2話
美容院の受付で、タケルはスマホを握りしめていた。
画面には、昨夜選んだ髪型のスクリーンショット。
前髪がふわっとしてて、横がちょっと流れてて、
「これ、俺がやっていいの?」と思いながらも、保存したやつ。
美容師が笑顔で言った。
「今日は、どんな感じにしますか?」
タケルは、スマホを差し出した。
でも、言葉が出ない。
画面を見せるだけ。
美容師が受け取って、うなずく。
「この髪型ですね。いい感じですよ」
タケルは、顔が熱くなった。
(“この髪型で”って、俺が言ったことになるのか…)
(俺、今、オシャレに参加してる…)
(てか、これ、俺に似合うのか?)
美容師が言う。
「前髪、ちょっと軽めにしますね」
「はい…」
声が裏返りそうだった。
タケルは、鏡の中の自分を見た。
まだ切られてない。
でも、もう“変化”が始まってる気がした。
(俺、今、“この髪型で”って言った男になった)
(男子校の友達に言ったら、絶対笑われる)
(でも、なんか…ちょっとだけ、誇らしい)
イスが回る。
鏡が正面になる。
タケルは、照れながらも、少しだけ背筋を伸ばした。




