僕と白のツバキと黒のアイツ その①
ダイチがまだ気絶していた紫燕姐さんとエンジュを起こそうと近付いたが、その気配で目が覚めた姐さんがあまりの部屋の惨状と気絶の原因となったあの光景を思い出し眼の前に突如現れたダイチをめちゃくちゃに引っ掻くという一幕はあったが、今も目覚めないエンジュを紫燕姐さんがおんぶして僕達と一緒に部屋を出る事となった。
廊下は不気味なほど静まり返っていて僕の不安を煽るがダイチは何時ものような軽い足取りで廊下を進み普段なら下へと続く階段へ向かうはずが同じ階の奥へと進んで行く、僕は途中で相良さんの背から降りて後方を守るように付いて行く
「トシキ様・・来た時とは違う廊下かと思うのですが私の記憶違いでしょうか?」
文さんと一緒にスギさんを支えるように歩く相良さんが僕に囁く
「うん僕も違うと思う・・ねえダイチ、どこに向かってるの?」
「良いから黙って付いてこい、この先に外に出る直通路があるんだよ」
そう言うと意味深な視線を向けて、
「こんな状況でもなけりゃ使わなかっただろう場所だが、きっとトシキは気にいると思うぞ?」
そう言った。正直嫌な予感しか無かったが反対できる状況でもないので仕方無しに付いて行く、そして4階を登りきったその突き当りまで行くとそこには配膳車やリネンなんかを運ぶ荷物専用の小さなエレベーターがあった。
「え?まさかコレ?こんな小さいエレベーターで?」
僕やエンジュ、紫燕姐さん、ぎり相良さんくらいまでなら乗れなくは無いが、人間が乗る用じゃ無いと聞いた事がある。ちょっと乗ってみたい気はするけど確か人間が乗るのは安全面で問題があるとか聞いた。
「馬っ鹿!そっちじゃねぇよ!!」
そう言うとそのエレベーターの横、ダイチの肩くらいの高さの壁を『トン』と叩くと板の一部が外れ、そこにダイチが手を入れ何かを引っ張る。するとただの壁かと思っていた部分に人が出入りするのに充分な大きさの扉が姿を現した。
その中は薄暗く埃っぽかったが、見た感じは普通の物置のようだった。全員で中に入るのは無理そうだ。
「入り口を開けておくためには俺が最後な方が良さそうなんだが・・・一番身軽なトシキ、先に行ってくれコレが出口の鍵だ」
そう言って渡してきたのは古い銭湯の下駄箱でよく見るタイプの木で出来た板状の物だった。
「え?行く?鍵?」
ダイチは戸惑っている僕の肩を掴んでグイグイ小部屋に押し込むと、奥壁にある古い小さな振り子の付いた時計の蓋を開け3時33分に時間を合わせる、そしてゼンマイを5回まわした。すると12の数字が台座ごと外れボタンが現れた。ダイチは一歩横に避け時計の正面に僕を立たせると直ぐにそのボタンを押した。
「?!・・何も起きない???・・・っっつ!!!」
少しの間をおいて突然床が無くなり僕はそのまま落ちた。
「下に着いたら正面に鍵穴があるから開けてくれなー!!!」『なー!!』
ダイチの背中に張り付いているツバキも一緒に何か叫んでいたが僕はそれどころでは無く、真っ暗な空間に吸い込まれていった。
グルグルと滑ってあっという間に地面にたどり着いたが勢いが良すぎて2メートル程ある空間の先、その壁に鼻からぶつかってしまう。咄嗟に手をついたお陰で鼻血が出るほどでは無いが痛いものは痛い。
僕は涙目になりながらも壁を確かめ手でなぞるように出口を探ると小さな窪みを見付け木の板をはめ込んだ。
カコンと軽い音がし、扉が少し開き明かりが灯る。
その明かりでやっと周りの様子が分かる、上の隠し部屋と似た造りだが地面はむき出しの砂地だった。それを確認し振り返ると黒い筒型の滑り台がそこにはあった。
螺旋状に曲がった造りのそれは何の素材でできているのか良く分からないが滑りが良かったわりに、表面がザラっとしてるように見える。触って確かめようと近づくと上から叫び声と共に相良さんが落ちてきた。
僕と同じように滑り落ちる勢いで壁に当たりそうになるが明かりのおかげか直ぐに壁に手を付いて鼻からぶつかる事は無かった。
「トシキ様!直ぐに次が来ます!避けて下さい!!」
言い終わらないうちに今度は文さんが滑り下りてきて壁に激突するが平気そうで直ぐに滑り台の降り口で次を待ち構える
「文さん!もしかして次はスギさんなの?!」
コクリと頷き肯定する文さん、どうにかして勢いを殺さないと重体のスギさんの息の根が止まってしまう。そう予想して文さんを先頭に相良さんと僕がその後ろで勢いを弱める為に待ち構える。
しかしなかなかスギさんは落ちて来ない、何かあったのかと僕たちが心配になりその出口に近づいた時、予想と大きく外れ、顔色の悪いスギさんがのっそりと滑り降りてきた。どうやら横幅があるせいで思ったよりスピードが出なかったらしい。
ホッとした直後に甲高い悲鳴が筒の中から響いてきた。急いでスギさんを脇に寄せ文さんと相良さんで降りてくるであろう2人を待ち構える。
相良さんも2人同時であろう事を瞬時に判断し、自分の右腕で左ひじの関節あたりを掴むようにしそのまま向え側にいる文さんにその左手を差し出した。それを見た文さんも同じように腕を組んでお互いの腕を掴み合い『点』じゃなく『面』で勢いが殺せるように待ち構える。正面から見ると【互】に見える形だ。
僕も手助けするべく傍で待ち構える。
予想通り紫燕姐さんがエンジュを背負うようにして滑り落ちてきた、面で待ち構えていて正解だ。相良さん達が上手く勢いを殺し立たせるように支え、まだ足元がふらついている紫燕姐さんを僕が支えるように手を貸した。
後はダイチとツバキだけだが2人は危なげなく地に降り立ち全員が揃った。
スギさんの顔色は相変わらず悪い、寒気があるようで震えているし先を急ごうと扉を開けた。




