~秋~
それは一年前の話。私は初めて人間に見られた。
私は秋の魔法使いである。世の中には四季の魔法使いというのがいて、その魔法使いがいるおかげでこの日本も四季があるというのに伝わっている伝説には妖怪などといったものばかり。もう少し身近なところに目を向けていただきたいもである。まあ、私たちは目に見えない存在のため致し方ないのかもしれない。それにしても、ここの神社の狛犬にまでバカにされてしまうとは腹立たしい。神の使いと言うだけのそっちと違ってこっちは真面目に働いているのだ。……などとこんな愚痴を言えるのは結局そこら中にいる紅葉くらいなものであるのが現状である。ああ、退屈だ。手に持っているこの分厚い本も一体何度読み返したことか。毎年起きるたびに読んでるから千は軽く超えているだろう。そう思った。
しかし、読書もいささか飽きてしまい、少し体を動かそうと紅葉を操って遊んでいた時だった。
「う、うおっ?!」
驚いた少年の声がしたので振り向くと、案の定、学ランを着た少年がいた。が、私も驚いた。
明らかに指を差しているのである。しかも、こちらに向かって。
「あなた……私が見えるの?」
人を指差すなんて、と小言を言ってやりたかったが、それよりもこっちの方が気になってしまった。少年は落ち着いたのか、
「見えてます。ちゃんと橙色のショートヘアでカーディガン着た女の人が」
「……そこまで聞けたら十分だわ」
間違いない。この少年には私が見えている。それにしてもなぜだろう。今まではどれだけ人に近づいても気付かれなかったというのに。私自身に変化が生じたのだろうか?
「あの」
「何?」
「俺、藤堂秋桐って言うんだけど。お前は?」
年下に敬語なしで話されるなんて心外だが、この見た目だとしょうがないと思って妥協する。アキヒサ……か。
「私は、秋の魔法使い。魔法使いだから名前はなし」
そう言うと、少年が目を丸くした。
「ま、魔法使いって本当にいるのか?」
「現に、私がいるじゃない。まあ、私は空とか飛べるんじゃなくて、ただ四季を操るだけの存在だけどね」
「へ~……魔法使いって種類とかあったんだな」
「人間だって日本人やら何やら色々分けるでしょう?そんなもんよ」
素っ気なく説明するが、アキヒサは興味深そうに聞いている。リアリストが多くなった人間の多い今、アキヒサは珍しいタイプなのだろうな、と思う。
「で、何であなたは私に話しかけたのかしら?」
「い、いや特にないけど?ただ紅葉がきれいだなーと思ってたら紅葉が浮いててビックリして、さらに真ん中に女の子がいたからさらにビックリして……」
なるほど、元を正せば私が原因か。これは反省すべきだろう。もしコイツがテレビ局のヤツだったならとんでもない騒ぎになっていただろうから。
「それにしても凄いな~、その本」
「まあ、それなりに?」
「何だよそれなりって!」
それから他愛もない話をしていると、
「あ、もうそろそろ時間だ!」
「どうしたの?」
慌てて立ち上がるアキヒサに問いかけると、アキヒサは照れたような顔をして、
「いや、今日俺向こうの方で告白するんだ」
「告白って……好きですとか?」
「それ以外にあるのか?」
?マークを浮かび上がらせるアキヒサに私の方が戸惑ってしまう。
「秋って色々な季節って言うだろ。スポーツとか読書とか。じゃあさ……恋の季節でもありかと思ってさ!」
そう言ってアキヒサは笑った。それは見ていた私もつられて頬を緩ませてしまうような笑顔だった。……人間とは色が絡むと色々聞きたくなるという。私もそれに従ってみよう。
「見込みは?」
「友達から聞いただけだけど、結構あるってさ……でも、魔法使いさんがいてよかったよ!」
「何で?」
「俺、本当にこれが正しいのか悩んでたんだ。けど、魔法使いさんと話して、やっぱりこれが正解だって思えた!」
だから、ありがとな。人間にお礼を言われるのは初めてだが、なるほど。どうして人間が人助けなるものをするのかがわかった。お礼を言ってもらえれば、一言ありがとうがあれば――。不思議なくらい心があったかくなってくるのである。
「じゃあ、俺行くよ!」
「健闘を祈るわ」
「おう!」
短い会話だった、でも非常に濃い内容の会話をしたようだった。話していたのはほとんど他愛のないものというのに。面白いものだ、人間というものは。頭に思い浮かぶのは魔法使いたち。彼女たちにもぜひ人間と会話をしてもらいたい。きっと良い経験になるだろう。そう言えば、アキヒサは最後らへんで『悩んでいた』と言っていた。悩んでいる人間に私たちは見えるのかもしれない。まあ、世界には悩んでいない人間なんていないだろうから波長とかそういうものも最終的には関係してくると思うが。
さて、問題はどうやって伝えるかだ。冬と夏はどうにかなるものの春の魔法使いは対極の位置にいるため、会話することができない。と、いいことを思いついた。
「そうだわ」
これを、どこかから聞いた噂にしよう。そして冬の魔法使いに伝えればことが上手い具合に運ぶ気がする。
「できれば彼女たちが良い人間に出会うことを……」
私は柄にもなく、早く冬間際になってほしい、と思った。
一年後、彼女たちが人間に会ったと聞いて喜ばしく思ったのは、少し先の話である。
―END―
この国には、この場所には。
四季という――奇跡がある。
出会いもあるが、別れもある。
喜びもあれば、悲しみもある。
希望もあれば、絶望もある。
それを抱えて、生きていく。
さあ、また出迎えよう。
名前では同じでも……
去年とは少し、違う季節を。
去年とは少し、違う奇跡を。




