初キスのオマジナイ
小学生の頃、私は淡い恋をした。
同じクラスの幼馴染の男の子に対しての恋心は、彼の引越しという結末で幕を閉じた。
最後の日に、彼と交わした初キスを残して、以来、彼とは会っていない。
もう一度会いたいという気持ちと共に、胸の奥深くに封印した。
時は流れに流れて、私が高校3年生になって、大学受験をするために、電車に乗っていると、途中の駅で一人乗ってきた。
なんとなく、彼に雰囲気が似ているものの、彼かどうかは分からない。
もう10年近く経っているからだろう、彼だと断定することは、私にはできなかった。
大学へ向かう道も、教室でさえ同じだった。
バカみたいだけど、彼だと思い始めていた。
筆記テストは普通の問題ばかりだった。
このぐらいなら、満点はほぼ間違いないだろう。
あっという間に解き終わると、左斜め前にいる彼についつい目線がいってしまう。
チャイムがなり終わると、答案用紙は回収されて、次の面接の準備のため30分間の休憩が与えられた。
面接では、口頭試問がだされるというはなしであり、どんな問題が来ても、全て正答できる自信はある。
その面接の前に、面接室の前で待たされていると、彼が私の横に座った。
「緊張してます?」
「まあ、少しは」
笑いかけながら、私は彼に話す。
「えっと、お名前をうかがっても?」
私が自然に聞いてみる。
「ああ、四方田繁喜です」
同じ名前だ。
私は確信をした。
「もしかして、成川市立第四小学校でした?」
驚いた顔をして、彼は私に尋ねてくる。
「なぜ知ってるんですか」
「…初めてのキスをあなたにあげた者です。覚えてますか」
それを聞いて、やっと思い出したらしい。
「もしかして、河恫員子さん…ですか」
「はい、お久しぶりですね」
そこで、私の番が来た。
「後で、待っていてくれますか」
「いいですよ」
私は彼に言われて、そう答える。
面接は、順調にいった。
部屋を出て、控室に戻り、彼が戻るのを待っていた。
戻ってきた彼は、疲れた顔をしていたが、まあまあできたと当人は言っていた。
「では、行きましょうか」
他人行儀ではあるけど、それが長い歳月を感じさせてくれる。
その間、私はずっと彼のことを思い続けていたと思い返し、しながらも彼と連れだって部屋を出た。