僕と白のツバキと黒のアイツ その②
そこは薄暗い通路となっているが地面が砂地な以外あの研究施設を思い起こさせるような剝き出しのコンクリートで固められており。その両脇には僕達が出てきたものと同じドアらしき扉が何ヵ所もあった、しかし人の気配は無く僅かに砂上に薄っすら足跡が残るだけだ。
「隠し通路?外に出るんじゃなかったの?」
「あぁ外に出る直通の通路だ」
「まさか?!街の外へ抜ける通路なんですか?!」
相良さんが食いついた
「・・・そうだ、街の外へと続いている」
食い気味の相良さんの様子に少し怯みながらも答えるダイチ、どうやら本当に外まで続いているらしいが、薄暗いせいもあり果てが見えない。
「ここどの位の長さなの?!」
「確か20キロより少し長い位だったか」
「そんなに?!」僕は思わずそんな声を上げてしまう
「この先に簡易のトロッコ列車があるはずだそれに乗って行けばすぐ外だ」
「そんな物まで・・・」神妙な声で呟く相良さんは最早、驚くというよりその声は呆れを含んでいた。
「ここはあくまで一般人の安全を守るための非常用通路、風月の楼主も知ってるはずだが?」
「・・・聞いておりません」
「なら伝え忘れたか何かだろ?実際に見たことあるのは数人だけだと聞いてるし、本気に取っていない可能性もあるが・・・俺も来るのは今回で二度目だ。普段の管理は花鳥のババアに頼んじゃいるが実際のところジンの持ち物だな」
「そのジンと言う方は何者なのですか?!」
「さあな?俺はアイツとは10歳の頃からの付き合いだがジンが死ぬまで・・・いや、死んだ今でも分からないままだ」
真っすぐに前方を見据え前を歩くダイチ、その表情がどんなものだったのか僕らには分からない、そんな話をしているうちに目的地らしい場所にたどり着いた。
そこには錆の浮いた小さなレールに乗る手押し式のトロッコと何かの映画で見たような箱型の貨物ようのトロッコが二つ程つながった簡素な物が2台あった。
その先頭のトロッコまで近付くとレールに擦れた傷がある、一台はすでに出発した後のようだと気が付いた
「これって・・ダイチ、もしかして楼主さんもここに来てたり?」
「あぁ、幼い禿を逃がす為に来たはずだ」
今更、花鳥の店が大変な事になった事実に衝撃を受け黙り込む僕達。そんな僕らに声を掛けたのは文さんだった、
「先ずは急ぎましょう、スギさんとエンジュを一刻も早く休める場所へ運ばなくては!!」
その言葉に僕らは顔を見合わせトロッコに乗り込んだ。
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時は少し遡り、部屋まで送るという名目で夕鞠の手を引き2 人で5階へ向かう俺は何だか奇妙な感覚がずっと取れずにいた。
それは言葉にするなら『ざわつく』だ。
夕鞠に抱きしめられたトシキ、あの二人を見てからずっとこの『ざわつき』が治まらない。
子供相手に何を・・と思われるかもしれないがそうでは無い、あの時の夕鞠がいつもと違っていて何となく『母』になったあいつを想像してしまった。
そしてその相手は誰なのかと考えた時、俺はそれが自分だというイメージが湧かなかった。それに対して焦り『ざわつく』感覚が全身を支配していた。
このままで良いのか?他の誰かと結婚とか・・・ありえない、阻止する。それは絶対だ。
嫌われるだろうか?それは嫌だ・・ならどうしたら良いんだ?
「ダイチ!痛い!!」
知らず知らずに繋いだ手に力が入っていたらしい。
夕鞠に抗議されて初めてそれに気付いた、ダイチはそのままその手を引き夕鞠を自分の腕の中へと抱き寄せる。何事かと見上げる夕鞠の口が何かを発する前に自分の唇を押し付けるようにして塞いでしまう。
驚き少し嫌がるそぶりを見せた夕鞠だがダイチがその手の力を抜かない事に諦めたのか、やがて抵抗を止めその体から力が抜けたのが分かる。自分を受け入れてくれたように感じ、その唇を味わうことに夢中になるダイチ。
どの位そうしていたのかいつしか夕鞠の瞳から大粒の涙が流れ頬に伝い、まだ触れ合っていた唇で舐め取ったそれの塩辛さに気付き身体を離した
「そんなに・・・嫌だったか?」
くしゃりと泣きそうな笑みを浮かべたダイチに
「・・・バカなの?」
そう返した夕鞠の顔は紅く色付きその泣き顔は幼い時とは違い大人びて色香が漂っていた、
「ゴメンな、嫌いになったか?」
「何でそう思うの?ダイチこそいつもからかって意地悪ばかりじゃない、今だって・・・」
「じゃあ少しは好きか?」
「嫌いよ!わざと怒らせたり!いつも振り回して!ダイチにとって私何なの?今だってこんな事・・・もう期待させないでよ!バカ!!」
「じゃあ好きか?俺の事好きだって言ってくれ、一度で良いから!!」
そう言うと壁際へ彼女の背が当たる所まで追い込み。自身の腕で逃げられないように囲う
「私・・・言ったこと無かった?」
「無い、振り回されてたのは俺の方だ・・こんな風に嫌がるのを押さえつけてなんて俺の趣味じゃねぇ、からかってるつもりもねぇ、好きだって伝えても本気にして貰えないのはもう嫌だ」
「ぁ・・・私・そうだった?本当に言ってない?」
「嫌い、ウザい、知らない、そんな風にしか言われてない。本気で嫌われてるとは思って無かったが今はそれすらも自信無いな」
そのまま夕鞠の両手を高い位置で抑え付け更に逃げ場を無くすダイチ
「・・・・・・・好・・・き・・よ?」
やっと紡がれたその言葉は震えていた
「それは兄としてか?それとも今をやり過ごすための誤魔化しか?」
「ちがっ・・!!」
全て言い切る前にその唇をまた塞いだダイチは今度は時間をかけず解放すると
「言質、取ったからな。もう誤魔化しは無しだな?」
そう言ってまた深く口付けた




