僕と白のツバキと黒のアイツ その⑦
「ほんにとんでもねぇ目さあった・・・」
「ごめんねキヨさん」
「坊主のせいでねし気にすなな?わっしの代わりに怒ってくれたさけ後はええでな?」
ダイチは取り合えず休憩室の床に正座させ僕はキヨさんを手伝うべく持ち込まれたカバンから大きな注射器や何かの器具を取り出し銀のトレーに並べていく、
「その道具はそっちの煮沸器で消毒すっからそこに入れといてけれ、手入れはしとったけど人間用でねぇしな」
(人間用じゃ無い?)
何やら不穏な言葉を聞いた気がした、
「わっしの亡くなった旦那が獣医でな、そん時使っていた道具ださげ」
「・・獣・・医?」
「んだ、たまぁに怪我した荒くれの治療もしてたさけ、わっちも看護師の真似事してただよ」
「でもそれって・・・」
「なぁに心配いらね、わっしも数年前まで産婆もしてたけ縫うのや注射くらいなら出来るでな」
(まあ縫うのも注射も産婆のやることじゃねけど言わねば分かんねべ・・・)
青くなるその様子に安心させようと嘯き大切な情報は心の中で呟くキヨ、そのおかげもあってかホッとした表情をしているトシキ、キヨは改めて目の前の今も眠り続けるスギに向き直りその傷の状態を確認しようと掛けられた毛布をめくった。
「こりゃめんこいこと・・・もしかしてツバキちゃんかね?」
「そういえば会ったこと無かったんっだっけ?そうですツバキです」
そういえばスギさんの毛布の中に潜り込んでたままだった。
「こりゃ、可哀そうだども離さねば治療できねなぁ」
「そうですね・・ツバキ起きてスギさんを治療するって」
「・・・ん」
凄く眠そうだが寝ぼけながらも素直にベッドから降り僕の背中に抱き着く、その姿は小さい時とあまり変わらない。
しかし今やツバキは僕よりも背が高くて僕の背中にぶら下がるとその足は床にべったりと付いてしまっている状態だ。
「聞いてたよりおっきけどめんけなぁ・・・」
「そ、そうですね成長期みたいで・・あははは・・」
僕は治療の邪魔にならないようにそのままツバキを引きずり休憩室に移動すると正座のままうたた寝していたダイチにツバキを預けまた診察室へと戻る。キヨさんは丁度スギさんの傷口に巻いたままだった布を取り除くところだった。
血まみれだった所は粗方綺麗にふき取ってあるが巻きっぱなしだった布の表面は乾いていて元の色がどんなだったか分らないほどどす黒く染まっていた、その出血がいかに酷かったのかが窺える。
きつく結んであるそれを解くのは簡単では無くキヨさんはハサミで切ることにしたようだった。
乾いた血ですっかり張り付いてしまっている布の端を持ち上げハサミの先を入れ慎重に切っていく、張り付いたその布を大きなピンセットでペリペリと剥がす様子に僕はあの時のやけに白っぽい脂肪か何かと鮮血を思い出しつい顔をそむけてしまう。
「・・・これは何だべ?」
剥がされた布、その下から現れたのは白い何か一瞬脂肪が飛び出したのかと思い僕はギュッと目をつぶるがキヨさんは大きなピンセット片手に意外と冷静で僕はそっと様子を窺う。
「拭き取ってみっぺか?」
ピンセットでコットンを少し摘まむと傷口にそっと近付ける、だがそれは少しプルプルするだけで全く取れた様子が無い。
僕とキヨさんは顔を見合わせ思案する結局何とかしないと傷がどんな状態なのかすら分からない
「どうするの?」
「少し触ってみて取れそうなら取るしかねべな」
キヨさんはそう言うと器具類を置き手袋の上から消毒液をその表面に刷り込みソロリとその指先を近付けチョイと触れてみる『ぷるん』そんな擬音がピッタリな動きを見せる白い何かキヨさんは思い切って掴みにかかるがそれは何の抵抗もなく『もにょーん』と伸びてプツッと千切れた。
ぷるぷるしたそれは見た目も感触もスライムっぽいようだ、摘出したそれを慎重にトレーに入れると次はスギさんの傷へと向き直る。
しかしその問題の傷なのだが妙に綺麗だった。
冗談では無く傷はあるのだが妙に『新鮮でジュウーシー』な見た目なのだ例えるならアレであるプリプリのシマチョウ・・・
「何してんの?」
傷を覗き込んでいた僕達の間にダイチが顔をぬっと近付けて聞いてきた。
「ダダダダダイチ!なな何?!いきなり顔出したらビックリするじゃないか!!」
こんなに近くに来てたのに全然気が付かなかった
「わりぃわりぃ・・何か二人で涎でも垂らしそうな顔して見てるから何だろうな?って・・・・」
「ば!バカな事言ってねえでそこの消毒薬取ってけれ!!傷が乾いてまう!!」
キヨさんも何となくバツが悪そうなのはきっと気のせいだ、僕達に人肉にかぶりつく趣味も嗜好も無いのだから
この後キヨさんは流石の手裁きで傷の縫合を済ませるとスギさんのその縫い目の上に先ほどまでの手裁きを疑うほどぞんざいな手つきで絆創膏を貼りイツモならスギさんが腰かけているパイプ椅子にドッカリと腰を下ろした。
「はぁ~身体こえくてあど何もさいね、わっしの寝床も用意してけれ」
「片付けと部屋の準備は俺が完璧にやっとくよ、隣の部屋に茶の用意したからそれでも飲んで休んでくれ」
そう言うとダイチは背中にツバキを張り付けたままクルクルとせわしなく動き回る、その様子に僕とキヨさんは素直に提案に乗る事にし隣の部屋へと向かった。




