僕とツバキとその変化 その⑩
「ツバキ!!ダメー!!!」
このままだと何をされるか分からない僕は叫んだものの飛び出そうとして転んでしまう、そんな僕の前に飛び出したのはまたまたスギさんだった。
「させんぞ!ツバキには何も!!!」
『ツバキってコレの事ですか?何の意思も無い物体なのに自分の妹の名前を付けるなんて酔狂ですねぇ』
飛び付いてきたスギさんを軽く払い除け足元に転がったスギさんに冷たく言い放ち、折れている方の足で手の甲を踏みつけた
「う!!ぐう・・!!」
剥き出しの骨が甲に突き刺さりその痛みに声が詰まるスギさん
「ツバキは物体なんかじゃ無い!!僕達の家族だ!!」
僕はそう叫んでヒラギの前に立ち塞がりポケットから取り出したスプレーを構えた。
コレはいつだったか文さんが手作りしてくれた催涙スプレーだ、中身は唐辛子が溶け込んだ焼酎らしいが正直効き目がどれ程かは分からないし手が震えているから上手くスプレー出来ないかもしれない。
それでも無いよりはマシだと威嚇するように構えていた。
そんな僕達を知ってか知らずかツバキはモニョモニョと白い中身を動かし何かを取ろうと蠢いていた、そんな様子にヒラギは注目し何かを考える仕草で
『そう言えばあの役立たずの記憶にも小さな女の子の姿がありましたが・・?どう見てもただの大きめの種じゃないですか。全く、記憶層までおかしくなるとは・・・やはり処分するべきだったようです』
そう呟きながらグリグリと甲に刺さる足に力を入れ、とうとうスギさんが悲鳴を上げた
(スギさん!!ゴメン!!僕、何も出来なくて・・・!!)
僕の足も手もガクガクと震えて、もはや自分の身体だと思えないくらいだった。
そんな僕と視線が合うとスギさんは歯を食いしばり空いた方の手で何かを握り込む、そこへさっきまで倒れていた文さんが突如起き上がりヒラギにタックルする。油断していたヒラギはそのまま襖のヘリへとその身体を押し付けられ『メキメキッ』っと骨が軋む嫌な音がした。
その隙を突いてスギさんは握り込んでいた何かをツバキへと投げる。
それは赤い何か、良く見れば七竈の実だった。スギさんの血に塗れたそれは繭に当たってポロポロとツバキの側に転がり、それにツバキが気が付きモニョモニョと欲しがる素振りを見せる。
『ほお・・・成程、これは面白い・・・』
ヘリに押し付けれれ身動きが取れないヒラギはダメージを感じていないのか淡々とそう言葉を発した。
「スギさん何してるの?!」
こんな状況なのにツバキに樹の実をあげようとするなんて・・と僕は混乱してスギさんを助け起こすため近付こうとするが
「俺のことは良い!ツバキに実をあげてくれ!もう少しで、もう少しで変化が起きるはずなんだ!!そうすれば・・!!クソ!!」
何かを言いかけたスギさんはヒラギが耳からまたあの真っ黒な何かを出しているのに気付き悪態をつく、咄嗟に七竈の枝を拾い上げ残っていた実を毟り取るとツバキにその実を投げ、残った枝を2つに折るとヒラギの両耳に突き刺した。
「今のツバキは移動出来ないが上手く行けば、羽化さえしてしまえば逃げられる!!」
ヒラギはツバキを『種』だと言っていた、でもスギさんはあくまでも『繭』だと信じている。スギさんの仮説が正しいならツバキは『羽化』して飛び立つ、つまり動いて移動する何かになる?
現状、今のままなら逃げることさえ出来ない、だからこその賭けに出るしか無いのだとスギさんの目は言っていた。
僕はポケットにスプレーをしまうと両手で震えの残る足を何度か叩いてその足を踏み出した。そしてスギさんがツバキに与えようとしていた七竈の実を拾い集める。
「食べて!ツバキ!!スギさんがまたツバキに会いたいって!僕も会いたいよツバキ!!」
床に落ちたせいで埃っぽくなった実をそのまま差し出したがツバキは構わずに取り込み始める。僕は手で拾えるだけ拾い集めツバキに与え続けた、
『何を無駄な事を・・・種に実を与えたからと言って何が変わると?』
文さんは足元と背中に回した腕をスギさんは耳を中心に何とか抑え込んではいるが頭の黒い何かが本体なのは違いないようでグジュグジュと蠢いて抵抗を試みている。
目に付いた実は粗方ツバキに与えたはずだが変化は起こらない、他に残ってないかと探すとスギさんが最初に投げた実の数粒が繭に絡まっているのを見つけて取りツバキにあげようとするがソレにはベットリと血が付着していて少し血液を落とそうと周りを見渡し目を離した隙にツバキがその実を取り込んでしまう。
血液ごと実を取り込んだツバキは激しく蠢きやがてそれがピタリと止まった。
そしてとうとう変化が始まった。スギさんの仮説が正しいと証明された瞬間だ。
『・・・なぜだ・・・?』
「俺の仮説の方が正しかったようだな!」
『・・・認めん!認めんぞぉ!!俺がどれだけの時間を費やしてきたと思ってるんだ?!全てだ!!全て今まで全てを費やしてきたのにこんな事認められるか!!コレが種じゃ無いなら何だって言うんだ!!』
ヒラギはそう叫ぶと腕の関節が外れるのも構わずめちゃくちゃに暴れ出し文さんの拘束を解いて耳穴に突き刺さる枝とそれを掴むスギさんの手を掴みそのまま付き飛ばした
『コレはもうダメだ、廃棄するしか無い・・・廃棄、廃棄だ・・』
そう言いながら僕とツバキに向かって来る、そして凶器となった剥き出しの骨が覗く足をツバキに向かって突き刺しにかかるヒラギ。そこへ突き飛ばされたはずのスギさんが自分の身体をねじ込んで来た、一瞬の出来事だった。
骨が剥き出しになった部分の肉はスネまでめくれ上がり、その露出した骨が完全にお腹に突き刺さっている。そしてゴボっと血を吐き出すスギさんは僕に向かって口を動かした『逃げろ』と・・・
「う・・そ・・・・」目の前の光景が信じられなかった
『邪魔ですよ?先輩。』そう淡々と告げるヒラギ
僕は頭にきた、許せなかった、ツバキやスギさんが何をしたんだ?ツバキは生きようとしているだけだし、スギさんはそんなツバキを僕を守ろうとしてくれただけなのに!邪魔ってなんだ?!!
ブチギレた僕はポケットから取り出したスプレーの噴霧部分を外し瓶の口をヒラギの口部分へと押し付け傾ける。僕の事なんて初めから眼中に無かったのか、大して反撃も出来ないと高を括っていたのかは知らないが、アッサリとヒラギの口にその中身を流し込む事に成功した。




