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僕と街とお医者さん



「・・・スギさん?」


「ん?トシキか、おはよう。早いな・・・」



スギさんは何かの資料をデスクに並べ、整理しているようだったが、僕に気付くと重ねて一つにまとめ、茶封筒に仕舞った。



「おはようごさいます、スギさんこそ・・・あのっ邪魔してスミマセン・・・」


「いや、大丈夫だ。気にしなくて良い。それよりどうしたんだい?」


「えっと、早くに目が覚めたついでに靴を探しに・・・」


「ああ・・君のスニーカーか?パイプベッドの下に置いてある。」



スギさんは目線でその場所を示す。

僕が昨日寝てたパイプベッド下に、スーパーなんかで良く使う白い袋がある。



「あまりにも砂だらけだったから、ビニール袋入れておいたんだ」



一応病院だし、出来るだけ床とか砂まみれしないようにとの配慮だろう・・・とそう考えた所で。



「すみません!!僕、昨日すっごい体中砂だらけでしたよね??!」



「あぁ、君は急患だったんだ、気にすることは無いさ。それに、ダイチはもっと砂まみれで酷かったからアイツの診察はシャワー浴びさせてからやったし・・・」


(え?ダイチさんって骨折とかあった筈では?なんか扱い酷くない?)


僕は知らず知らずに微妙な顔をしていたんだろう、それを見てスギさんは、



「荒事に慣れてるヤツだし、そこそこ付き合いも長いから顔見たら大丈夫かそうじゃないかは、大体分かるよ」


「・・・そうなんですね」


ちょっとホッとした。

僕の他に患者さんもいないし、何だか怪しいって思ってたけど。案外、名医なのかも?


「そろそろダイチも起きてくるはずだ、来たら軽く飯にしよ・・」

「スギさ〜ん・・・」


言い終わらないうちにダイチさんが起きてきた。


『ほらね』

とでも言うようにスギさんは目配せした。



「俺、何だか具合悪い・・・」



そう言うとダイチさんはベッドに倒れ込む・・・




スギさん?なんで『テヘペロ』してるん??おっさんの『テヘペロ』て、誰得?!




僕の口から長い溜息が出る。


うん。()()だ。この人。




僕はそう結論付けた。





************


ダイチさんは怪我のせいで熱が出たようだった。

取り敢えずさっきのベッドに、そのまま寝かせて点滴中。


その間、僕とスギさんは朝ごはんを食べることにした。

とは言っても、食パンにマーガリンと苺ジャムしか無く、飲み物はコーヒーか牛乳、又は水。以上である。



僕は苺ジャムトーストと牛乳をチョイスし、スギさんはマーガリン&苺ジャムたっぷりトーストに砂糖たっぷりカフェオレ、甘々のカロリー爆弾チョイスである。



昨日も少し思ったのだが、スギさんは正に『医者の不養生』邁進(まいしん)中だ。



僕達が食パンに齧り付いてると、ゴゴゴゴゴっと漫画の擬音でもおかしくない様な音が、足元から聞こえてきた。


音の先を見ると、点滴スタンドにしがみ付いたまま息絶えたダイチさんが床に伏している。そのお腹から鳴っている様だった。


僕は暫く固まっていたが、擬音の他に何か聞こえたので耳を澄ませる。ボソボソと聞こえるソレをもっと良く聞こうと耳を近づけると


「腹減った・・何でも良いから食わせて・・・」


と、言ってた。

スギさんにそれを伝えるが


「点滴に栄養も入ってるから我慢しろ」


との事。


スギさん、何だかダイチさんから今度はシクシク聞こえて来るんですが?え?このまま放置で良いの?と、僕は目で訴える。それに気付いて



「少しなら良いが、いま、病院食なんて無いぞ?」



と言われてしまう。シクシクが少し大きくなった。



「あのっ給湯室のコンロ使えますか?」


「ん?使えるぞ?」


「じゃあ少しお借りします!」



そう言うと僕は牛乳と食パンを持って給湯室へ向かった。


小さな流しにはラーメンでも食べたのか、小ぶりの片手鍋が汚れたまま放置されてたのでそれを洗う。


洗った鍋に水と牛乳を同量入れ、中火に掛ける。砂糖を大さじ一杯ほど入れ、食パンを出来るだけ細かくちぎってそれも入れ少し煮込む。食パンをスプーンで上から抑える様にして染み込ませるようにするのがコツだ。


沸騰しないように弱火にして更に煮込みトロリとしたら出来上がり。


戻ると僕が座っていた席に、ダイチさんがテーブルに突っ伏した体勢で座っていた。

鍋敷きが無かったので、近くにあった四つ折りのままの新聞を代わりにする。


「ダイチさん、パン粥作ったので食べませんか?有り合わせで作ったのであまり美味しく無いと思いますが・・・」


ダイチさんはユックリと身体を起こすと


「食べるっ」


と一言、

本当ならバターを少し入れたい所だが無い物は仕方ない。



「甘みが足りなければジャムも少しありますから」



そう声をかけて片手鍋ごと差し出しす。



突っ込んだままのスプーンにトロトロの粥をすくって口に入れる、が、熱かったのか少し悶えてた。

ふた口目は慎重に息を吹きかけ冷ましてから口に運ぶ、ゆっくりと味わい飲み込むと



「美味い、なんて言うか・・・やさしい味だ」



そう言って食べ進める



それを見て僕はホッと息をはいた。



視界の隅で食べたそうにしているスギさんが見えた気がするが、敢えて無視した。流石に怪我人からは貰いはしないだろう・・・


それがたとえ()()だったとしても。


医者端くれなのだから。


そう思いたい。




************



食後の片付けを引き受け、休憩室に戻るとスギさんが僕の服を持ってきてくれてた。

昨夜のうちに洗ってくれていたらしい。


有難くそれを受け取ると、早速着替える。

砂だらけのスニーカーはゴミ袋の中で砂を払って、何とか履ける状態にした。


ジャンパーはツヤっとした素材なので洗わずに軽くはたいてコート掛けに掛けてくれてたそうだ。


そして僕のこれからの予定を話し合うことになったんだが、何個かの問題が持ち上がる。



1つ目、送る手段がない。


2つ目、送れる人が居ない。


3つ目、そもそも送る場所が分からない。


である。



改めて住所や連絡先を聞かれて、思い出せない事に気が付いたんだが。


普通に考えて僕はまだ子供だし、保護者的な人への連絡は必須。スギさんも、ダイチさんも何故かその考えに至らなかったらしい。


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