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龍王の卵に転生した俺は各地の天才をスカウトして王国を築く  作者: バナナ


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第61話 孵化棚の残響

「継承王候補、認証。単独王命を受理します」


石壁の奥から響いた古い声に、俺は荷台の上で固まった。


旧王都の地下へ続く最短経路。その入口を塞ぐ円形扉には、俺の殻と同じ淡い青緑の竜紋が浮かんでいる。空環城を出てから半日。崩れた空路を降り、二つの旧水路を渡り、ようやく辿り着いた場所で待っていたのは、歓迎ではなく、聞き覚えのある不愉快な言葉だった。


「受理するな。俺は単独王命など出しておらん」


『王命内容を確認。内部拒絶源を排除し、王冠区画への経路を開放します』


「排除も命じておらん!」


扉の竜紋が白く強まった。俺の否定さえ、命令を確定する材料へ変えようとしている。


荷台の前でポロが丸い耳を伏せた。小柄な金茶色の身体には、水袋と薬箱が左右へ結ばれている。隣では、赤銅色の鱗を持つ岩角獣のガンツが、包帯を巻いた右前脚を浮かせたまま扉の継ぎ目を調べていた。


「返事をするほど、王の声として覚えられています」


ポロの指摘に、俺は喉まで出ていた反論を止めた。


「では黙ればよいのか」


「黙った場合の処理も確認した方がいい」とユフィが言った。


偵察用の短い外套を着たユフィは、片手に測量図、もう片方に信号筒を持っている。腰には予備縄と杭が下がり、崩落路へ入る者としては装備を増やしすぎていた。それでも、何か一つ置いていけと言えば、真っ先に自分の食料を外すだろう。


盾を背負ったレナは、脇腹の包帯を押さえながら扉の前へ進んだ。前の救助で負った傷は塞がり切っていない。今回も空環城へ残す案が出たが、旧王都の人間用設備を読める者が必要だと本人が同行を選んだ。


「命令への返答ではなく、救難信号を使いましょう。三つ短くなら停止と撤退。王命ではなく、遠征隊全員が承認した緊急符号です」


出発前、ミーナ、ドーラ、グラウを含む合議で決めた信号だった。短い三回は停止または撤退。長い二回は再集合。途切れない一回は王冠区画到達。留守を守る三人は、同じ符号を空環城の中継炉で待っている。


「よし。ユフィ、三つだ」


ユフィが信号筒の石板を叩く。


こん、こん、こん。


音は扉へ吸い込まれ、地下へ長く流れた。俺は竜圧を重ねず、ただ待った。


『緊急停止符号を確認。発信者、五。王権信号、一。単独王命の成立条件を満たしません』


「最初から数えられるではないか!」


『内部拒絶応答、四十二。排除手順を停止。保守避難路を限定開放します』


扉が左右へ指二本分だけ開いた。奥から冷たい空気と、乾いた石粉の匂いが流れ出す。


ガンツが隙間へ金属板を差し込み、荷重を確かめた。


「王冠区画へ直接は開かん。保守路だ。壁の向こうに螺旋斜路があるが、三か所で支えが切れている」


「通れるか?」


「卵一個と四人ならな。王の威厳まで積んだら底が抜ける」


「威厳は荷重に含まれぬ」


「なら荷台から降ろしても平気だな」


「含まれることにしておこう」


ガンツは鼻から息を吐き、扉を荷台一台分まで押し広げた。


持ち込んだ物資は、乾燥食、水、治療具、予備縄、杭、風袋、測量図、信号筒。どれも使う可能性がある。だが崩落路へ全部を入れれば、今度は重さが敵になる。


「乾燥食と水は半分を入口へ残します」


ポロが二つの袋を外した。


「帰りに入口が塞がっていたら?」とレナが問う。


「一日分は持ちます。残した方には赤札を結びます。空環城から追跡班が来た時、救難物資だと分かるように」


「薬は全部持て」


俺が言うと、ポロは首を横へ振った。


「一組は入口です。全員が同じ場所で潰れたら、薬も一緒になくなります」


反射的に命じ直しかけ、やめた。水と薬の配分はポロの担当だ。


「お前の判断に従う」


ポロは少し驚いてから、薬箱の一つを赤札の下へ固定した。


螺旋斜路は、王都の地下を巨大な貝殻の内側のように巡っていた。中央には底の見えない縦穴が開き、その周囲へ石道が何重にも巻いている。壁には卵を抱く竜の浮彫が並び、どの竜も顔の部分だけ削り取られていた。


荷台の車輪が一度回るたび、下から遅れて振動が返る。俺は殻の浅い亀裂へ響く痛みを無視せず、間隔を数えた。


「止まれ。七歩先、床の中が空だ」


レナが盾を前へ置き、ガンツが腹を床へつける。ユフィは壁の古い留め輪へ縄を通した。


「右半分だけ残っている。左へ荷重を置けば割れる」


「右壁沿いに一人ずつ。荷台は縄で引く」とレナが決めた。


「私が先へ行く」


ユフィが右壁へ身体を寄せ、杭を三本打ちながら渡った。一本目は固定。二本目は荷台。三本目は後続の命綱。手順を声にし、全員が同じ杭へ重みをかけないよう間隔を取る。


俺の荷台が空洞の上へ入った時、左の床が沈んだ。


「止まれ!」


三つの短い警告が、今度は声で重なった。


ガンツが右前脚を使わず、角と左肩で荷台を壁へ押す。レナが盾を床へ差し込み、沈む石板を支えた。だが脇腹の傷へ力がかかり、息が詰まる音がした。


「レナ、離せ!」


「今離せば荷台が傾く!」


「俺を捨ててよい!」


「荷台を捨てるのであって、あなたを落とすとは言ってません!」


ユフィが前方の縄を引き、ポロが荷台の後ろへ風袋を差し込んだ。袋の口を少しだけ開く。蓄えた風が床を叩き、荷台の重みが一呼吸だけ浮いた。


「今です!」


ガンツが左肩で押し、レナが盾を引く。荷台は右壁へ半回転しながら滑り、ユフィの杭の内側へ収まった。


その直後、左の石道が縦穴へ落ちた。


石が底へ当たる音は返ってこない。代わりに、使い切った風袋が巻き込まれ、白い布が暗闇へ消えた。


「一袋失った」


ポロが記録板へ爪痕をつける。


「レナの傷は?」


「開いてはいません。ただ、次に盾で床を支えるのは禁止です」


「まだ持てる」とレナは言った。


「持てることと、持たせてよいことは別だ」


俺が答えると、レナは何か言い返しかけ、最後には盾の固定帯を緩めた。


斜路をさらに下るにつれ、壁の浮彫は小さくなった。成竜ではなく、卵と幼獣を描いたものへ変わっていく。竜だけではない。翼猫、岩角獣、角のある獣、人間に似た幼子まで、種族の違う子供が棚へ並べられていた。


「王族の孵化場ではなかったのか」


「王族だけの場所なら、こんなに棚はいらない」とユフィが言った。


ガンツが削られた銘板へ灯りを当てる。


「上の文字は消えている。下に残っているのは、第七区、適合、選別……最後は読めん」


「選別という言葉は嫌いです」


ポロの耳が後ろへ伏せた。


俺も同じだった。空環城の旧支配機構は、技能、血統、役割を理由に住民を並べ、従う者だけを設備へ接続しようとした。ここがその始まりなら、拒絶応答が四十二も残る理由がある。


前方から、硬いものが三度鳴った。


きん。きん。きん。


俺たちの停止符号に似ている。だが一定ではない。二度目より三度目が弱く、その直後に石の軋む音が続いた。


「誰かが叩いているのではありません」


ポロが床へ耳を当てた。


「角です。硬い角を壁へ押し当てています。壁が崩れる前の音と、同じ速さで返している」


「崩落を止めているのか?」


「止めてはいません。遅らせています」


俺たちは荷台を置き、残りを歩いた。正確には、ガンツとユフィが俺の低い救助台を前後から持ち、レナが盾を横へ構え、ポロが床の温度を確かめながら進んだ。


曲がり角の先に、円形の大空洞があった。


壁へ沿って、何百もの石棚が同心円状に積まれている。棚の中央には卵を固定する輪と、幼獣の四肢を留める細い枠。大半は空だが、奥の一段だけに三つの卵と六頭の幼獣が寄せられていた。


その前に、一頭の大きな獣が立っている。


灰白色の長い毛。四本脚の身体はガンツより細いが、肩の高さはレナを超える。額から伸びた二本の角は半透明で、内部に輪が幾重にも浮かんでいた。左角には根元近くまで亀裂が走り、脇腹の毛は赤黒く濡れている。


獣は左角を石棚へ当て、震えを受け止めていた。棚が崩れる直前に角の輪が光り、反対向きの振動を返す。落ちかけた石が一呼吸だけ止まり、その間に幼獣たちが卵を奥へ押している。


俺たちの足音を聞いた獣が、金色の目を向けた。


「王は近づくな」


低い女の声だった。


「俺が王だと知っているのか」


「壁が何度も呼んだ。継承王、継承王と。あの声に選ばれた者が、今度は何を選別しに来た」


「選別ではない。救難信号を追ってきた」


「王の救難は、従う者だけに届く」


獣の左角がまた光る。亀裂の奥から透明な液がにじみ、耳の下を伝った。それでも角を壁から離さない。


俺はすぐ鑑定を使わなかった。傷と能力を知れば、救出方法を決めやすい。しかし、許可なく覗けば、旧機構と同じだ。


「名を聞いてよいか」


「必要ない」


「では呼び名は後でよい。先に一頭だけ運ばせてくれ。俺たちが何をするか見てから、残りを任せるか決めよ」


「その間に棚が落ちる」


「だからお前の角へ負担を集めない方法を探す。ガンツ、支えられる場所は」


ガンツは獣へ近づかず、外側から棚を観察した。


「中央柱は折れている。だが右下の二本は生きている。杭を入れれば荷重を三つに分けられる。ただし、あの角の振動が止まった瞬間に棚が落ちる」


「私が盾で受ける」とレナが言った。


「禁止したばかりだ」


「床を支えるのは禁止でしょう。幼獣へ落ちる破片を受けるだけです」


「同じ傷を使う理屈にするな」


レナは口を閉じたが、盾を下ろさなかった。


その時、俺の殻の竜紋が勝手に光った。


『継承王候補を孵化棚第七区に確認。長期停止個体九。強制孵化処理を再開します』


「再開するな!」


棚の枠が一斉に締まった。


三つの卵を囲む石輪から白い熱が噴き、幼獣の脚を留める枠が閉じる。怯えた鳴き声が空洞へ広がった。


「何をした!」


灰白の獣が角を壁から離し、俺へ向き直る。


「俺ではない。だが俺の信号を使われた!」


『王命を確認。強制孵化出力を上昇します』


「違う、止めろ!」


白熱がさらに強くなった。


否定を命令として受け取り、命令を実行権へ変える。入口と同じだ。俺が王として声を重ねるほど、この場所は俺一人へ従おうとする。


「アルド、切って!」


ポロの叫びで、俺は竜紋へ集まる魔力を引いた。扉を開ける時のように細くするのではない。接続そのものを途中で断つ。


殻の亀裂が熱を持ち、視界が白く揺れた。だが竜紋の光は消えた。


『王権信号、断絶。予備処理へ移行』


熱の上昇は止まった。しかし枠は閉じたまま、棚の奥で歯車が回り始める。


「すまない」


俺は灰白の獣へ言った。


「止めようとして、悪化させた。王命では止まらぬ。お前の許可がなければ、もう接続しない」


獣は俺を睨み続けた。背後で幼獣の一頭が苦しげに鳴く。右後脚が枠へ挟まれ、抜けない。


「その子を先に外せ」


「承知した」


「助けられたら、角を見せる。助けられなければ帰れ」


条件としては十分だった。


ユフィが棚の外周へ縄を回す。ガンツは右下の生きた支柱へ杭を一本ずつ打ち、ポロは卵の表面温度を水で濡らした布へ写し取った。レナは盾を幼獣と天井の間へ斜めに置き、自分の脇腹へ重さが直接来ない姿勢を選ぶ。


「挟まれた脚は引くな」とガンツが言った。


「枠と骨が同じ方向へねじれている。先に棚を一指上げる」


「右下へ水を流します」


ポロが細い溝へ水を注いだ。錆と石粉が流れ、枠の根元が見える。


「ユフィ、二本目を上。一本目は引かず、落下止めだけ」


「分かった。レナ、盾の左端を半歩下げて」


「これ以上は子供へ当たる」


「では私の外套を間へ入れる」


各自の声が重なっても、命令は一つに集まらない。誰かが見たものを伝え、別の者が修正し、危険なら止める。空環城で作ったやり方が、旧王都の棚の前でも機能している。


ガンツが杭へ左肩を当てた。


「三つ数える。一で縄を張る。二で棚を上げる。三で枠を外す」


「待て」


灰白の獣が言った。


「二の直前、私が角を離す。残響が一度だけ残る。その一呼吸を使え」


「角は持つのか?」


「持たせる」


答えは強い。だが左角の亀裂は、先ほどより明らかに広がっていた。


「まず一頭を助ける。約束だ」


俺たちは獣の合図を待った。


「一」


ユフィが縄を張る。


獣の角が棚から離れた。半透明の輪だけが壁に残り、崩れる振動と逆向きに広がる。


「二!」


ガンツが杭を押し、棚が一指浮いた。レナの盾へ石片が降る。


「三!」


ポロが枠の留め具を引き、ユフィが幼獣の身体を外へ滑らせた。


その瞬間、残響が消えた。


棚全体が落ちる。


ガンツの右前脚が反射的に床へついた。包帯の下から血がにじむ。それでも杭を横へ倒し、棚の落下を斜めへ逃がした。レナの盾が破片を受け、ユフィは幼獣を抱えて外周へ転がる。


「離れろ!」


俺の声と同時に全員が退いた。棚は一段だけ沈み、支柱へ引っかかって止まる。


助け出された幼獣が、灰白の獣の胸へ駆け込んだ。


獣は鼻先で傷を確かめ、それから俺へ左角を向けた。


「約束だ。傷と角だけ見ろ」


「感謝する」


許可された範囲だけへ鑑定を絞った。


灰白の獣は響角獣。左角の亀裂、脇腹の裂傷、内耳の損傷。角に宿る技は残響支柱。崩壊直前の振動を輪の内部へ残し、逆向きへ一呼吸だけ返す。壊れた物を直す力ではない。繰り返すほど角と平衡感覚を傷める、逃げる時間を作るための技能だった。


「お前は棚を支えていたのではない」


「違う。落ちる時刻を遅らせていただけだ」


「名は」


「エルネ」


「エルネ。次はお前が先に音を作れ。俺はその波へ竜圧を合わせ、弱い部分だけを打ち消す」


「王が私へ合わせるのか」


「さきほど俺が先に命じて悪化した。今度は間違えぬ」


エルネはすぐには頷かなかった。


「一度だけだ。私の角を引っ張るな」


「承知した」


二つ目の棚には、卵一つと幼獣二頭が閉じ込められている。最初より荷重が大きい。ガンツは右前脚を使わず、杭を二本へ増やした。レナは盾を持つ腕を交代し、ユフィは一本の長い縄ではなく、三本の短い縄へ分ける。ポロは卵へ直接水をかけず、棚下の石だけを冷やした。


エルネが角を壁へ当てる。


きん、と最初の音。


俺はすぐ竜圧を重ねた。


音が膨らんだ。


半透明の輪が壁を一周し、閉じていた枠まで強く震える。幼獣の脚へ石輪が食い込み、エルネの左角にも新しい亀裂が走った。


「切れ!」


エルネの叫びに、俺は即座に共鳴を止めた。


「すまない。また俺が先へ出た」


「私の音が壁へ戻ってからだ。最初の音は壁を読むため。二つ目が支える音だ」


「分かった。次は一つ目へ触れぬ」


「もう次があると思うのか」


「許されるなら」


エルネは苦しげに息を吐いた。怒っている。それでも背後の卵を見て、角を再び壁へ当てた。


きん。


最初の音を待つ。壁の奥で細かな亀裂が応え、崩れる方向を告げる。


きいん。


二つ目の音が来た。


俺はその波を押さず、少し後ろからなぞった。大きくするのではない。右へ偏った振動だけを左へ返し、棚全体ではなく、折れかけた支柱の周囲だけへ重ねる。


石の軋みが一呼吸、弱くなった。


「今だ!」


ガンツが杭を入れる。ユフィが右の幼獣を、レナが左の幼獣を引き出す。ポロは卵を包む布へ手を伸ばしたが、枠の一つが途中で止まった。


「留め具が戻っています!」


『拒絶個体の離脱を確認。拘束出力を再調整します』


旧機構が俺たちの作業を学んでいた。


空いた枠の力を、残る卵へ集中する。石輪が一段縮み、殻に細い線が入った。


「卵を先に!」


ポロが両前脚で枠を押さえる。小さな身体が床を滑る。


「王権接続を使えば、枠だけ止められるかもしれん」


俺が言うと、エルネの角がこちらへ向いた。


「また王になるのか」


胸を刺された。


「ならない。全員の停止信号を使う」


ユフィへ目を向ける。


「三つ短く。俺の竜圧ではなく、五人とエルネの音を同じ場所へ返す」


「六人です」とポロが訂正した。


「そうだ。六人だ」


ユフィが石板を叩く。


こん、こん、こん。


レナは盾の縁を三度。ガンツは杭を三度。ポロは水袋の木栓を三度。エルネは角で三度。俺は最後に、そのどれより強くならない竜圧を一つずつ重ねた。


六つの停止信号が棚へ入り、壁の奥へ走る。


そこで終わらなかった。


さらに奥から、別の三音が返った。


続いてもう一つ。さらに一つ。


四十二か所に残っていた拒絶応答が、古い水路と風路と石棚を伝い、孵化区画へ集まってくる。


こん、こん、こん。


四十二の誰かが、今も停止を求めている。


『複数拒絶を確認。王権による上書きを要求します』


「上書きしない」


『継承王候補の不承認を確認。代替権限を検索』


「探すな。停止せよ」


『停止命令の発信主体を特定できません』


「それでよい。誰か一人の命令ではないからだ」


俺たちは三つの音をもう一度重ねた。


棚を締めていた石輪が震え、力を失う。白い熱が消え、枠が一指ずつ開いていく。


ポロが卵を抱え、ユフィの布へ載せた。レナとガンツが残る棚の落下を左右へ逃がし、エルネは最後の一呼吸だけ残響を返す。


一つ目の卵。


二つ目。


三つ目。


六頭の幼獣も、すべて外周へ移った。


最後の幼獣が棚を離れた瞬間、中央柱が折れた。


「全員、外へ!」


ガンツが退こうとして、右前脚へ力が入らず崩れた。上段の棚がその背へ落ちる。


レナが盾を入れるには遠い。ユフィの縄も届かない。


俺は救助台から自分を横へ転がした。卵の身体が石床を滑り、ガンツの傷ついた脚へぶつかる。


「俺を支点にしろ!」


「割れるぞ!」


「棚ごと潰されるよりましだ!」


ガンツは一瞬だけ迷い、左角を俺の救助枠へかけた。俺の重みでは棚を支えられない。だが角度を変える支点にはなる。


エルネが右角を床へ当てた。


きいん。


残った一呼吸の音が棚へ入り、落下が遅れる。


レナの盾が滑り込み、ユフィがガンツの胴へ縄を巻く。ポロも後ろから引いた。


棚が俺のすぐ横へ落ちた。


破片が殻へ当たり、浅い亀裂が熱を持つ。それでも割れてはいない。


全員が安全区画へ移った後、誰も勝ち名乗りを上げなかった。


ポロはまず三つの卵へ耳を当てた。どれにも弱い鼓動がある。六頭の幼獣には打撲と軽い熱傷があったが、命に関わる傷はない。


次にガンツの包帯を外す。右前脚の傷は開き、赤銅色の鱗の間から血が流れていた。


「固定をやり直します。しばらく荷重禁止です」


「帰り道はどうする」


「左肩と荷車を使います。できることが減っただけで、何もできないわけではありません」


ガンツの言い方は、以前グラウが翼を失っていた時に何度も聞いたものだった。


レナの脇腹も熱を持っていた。盾へ直接大きな衝撃は受けなかったが、長時間姿勢を保った負担が残っている。ポロは薬を薄く分け、二人へ使った。


「治療具は三分の一を消費。予備縄一本、杭二本が曲がりました。風袋一つは縦穴へ落下。水と食料は、まず子供たちへ回します」


「異論はない」


俺が答えると、エルネがこちらを見た。


「王なら、私の角を欲しがると思った」


「役立つ力だとは思う」


エルネの目が細くなる。


「だが、それは治療を受ける代価ではない。子供たちへ水と食料を渡し、お前の傷を洗い、安全な場所へ運ぶ。そこで終わってもよい」


「私が働かなくても?」


「働けるようになってから、自分で決めよ。俺たちは力を見つけるために来たが、力を持つ者を道具へ戻すためではない」


しばらく、崩れた棚の音だけが続いた。


「空環城へ行けば、あの声は来ないのか」


「完全には止まっていない。だから俺たちはここへ来た。だが拒否すれば止める規則と、止めた者を罰しない規則はある」


「王も止められる?」


「俺が一番よく止められている」


ポロが小さく頷き、レナは痛む脇腹を押さえながら笑った。ガンツまで鼻を鳴らす。


「笑うところではないぞ」


「事実ですから」とユフィが言った。


エルネの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


「子供たちを運ぶ場所があるなら、そこまで同行する。角の使い方を渡す約束はしない」


「それでよい」


俺たちは二本の長い信号を送った。


ごうん。ごうん。


再集合と救助対象あり。空環城で待つミーナ、ドーラ、グラウには、それで十分伝わる。王冠区画へ到達した時の連続信号は送らない。俺たちはまだ目的地へ着いていない。


救助台を組み直し、三つの卵を中央へ固定した。幼獣は歩ける者と運ぶ者を分ける。エルネは左角へ当て布を巻かれるのを嫌がったが、ポロが亀裂へ入った石粉を見せると黙って頭を下げた。


帰路を決めるため、ユフィが崩れた棚の裏へ回った。


「こちらへ来てください。奥に封鎖扉があります」


同心円状の棚の最深部。黒い石板に隠されていた場所へ、ゼロの印だけが刻まれている。周囲の棚が止まった後も、その扉だけは淡い青緑の光を保っていた。


俺の殻と同じ色だった。


近づくと、竜紋が互いを確かめるように脈打つ。


『王族孵化棚、零番区画。第二継承候補を確認』


「第二だと?」


『第一継承候補、応答なし。拒絶応答は継続中です』


黒い扉の向こうから、硬い音が返った。


一度。


二度。


三度。


停止信号ではない。


何者かが、自分の意思で扉を叩いていた。


挿絵(By みてみん)

【主人公ステータス】

対象:アルド

種族:龍王卵

個体ランク:S

レベル:14

HP:161/191(現在ランクA/潜在ランクS)

魔力:58/257(現在ランクS/潜在ランクSS)

攻撃:92(現在ランクA/潜在ランクS)

防御:120(現在ランクS/潜在ランクSS)

速度:20(現在ランクE/潜在ランクB)

技能:鑑定 ランクA Lv4

技能:竜圧共鳴 ランクC Lv1(竜圧感知を含む)

技能:竜印炉接続 ランクC Lv1

技能:戦果配分 ランクC Lv1

技能:王域認識 ランクC Lv1

技能:合議核接続 ランクD Lv1(拒否刻印・職能代表・住民代表の三承認による都市核接続)

状態:重度魔力消耗、殻に浅い亀裂、空環王国初代王、合議承認による第七中継塔救難遠征中

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