2.草葉の陰
目が覚めたとき、そこに広がっていたのは見慣れない空だった。
空が、黄色い。夕焼けではなさそうだ。
「やっぱ死んじゃったよねわたし!?」
「起きて早々うるさいなぁ、きみ」
「ひっ、だれ!?」
「ごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。私はね、神様だ。」
カミサマ。かみさま……神様?
なーに言ってんだこいつは。
「疑ってるね。なら、これを見てみるかい?」
そう言って、自称神様が出したのは占い師が持っていそうな水晶玉を2倍ぐらいに大きくしたものだった。
そこに映し出されたのは、毎日のように見た、見慣れた私の顔だった。明らかに死んでいるが。
これを見て私はようやく死んだことを理解した。
ここはいわゆる「天国」というやつだろうか。いや、黄泉の国……?
「これで少しは信じてもらえたかな?」
「急に神様と言われましても……」
「うーむ……あ、ちなみに君の彼氏はちゃんと泣いてたよ。おアツいねぇ」
……よかった。ちゃんと泣いてくれたんだ。
自分が死んでいるのに、ちょっとだけほっとする。あいつはこれからどうするのかなぁ。
「で、これから私はどうなるんですかね」
「お、ようやく聞いてくれたね。で、怒らないで聞いて欲しいんだけどね」
神妙な面持ちになる。なんですか急に、怖い。
「きみは本来、今日死ぬ予定ではなかったんだ」
「は?」
自称神様から告げられた言葉。それは、私が理解できる言葉ではなかった。
今日死ぬ予定ではなかった。自称神は今そう言った。
つまり?私は?なんで死んだ???
「これは本来人間には見せてはいけないものなんだけどね。人間は本来、【生命原簿】っていう、運命が書かれた本に沿って生きるんだ。で、きみは本来、60年後の今日死ぬ予定だった」
「はぁ……」
「たまにあるんだよねぇ、こういうこと。きみは300年ぶりかな」
誇ることじゃないと思う。
今日、神様のミスで死んだ?いやいや、信じれませんね。
「お詫びと言ってはなんだけど、きみを転生させてあげよう」
転生!?転生って言いましたかこの神様!異世界転生モノの小説を読み漁ってた私の耳に、聞き馴染みのある言葉が出てきた。
しかし、いざ自分がその立場になってみると、意外と冷静でいられる。
「いやいや、そういうのはいいんで、現世に戻して」
「うーん……それはできないんだ」
「は?」
「ぼくの専門外なんだよ。だから、それ以外でなってみたいものとか、行きたい場所とかってさ、ほらないの?」
使えないというかなんというか……。そんなパッとも出てこないし。
「じゃあ、私がモテモテになれる世界線がいい。逆ハーレムなんていいね」
「そんなのでいいのかい?彼氏がいるのに?」
いいだろうが別に。もう会うこともないんだし。
「そんなに睨まないでおくれよ。わかったわかった、それで転生させてあげよう!」
「マジ!?はやく、はやく!!」
やっぱり前言撤回だ。いざ自分がその立場になってみると、ワクワクする。
「そう急かすなよ。ミスっちゃうぞ」
「……次ミスったらコロス」
「おーこわ。……ふぅ、準備できたよ」
「おっ、じゃあね神様!もう二度と会いたくないけど!」
私は金色の光に包まれる。やっぱりこういうのってほんとにあるんだな。
「じゃあ、頑張ってね」
「……ありがと」
神様が含みのある笑みでこちらを見ていた気がするが、きっと気のせいだろう。
周りの色がだんだんと薄くなっていく。神様の声が遠くなっていく。ダメだ、ニヤニヤが止まらない。
期待に胸をふくらませながら、少し目を閉じてみる。そして数刻経ち、目を開けるとそこには……。
──そこには、広大な草原と雲ひとつない青い空、そして緑の私の腕がそこにあった。
……?緑?
「あ゛〜゛……?」
声も少しおかしい気がする。ひしゃげていると言うのか、なんなのか。
「何してんだお前、一人か?」
「ヒッ」
脳の至るところで危険信号が出ている。
こいつはたしか……えーと、たしかあのゲームの……。普段使わない脳の引き出しを次々に開けていくが、なかなか答えたどり着けない。
そうだ、ゴブリンだ。
私の今の腕と同じ色の顔をした、ゴブリンだ。あれ、今私変なこと言った?
「ゴブリンだ!?なんで!?」
「はぁ?何言ってんだお前。お前もゴブリンじゃねーか」
「は?私は……」
言いかけて、やめた。いやいや、理解はしてませんよ。
「あのぉ〜、この辺に、水ってありませんかね?」
「おいおいなんだよ急に、この辺は初めてか?……水なら、こっからちょっと離れたあっち側にでっかい湖が……」
「おっけーありがとう!」
言い終わるより先に、あのゴブリンが指さした方向に走り出す。
「気をつけろよー!?」
「ありがと!」
普通に見送るんかい!というツッコミはせず、私は走る。私がゴブリンに転生?いやいや、ありえないから。だって私、神様に言ったよね?モテモテになる世界線が良い、って。
◇ ◇ ◇
どれぐらい走ったか分からないが、あまり疲れてはいない。30分近く走った、という感覚だけはあるが。
ようやく湖が見えてきた。全力で走る。
「はぁ、はぁ……よし」
若干きらしていた息を整え、湖を覗き込む。
そこには、見慣れた顔は写っておらず、代わりに写っているのはさっきのゴブランと同じ顔、色をした生き物だった。
「なんじゃこりゃああああ」
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