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僕と白のツバキと黒のアイツ その④

「ツバキ!!!」


咄嗟に手を伸ばしたがツバキはそんな僕を気にする風でも無くそのままふわりとこちらのトロッコの縁に飛び移りスギさんの傍らに近づく、そしてその横に膝をつき傷口に指先でそっと触れ、何事かをつぶやく。


すると途端に爽やかな香りが僕達の周りを包み込んでいき、いつか嗅いだ生臭く青い匂いとは違う心が安らぐような森の香りが辺りに広がった。


その香りに誘われるようにスギさんは深い眠りに落ちたようだった。

痛みも和らいだようで苦しげだった顔が徐々に穏やかになり心なしか顔色も良くなったみたいだ。


「ツバキ何したの?」


思わずそう聞くとただニコリと微笑みスギさんの膝に頭を乗せ少し疲れたようにその瞳を閉じた。その時僕は不自然に隠されたツバキの手、その指先が黒く染まっていることに気付けなかった。


そんな僕達の様子を見つつ一人トロッコのかじ取りをしてしたダイチは前方のトロッコのスピードが落ちてきた事に気が付いた。


そしてとうとう先頭のトロッコは停止してしまう。


「文どうした?」


ダイチも停止させトロッコを降りると前方の文さんに近づいて尋ねる、文さんは明かりを持つとトロッコから降り前方を指さし明かりを掲げた、そこにはトンネルを突き破った灰色の長い何かがあった。

つられるようにそれを見た相良さんが息をのむ


「なんですか・・あれは・・」


「マジか・・・」


別の意味で思わず驚愕の声を上げてしまうダイチ、通常トンネルはコンクリ(鉄骨入り)で30センチから厚くても40センチ位の厚さで固められる。だがここは驚異の90センチという有り得ない厚さにしてある。


それというのもこの灰色の物、()(もり)の侵入対策だったのだが目の前のそれは難なくそこを突き破っていた。


辺りには瓦礫が転がっておりトンネル自体は塞がってはいないが暗闇の中でまだグネグネと何かを探るような動きを見せ枯れ杜が僕達の進行を阻んでいる。


「クソっ!」


ダイチがイラついたように悪態をつきこちらへ戻りながらポケットから小型のライトを取り出す


「今は引き返すしかない、だが引き返すにも怪我人がいる状況だ何とかするから少し待っていてくれ。それとなるべく(もり)からは離れていろ、こちらから手出ししなければ襲われはしないはずだ」


そう僕達にそう言うと小さなライト片手にそのままもと来た道を引き返して行った。


黙ってそれを聞いていた文さんは引き返す為にすぐに動き出しておりトロッコの先頭車両であり動力となっている車両をなにやら調べているようだった。ややしばらくするとハンドルの下にレバーを見付け鈍い金属の擦れる音を響かせそのレバーを切換えたようだ。


さっきまでとは逆方向を向いて軽く試すようにそれを動かし始めた、繋がったトロッコを先頭の動力部で引っ張っていたが今度は後ろから()()()()ように動かす為の切換えだったようだ。


電気を必要としない手漕ぎのトロッコはゆっくりと進み僕達のトロッコの数メートル手前で止まる、ダイチが動かしていた動力部を文さんが外し付け替え作業を始めるとそれに気付いた相良さんも手伝おうとトロッコを降り文さんの元へと急ぐ。


それが終わると僕達や紫燕姐さん、まだ目覚めないエンジュが乗る運搬部分をさきっきまでツバキが乗っていたトロッコに繋げ、その一番前にダイチが動かしていた動力部を繋ぎ直した。


作業が終わると先頭を相良さんが、後方の動力部をを文さんが受持ちゆっくりとトロッコを出発させる。待っていろとは言われたが戻る必要があるなら時間が惜しい。僕達は慎重にダイチが向かった先、もと来たレールをゆっくりと引き返すことにした。






************

同じ頃、そのレールの先では夕鞠が花鳥楼主と共に外に向けトロッコで移動していた。

幼い禿達の大半は連れ出すことが出来たが大人たちに関してはほとんどがおかしくなり一緒に逃げ出せた大人は楼主と夕鞠の他には2人の使用人と遊女が数人だけ。


その顔ぶれを見る限り影響を受けなかった人には一定の条件があるようだった、その事に楼主も気が付いたようだが今はそれに触れている場合では無く、この2人しかいない使用人と共に遊女と禿達を非難させるべく街の外へと急ぐことを優先していた。


それと言うのもほんの十数分前にトンネルの一部が壊れ、(もり)がここまで侵入してきたからだ。

それは最初、レールの上に何かが落ちていたのか突如ガタガタと走りに違和感を覚えた直後の事だった。ボロりと大きなコンクリートの塊がレールの数メートル先、その左側に落ちたのが見えそれに気付いた使用人がスピードを緩めた時


「止まるんじゃ無いよ!突っ切んな!!」


楼主の鋭い声が響きトロッコを漕いでいた使用人が慌てたように緩めたスピードを上げ直した直後だった。


振り向いた先には灰色の(もり)がぬるりとその枝を伸ばしそれが二本三本と数を増やしていく所だった、懐中電灯の明かりだけではその全貌は分からないが暗闇に消えていくそれらがグネグネと動くたびコンクリートが崩れる音が鈍く響いてやがて見えなくなる。


このトンネルの存在は事前に聞いた事があったが簡単に崩落しない設計だったはずだった。


想定外はあるここも例外では無かったそれだけの事だと楼主は言い、今は不安がり震える禿達を落ち着かせようと


「大丈夫さ、あんた達は必ず守ってやる、何が起きようともね」


そう声を掛け肩を抱き寄せている。


そんな彼女の顔はいつも見せる厳しいだけの顔とは違い力強さの中にも優しさが見て取れる。そんな義母の背に私はそっと寄り添いトロッコの行く先、日の光で照らされているはずの街の外へと目を向けた。


(ダイチ、トシキ、姐さん、みんな無事で居て!!)


私の予見でも先が視えなくなってきている現状に不安が掻き立てられながらもそう祈り、暗闇が続く背後へとその想いは吸い込まれて行くようだった。


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