6.side バザルグ:転生者
ギギがその娘を連れてきた瞬間、わしは数十年ぶりに背筋が凍るような感覚を覚えた。
見た目は、どこにでもいる華奢な小鬼の娘だ。しかし、その身に纏う「気」……いや、魂の輪郭とでも呼ぶべきオーラが、この世界の理からあまりに乖離していた。
わしがこの村の長となってから、オーラが違う者を見たことがナチュ殿の他に二人おった。
一人は、魔王軍の幹部でありながら、この世界の理を超えた知略で軍を導いた異界の軍師。あやつの放つ気は、冷徹な計算に基づいた氷の剃刀のようであった。
そしてもう一人は、かつてこの付近の森を焼き払い、わしの同胞を数え切れぬほど虐殺した伝説の勇者。あやつの気は、正義という名の狂気に染まった、すべてを焼き尽くす猛火そのものじゃった。
ナチュ殿はその二人より遥かに底が見えん。
属性測定の機械は、わしが一生をかけて開発した最高傑作じゃった。
炎・水・草・闇・光・土・風・回復。
そしてわしが独自に見つけた二百を超える派生属性。
そのすべてが、彼女が水晶に手を触れた瞬間、狂喜乱舞するように輝きを放った。
属性とは、本来その者の「生き方」や「本質」に左右されるもの。
すべてに適性があるということは、彼女には「これ」と決まった本質がないということだ。何にでもなれる。何色にも染まる。あるいは、この世界のルールなど最初から眼中にないのかもしれん。
「……ナチュ殿。お主、転生者ではないか?」
わしの問いに、彼女は驚くほどあっさりと頷いた。
隠そうという気概も、異界から来たという傲慢さもない。ただ「バレちゃったならしょうがない」と言わんばかりの、あまりに軽い肯定。
わしは恐ろしくなった。
あの大虐殺を行った勇者すら、ナチュ殿に比べれば「人間」という枠の中に収まっていた。
だが、この娘はどうだ?
……この娘を敵に回してはならん。
さりとて、手の中に閉じ込めることもできまい。
「……ナチュ殿よ。一つ、聞かせてくれんかの」
「なんですか?」
「お主、この世界を……どうしたいと考えておる?」
わしの問いに、彼女は少しだけ小首を傾げた。
そして、先ほどまでの「底知れぬ怪物」の気配を霧散させ、代わりに、年相応の……いや、恐らく元の世界での年頃に相応しい、屈託のない笑みを浮かべてこう言った。
「うーん……。とりあえず、自分を磨いて、最高にイケてる彼氏を作りたい、かな!」
……カカカ!
わしは思わず、腹の底から笑いが込み上げてくるのを止められなかった。
軍師が聞けば泡を吹き、勇者が聞けば憤死するであろう答え。
世界を揺るがす全属性の使い道が、色恋沙汰とは。
わしは決めた。
この娘がこの世界をどう塗り替えていくのか、最前列で見物させてもらうとしよう。
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