僕とツバキとその変化 その⑨
しかしソイツの変化はまだ続いているようだ、両手で自分の舌をつまむと途中で千切れるのも構わずに毟り取る勢いで爪を立てるように引っ張りはじめ『グエア゙ァ゙エ゙エ゙ェ゙ァ゙・・ァ゙オグえェ゙』と言葉では言い表せない声と一緒に『舌』が引っ張り出される。
紫燕姐さんは耐えられず気絶し、相良さんはテーブルを支えながらも吐いてしまっている。僕も間近に見てしまい吐き気に襲われるがスギさんはソイツのその様子に怯まず耐えていた。
何にも無くなった目と口だった3つの穴には真っ黒なソイツが詰まっていて中でグネグネと動いているのが分かる。
(文さんもこうなっていたかもしれない)そんな考えと
(このままだと僕達もこうなるのか)そんな事を考えてしまい恐怖で歯がカチカチと鳴ってしまう
抜けた長い『舌』を片手にソイツは笑っていた。最初は笑い声だと分からないほどゴボゴボ言うだけの物だったがやがて甲高いような馬鹿にするような酷い奇声にそれは変化して行く。
天を見上げるように笑い続けるソイツは何がオカシイのかひとしきり笑いそのままピタリとその動きを止め。叫ぶように奇声を上げた
『やった!やったぞ!!新たな発見だ!!生きた人間には適さず残念でしたが死んだ肉なら問題無い!また一歩研究が進むぞ!!』
そして見開かれたその目の部分に赤い瞳が形作られギョロりと眼の前の僕達を左から順に見据え、舐めるように視線を移して行きやがてスギさんの所でその目は釘付けになった。しばしの邂逅の後
『見覚えのある人が居るじゃありませんか、久しぶりですね』
古い友人にでも語りかけるようにソイツはスギさんに向かってそう言った
「俺に化け物の知り合いは居ない」
スギさんは冷静に冷たくそう言う
『酷いなぁ、忘れちゃったんですか?せ・ん・ぱ・い』
「?!!!・・お前まさか!!」
『薄情ですね〜俺のこと忘れちゃったんですかぁ〜?先輩?先輩!せんぱぁ〜い!』
おちゃらけた口調で繰り返すその言い回しに
「ヒラギ・・なのか?」
スギさんはあまりの事に確信が持てないようだ
『そうですよ〜?先輩に俺の研究成果を見て貰えるなんて嬉しい誤算だよぉ!』
「何が研究成果だ・・・こんなのがお前の研究だってのか?!ふざけんな!!」
『嫉妬は醜いですよぉ?』
あくまでもおちゃらけた態度を崩さない(ヒラギ・・・って、スギさんの後輩さん?でも何であんな・・・!)
「お前は何を言ってるんだ?!!」
『どうです?凄いでしょ?俺はついに人間の限界を越えたんです!』
そう言うと手にしていた『舌』を投げ捨て赤黒く染まった手で自分の頭をつつき
『凡人とはココの出来が違うんですよぉ、俺なら世界中の病すら・・・呪いだって治せる!アンタと違って!!』
(狂ってる・・・)
スギさんが話しくれたヒラギという人はこんな人だった?少なくとも僕には謙虚で面白く優しさだって感じる素敵な人だと思っていたのに。
「お前は!人を・・人間を何だと思ってるんだ?!」
『先輩、貴方がそれを言うんですか?人間なんて大抵の奴はカスですよ。コイツだってソコに倒れてる奴だってそんなカスの中でも底辺です。何の問題が?』
そう言って自分を指差し倒れて動けない文さんに視線を向ける
『カスが最後に善良な人間の役に立つ、俺に有効活用されてほんの少し償いが出来るんです!感謝されても良いくらいですよ!!』
「お前・・!!本気でそんな事思ってるのか?!」
『本気も本気です、底辺のカスなんて死んだ方が世のためでしょう?しかし材料として活用すれば無駄にならない究極のエコ、リサイクル!素晴らしいじゃないですか!俺はそんな素晴らしい研究をしてるだけ・・・そうだ!!先輩も一緒にやりませんか?他にもまだまだやりかけの研究もあるんです!また語り合いましょう?きっと有意義な時間になりますよ?!』
良いことを思いついたとばかりにスギさんを勧誘し始めるヒラギ、しかしスギさんは顔をしかめ
「断る!!冗談じゃない!!」
『何でですか?また僕の研究成果を取り上げる様な事はしたくない!とか?そんな心配ですか?先輩はいつも僕に遠慮したり気を使ってくれてましたが気にしなくて良いんですよ?いっそ共同研究とかで構いませんよ?』
やれやれとでも言うような仕草でそんな斜め上な提案までしてくる。問題はそこでは無いのに何も気付いていないし感じていないようだった。
「お前は昔からそんなだったか?言い方は変わらないが言ってる内容は酷いもんだぞ、侮辱するのも大概にしろ!!」
『先輩は変わりませんよね?言う事はご立派ですが結果が伴わない・・・だから椿を死なせた・・・』
「!!・・・キサマ!!」
歯を食いしばり、拳を握り込むスギさん。
『でも安心して下さい!もうスグ!もうスグで椿は目覚めます!そしたら元通り!お義兄さんに俺と椿の事を認めて貰いますから覚悟して下さいね!!』
その顔は妄想に浸っているのかうっとりとしているように見え僕はゾッとした。
スギさんはそんなヒラギに飛びかかり、そしてアッサリと倒れたヒラギはされるがままスギさんに殴られている何度も何度も力一杯殴り続けるスギさん、しかしものの数分で腕が上がらなくなりその拳は血に染まっていた。馬乗りのまま息も荒く言葉も出ないようだ
『気は済みましたか?以前の先輩ならこんな意味の無い事なんてしなかったのに・・・変わってしまったんですね・・』
そう悲しげに言うヒラギは何のダメージも受けていないようだ、スギさんを軽い手つきで突き飛ばすとユラりと立ち上がった
『種は貰って行きます、久しぶりに会えて嬉しかったです先輩・・・』
そう言ってツバキ(巨大繭)に歩き出すヒラギ
(種・・・?それってツバキの事なの?)そう僕が考えていた時ツバキの繭が割れ、また何かを探すように中身がモニョモニョと動き出していた




