100
100回記念増量中
夕飯の時間も迫っていたので残月は帰還させて文楽を召喚した。
オレの分の料理を準備させておく。
本当はヴォルフも帰還させようかと思っていたのだが、アデルがまだ愛でていやがる。
イリーナはそんなアデルを放置してミオの料理を手伝い始めていた。
どうにかしてよ!
夜も迫っているのでヘリックスだけでも帰還させる。
召喚するのはコウモリのジーンだ。
夜の狩りを前提にした陣容にしよう。
想定している魔物はフロートアイ、スケルトンラプター、ホーンテッドミスト、それにホーリーレイスだ。
ブラウンベアもいるかも知れない。
MPバーの残量も7割ほどあるし十分だろう。
「あら、いらっしゃいキース」
フィーナさんは狩りから戻ったとは思えないほど元気であった。
あまり戦闘はしなかったのかな?
後方にはランバージャックの与作もいる。
目礼に目礼で返す。
彼だけではなく、歴戦を思わせるプレイヤーが揃っているみたいだ。
「サキ、話は出来たの?」
「彼もさっき着いた所。概略だけしか話は出来てないわね」
「おおまかな話は聞いてますよ」
オレの対面にある椅子に座ると他のメンバーも思い思いの場所に座り込んだ。
オレの隣にはレイナが座る。
「よっ!お久しぶり!」
「ども」
「積もる話はあるでしょうけど、キースの方の事情を優先よ?レイナ」
「わーかってるって」
なんだろうな。
まあ何かのお願いがあるのは間違えようがない。
木魔法の呪文、グロウ・プラントの件だけじゃないと思われる。
「では買い取りはお願いできますか?」
「勿論」
オレは売り払う予定のアイテムを次々と取り出していく。
大量の雪猿の骨に皮、それに黒色熊の毛皮に掌。
雪豹の皮が少しだけ。
「これはまた大量にあるのね」
サキさんは無言で皮の数々を見定め始めている。
レザーワーカーなんだし仕方がないか。
「それでこっちが相談したい物になりますね」
机上の端に分けて置いていくのはコボルト達から剥いだ実だ。
梅の実を始め、渋柿の実、桃の実、栗の実、杏の実、綿の実、椿の実、トチの実がある。
「梅の実は掲示板情報で見たけど、他のは見ない代物ね」
「フィーナ、これってやっぱり?」
「植えて育てろって事でしょうね」
そうだよな。
多分、そういう事なのだろう。
でも収穫まで数年単位はかかるような代物を呪文でどうにかできるのかね?
限度ってものがあるだろうし。
「キースはグロウ・プラントは使ったことはある?」
「いえ、ないですね」
サキさんが大きく溜息をつくのが分かる。
確かに木魔法を覚えたのは早かったですが。
他の呪文は結構使っている自信があります。
「グロウ・プラントは植物等を強制的に成長させる呪文なのは知ってるわよね?」
サキさんの解説によると、無制限に成長できる呪文ではないそうである。
1週間単位なのだ。
例えばオレの木魔法技能のレベルは4である。
この場合だと1日に1回、同一対象を4週間分成長させる事ができる。
飽くまでも1日に1回だけなのだ。
だが重ね掛けは出来るそうなのだ。
現在、サキさんは木魔法技能のレベルは3なのだが。
オレが既に4週間分成長させた植物を同一日にサキさんが3週間分を成長させる事ができる。
つまり木魔法技能を持つプレイヤーが多ければ多いほど、成長を大きく促進できる訳だ。
それは凄い。
いや、それは酷い。
急生育させたりして、問題あるんじゃないの?
「ねえフィーナ、とりあえずやってみなきゃ分からないんだし、種を取り出して植えてみる?」
「キースが良ければ、なんだけど?」
「私はいいですよ」
「本当に?良かった、これで木魔法を使えるプレイヤーが4人になるわ」
「サキ。明日にはもう2人来るんだし、強制はダメ」
「分かってる。だからお願いって事」
お願いになってねえ。
まあ協力はするんですが。
「協力ならしますけど」
「何もボランティアをやらせるつもりはないから安心して。色々と調整して素材もアイテムも融通するわよ?」
ほう。
文句ありませんぜ。
「そうですね。端材でもいいですから木材が欲しいです。あとは弓があれば」
「並べてあるのは全部私が作った弓だから!見繕って持っていっていいわ!」
「いえ、寧ろ作り方を教えて欲しいですね。木工なら持ってます」
「あらそう?じゃあレイナ、木材置き場にキースを連れて行ってあげて面倒を見てくれる?」
「らじゃ」
ラッキー。
結果的に物々交換って事になるのだろう。
オレも木工があるから弓だって作れなくはないのだろうが、なんにせよ経験がない。
教えて貰えるなら好都合だ。
夕飯が出来上がってきていた。
文楽が作り上げたのは雷山羊の腿肉で作り上げたミートボールだ。
旨い。
けど量がちょっと多いな。
フィーナさん達の夕食と互いに分け合って片付ける。
デザートとして桃が振舞われた。
種は当然植える事になるのだろう。
うむ。
満足である。
ところでアデルよ、いつまでヴォルフに抱きついているんだ?
食事しながら、というかヴォルフに餌付けまでしてやがる。
ほどほどにしておけよ?
夕食を終えた所でプレイヤー達が各々動き出す。
ある者は適当な場所でテント設営を始めている。
ログアウトするのだろう。
入れ替わりでテントから這い出てくる者もいる。
オレはと言えば、これまでの経過を聞かれる立場になった。
まあラムダくんの話は割愛しておく。
やはり話題はイベント関係の話になった。
マップの境界を越えて魔物が現れている件だ。
N1W1マップの魔物だけでなく、その隣のN1W2マップの魔物も越境してきている。
他のマップでもいくつか動きがあるらしい。
だがレムトの町の冒険者ギルドではまだ情報が行き届いていない様子なのである。
プレイヤーの情報網が異常に速いからタイムラグが起きているようだ。
そう遠からず、冒険者ギルドも動き出すかもしれない。
「じゃあ資材置き場を案内するね!」
レイナがそう言うと立ち上がってオレを促す。
立ち去り際にフィーナさんが声を掛けてきた。
「あ、忘れる所だったけどキースにもう1つお願いがあったわ」
「なんでしょう?」
「召喚魔法、それに時空魔法なんだけど、新しい呪文を取得しているようなら掲示板に報告しておいてくれない?」
「まあそれはいいですが」
うん。
その実、掲示板の雰囲気は馴染めないんだよな。
何かあったのかな?
「呪文リストを作成してるプレイヤーから問い合わせが私の所に毎日来てるのよ。困ったものだわ」
なんじゃそれは。
オレに直接言いに来いや!
まあオレの所在が分からないから伝手を辿ってフィーナさんの所に来ているのだろうけどさ。
迷惑はいけませんな。
「それはお手数をお掛けしまして」
「いいのよ」
手をヒラヒラと振って見せながらフィーナさんが言う。
気にならないのかね?
やりたい事が目の前に満載になっていると気にならない経験はオレにもあるけどね。
すぐにサキさんと何やら話し込んでしまった。
ヴォルフはまだアデルに捕まったままだ。
体をナデナデされて気持ち良さそうに目を細めている。
陥落したか。
もういい、放っておこう。
「ここが資材置き場!廃材もあったりするけど何を使ってもいいって事になってるの!」
「なんか立派な木材もあるみたいですが」
「樵さん曰く、枝打ちの廃材と試しに切り倒した木材だって聞いてるよ!」
与作だな?
試したっていうが結構太い原木なんですけど。
まあそれはスルーするとして。
製材後の端材で2mちょっとの長さの木材を見つけた。
カヤだ。
これなら槍に使えそうだ。
他にも小さなカヤの端材を見繕っておく。
隠し爪を作るためだ。
「ニレの木でいいかな?」
「十分です」
「道具はある?」
「勿論」
「おっけ。じゃあ一緒に作ってみよう!」
「簡単なんですか?」
「竹弓だと大変みたいだけど?でも木材で弓を作る方は簡単!時間がかかるだけ!」
すぐに使えないのか。
だめじゃん。
いや、急ぐまい。
文楽と護鬼が同時に弓で戦うようにしなければいいだけなのだし。
先ずは弓作成を教わることに集中しよう。
「出来た!」
【武器アイテム:弓】ニレの弓 品質C+ レア度3
AP±0 破壊力±0 重量1 耐久値110 射程45
ニレの木で作られた弓。
サイズは標準的なもので取り扱いは比較的容易である。
[カスタム]
木皮と樹脂で強化し耐久値が向上している。
※養生中
レイナが作り上げた弓は有り合わせとは思えない出来だった。
因みに作業場はフィーナさん達が話しこんでいる机の隣と言うフリーダムな環境だ。
レイナはよく集中できるよな。
作業中にも会話に混じっていてこれだよ。
で、オレが作成したものはこうなった。
【武器アイテム:弓】ニレの弓 品質C レア度3
AP±0 破壊力±0 重量1 耐久値100 射程40
ニレの木で作られた弓。
サイズは標準的なもので取り扱いは比較的容易である。
[カスタム]
木皮と樹脂で強化し耐久値が向上している。
※養生中
負けた。
相手は本職なんだし仕方がないんですが。
それに殆どメイキング技能頼みだったしな。
「おお!初めてにしては上出来!」
「そうなんですか?」
「でも使うならこれがいいかな?」
そう言うと机の上にあった弓を手渡してくれた。
【武器アイテム:弓】イチイの弓 品質B- レア度3
AP±0 破壊力±0 重量1 耐久値130 射程55
イチイの木で作られた弓。
サイズは標準的なもので取り扱いは比較的容易である。
[カスタム]
木皮と樹脂で強化し耐久値が向上している。
やっぱ凄いな。
オレも椅子作成なら木工を活かせそうなんですが。
おっと。
もう1つ作っておこう。
カヤ製の長い木材を円柱状の棒に加工していく。
先端を組加工にして雷山羊の角を嵌める。
反対側の端に黒曜石を嵌める。
膠で固定、その上に黒曜石を溶魔法の呪文、シェイプ・チェンジで変形させて固定金具の代用にする。
さて、これでどうなるかな?
【武器アイテム:槍】雷山羊の槍 品質C+ レア度4
AP+10 M・AP+3 破壊力3 重量3+ 耐久値120
麻痺発生[微] 雷属性
雷山羊の角を穂先とした突く事に特化した槍。
刃がなく斬る事はできない。僅かだが魔法発動の助けにもなる。
短槍サイズで比較的軽くて扱いやすい。
雷属性を備えており、僅かな確率だが突いた相手を麻痺させる。
ほう。
いいんじゃないの?
「どうでしょう?」
「何これ、凄い!」
レイナさんが驚きの声を上げる。
「私は槍使いじゃないですから。どなたかに譲りますよ」
「さすがにお代なしじゃダメ!職人なら成果に見合う報酬があって当然!」
おっと。
叱られちゃいましたか。
いや、オレってば職人じゃないし。
サモナーなんですけど。
「むう、普通に欲しい!」
早速だがミオに目を付けられた。
つか手に持ってる串焼きはどうにかしてからにしろ!
「ミオ、欲しいの?」
「勿論よ!」
「了解。ねえキース、支払いは私がするけどいい?」
フィーナさんがサキさんとの会話を中断してオレに金額を提示してくる。
なんか凄い金額なんですけど。
即決しました。
おっと。
木工作業に時間をかけ過ぎている。
隠し爪も作りたかったが、後回しにするしかない。
古代石もあったんだけどな。
やる事が多いと困ってしまう。
「アデル、そろそろヴォルフを解放してくれないかな?」
「や!」
「アデルちゃん、そろそろ止めようって」
イリーナが静止するのだが、言う事を聞きそうにない。
「どうせなら一緒に行く!」
「ええ?」
イリーナを困らせるんじゃありません。
だが待てよ。
アデルとイリーナ達が加われば、大量のホーンテッドミストと戦うのも楽に済む。
それは間違いないだろう。
「一緒に行くのはいいが時間はいいのか?」
「行く!」
「アデルちゃん、あと2時間が限度だよ?」
「それでも行く!」
駄々っ子は強いな。
イリーナも諦めたようだ。
W2マップで夜の狩りをするのは2回目か。
前回は結構、酷い目に遭っている。
だが対策は分かっているから、その分は楽でいい。
しかも戦力は充実している。
オレの陣容はホーンテッドミストの群れへの対策を優先した陣容だ。
狼のヴォルフ、フクロウの黒曜、コウモリのジーン、そして戦鬼になる。
アデルの陣容は実に分かり易い。
狼が2匹にフクロウだ。
イリーナの陣容は虎、狼、コウモリとなっている。
機動力と打撃力を考えたらバランスはいいだろう。
とは言っても無茶は良くない。
狩りの時間も限られている。
最初は村の近くで狩りを進めるべきだな。
アデルもイリーナも種族レベルは7、召喚魔法レベルも7まで成長している。
聞けば2人とも魔法技能はあまり増やしてないみたいだ。
アデルが追加した魔法技能は闇魔法。
前から持っていたのが光魔法と火魔法で、火魔法のレベルは6になっているそうだ。
イリーナが追加した魔法技能は光魔法。
闇魔法と土魔法と3種となっていた。
土魔法のレベルは6になっている。
両者の狙いは明白だ。
時空魔法の取得を狙っている。
まあ便利だし、取りに行くのはオレも推奨である。
最初の獲物はフロートアイが2匹。
だがオレの出番はなかった。
フクロウ2匹、コウモリ2匹に空中から地上に落とされた魔物に肉食哺乳類5匹と鬼1匹が襲い掛かるのだ。
反撃も何もない。
フロートアイはその特殊攻撃を見せずに息絶えてしまった。
水晶球2つを剥いで出直しである。
「コール・モンスターを使うぞ」
「危なくないですか?」
「状況を知る目安にするだけだ。大丈夫」
コール・モンスターの呪文を使って周囲を探ると、魔物の数が半端ない。
昨晩の比ではなかった。
感覚的には倍って所だ。
ブラウンベアもいるが、群れで行動をしていないようである。
それだけが好材料だ。
いや。
ここはネガティブな思考はよそう。
獲物が多い分、経験値を稼げると考えるべきだ。
よし。
スケルトンラプターから行こうか。
「これから呼ぶのはアンデッドのスケルトンラプターだ。普通に戦えば倒せるが油断するなよ?」
「はい!」
「いつでも行けます」
うん。
こういう感覚も久しぶりだな。
ラムダくんともまた違う。
スケルトンラプターは1匹だけだった。
無残としか言いようがない結果に。
オレが攻撃できたのはロッドで一撃だけである。
数の暴力怖いです。
13対1で勝ち目などない。
オレが魔物だったら間違いなく逃げているだろう。
スケルトンラプターからは何も剥げなかった。
次に行こう次。
今度は本番だ。
ホーンテッドミストの群れを呼ぶ。
いや、正確に言えば1匹だけを呼んでみたのだが、群れ単位でこっちに迫ってくる。
呼んだのは比較的数の少ない群れにしたのだが、こっちに来るまでにその数は倍以上になっていた。
周囲の群れも集結したらしい。
厄介なんてもんじゃねえ。
だがホーンテッドミストの動きは遅い。
そこだけは助かっていた。
こちら側は全員がエンチャンテッド・ウェポンで強化を終えている。
当方の迎撃体制は完璧だ。
オレは気分良く叫んでいた。
「蹂躙せよ!」
いや、一度言ってみたかっただけです。
目の前を真っ赤に染めかねない程のマーカーが次々と減っていた。
オレはどうしてたかって?
常に乱戦の真ん中にいたと思う。
蹴りも駆使しながらカヤのロッドで攻撃を加え続けていた。
この魔物相手に動きを止めるのは危険だ。
常に動き回るのが最大の防御である。
アデルとイリーナはどうか。
彼女達はサブウェポンのニレの杖を使っている。
このホーンテッドミスト相手に弓矢は効率が悪すぎるからだ。
動き回って接近戦は慣れていないのだろうが心配は無用だろう。
常に両脇をガードするかのように召喚モンスター達が動き回っている。
群れの規模は以前に戦ったものより多いのは間違いない。
だが今回はまるで不安はなかった。
蹂躙。
まさに蹂躙と呼ぶに相応しかっただろう。
虎と狼の唸り声に囲まれながら、オレも肉食獣のように動き続けていた。
この戦いは10分も続かなかったと思う。
完勝に近かった。
MPバーを少しだけ吸収されはしたものの、納得できる範囲で収まっている。
魔物が残した魔石は7つ。
いい成果だったように思う。
《只今の戦闘勝利で【回避】がレベルアップしました!》
「まるで幽霊でした」
「気味が悪いよー」
「平気そうに見えたけど?」
「「怖いです!」」
そこはハモるのか。
だが狩りはまだ30分を超えたばかりだ。
できればあと4セット、続けるけど?
「エンチャンテッド・ウェポンの効果継続時間が少ない筈だ。今度は戦闘中に掛け直して行こう」
「ええ?」
「待たないんですか?」
「魔物はプレイヤーの事情は考慮しないものでしょ?」
久々にスパルタです。
レッツ・トライ。
次の群れはさっきのよりも規模は半分ちょっとといった所だった。
エンチャンテッド・ウェポンを途中で掛け直しながらで、多少はMPバーに喰らっていたようだが、問題はなかろう。
魔石も4つ得ている。
好調と言えよう。
「余っているエンチャンテッド・ウェポンの効果時間が勿体無い。次に行くぞ」
「「ええーー??」」
今度はコール・モンスターで呼ぶだけでなく、こっちから近寄って襲っていった。
これではどちらが魔物なのか、分かったものではないよな。
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『ヴォルフ』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
クラスチェンジ以来、なかなかの活躍を続けるヴォルフもようやくレベルアップしていた。
ステータスの上昇は今までと変わっていない。
ステータス値で既に上昇しているのは筋力値だ。
もう1点のステータスアップは敏捷値を指定する。
ヴォルフ グレイウルフLv1→Lv2(↑1)
器用値 12
敏捷値 30(↑1)
知力値 12
筋力値 15(↑1)
生命力 20
精神力 12
スキル
噛付き 疾駆 威嚇 天耳 危険察知 追跡 夜目 気配遮断
おっと。
アデルとイリーナ達のエンチャンテッド・ウェポンの効果が切れ始めているようだ。
オレの掛けているエンチャンテッド・ウェポンの効果時間はまだ若干だが残っている。
レベル差がこんな所にも現れているようだ。
ふむ。
少しだけ休憩を挟んで水で喉を潤す。
「じゃあ次、ですね?」
「もう何匹来ようが怖くないっ!」
ほう。
積極的になったものだ。
ナチュラルハイなのかね?
まあいい。
エンチャンテッド・ウェポンを掛け終えるタイミングを見計らってホーンテッドミストの群れを呼ぶ。
今度の群れはデカいぞ?
その群れもさほど大きな問題もなく全滅できる筈だったのだが、最後に予定外の魔物が現れた。
ホ-リーレイスだ。
「囲んで速攻!」
「はい!」
「うん!」
さすがに連携がとれている。
魔物は何やら特殊攻撃をしようとするのだが、その機会を与えられなかった。
次々と攻撃が休みなく加えられる。
数は13対1。
数の暴力は2分ほどで終わった。
途中で水の塊が射出されてきたのだが、攻撃を受けた影響なのか、まるで見当違いの方向に飛んでいる。
完勝である。
以前に戦った時にはかなり痛い目に遭ったんだが。
何ともあっけなかった。
魔石は5つ得ているが、無事だったのが何よりの収穫だ。
《只今の戦闘勝利で【風魔法】がレベルアップしました!》
「さっきの奴、ホ-リーレイスはかなり難敵だ。数の少ない内は警戒すべきだからね」
「え?」
「結構弱いような気がしましたが」
気のせいです。
そうでなければ以前苦戦したオレの立場はないから。
それにアデル、こそこそとオレのヴォルフを撫で回すんじゃない!
そういうのはいっそ堂々とやれ。
言葉にはしないけどな!
アデルとイリーナの残り時間は1時間を切った。
狩場を変えよう。
村を挟んだ反対側へ、魔物の多そうな方に移動する。
コール・モンスターで呼んだ群れはまたも凄い数になった。
だがそれももう慣れたものである。
むしろ数が多くて密集している方が効率はいい。
リスクもそれなりであるが、寧ろ旨味の方が大きいように感じられた。
その一方で不満もある。
ホーンテッドミストはいくら殴っても蹴っても手応えというものがない。
達成感というものが少なく感じるのだ。
その群れも殲滅して、すぐに次の群れを呼ぶ。
アデルとイリーナのMPバーは共に3割を切っていた。
「次の群れで最後だ。気合を入れて行け!」
「はい!」
「もういっちょ来い!」
奮起した所でやや数が少なめの群れを呼び、やや時間をかけて殲滅した。
うむ。
上々の戦果だろう。
拾った魔石の数は28個になっていた。
一旦、風霊の村に戻ると、アデルもイリーナも緊張の糸が途切れたようだ。
大きく溜息をついていた。
まだ安心しちゃダメでしょ?
ログアウトするまでが冒険です。
魔石はアデルとイリーナが9個、オレが10個に配分した。
まあ妥当ではなかろうか。
アデルとイリーナがフィーナさん達が陣取っていた建物の傍で大き目の天幕を設営していく。
その間、オレは召喚モンスターのモフモフを満喫する事にした。
ふむ。
確かに気持ちいい。
アデルが羨ましそうに見てるが気にしない。
きっと気にしたら負けだ。
天幕の設営を終えると2人が次々と召喚モンスター達を帰還させていく。
あとはログアウトするだけだな、と思ってたが2人は動かない。
まだ用事があるのか?
「じゃあ8匹目、行きます!」
「アデルちゃん、何にするのか決めてるの?私は決めているけど」
「勿論!」
ほう。
8匹目か。
さっきまでの狩りで召喚魔法がレベル8になったんだな。
「サモン・モンスター!」
イリーナが先に召喚を行った。
現れたのはフクロウだ。
黒曜と同様、黒い瞳が輝いている。
「じゃあ名前は白夜にします」
即決か。
まあ以前から決めてあったのだろう。
「サモン・モンスター!」
今度はアデルが召喚を行う。
現れたのがなんと狼だ。
こら。
3匹目じゃないか。
本当にやりやがったか。
「名前はくろちゃん!いずれはブラックウルフになってね!」
アデルよ、お前って奴は。
本気でモフモフだらけにするつもりなのか?
イリーナは苦笑するばかりだが。
いや、イリーナだってアデルと今後も付き合うんじゃないのか?
困ったものだ。
アデルもイリーナも召喚したばかりのモンスターを帰還させる。
「ではもう時間ですので、これで失礼します」
「久しぶりに一緒に狩りが出来て楽しかった!また機会があったら宜しく!」
「ああ。じゃあおやすみ」
2人は一礼を残して天幕の中に消えていく。
時刻はまだ午後9時といった所か。
風霊の村の中に人影はもうない。
皆、ログアウトしているか、外で狩りをしているのだろう。
オレのMPバーはまだ5割近く残っている。
どうする?
決まっている、もっと狩りを続けるのだ。
陣容を少し変えよう。
レベルアップしたばかりのヴォルフを帰還させる。
少し悩んだが無明を召喚した。
夜はアンデッドの時間である。
頑張って頂きたい。
今度は村の西側の方に少し進んで狩りを行う事にした。
コール・モンスターを唱える前にブラウンベアが襲ってきていた。
もう既に久々に思えるブラウンベアだが、戦鬼とオレから交互に攻撃を受けていては不利は免れない。
オレの放ったグラビティ・バレットで体勢を崩したクマの首を戦鬼が脇に抱えていた。
そのまま頭を上に持ち上げて絞め上げていく。
あれ?
戦鬼って関節技はスキルにはないよね?
まあいいか。
オレもクマの腹を蹴りまくってやった。
「ガァァァァァァ!」
戦鬼が吼えるとクマの首が変な方向に曲がっていく。
徐々に減ってきていたクマのHPバーがあっという間に消滅してしまった。
おい。
力技のように見えるが、明らかに裸絞めのテクニックを使っているようにも見えるんだが。
気のせいかな?
うん。
これも気にしたら負けな気がする。
それよりも本番と行こう。
ホーンテッドミストをコール・モンスターで呼ぶと、エンチャンテッド・ウェポンを次々と掛けていく。
余裕で全員に呪文を掛け終えた所で魔物の群れの登場である。
今度はヴォルフがいない。
アデルとイリーナもいない。
彼女達の召喚モンスターもいない。
戦力は半減以下だろう。
それでも動き続けているうちは負ける気がしなかった。
加えて意外な収穫もあったのだ。
無明だ。
ホーンテッドミストは何秒か接触し続けていると、その対象からMPを吸い上げてしまう。
その攻撃が無明には効かない。
いや、確かにMPは減っているのだが、その量が微々たるものなのだ。
これは嬉しいほうの誤算だ。
無明は盾と槌を振り回して魔物を蹴散らしていく。
確かに無明もそこそこに敏捷値があって、もっと素早く動けそうなものなのだが。
寧ろ悠然とした構えで着実に魔物を仕留め続けていた。
なんとまあ。
頼もしい奴だ。
見た目は完全に悪役ですが。
こうも調子がいいと欲が出てくる。
オレのMPバーもまだ余裕があった。
次々と群れを屠っていったのだが、段々と群れを構成する魔物の数が減ってきていた。
今度は村の東側に移動する。
コール・モンスターで呼んだホーンテッドミストの群れはまたも大集団になっている。
望む所である。
意図的に不敵な笑いを浮かべて戦いに挑む。
蹂躙するというのはそういった事も許されるのであった。
MPバーが2割を切った所で時刻は午後11時を回ってしまった。
そろそろ潮時だろう。
次の群れで最後と決め、殲滅したら丁度良くレベルアップのインフォが流れていた。
《只今の戦闘勝利で【杖】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【召喚魔法】がレベルアップしました!》
《共通回復呪文のリストアを取得しました!》
《共通対抗呪文のサンシティフィ・アンデッドを取得しました!》
《【召喚魔法】呪文のチェンジ・モンスターを取得しました!》
《召喚モンスターを装備したままの状態で召喚と帰還が可能になりました!》
《只今の戦闘勝利で種族レベルがアップしました!任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
以前から次は何を上げていくか、方針は決めてあった。
魔法使いらしく数字を揃えよう。
それにはどうするか?
8の倍数で行く事にしてあったのだ。
上昇させたステータスは知力値だ。
次は精神力になるであろう。
知力値と精神力が24になるまではこれを続けていく予定である。
基礎ステータス
器用値 16
敏捷値 16
知力値 21(↑1)
筋力値 16
生命力 16
精神力 20
《ボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で14ポイントになりました》
そしてインフォはこれだけに留まらなかった。
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『無明』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
まだレベルが低かっただけにレベルアップのペースが早いな。
無明のステータス値で既に上昇しているのは器用値だ。
もう1点は生命力を指定した。
無明 スケルトンLv2→Lv3(↑1)
器用値 15(↑1)
敏捷値 15
知力値 11
筋力値 11
生命力 11(↑1)
精神力 11
スキル
槌 小盾 受け 物理抵抗[微] 自己修復[中] 闇属性
数字の並びが素晴らしい。
次で崩れてしまう運命ではあるのだが。
風霊の村に急いで戻ると、アデル達の天幕の隣にテントを設営した。
色々とやっておきたい事がある。
テントを設営し終えると、召喚モンスター達を次々と帰還させていく。
そして新たな仲間を召喚する。
12匹目だ。
今回、悩む事はしなかった。
単純にリストの上から選んだだけです。
ナインテイル 赤狐Lv1
器用値 8
敏捷値 20
知力値 18
筋力値 8
生命力 8
精神力 18
スキル
噛付き 回避 疾駆 危険予知 MP回復増加[微] 光属性
ほう。
危険予知というのは初めて見た気がする。
危険察知とはまた違ったスキルのようだ。
そしてこいつには光属性もある。
但し、接近戦にはあまり向かないステータスとスキル構成に見える。
気を配らなければなるまい。
そのナインテイルの頭と背中を軽く撫でて感触を確かめると、帰還させていく。
これでいいか。
さすがに木工をするにも古代石を削るのも迷惑な時間帯だった。
ログアウトしているのだから気にしなくてもいいのかもしれないが、オレの常識がそれを邪魔するのだ。
さて、ログアウト前に片付けておくべきことは何だ?
新しく得た呪文も確認しておくとしよう。
テントに潜り込んで装備を外すと、横に寝転がりながら呪文リストを眺めていく。
一番気になるのは召喚魔法の呪文、チェンジ・モンスターだ。
説明によると、戦闘中に1度、1体だけ、召喚しているモンスターを交代させる呪文であった。
クーリングタイムも1時間ほどあったりするし、そうそう気安く使える呪文ではなさそうだが。
それ以上に重要なのは、この呪文の取得と同時に追加された事項だ。
召喚モンスターが装備したままの状態で召喚と帰還が可能になった事だ。
そりゃチェンジ・モンスターで交代したら装備が何もありませんでした、では護鬼や文楽、無明が無力過ぎる。
これまで、微妙に《アイテム・ボックス》を圧迫していた鉈や盾を仕舞い込まなくて済むのだ。
メリットは十分にあるだろう。
但し、護鬼や文楽で弓矢を共用してきたような使い方ができないので、各々に装備を与えておく必要がある。
まあそれも妥協できる範囲だ。
次に行こう。
リストアは対象の状態異常を元の状態に戻す回復呪文であった。
状態異常が2つ以上あっても同時に回復できるようだ。
但し確実ではないようだが。
ファンブルだってあるのだし過信は禁物だろうけどな。
便利になったのは間違いない。
最後にサンシティフィ・アンデッドだが。
不死系の魔物を弱体化する対抗呪文であった。
適用範囲も全体攻撃呪文並みに広い。
対象となる魔物に制限があるが、これも強力な呪文だな。
一応、フィーナさんに言われていた事を思い返していた。
呪文取得の情報提供、ですか。
まあいいんですけどね。
久々に掲示板を覗いてみた。
相変わらずのカオス。
そうとしか言い様がない。
なんとか該当するであろうスレッドを見つけた。
時空魔法レベル3の呪文、それに先程取得した呪文の情報を書き込んでいく。
推敲もしないで適当なものだ。
さて、寝るか。
毛布に潜り込んでログアウトする。
明日は、隠し爪の作成、それに古代石の中の調査、忘れずにやっておく事にしよう。
ゲームではあるが、目の前にやるべき事があると何故か安心する。
納期がないのだから気楽なものなのだ。
寧ろ何もやる事がない、退屈な状況よりも遥かにいいのだと思う。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv12(↑1)
職業 サモナー(召喚術師)Lv11
ボーナスポイント残14
セットスキル
杖Lv10(↑1)打撃Lv6 蹴りLv7 関節技Lv6 投げ技Lv6
回避Lv7(↑1)受けLv6 召喚魔法Lv12(↑1)時空魔法Lv5
光魔法Lv6 風魔法Lv7(↑1)土魔法Lv6 水魔法Lv6
火魔法Lv6 闇魔法Lv6 氷魔法Lv4 雷魔法Lv4
木魔法Lv4 塵魔法Lv4 溶魔法Lv4 灼魔法Lv4
錬金術Lv6 薬師Lv5 ガラス工Lv3 木工Lv4
連携Lv9 鑑定Lv8 識別Lv8 看破Lv3 耐寒Lv5
掴みLv7 馬術Lv7 精密操作Lv9 跳躍Lv4
耐暑Lv4 登攀Lv4 二刀流Lv6 解体Lv4
身体強化Lv4 精神強化Lv5 高速詠唱Lv6
装備 カヤのロッド×1 カヤのトンファー×2 怒りのツルハシ+×2
白銀の首飾り+ 雪豹の隠し爪×1 疾風虎の隠し爪×2
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の紋章 中庸を望む者
呪文目録
ステータス
器用値 16
敏捷値 16
知力値 21(↑1)
筋力値 16
生命力 16
精神力 20
召喚モンスター
ヴォルフ グレイウルフLv1→Lv2(↑1)
器用値 12
敏捷値 30(↑1)
知力値 12
筋力値 15(↑1)
生命力 20
精神力 12
スキル
噛付き 疾駆 威嚇 天耳 危険察知 追跡
夜目 気配遮断
残月 ホースLv7
ヘリックス ホークLv6
黒曜 フクロウLv6
ジーン バットLv6
ジェリコ ウッドゴーレムLv5
護鬼 鬼Lv5
戦鬼 ビーストエイプLv6
リグ スライムLv4
文楽 ウッドパペットLv4
無明 スケルトンLv2→Lv3(↑1)
器用値 15(↑1)
敏捷値 15
知力値 11
筋力値 11
生命力 11(↑1)
精神力 11
スキル
槌 小盾 受け 物理抵抗[微] 自己修復[中] 闇属性
ナインテイル 赤狐Lv1(New!)
器用値 8
敏捷値 20
知力値 18
筋力値 8
生命力 8
精神力 18
スキル
噛付き 回避 疾駆 危険予知 MP回復増加[微] 光属性