ピピピピピ!
今から10年ほど前、2月初旬の話です。
ある夜、子どもが熱を出し、夜中に嘔吐してしまいました。
翌日は夫が朝から仕事で、わたしは子どもの看病のため休暇を取っていました。
そのため、汚れてしまった衣類を夜のうちに洗濯し、乾燥まで済ませてしまおうと思いました。
洗濯物を助手席に積み、午前1時頃にコインランドリーへ向かいました。
わたしの住んでいる地域は田舎で、近所のコインランドリーはどこも深夜0時から朝6時まで閉まっています。
そこでカーナビで検索し、少し離れた場所にあるコインランドリーへ向かうことにしました。
何軒か回ってみましたが、どこも営業時間外でした。
「次がダメだったら諦めて帰ろう」
そう思いながら向かった最後の一軒。
そこは薄明かりがついていて、中に人影が見えました。
わたしはホッとしました。
入口近くの駐車スペースに車を停め、中へ入ります。
すると、入口付近の椅子に若い女性が座っていました。
年齢はわたしと同じくらい。
20代前半に見えます。
女性はガラケーを見つめたまま動きません。
乾燥機を探してみましたが、稼働している機械は一台もありませんでした。
「この人は何をしているんだろう?」
そう思いましたが、深く考えず洗濯物を乾燥機へ入れ、お金を投入しました。
そして車へ戻ろうと入口へ向かった時です。
女性の顔が見えました。
目を大きく見開き、ガラケーを強く握りしめています。
その表情に妙な違和感を覚えました。
「なんだか少し怖いな……」
そう思いながら車へ戻り、夫へ電話をかけました。
子どもは落ち着いて眠っていると聞き、安心して電話を切ります。
ふとコインランドリーを見ると、女性は先ほどと全く同じ姿勢で座っていました。
やがて乾燥が終わり、わたしは洗濯物を回収しに再び店内へ入りました。
洗濯物を取り出し、帰ろうと振り返ったその瞬間。
女性がほんの一瞬だけ、ガラケーから目を離し、こちらを見たような気がしました。
わたしは気にせず店を出ました。
車へ戻り、ドアをロックします。
洗濯物を助手席へ置いた後、何となく店内を見ました。
しかし、先ほどまでいた女性の姿はありませんでした。
周囲を見回しても誰もいません。
その時に気づいたのでますが、そのコインランドリーも本来は深夜0時から朝6時まで営業時間外だったのです。
時刻は午前2時を回っていました。
「入口のすぐ前に停めていたのに、出て行ったなら気付くはずなのに……」
「そもそも、なんで営業していたんだろう……」
そう思いましたが、考えるのをやめて帰宅することにしました。
車を走らせて数分後。
突然、
ピピピピピ!
助手席のシートベルト警告音が鳴りました。
助手席には洗濯物しかありません。
しかも、乾燥前より乾燥後の方が明らかに軽くなっているはずです。
「置き方が悪かったのかな?」
そう思いながら、そのまま帰宅しました。
着替えを済ませ、寝る前になって急に気になりました。
そこで事故物件や心霊スポットを扱うサイトを調べてみたのです。
すると、そのコインランドリーが建っている場所では、数年前に亡くなった方がいたようでした。
あの女性が、その亡くなった方だったのか。
それとも、たまたま居合わせた近所の人だったのか。
今となっては分かりません。
ただ一つだけ気になることがあります。
あの夜、助手席に載せていたのは洗濯物だけだったはずなのに……
帰り道、シートベルト警告音はしばらく鳴り続けていました。
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