

身体強化Lv160(↑1)精神強化Lv160(↑1)高速詠唱Lv50e

無音詠唱Lv60e 詠唱破棄Lv60e 武技強化Lv159

魔法効果拡大Lv157 魔法範囲拡大Lv157

呪文融合Lv157

耐石化Lv80e 耐睡眠Lv80e 耐麻痺Lv80e 耐混乱Lv80e

耐暗闇Lv80e 耐気絶Lv80e 耐魅了Lv80e 耐毒Lv80e

耐沈黙Lv80e 耐即死Lv80e 全耐性Lv101(↑1)

限界突破Lv47 獣魔化Lv76


称号

老召喚術師の後継者 老死霊術師の誓約

森守の紋章 中庸を呼ぶ者 王家の剣指南者

海魔討伐者 鍾乳洞踏破の証 墓守の紋章

魔神討伐者 氷雪竜討伐者 巨人王の謎掛け

巨神掃滅者 ドラゴンテイマー

スライムメンター 聖獣の守護者

金紅竜の盟約 翡翠竜の誓約 柘榴竜の誓約

蒼玉竜の誓約 白金竜の誓約 黒曜竜の誓約

翠玉竜の誓約 水晶竜の誓約 百眼巨神の瞳(New!)

琥珀竜の約定 雲母竜の約定

瑠璃光の守護者 除蓋障院への通行証

冥界門の通行証 天界の破壊者

魔導帝 拳神 ハイパーウェポン

一騎当千 耐え忍びし者


召魔の森 ポータルガード

ジェリコ、リグ、クーチュリエ、獅子吼、ロジット

守屋、スーラジ、久重、テフラ、岩鉄、虎斑、蝶丸

網代、スパーク、クラック、オーロ、プラータ

ムレータ、酒船、コールサック、シュカブラ、シルフラ

葛切、スコヴィル、デミタス、白磁、マラカイト

パティオ、十六夜、貴船


睡蓮洞 ポータルガード

セノーテ、呼子、明石


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― 新着の感想 ―
死に戻りは無しか アルテミスは予想外でしたw
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